DTMを始めて、すぐに登場してくるキーワードの一つがプラグイン(PLUG-IN)です。これはDTM用語というよりもソフトウェア用語の一つで、ソフトウェアの機能拡張を行う特殊なソフトウェアのことを意味しています。ただし、DTMで言うプラグインはVST、AudioUnits(AUと略すことも多い)、AAX……と複数の規格があるほか、WindowsとMacの違いがあったり、32bitと64bitの違いもあるなど、多少複雑です。
普段からこうしたプラグインを使っている人でも、「Windows版のVSTとMac版のVSTってどういう関係になっているの?」、「64bit版DAWで32bit版プラグインは動くの?」なんて聞かれると、「あれ?」と思ってしまうかもしれませんよね。そこで、改めて、これらDTMにおけるプラグインについて考えてみたいと思います。
DTMの世界において大きな意味を持つプラグイン
まずDTMにおける機能拡張であるプラグインは主に
・インストゥルメント(楽器)機能
を追加するために存在しています。つまりリバーブのプラグインを追加すると、使っているDAWの一機能としてリバーブが使えるようになるし、ピアノのプラグインを追加すれば、ピアノを鳴らせるようになるのです。
みんな大好き、フリーウェアのSynth1はインストゥルメント型のプラグイン
エフェクトとインストゥルメントって、まったく違う機能のようにも見えますが、システム構造的にはかなり近い関係にあるため、どちらも同じ規格のプラグインとなっているのです。
そして、そのプラグイン規格には主に
・AudioUnits(Mac)
・AAX(Windows/Mac)
の3種類が存在しています。上記のほかにも
・DirectX・DXi(Windows)
・MAS(Windows/Mac)
といったものも存在していますが、基本的には過去のもの、もしくは、すでにプラグインとしてはほとんど流通していないので、無視して構わないと思います。
そこで、チェックしておくべきポイントは自分のDAWがどのプラグイン規格に対応しているのか。もし、AAXにしか対応していないDAWにVSTのプラグインを追加してもまったく使うことができませんからね。
主なDAWの対応状況を見ると以下のようになっています。
VST | AudioUnits | AAX | |
Ability / SSW | ○ | ||
BITWIG | ○ | ||
Cubase | ○ | ||
Digital Performer | ○ | ○ | |
FL Studio | ○ | ○ | |
live | ○ | ○ | |
Logic | ○ | ||
Music Maker | ○ | ||
Pro Tools | ○ | ||
Reaper | ○ | ||
SONAR | ○ | ||
Studio One | ○ | ○ |
ちなみに前述のとおり、プラグインにはエフェクトとインストゥルメントの2種類があるわけですが、VSTの場合はエフェクト用プラグインをVST、インストゥルメント用をVSTインストゥルメントまたはVSTiと呼ぶこともありますが、基本的にVSTと覚えておけば大丈夫でしょう。
一方、冒頭で問題として投げかけた「Windows版のVSTとMac版のVSTってどういう関係になっているの?」という点について、ちょっと解説しておきましょう。まずユーザーの立場で考えれば、基本的にはまったくの別モノと考えていいと思います。つまりWindows版のVSTプラグインを、Macにインストールすることはできないし、逆にMac版のVSTプラグインをWindowsにインストールすることはできず、関係ないですからね。
ただし、市販のVSTプラグインであれば、そのほとんどはWindows版とMac版がそれぞれ用意されており、まったく同じ画面、同じ機能として使うことが可能になっています。だからCubaseやBITWIG、StudioOne、liveなどWindowsとMacの両方でDAWを使っている人なら、それぞれの環境でまったく同じようにVSTプラグインを使えるし、Windowsで作ったプロジェクト、Macで開いても同じように動くというメリットがあります。
なぜ、同じVSTという名前であり、まったく同じ機能が実現できているのでしょうか?それは単純に、ソフトウェアの開発の段階が共通化されており、1つ開発すると、そこからWindows版とMac版の両方が生成されるからなんです。
WavesのプラグインもWindows、Macのさまざまなプラグイン規格に対応している
