Windows 10がリリースされてから、そろそろ2か月。Windows 7以上のユーザーであれば無料でインストールできるということもあって、Windows 10へ乗り換えるユーザーも増えていると思いますが、保守的なDTMの世界においては、まだまだ敬遠されているのではないかと思います。その一方で、店頭販売のPCでもついにWindows 10プリインストールのものが登場し始めたので、そろそろ真剣に考えるべきときが来た
私自身も、リリース後すぐに使ってみたものの、対応ドライバがないオーディオインターフェイスがあったり、CubaseがWindows 10非対応であったため、あまり積極的には使ってきませんでした。でも、9月に入ってWindows 10プリインストールのPCの発売も始まったし、そろそろ真剣に導入を考えるべき時期になってきました。また、アプリやドライバの対応もだんだん落ち着いてきたようにも思えます。ということで私のデスクトップPCにWindows 10(64bit版)をインストールした上で、各種DAWをインストールして、問題なく動作するのか試してみたので、現状についてレポートしてみることにしましょう。
Windows 10に片っ端からDAWをインストールして試してみた
Windows 10がどんな特徴を持ったOSなのかは、ここでは割愛しますが、Windows 8でボロボロに批判されていたモダンUIが裏に引っ込み、スタートボタンで操作可能な従来からのWindowsに戻ったという感じのユーザーインターフェイスになっています。
Windows従来からのデスクトップ画面が中心となり、スタートボタンも今まで通りに
実際、Windows 8やWindows 8.1に移行すると、最初どうしていいのか、まったく分からなくなり、大変な目に合ってしまいますが、Windows 7からWindows 10への移行であれば、「使い方」の面では、それほど大きな混乱もなくスムーズにアップデートできると思います。
とはいえ、「UI的に違和感がない」ことと「システム的に問題がない」ことはまったく別次元の話であり、こればかりはしっかり見極める必要がありそうです。現在、多くのメーカーからオーディオインターフェイスのWindows 10対応ドライバは出そろってきているので、現行の機材であれば、ほぼ問題なく動作するようです。ただ、5、6年以上前に出た製品だと対応していないものもあるので、これは各自チェックしてみてください。
では、DAWの対応はどうなっているのでしょうか?主要DAWについて、メーカー側の発表を元にしてまとめたのが以下のものです。
DAW | メーカー | 対応状況 |
ABILITY 1.5 | Internet | ○ |
BITWIG 1.1 | BITWIG | ○ |
Cubase 8 | Steinberg | × |
Digital Perfomer 9 | MOTU | ○ |
FL STUDIO 12 | Image-Line | ○ |
Live 9 | Ableton | ○ |
Music Maker MX2 | MAGIX | 要確認 |
Pro Tools 12 | Avid | × |
REAPER 5 | Cockos | ○ |
SONAR | Cakewalk | ○ |
Studio One 3 | Presonus | ○ |
これを見ると、×がついているのはCubaseとPro Tools。また要確認となっているのはMusic Maker MX2で、それ以外は○。結構な大物に×がついているのは深刻ですが、これらを使わないのならばWindows 10に移行してもいいのかもしれません。
※追記
記事掲載後上記の表にREAPER 5を追加しました。
計4台の小型のUSBオーディオインターフェイスでテストしてみた
とはいえ、メーカー発表情報だけで行動するのも危険がいっぱい。というわけで、これらのDAW、片っ端からインストールしてみました。まあ、本来なら複数のDAWを同時にインストールするというのはよろしくないのかもしれませんが、まあ、簡単な動作検証ということで……。また、これらDAWで使うためのオーディオインターフェイスも3つテストしてみました。今回試してみたのは
・TASCAM US-2×2
・Steinberg UR22
・Roland QUAD-CAPTURE (UA-55)
・ZOOM UAC-2
のそれぞれ。いずれもアナログ2IN/2OUTを装備する小型のオーディオインターフェイスではありますが、最新のドライバをインストールしてみた結果、機器としては問題なく使えるようです。上記4機種の中ではZOOMのUAC-2のみWindows 10に正式対応しておらず、「検証中」ということになっていますが、最新のドライバでテストした結果、まったく問題なく使うことができました。
「検証中」となっていたZOOMのUAC-2もまったくトラブルなく動作した
ちなみに、今回テストに使ったマシンはだいぶ以前に「DTM用にHaswell Core i7/Windows 8.1マシンを組んでみた」という記事で紹介した、Core i7 4770Kを組み込んだマシン。もう2年近く前のマシンなので、そろそろいい加減に新調しないとマズイかな…とは思ってるものの、最新のものを導入しても代わり映えしそうになく、躊躇しているところなんですよね……。
動作検証のため、DAWを1つずつ動かしデモデータを再生したり、録音したりした(画面はStudio One 3 Professional)
というわけで、片っ端から動かしてみました。テストしたのは、基本的にはデモ曲を読み込んで一通り再生してみるとともに、1トラックレコーディングをして、ちゃんと録れるかというチェックです。
1台のマシンに、これだけ多くのDAWをインストールしたのは私も初めてでした!
