最近オーディオインターフェイスも二極化が進んでいるようです。24bit/192kHzが扱える性能を持ちつつ2万円以下で入手できる手軽な製品がある一方、さまざまな機能を搭載し、オーディオインターフェイスの範疇を超えるようなシステムも登場してきています。そんな高機能な製品、UltraLite AVB(直販価格:99,360円[税込み])がMOTUから新たに発売されました。
UltraLite AVBは18IN/18OUTの24bit/192kHz対応USBオーディオインターフェイスであると同時に、48chのデジタルミキサーとしても機能するので、これをオーディオインターフェイスと統合させることもできるし、スタンドアロンのデジタルミキサーとして機能させることができます。さらにはライブステージなどで多チャンネルをノイズレス・低レイテンシーで伝送できるステージI/Oとしても活用できるし、ADATとアナログをリアルタイム変換するためのオプティカルI/Oとして使ったり、スタジオでシステム拡張装置としても利用できるなど……とにかく多機能なデジタルオーディオシステムとなっているのです。そのコアにはAVBというシステムがあるのですが、いったいどんなシステムなのか紹介してみたいと思います。
MOTUの超高機能、高性能なインターフェイス、UltraLite AVB
UltraLite AVBは、設定次第でさまざまなシステムへと変身するのですが、まずUSBオーディオインターフェイスとして捉えると前述のとおり、18IN/18OUTというスペックになっています。
フロントにはマイク入力×1とギター入力×2、ヘッドホン出力を装備
フロントにマイク入力が1つ、ギター入力が2つ、リアにマイク入力1つと、ライン入力が6つとメインアウト、アナログ・ライン出力が6つ、そしてADATオプティカルの入出力があるので計、ADATを8IN/8OUTと数えて18IN/18OUTというわけです。
WindowsならASIO、MacならCoreAudioで動作するオーディオインターフェイスであり、プロミュージシャン、プロのレコーディングエンジニアなども愛用するMOTUだけに、その音質や安定性は間違いありません。そして、最近の高級オーディオインターフェイス同様、ここにはDSPが入っており、さまざまなセッティングができるようになっています。
Quick Setupで「Stand-alone Mixer」を設定
このオーディオインターフェイスの設定においては、単純に入出力端子としてPCから見えるだけなのですが、設定を変えることで、さまざまなことができるようになります。簡単な設定変更を可能にするQuick Setupで「Stand-alone Mixer」というものを選んでみます。
ここでMixingを選択すると、画面にはミキシングコンソールが現れ、各端子への入力が表示され、フェーダーやパンで調整することが可能になります。またEQやコンプ、ゲート、ハイパスフィルターなどを選択することで、画面は大規模コンソール風に変化していき、ここで音を自由にコントロールすることが可能になります。このEQはアナログEQをモデリングしたもので4バンド。またコンプはTeletronix LA-2Aをモデリングしたものとなっています。
EQやコンプを表示させると、かなり本格的なミキシングコンソールという画面に変わる
もちろん各チャンネルことにEQやコンプなどは独立して動いているし、リバーブも搭載されているので、各チャンネルからセンドで送ることもできます。さらに各チャンネルをまとめるグループBUSを使うこともできれば、AuxBUSを設定し、UltraLite AVBの出力チャンネルに割り当ててアウトボードへ流すといったことも可能です。
AuxBUSをオンにし、ここへセンドすることで、アウトボードのエフェクトなどに信号を送ることも可能
この際、コンピュータ側とのオーディオ信号の入出力はなく、完全にスタンドアロンで動作するミキサーとして機能しているんですよね。しかもそのルーティング自体も自由に行うことが可能です。「Stand-alone Mixer」として選んだのは、あくまでも典型的な設定例であり、ルーティングを使っていくらでも自分の好きな設定にしていくことができるのです。
実は、ここまでの画面はすべてブラウザ上で表示されているものだった
さて、ここでお気づきの方もいると思いますが、いま見てきた画面、実はすべてブラウザで動いているんですよ。PC上の専用ソフトで動いているわけではないんです。このことが、実は大きなアドバンテージになっているのです。よくDSPミキサー内蔵のオーディオインターフェイスの場合、「PCで設定した後、PCと切り離しても最後の設定が保持される」というものがあります。でもミキサーとして考えた場合は、常にフェーダーやEQなど自分で操作したいところですよね。このUltraLite AVBの場合、それが可能になっているのです。そう、PCはあくまでもリモコンとして使っていただけなのです。
リアパネルにはLANの端子があるので、ここにLANケーブルを接続
「でもPCで操作しなくてはならないのでは、ちょっと面倒だし……」という人も大丈夫。UltraLite AVBのリアパネルにはLANの端子があり、ここにLANケーブルを接続すれば、iPadやiPhoneなどからWi-Fi経由で操作できてしまうのです。これならPCの電源がOFFでも構わないし、まさに使い勝手のいいデジタルミキサーとして機能してくれます。
PCと接続されていなくても、Wi-Fi経由でiPadからも同じようにコントロールできる
