予想していた方も多かったと思いますが、例年通り年末の12月にCubaseの新バージョン、Cubase Pro 8.5およびCubase Artist 8.5が発表され、明日12月3日の23時よりスタインバーグオンラインショップでダウンロード購入が可能となりますました。Cubase Pro 8からCubase Pro 8.5へのアップデート価格は5,400円(税込み)、またCubase Artist 8からCubase Artist 8.5へのアップデート価格5,400円と、とっても良心的な価格となっていますが、この安いアップデート価格とは裏腹に、非常に強力な機能が追加された新バージョンとなっています。
※追記 2015.12.2
発売時期が1日早まり12月2日から発売が開始されています。
その最大の目玉機能となるのがVST Transitというクラウドを介したプロジェクトの共有機能。友達といっしょに曲を制作するといった場合に離れた場所にいても、まさに横にいるかのような感覚で作業できるようになっているのです。また、レコーディング機能やエディット機能において、地味ではあるけれど、Cubaseユーザーにとっては画期的ともいえるほど便利な機能がいろいろ追加されているのです。実際、そのCubase Pro 8.5を使ってみたので、どんな機能なのかを紹介してみたいと思います。
12月2日よりCubase Pro 8.5およびCubase Artist 8.5が発売になった
冒頭でも書いた通り、8から8.5へのアップデート価格は5,400円となっており、現行ユーザーは12月3日より入手することが可能です。インストーラ自体はネットからダウンロードの形となります。では、新規ユーザーは……というと、こちらもすぐに購入可能になっています。「でも、店頭には、まだ8.5のパッケージが並んでないのでは……」なんて心配しなくても大丈夫。
Cubase Pro 8.5のインストール画面。インストールされるモジュール自体はほぼ変わっていないけれど…
実は、パッケージ自体8も8.5もほぼ変わらないとのことですし、仮に購入したのが8だったとしても、これをアクティベートすると自動的に8.5のライセンスになるとのことなので、まったく心配はいらないようです。最新版のインストーラもネット経由で入手する形になってますよ。
中には、「つい先日買ったばかりだよ…」なんてお嘆きの方もいるかもしれません。これも10月15日以降にアクティベートした方であれば、グレースピリオドということで、8.5への無償アップデートが約束されていますからご安心を!なお、Cubase 7/7.5、Cubase 6/6.5などからも割安でアップデートできるアップデート料金が用意されているので、詳しくはスタインバーグオンラインショップをご確認ください。
起動画面は、これまでとほとんど何も変わっていないけれど、さて…
さて、では具体的な新機能について見ていきましょう。まずはVST Transitから。これまでもCubaseにはリアルタイムで遠隔地にいるプレイヤーの演奏をレコーディングするVST Connectという機能がありましたが、VST Transitはそれとは別機能として搭載されたプロジェクトを共有するための機能。Cubase Pro 8.5、Cubase Artist 8.5の両方に搭載された新機能です。
Cubaseのプロジェクトを開いた画面。メニューバーの一番右にVST Cloudというものがある
これを利用するためには、まずmySteinbergのアカウントを利用してログインします。すると、自分のプロジェクトをクラウドへアップロードすることが可能になります。その後は、基本的にバックグラウンドで動作する形になるため、新たにトラックを作成したり、レコーディングをすると、ローカルにプロジェクトを保存するタイミングで、クラウド側にも差分がどんどんアップデートされる形になるのです。
まずはVST TransitにmySteinbergのアカウントを利用してログインするところから始まる
一方で、クラウドへアップロードしたプロジェクトについて、Project Menmerとして友達を招待することで、その友達とデータをシェアすることが可能になります。この際、友達がクラウド上のプロジェクトファイルを開くと、お互いのプロジェクトが同期されるため、一人が新たにレコーディングしたり、編集すると、すぐにもう一人のプロジェクトに反映される形になります。
このVST Transitでやりとり可能なトラック・データは以下のとおり。
・Audio Track
・MIDI Track
・MIDI Inserts (Steinberg Only)
・VST3 Effects Plugins(Steinberg Only)
・VST3 Instruments(Steinberg Only)
・Instruments Track(Steinberg Only)
・Tempo
・Markers
サードパーティーのプラグイン情報のやりとりは、現時点サポートされていないようですが、この辺の仕様は今後変わってくる可能性もありそうですね。
プロジェクトをクラウドに上げた後は、自動で同期してくれる、友達とも同期をとることが可能に
VST Transitからログアウトすれば、その同期は止まりますが、再度Sync Projectというボタンを押せば、再び最新状態に同期されるというわけです。履歴管理などもできるようになっているとのことです。
なお、このVST Transit自体、とりあえず無料で使うことができますが、容量や通信データ量に制限があります。具体的には500MBのストレージ、月間で1GBのデータ通信までとなっています。それ以上が必要な場合は有料のプレミアムアカウントが必要となり、5GBのストレージと月間で20GBの通信が可能になるそうですが、そのサービス自体は1月中旬の提供になるとのことでが、料金などはまだ明らかになっていません。
ここで気になるのは、クラウドとのオーディオデータのやりとりがどのようになるのか、だと思います。この辺も詳細は明らかになっていませんが、可逆圧縮のアップロード、ダウンロードされるので、録音したデータ容量分すべてが通信に使われるわけではないようです。また可逆圧縮ですから、VST Transitを通すことで音が劣化する、という心配もないようですね。
とはいえ、このVST Transitは、本当にSteinbergで開発したてのサービスのようで、まだ画面もマニュアルも英語のまま。近いうちにアップデータによって日本語化され、マニュアルも日本語のものが登場するとのことですが、私もまだ細かく検証できていないのが実情です。この辺の詳細については、また改めてレポートできればと思っているところです。
では、このVST Transit以外についても簡単に紹介していきましょう。分かりやすいのは新プラグイン。従来バージョンでもバーチャルアナログシンセとしてRetrologue(レトロローグ)というものが搭載されていましたが、Cubase Pro 8.5およびCubase Artist 8.5では、それが進化したRetrologue2が搭載されます。
オシレーターが3つになるなど、大幅に機能強化されたバーチャルアナログシンセのRetrologue2
見た目の雰囲気はそのままですが、まずオシレータが従来の2基から3基になるとともに、アルペジエーターも大きく強化されています。基本的にはHALion5に搭載されているアルペジエーターがそのまま移植された感じなので、HALion5に慣れている人ならすぐに使えそうですね。このアルペジエーターからMIDIトラックへドラッグ&ドロップでMIDIデータを持っていくことができるので、かなり便利に使うことができますよ。
内蔵のエフェクトも数多く搭載され、複数FXをチェインして使える
また内蔵FXも強化されており、レゾネーターやEQ、フェイザーなどさまざまなものをチェインして使えるようになっています。なお、音色データは上位互換となっているので、従来のRetrologueのデータをそのまま取り込んで鳴らすことも可能です。
では、Cubase本体としての機能はどうなのでしょうか?画面を見ても、Cubase Pro 8とほとんど変わらないですね。ところが、よく見ると、いろいろと強化されているんですよ。間違い探しのようですが、この画面から違いを見つけられますか?