さすがに私も、これだけいっぱいのDAWを一挙にインストールしたのは初めてでしたが、お互い干渉し合う可能性も高そうですが、とりあえず上記の表で○がついているものについては、一通り問題なく動作するようです。ABILITYもSONARもStudio Oneもバッチリ安定して動いてくれますよ。
国産DAWのABILITY Pro 1.5も安定して動作
【追記】
さらに記事掲載後、海外の読者から「REAPERは動くのか?」という問い合わせをいただいたので、これについても追加でチェックしてみたところ、問題なく動作することが確認できました。
ただし、BITWIGについてはトラブル発生。どうもASIOドライバをうまく認識してくれないようなのです。現行の正式版である1.1.11でどうにもうまく動かなかったのですが、現在ベータテストをしている新バージョンである1.2BETA7で試してみたところ、今度はあっさりと問題なく動いてくれました。日本語環境においては1.2からが正式対応ということなのでしょうか……。もしより安定したバージョンでの利用を…ということであれば、もう少し待てば大丈夫そうですね。
当初、うまくいかずに困ったBITWIGだったが1.2BETA7の導入でトラブルはすべて解決
一方、このテストのためにMOTUのDigital Perfomer 9も入手して試してみました。こちらもとりあえず安定して動作しているようですが、せっかくなので近いうちにしっかりレポートしてみたいと思っています。
では、ここから問題の3つについても検証していきましょう。まずは要確認となっているMAGIXのMusic Maker MX2ですが、ここで試してみたところ、実はまったく問題なく動作してくれました。もちろん、細部まで徹底的なチェックを行ったわけではありませんが、再生、録音ともに問題なくできたし、MIDIのほうもバッチリ。とくに気にすることは何もないんじゃないでしょうか?
AHSが販売するMAGIXのMusic Maker MX2は問題なく動作した
次にPro Tools。現行バージョンはPro Tools 12ですが、これを持っていないので、1つ前のPro Tools 11をインストールして起動させてみたところ、以下のようなメッセージが出て起動してくれません。
Pro Toolsを起動しようとすると、このようなメッセージが出て起動できない
ネットで検索してみると、うまくドライバが設定できないときに出るメッセージのようで「n」キーを押しながら起動すると、設定できるとあったので試してみたのですが、結局ダメ。Avidが非サポートというのだから最新版のPro Tools 12にしても動く可能性は低いものの確認はしてみたいところです。で、思いついたのが先日「フリーウェアのPro Tools|Firstがやってきた!」という記事でチェックしてみた例の無料版、Pro Tools|Firstで試してみることにしました。これ、ベース部分はPro Tools 12ですからね。
が、結論から言ってしまうと、やはりダメ。同じメッセージが出て起動すらできないんですよね。Pro Toolsを使うことが目的だとしたら、今のところWindows 10への乗り換えは諦めたほうがよさそうです。
ごめんなさい。その後の検証で、Pro Tools 11もPro Tools|Firstも問題なく動作しました!