もちろん、このデジタルミキサーとオーディオインターフェイスを統合したいと思えば、そうした設定も可能です。「Interface+Mixer」という設定を選べば、そうしたものへと変身してくれます。この場合、このチャンネルストリップで設定した音で、掛け録りでのレコーディングも可能になるし、PCから出てくる音にリバーブを掛けて出力する……といったことも可能になります。
さらに「Live Recording with Moniter Mixing」を選択すると、UltraLite AVBの計18あるチャンネルからの入力をそのままPCへ送ってレコーディングできるのと同時に、これらの18入力に加えてPCからの18chの出力の計36chをミキサーへ送り、これをモニタリングしたり、メインアウトへと出力することが可能です。この場合、UltraLite AVBへの入力信号はPCを経ずに、直接ミキサーへ入ってくるため、ほぼレイテンシーのない音でモニターできるわけです。
「Interface+Mixer」の設定でルーティングを見ると、各入力がPCに行くと同時にミキサーにも行っている
いま、いくつかの設定を選んでUltraLite AVBをオーディオインターフェイスにしたり、ミキサーにしたりしたわけですが、これはモードを切り替えたというわけではないんです。単純にルーティングを切り替え、ミキサーのセッティングをしたプリセットを読み込んだだけのことなんです。逆にいうと、自分で自由に設定した上で、その状態を保存しておけば、いつでも自分の好きな設定にすることができるわけですね。この自由度の高さ、そして、いくらチャンネルを増やしてもDSPパワーに余裕がある点は、ほかのオーディオインターフェイスの仕様とは一線を画すものだと思います。
でも、驚くべき点はここからです。UltraLite AVBのAVB機能を使うことで、さらなる拡張性を持っているんです。AVBというのは米国電気電子学会(IEEE)が定める音声と映像をネットワーク転送するための規格でFocusriteやAudinate、YAMAHA、Sennheiser、Avid Technology、Shure、BIAMP Systems、Meyer Soundといったオーディオ機器メーカーから、BMWやGMなどの自動車メーカーまで幅広い企業が加盟する普及団体「AVnu Aliance」が中心となって策定された規格なのです。
もう少し具体的にいうと、Ethernetケーブル(いわゆるLANケーブル)を使ってオーディオを低レイテンシーで伝送できるというものであり、1本のケーブルで48kHzなら512chも同時に伝送できるというすごい規格なんです。Wi-Fiでも伝送可能ですが、多少レイテンシーが発生するため、ケーブルを使うのが一般的であり、1本のケーブルで100mの伝送が可能だから、ライブハウスやホールなどで業務用として使われるケースも出てきているようです。
上がUltraLite AVB、下がMOTU AVB 1248
さすがにDTM環境でAVBを使うというケースはなかなかないかもしれませんが、実際どんなものなのか自分でもちょっと試してみました。UltraLite AVBを2台でもよかったのですが、ここではMOTU AVBシリーズの最上位機種、MOTU AVB 1248(直販価格:226,800円[税込み])という機材を借りたので、これをUltraLite AVBと接続してみました。
接続自体はいたって簡単。先ほどLANのHUBに接続していたケーブルを直接、MOTU AVB 1248に接続したら、もうそれで完了。お互いがAVB接続されたことを自動で認識し、まるで一つのミキシングコンソールのように合体してしまうんですね。
MOTU AVB 1248側にAVBからの信号が流れるようにセッティング
もちろん、ルーティング自体は自由自在。UltraLite AVBに入った信号を、非常に低レイテンシーな状態でMOTU AVB 1248のメイン出力から出したりモニタリングすることができるし、反対にMOTU AVB 1248に入った信号を、UltraLite AVB側で出すことも可能だし、UltraLite AVBがPCと接続されていれば、PCのDAWへレコーディングすることが可能です。この際、もちろん、各チャンネル、すべて独立したバラバラな状態でレコーディングできるので、超大規模オーディオインターフェイスになるわけです。
Cubaseから見ても、USB接続だと48kHzで64chの入出力ができる
ただし、ここまで大規模になってくると、USBには荷が重いというのも事実。USBの場合、44.1kHzまたは48kHz動作時で、最大64chまでは扱えるようですが、96kHzなら32ch、192kHzあら24chが限界となり、全チャンネルを扱うというのは、やはり難しそうです。そんな時は、MOTU AVB 1248を直接、PCと接続してしまえばいいのです。というのも、MOTU AVB 1248はUSBだけでなくThunderboltにも対応しているから、同時に扱えるオーディオチャンネル数を劇的に増やすことが可能で、AVBネットワークで扱える256chすべてを使用可能になるのです。
Thunderboltを使うことで、伝送スピードがUSBよりも格段に速いため256chすべてが利用可能となる
現在のところ、Thunderboltが使えるのはMacのみでWindowsはドライバが用意されていませんが、Macで大規模なオーディオインターフェイスを扱いたいという場合には、AVBを利用するのは有効な手段といえるのではないでしょうか?
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