UIはCubase Pro 8とほとんど何も変わっていないけれど、よく見るとトランスポートパネルが…
トランスポートパネルのデザインがちょっと変わったのですが、単にデザインが変わったというわけではないんです。画面を少し横に広げると、パンチイン/パンチアウト専用のポイント設定部分が登場してくるんです。従来、Cubaseでは範囲指定した場所でパンチ処理を行っていたわけですが、範囲指定はループポイントともなるため、ループレコーディングを行う場合、ちょっと扱いにくかったというのが実情です。
範囲指定とは別にパンチイン/パンチアウトのポイントを別途指定できるようになった
ところが、今回の新バージョンでは、ループポイントとパンチポイントを別に設定できるようになったので、前後を聴きながら、繰り返しパンチイン/パンチアウトでレコーディングすることが可能になったんです。
コードパッドには「セクション」という機能が追加され自由にボイシングの設定ができるようになった
またコードパッドも機能強化が図られました。コードパッドは、鍵盤の演奏が得意でない人でも、簡単に演奏ができるという便利なものでしたが、コードのボイシングの変更がしにくかったため、使いにくかった面がありました。たとえばハウスミュージックでピアノフレーズを入れる際、オクターブ下の音が邪魔に感じられたりしたわけですが、今回新たに加わった「セクション」という機能を利用することで、コードのボイシング構成をリアルタイムに自由に変更可能になっているのです。
キーエディター上でノートを書き込んだまま、マウスを上へドラッグするとベロシティを変更することができる!
個人的にグッと来たのは、キーエディター=ピアノロール画面での鉛筆ツールの使い方の強化です。従来、鉛筆ツールだと、マウスで音程と長さを書き入れ、その後ベロシティを設定したり、音程がズレていたら矢印ツールで上下に動かしたりしてましたよね。ところが、今回のバージョンでは、音符を入力したところで、そのままマウスを上下にドラッグすると、ベロシティが設定できるのです。さらに、ALTキー(Macならoptionキーを押しながらドラッグすれば、音程をズラすことが可能になったんです。もちろんドラムエディタでも同様のことができるわけですが、地味ながら、メチャメチャ便利になりましたね。
「ファイル」-「読み込み」に「プロジェクトファイル内のトラック」というものが追加され、任意のトラックが読み込めるようになった
さらに、すでに保存してあるプロジェクトファイルの中から任意のトラックを現在のプロジェクトに読み込めるようになったのも嬉しいところ(この機能はCubase Pro 8.5のみの対応)。この際、単にオーディオデータやMIDIデータが読み込めるというだけでなく、オートメーションやEQの設定はもちろん、ルーティングの設定やLANEやバージョン機能などすべてを取り込むことができるのも嬉しいところです。
ショートカットや各種環境をすべてまとめて管理できるプロファイルマネジャー
そしてもう一つ大きいのがプロファイルマネジャーという機能の搭載です。これはCubase Pro 8.5のみの機能ですが、Cubaseの環境設定すべて丸ごと保存したり、読み込んだりできるようになるというものです。具体的にはショートカットの設定や画面のワークスペース情報、ポートのセッティング、マクロ、テンプレート、膨大にある環境設定……といったものを一括で保存して管理できるのです。
自分だけのものとして構築した環境を丸ごと持ち出せて、別のCubase Pro 8.5上で再現できるのは便利ですよね。このデータはWindowsでもMacでも読み込むことができるので、その点でも便利ですよ。逆にいうと何でこれまでなかったんだ…とも思うところですが、ほかにもこうした便利な改善がいろいろあるのがCubase Pro 8.5なのです。
とりあえず、ファーストインプレッションという感じではありますが、Cubase Pro 8.5の新機能を中心にまとめてみました。VST Transitを中心に、また新たな情報が分かってきたらレポートしてみたいと思います。
【関連情報】
Cubase Pro 8.5/Cubase Artist 8.5製品情報
スタインバーグオンラインショップ
【価格チェック】
◎Amazon ⇒ Cubase Pro 8.5
◎サウンドハウス ⇒ Cubase Pro 8.5
◎Amazon ⇒ Cubase Artist 8.5
◎サウンドハウス ⇒ Cubase Artist 8.5