マイクメーカーというと、AKG、Neumann、Sennheiser、SHURE……といった伝統的な歴史あるメーカーが中心です。そして多くのスタジオ、そしてミュージシャンもこれら伝統あるマイク製品を選ぶ傾向にあると思いますが、その中で最近、世界的にも注目されているLEWITT(ルウィット)という新進気鋭なマイクメーカーがあるのをご存じですか?
2009年に設立されたばかりのオーストリア・ウィーンにあるメーカーですが、真空管とFETを同時に使ったマイクを作ったり、特殊性能を持つドラム専用のマイクキットを作るなど、斬新な製品を開発して話題になると同時に、高い評価を受けているのです。そのLEWITTが、今度はUSB接続の本気のステレオ・マイク、DGT650を開発。国内でも間もなくリリースされることが発表されました。Windows、Macで利用できるのはもちろんのこと、iPhoneと組み合わせて24bit/96kHzでのレコーディングも可能という仕様になっています。そのDGT650の発売を前に、LEWITTのCEO、Roman Perschon(ローマン・パーション)さんが来日し、インタビューすることができたので、紹介してみたいと思います(以下、敬称略)。
多機能・高性能なUSBマイク、DGT650を持つLEWITTのCEO、Roman Perschonさん
--LEWITTは2009年設立とのことですが、どういうキッカケでマイクメーカーを作ることになったのですか?
Perschon:私は大学でエレクトロニクスやオーディオ&ビデオ、電気通信といったことを学んだ後、AKGに入社して、プロダクトマネジャーとして働いてきました。ここでは新製品の開発やマネージメント、戦略的な部材購入・調達といった仕事を行い、製品の設計書の段階からプロトタイプを含むR&Dの進行管理を行ったり、生産を行う中国とのやりとりなんかもしていましたね。このAKGで5年間働き、仕事としては面白かったし、とてもいい環境ではありました。でも、製品づくりをしていく中で、もっと斬新なことをしてみたいと思うようになっていったのです。
Perschonさんは、AKGで5年働いた後、独立してLEWITTを設立
--斬新なというのは、どういうことですか?
Perschon:たとえばダイナミックとコンデンサの2つの素子が1本のマイクの中に入っているものだとか、FETと真空管を使ったものなど、いろいろなアイディアが浮かびました。こうしたマイクを作ることで、これまでにできない新しいサウンドを作ることができるはずです。ところがAKGは伝統的・歴史的な会社であり、非常にクオリティーも高いし、評判もいいけれど、自らに制限をかけているところがあって、あまり斬新なことを好みません。そのため、いろいろなアイディアを提案してみたけれど、AKGでは企画が通らないんですよね。
新しいアイディアを盛り込んだ製品を作るためにLEWITTを設立。写真は今回発売されたUSBマイク、 DGT650
--そのために、飛び出して自分の会社を作った、と。
Perschon:そのとおりです。自分の新しいアイディアで製品を作るには自分で会社を作るしかなかったんです。この会社を作るにあたり、それまでのビジネスパートナーでもあったKen Yangと組んで設立したのもLEWITTにとって大きなポイントとなりました。彼はオーストラリア育ちの中国人で、中国南部にある大手マイク工場の2代目。その工場では世界の大手ブランド向けに数多くのマイクを生産し供給しているだけに、製造能力、クオリティーは高いものがあるんです。一方、私は設計においては自信があったので、二人の力を合わせれば、これまでにないアイディアのマイクを高品位に作り上げることができるという確信がありました。
--斬新なマイクというのもいいとは思いますが、スタジオやミュージシャンも結構コンサバティブであって、定番のものを使う傾向があるように思います。この辺はどのように捉えていますか?
Perschon:確かに、既存のもので満足している人は多いのが実情です。でも、高い性能を持った新しいコンセプトのマイクを使うことによって、レコーディングにも進化が起こります。普段あまり気づかないかもしれませんが、トランジェントレスポンスがいいこと、アタックのピーク成分のディテールを正確に捉えることができることなど、実際に使うとその良さを体感できるはずです。
真空管とFETの2つのマイクプリを搭載するユニークなマイク、LCT940
--「アタックのピーク成分のディテール」って、もちろんマイクにおいて非常に重要なポイントではありますが、その辺は伝統的なメーカーも突き詰めている部分ですよね。
Perschon:やはりマイクですから、開発・設計においてもアコースティックな部分が多いのも事実です。ダイヤフラムやカプセルの技術、またまわりのグリル部分の形状などもマイク性能に大きく影響を与えますから、実測しながら、丁寧に作っています。その一方で、指向性を切り替えられるようにしたり、パイパスフィルターも4パターン用意して切り替えられるようにするなど、シチュエーションに応じて設定を変更できるのも大きなポイントです。私たちは、マイクにできるだけ多様性を持たせたいと考えています。そのフレキシブルマイクとして最初にお勧めしているのが、LCT940やLCT550。中でもLCT940は真空管とFETの両方を選べるようになっているので、シンガーの声に合わせてチューニングができるというのはすごく威力を発揮しますよ。こうした機能は、伝統的なマイクメーカーはあまりやりたがりませんからね。また音以外にも、これまでのマイクにはない試みをしています。
今回の新製品DGT650のグリル部分を見るとすべて六角形の形状になっており、これが音にも大きな効果をもたらすという
--音以外とは、具体的にどんなことですか?