が、この問題が発生したのは、どうやらUS-2×2との相性問題と私のテストの方法での不手際のようでした(すみません、上記の記述修正いたします)。改めてPro Tools 11およびPro Tools 12がベースとなっている「フリーウェアのPro Tools|Firstがやってきた!」という記事でチェックしてみた例の無料版、Pro Tools|Firstで試してみた結果、問題なく動作してくれました。
Cubase Pro 8の最新版8.0.30の64bit版をインストールしてテストしてみた
さて、ここからが今回の本題ともいえるところ。DTMステーションのDAWシェア調査でも3年連続国内第一位のシェアを誇るCubaseについてです。Steinbergサイトの「Windows 10 対応状況」というページを見るとCubase 8シリーズはすべて×となっており、備考欄には「パフォーマンスとタイミングの問題」と記載されています。また、注意書きのところを見ると
・オーディオのドロップアウト(Windows 10 の新しい MMCSS に関連します)
・MIDI のタイミング問題(Windows 10 の新しい MMCSS に関連します)
などとも書かれているのですが、これはどういうことなのでしょうか?
一見問題なくWindows 10上で動いているように見えるCubase Pro 8なのだが……
さっそくCubase Pro 8を起動させてみると、普通に動くようです。どの機能もとくにエラーを起こすこともなく使え、プロジェクトを読み込んで再生してみると、ちゃんと再生できます。ところが……、しばらく音を鳴らしていると、「ブチッ」とノイズが入りました。瞬間的ではありますが、ちょっと致命的問題。これが、オーディオのドロップアウトということですね。
MMCSSが何かよくわからないので、調べてみると「Multimedia Class Scheduler Service」とのことですが、Windowsのスレッドスケジューリングをするためのものということで、何やらかなり込み入った話のようです(この辺、理解する必要はないですよ!)。Windows 8で導入されたASIO Guard2が、ここと密接な関係があるけれど、Windows側のシステムが変わってしまったのでトラブルが生じているようなのです。ASIO Guard2は「オーディオ処理にドロップアウトが発生しないように効率よく先読み処理を行ってCPUへの負荷を軽減する機能」。これの導入によってCubase 7よりも軽快に動作するようになったのに、それが今度は足かせになってしまうという困った状況です。
VSTパフォーマンスを見ると、real-time peakが急に上がって、右側のクリップを示すランプが赤く点灯
ためしに、VSTパフォーマンスを表示させて、CPUの負荷などを表示させてみると、とくに問題なさそうなのですが、ときどき急にreal-time peakのレベルが上がってきて、そこで「ブチッ」というんですよね。でもASIO Guard2に問題があるのなら、デバイス設定でこのチェックを外してオフにすればいいのでは……と思って試してみました。
ASIO Guard2をオフにすると、CPU負荷は上がり、プラグインがたくさん入っていると、何も再生しない状態でも結構なCPU使用率になります。それでも、「これでドロップアウト現象が解決するなら……」と試していたのですが、やっぱりしばらく使っていると、real-time peakが「ヒョロヒョロ~」っと上がってきて「ブチッ」。どうもダメなようです。
さて、ここでふと試してみたのがCubase 7です。先ほどのSteinbergのWindows 10対応状況のページではCubase AI 7、Cubase LE 7ともに×となっていますが、これらはASIO Guard2ではなくASIO Guardなので、何か違いがあるかもしれません。確かにCubase Pro 8とCubase 7は上書きされず、共存できるはずなので、ここではCubase AI 7をインストールしてみました。
Cubase AI 7をインストールしたがCubase Pro 8のドングル効果でCubase ELEMENTS 7に格上げ!
