iPadやiPhoneで動くDAWの定番といえば、まずはApple純正のGarageBand。またこのDTMステーションでもたびたび取り上げている、SteinbergのCubasis、WaveMachine LabsのAuria、Image Line SoftwareのFL Studio Mobile HDなども人気のあるDAWです。
でも、これらよりももっと古くから存在しつつ、常に最先端の技術を取り入れながら強力なDAWへと進化を続けているアプリ、MultiTrack DAWをご存知ですか?ずいぶんベタなネーミングのアプリではありますが、iPhone、iPadユーザーならぜひ1つ持っていて損のないアプリなので、今さらながらではありますが、改めて紹介してみましょう。
iPad/iPhoneで動作する強力なDAWアプリ、MultiTrack DAW
Harmonicdogが開発したMultiTrack DAWが誕生したのはiPadが発表されるより以前の2009年9月。当初はiPhone用のマルチトラックレコーディングアプリとして登場し、iPadの誕生に合わせてiPad画面にも対応させています。私自身は初代のiPadを入手してすぐにこれを購入し、その高性能さに驚いた覚えがあります。
そのため、DTMステーションやAV WatchのDigital Audio Laboratoryの連載でも、以前からたびたびMultiTrack DAWは登場させていたのですが、考えてみれば、これを単独で紹介したことがなかったんですよね。価格的には1,000円なのですが、簡単にこのアプリの特徴を羅列してみると以下のようなものとなっています。
・8ステレオ・オーディオ・トラック装備(アプリ内課金で24トラックまで拡張可)
・16bit/44.1kHz~24bit/96kHzまで対応
・最大16chのマルチ・レコーディング可能
・Inter-App Audio対応
・Audiobus 2.0に対応
・各トラックにコンプ、EQを装備
・BUSへのセンド・エフェクトに対応
・BUSトラックにリバーブ、ディレイを標準装備
・マスターコンプ、マスターEQ搭載
・テンポは40~240bpmに対応
といった感じでしょうか。iOSが標準性能では、いまだに24bit/48kHzにとどまっているなか、いち早く24bit/96kHzに対応したり、USBオーディオインターフェイスを接続することで4chの同時入力や8chの同時入力ができるアプリって、現在でもほとんどないですからね。それだけでも十分入手する価値があると思います。
iQ6、iQ7などのマイクとも相性はピッタリ
標準のiPad/iPhoneの入力はモノラルのマイクですが、ZOOMのiQ6やiQ7、またIK MultimediaのiRig MIC Field、FocusriteのiTrack Pocketなどのステレオマイクを接続すればステレオマイクとして使うことができます。もちろん、2ch入力のオーディオインターフェイスであるSteinbergのUR12やRolandのDUO-CAPTURE EX、またPreSonusのAudiobox iTwoなんかもiPad/iPhoneに接続し、24bit/48kHzさらには24bit/96kHzでレコーディングしていくことができるわけですね。
4ch入力可能(ループバックを含めると6ch)なUR44を接続するとどのチャンネルから入力するかを設定できる
さらにiPad/iPhoneへの接続ができる4chの入力に対応している手ごろなオーディオインターフェイスであるSteinbergのUR44、TASCAMのUS-4×4などをLightning-USBカメラアダプタ経由で接続すると、ステレオのトラックを2つ同時にレコーディングしたり、モノラルトラックを4つ同時にレコーディングなんてこともできてしまうのは、なかなか強力ですよ。
ステレオchを1トラック、モノラルchを2トラック同時にレコーディングしてみた
当初は地味な画面だったのですが、いつのまにかトラックごとに色を変わる設定となって、見た目もちょっぴり今風なポップなDAWに変化していましたが、基本的な使い勝手は従来どおりで、ちょっと変わってるけど、これがなかなかうまくできているんですよね。
たとえば、トラック上には入力レベル調整や出力レベル、また録音ボタンやミュート、ソロボタン、FXボタンなどが並んでいますが、これを直接触らないというのが、MultiTrackDAWのユーザーインターフェイスの特徴。たとえば、録音ボタンの辺りをタップすると、それを拡大したような画面が表示され、ここで操作するんですよね。そのため、小さいiPhoneの画面においても、誤操作することなく使えるのが特徴です。
MultiTrack DAWの進化に伴い、Inter-App Audioを強力にサポートしているというのも大きな特徴です。一言でInter-App Audioといっても、アプリの仕様に伴い、Generetor、Instruments、Effectsの3種類に分けることができるのですが、MultiTrack DAWはその3つにそれぞれ対応しています。
つまり、Generator、つまりオーディオ発生装置として機能するCubasisやFL Studio Mobile HD、iElectribeをレコーディング元として指定すれば、それらのアプリが再生する音をそのままレコーディングできるし、Insturments、つまり楽器として機能するiMini、Animoog、SampleTankなどを指定すれば、楽器を演奏したものをレコーディングすることが可能となります。
各トラックには画面のようなEQとコンプが標準搭載されているほかInter-App Audio対応アプリをプラグインとして利用できる
一方で、各トラックにはコンプとEQが標準搭載されていますが、ここにInter-App AudioのEffectsをプラグインとして追加することも可能です。具体的にはAmpliTubeやEcho Pad、Swoopsterなどが使えるので、PCのDAWでのレコーディングと同じ感覚でレコーディングできます。
さらに、マスタートラックにはマスタリング用のEQとコンプも搭載されていて、ここにもInter-App Audioによるエフェクトを追加可能となっています。もちろん、これらのエフェクトをかけた音をリアルタイムモニタリングできますよ。バッファサイズの調整も可能で、iPadやiPhoneの性能にもよりますが、2.8msecくらに調整しておくと、ほとんどレイテンシーを感じない快適なモニタリングが可能になります。
バッファサイズを2.8msecにすると、かなり快適な環境になる
こうして作った楽曲データは、Emailで送ったり、SoundCloudへアップロードすることができるほか、iTunesを介してPCとのやりとりも可能です。でも個人的に気に入っているのは、Wi-Fi経由でPCとやりとりができることです。そう、LAN内において、MultiTrack DAWが指定するURLにアクセスすると各トラックごとのオーディオファイルやミックスしたオーディオファイルのやりとりはもちろんのこと、エフェクトをかけた結果のオーディオファイルやかけない状態でのオーディオファイルなどを自由にやりとりできるようになっているんです。しかも、WAVだけでなく、OggVorbis、AACの選択といったこともできるので、まさに万能ですよ。
Wi-Fi経由でPCと接続でき、ブラウザを使ってオーディオファイルのやりとりが可能
まあ、Inter-App Audioをいっぱい使うと、重くなってしまうのは仕方ないところですが、MultiTrack DAWを単独で使う限りは非常に軽く動いてくれるのも、大きな特徴で、歴史あるアプリだけに安定しています。ただし、ここまでの機能を見ても分かるとおり、MIDIシーケンス機能は装備していないので、MIDI機能が必要ならば、やはりGarageBandやCubasisが必要となりますが、オーディオだけでOKであれば、かなり使えるアプリだと思います。
BUSを使ったセンド・リターンエフェクトも可能で、ディレイ、リバーブを標準装備。ここでもInter-App Audioが使える
ステレオ8Trが物足りなければ800円のアプリ内課金で24Trまで拡張することもできるので、かなり広範囲に活用できますよ。
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