ソフトウェアの開発会社だって、Windows版とMac版をバラバラに作っていたら大変だけど、一緒にできるのなら効率的ですからね。また実は最近の開発環境ではWindows版、Mac版のVSTプラグインが生成されるだけでなく、AudioUnits版もほぼ自動生成されるようになっているので、1つのパッケージを購入すると、さまざまなプラグイン規格に対応したバージョンが入っているわけなんですね。
このことはAAXにおいても同様。Windows版のAAXプラグインをMacで使えないし、Mac版のAAXプラグインをWindowsで使えないですから、自分の環境にマッチしたソフトウェアをインストールする必要があるわけですね。
さて、ここで冒頭にあげたもう一つの問題「64bit版DAWで32bit版プラグインは動くの?」という点についても考えてみましょう。まず、ここでいう64bitとか32bitというのはCPUの処理システムのことを意味しています。オーディオの分解能においても16bit、24bit、32bit、32bitFLOAT、64bitFLOAT……なんてのがありますが、これとはまったく無関係ですからね。
Cubase 64bit版の裏で動いて32bitプラグインを利用可能にするシステム、VST Bridge
現在のPCはWindowsでもMacでも、基本的にインテルのCPU(AMDの互換CPUを使っているものもありますが)が使われており、Core-i7とかCore-i3とかCeleronなどと呼ばれるものとなっています。これらはどれも64bitCPUであり、64bitのプログラムを高速・快適に動かすことができるようになっています。
これら64bit CPUはPentiumなど古いCPUとの互換性を実現するため32bitのプラグラムも動作するようになっていますが、やはり64bitのプログラムのほうが、より快適に動作します。そして64bitプログラムを動かすためには64bitOSを使う必要があるのですが、そのためにWindowsもMacも32bit版と64bit版というものがあり、64bit版を使うことでより快適に動作するようになっているのです。すでにMacは完全64bit化していますし、WindowsのほうはWindows Vista以降、32bit版と64bit版が選択できるようになっており、その大半は64bit版となっています。
ややプラグインから話が脱線してしまいましたが、OSが32bit版か64bit版かによってインストールできるDAWも32bit版か64bit版かが変わってきます(64bit版OSに32bit版のDAWのインストールは可能ではあります)。そして、64bit版のDAWを使っている場合は64bit版のプラグインを、32bit版のDAWを使っている場合は32bit版のプラグインを使うことが原則となります。この64bit版と32bit版の違いはWindowsとMacの違いといってもいいくらい、本来異なるものなので、直接的な互換性はないのです。
ただし、これまでのプラグイン資産を考えると、やはり32bit版のものも多く、せっかく高速処理が可能な64bit版DAWを使っているのに、使いたいプラグインがない、といった問題を避けるため、各DAWメーカーとも32bit版プラグインを利用可能にするためのブリッジ機能というものを用意しています。これを使うことで古いプラグインを利用することができるわけなんですね。ただし、変換で対応しているため完璧に動作することが保証されているわけではなく、実際トラブルも多いのが実情。サードパーティーによるブリッジソフトを利用することで、トラブルを回避できるケースもありますが、可能であればブリッジ機能を使わないで、動作させるのがいいですね。
VST、AU、AAXなどを混在させることができるラッパーソフト、Blue Cat’s PatchWork
なお、AAXしか対応していないPro ToolsでVSTのプラグインを使いたいとか、AudioUnitsにしか対応していないLogicでVSTプラグインを使いたい……なんてケースもありますよね。そんなときは、「ラッパー」などと呼ばれるソフトを使うことで実現できる場合があります。プラグインを「ラップ=rap」ではなく、包む=wrapことで、別プラグイン規格に騙して使おうというもので、以前「VST、AU、AAX、RTAS…何でも来い、Blue Cat PatchWorkが超便利!」という記事で紹介したソフトなんかはおすすめですね。
以上のような知識を持った上で、プラグインを使ってみると、さらに積極的に利用できるようになると思いますよ!
【関連情報】
Blue Cat Audio製品情報(フックアップ:beatcloud)