ちなみにCubase AI 7やCubase LE 7はCubase Pro 8のUSBドングルがあれば、Cubase Essential 7として起動するので、これで使ってみましたよ。こちらも、とくに問題なく起動し、プロジェクトを読み込むことができ、再生するとしっかり音が出ます。で、しばらく再生してみても、あれ?、「ブチッ」とはいいませんよ。VSTパフォーマンスのメーターを見ても、安定しており、とくに高負荷になることもないようです。
Cubase ELEMENTS 7にVOCALOID4 Editor for Cubaseを入れて動かしたら、うまく行く!
これに合わせてレコーディングしてみても、うん、大丈夫そうですよ。さらに、ここにVOCALOID4 Editor for Cubaseもインストールして動かしてみました。VOCALOIDのサイトを見てみると「VOCALOID Editor for Cubase(NEO) ならびに VOCALOID4 Editor for Cubaseに関しましては、 プラットフォームDAWであるCubase が 現時点ではWindows 10 をサポート対象外としているため、 当製品もサポート対象外とさせていただきます」と記載されていますが、組み込むこと自体は問題なくできるわけで、Cubase側がトラブらなければ、問題なく使えるようです。で、実際のところ、Cubase Essentila 7であれば、まったく問題なく動作しますね。
でも、「なんでCubase Pro 8はダメなんだろう……」とここで再度チャレンジしてみたところ、ちょっとミラクルな現象が発生しました。さっきは1、2分も動かしていると必ずドロップアウト現象が起きていたCubase Pro 8が、なぜか安定して動くようになったのです。ASIO Guard2はオンの状態で、設定はnomalです。VSTパフォーマンスも安定した状態であり、オーバーロード状態にはなりません。
再度Cubase Pro 8を動かしたら、今度はVSTパフォーマンスを見ても負荷が小さく、快適に動作してしまった!
さっきは1分も動かしていれば必ずといっていいようにトラブルが発生したいたのに、大丈夫。かなり負荷をかけたプラグインいっぱいの曲をループ再生状態にして、30分間回してみたけれど大丈夫なようです。また、さっきはCubase Pro 8を動かしているときに、別のアプリを起動させたりすると、そこで必ずといっていいほど、「ブチッ」となったのに、今度は全然大丈夫なんです。
あくまでも推論ですが、Cubase 8が入っているWindows 10にCubase 7をインストールするとトラブルが解消されるんじゃないでしょうか!? まあ、これだけメチャメチャなほどにDAWをいっぱいインストールしたので、もしかしたらほかのDAWが影響をもたらしたのかもしれませんが、現時点ではまだそこまでの検証はできていません。これについては近いうちにチェックしてみたいと思いますが、Windows 10でのCubase問題、解決の糸口発見かもしれませんね。
このCubase問題さえ、解決すれば、Windows 10におけるDTM環境はほぼ快適に動きそうです。もちろん、実際に使うに当たっては、メーカーの対応状況のチェックが必要ですし、古いバージョンだとトラブルがある可能性はあるので、責任は持てませんが……。
Windows 7やWindows 8/8.1を使っていて、とくに支障がなければ、慌ててWindows 10へアップデートする必要もないとは思いますが、Windows 10が無償で入手できるのは2016年7月までですから、それまでに乗り換えるための準備はしておいてもよさそうです。またマシンを新調するといった場合にはWindows 10のマシンを入手しても悪くないように思います。
※注意
ここでの検証は、あくまでも私、藤本健個人がテストした結果であり、いずれも動作を保証するものではありませんので、その点ご留意ください。
【オーディオインターフェイス価格チェック】
◎Amazon ⇒ US-2×2
◎サウンドハウス ⇒ US-2×2
◎Amazon ⇒ UR22
◎サウンドハウス ⇒ UR22
◎Amazon ⇒ QUAD-CAPTURE
◎サウンドハウス ⇒ QUAD-CAPTURE
◎Amazon ⇒ UAC-2
◎サウンドハウス ⇒ UAC-2