Perschon:イルミネイテッドインターフェイスと呼んでいますが、電源を入れるとロゴ部分が光ったり、設定したモードが何になっているかを表示させるなど、デザイン面にも力を入れたマイク作りをしています。こうした点については賛否両論あるし、保守的な人が多いのも事実だけど、具体的に説明していくと、多くの人が理解してくれて、LEWITTのマイクの良さを分かってくれます。もちろん、すべてウチのマイクを使ってほしいとはいいませんが、うまく組み合わせて使うことで、確実に音作りの幅が大きく広がると思います。
DGT650のパッケージにはマイク本体のほか、スタンドや外部ボックスなどがセットとして収納されている
--今回特に興味があるのがUSB接続のDGT650という新製品についてです。これは、どんな製品なのでしょうか?
Perschon:デジタルマイク市場には、USBを用いた製品が数多くあることは事実です。ただ、ご存じの通り、その大半はローエンドのものであり、しっかりしたレコーディングに使えるものはあまりありません。確かにNeumannのデジタル・マイクなどはありますが、これは高価すぎて簡単に買うことはできないでしょう。そこで、自分たちで何かいいデジタルマイクを作れないだろうか……、モバイルレコーディングスタジオ、ポータブルレコーディングスタジオを構成するためのマイクを作れないか、できればUSBだけでなくiOSのLightning端子接続というソリューションを取り入れられないか…と考えて作ったのがDGT650というわけなのです。
--使い方も特殊なのですか?
Perschon:いいえ、いたってシンプルです。iOSデバイスではプラグ&プレイですぐに使えるようにしているほか、WindowsではASIOドライバ、MacではCoreAudioドライバに対応しているので、一般的なオーディオインターフェイスと同様の使い勝手ですよ。24bitの分解能を持たせており、サンプリングレートとしては44.1kHz、48kHzそして96kHzに対応。A/Dコンバータはプロフェッショナルレベルのサウンドを考えていたので、ダイナミックレンジが110dBのものを搭載しています。一般的なUSBマイクが95~105dBですから、その違いが分かると思います。
DGT650のインジケータ。4つのモード選択やフィルタの設定、ゲインの調整などがマイク本体で設定したり、確認できる
--パッと見でも、いろいろな機能がついてそうなマイクですよね。
Perschon:ここには4つのモードが持たせてあるのですが、具体的には「シンガー・ソング・ライター・モード」、「ステレオ・モード」、「カーディオイド・モード」、「ステレオ・ライン・イン・モード」のそれぞれ。「シンガー・ソング・ライター・モード」はマイクからの入力と同時にラインからのレコーディングを可能にするもの、「ステレオ・モード」は、X-Yステレオで広がりのあるサウンドを録るためのもの、「カーディオイド・モード」は正面からの音のみを強く拾う単一指向性のマイク、そして「ステレオ・ライン・イン・モード」はラインインからの信号をそのままレコーディングするためのものとなっています。外付けのボックスを利用して外部機器との接続も可能になっています。ここで一番大きいのはプロがすぐに使えるサウンドをコンパクトに実現できているということ。ワンシステムですべてがトータルでコントロールできるという点にあるのです。
外部接続のボックスにはMIDI入力、ヘッドホン出力、ライン入力が装備されている
--このボックスを見るとMIDI端子もありますね?
Perschon:ここにはMIDI入力、ヘッドホン出力、ライン入力が装備されているのですが、MIDIは主にはコントローラ用途として用います。これをフル活用するためのコントロールパネルもWindows用、Mac用にリリースするほか、iPhone/iPad用のアプリもリリースしました。LEWITT Recorder(無料)というこのアプリを利用することで、DGT650のフルファンクションを活用することが可能となります。たとえば、ここに搭載されているハイパスフィルタについて80Hz/160Hz/オフの設定を選ぶことができるし、リチウムイオンバッテリーも搭載されているから、iPhoneとの組み合わせの場合、これによって電源トラブルを回避できる仕組みです。
iPhone上でDGT650のコントロールをするとともにレコーディングもできる専用アプリ、LEWITT Recorder
--なるほど、確かにオーディオインターフェイス的な要素も強いユニークなマイクですね。DTMユーザーにとって、どんな使い方をするといいでしょうか?
Perschon:4つのモードを備え、さまざまな設定ができるだけに、いろいろな活用法があると思います。もちろんPCを使い、自宅でレコーディングというのもいいですし、iPhoneとセットにして外に持ち出してレコーディングという場合でも大きな威力を発揮します。非常に簡単なセッティングで高品位なサウンドでのレコーディングができるので、ぜひいろいろな使い方をしていただければと思います。
ぜひ、多くの方にDGT650のよさを知ってもらいたいと話すCEOのPerschonさん
--ありがとうございました。
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【関連情報】
LEWITTサイト(日本語)
DGT650製品情報