フランスのソフト音源のブランド、UVIをご存じですか?正式名称、UVI Sounds & Softwareというそうですが、フランス・パリで20年以上に渡って数多くのソフトウェア音源を出してきたブランドで、MOTUのMachFive 3の開発元としても知られています。
このUVIの音源の特徴は、サンプリングとシンセシスのハイブリッド仕様であるUVIエンジンを採用しているという点。最近、ビンテージシンセの再現というと、RolandのACBやArturiaのTAEのような、アナログ回路のモデリングが増えている中、UVIでは、あえてサンプリングにこだわった音作りをしているのです。同社のビンテージ音源コレクション製品、Vintage Vaultを例に、どんな製品になっているのかをチェックしてみたいと思います。
数多くのビンテージシンセを再現した音源を1パッケージにまとめたUVIのVintage Vault
まずは、いろいろな説明をするより前に、ぜひ音を聴いてみてください。以下に掲載したのはアナログシンセの代表選手ともいえるMini Moogのサウンドを表現する音源、Ultra Miniです。
どうですか?SoundCloudの音ではありますが、Mini Moogの特徴的な図太いサウンドが響いているのが分かったと思います。画面も、いかにもMini Moogという感じになっているのも分かるでしょう。
見た目もMini MoogっぽいデザインになっているUltra Mini
オシレータ部、エンベロープ部、エフェクト部……など、いくつかの画面に分かれており、もちろんそれぞれのパラメータを動かすことで、音色を作っていくことが可能です。
ここで大きなポイントとなるのは、これがアナログ回路モデリングではなく、サンプリング音源であるということです。したがって、「すべてのパラメータの動きがオリジナルのMini Moogの挙動とまったく同じである」というわけではないんです。でも、出音は、まさにMini Moogの音であり、使える音になっているんですね。
もちろん、各種パラメータがあることからも分かるとおり、単なるプレイバックサンプラーというわけではなく、シンセシス部分が非常に良くできており、フィルターを動かしてもドラスティックに音色が変化していくのを実感できます。
「私たちの目指してきたのは“使える音”の音源であること。実際に現在も現場で使われているビンテージ音源はその機材が持つノイズや歪みなどを含めて、いい音になっているからこそ愛用されているのです。アナログ回路モデリングだと、純粋に回路をシミュレーションするために、キレイな音になってしまい、必ずしも“使える音”にはなりません。だからこそ、状態のいい機材をサンプリングした上で、音源化しているのです」と話すのはUVIのマーケティング担当者。
同じUltra MiniでもMini Moog Voyager XLの2011年モデルのサンプリングデータを取り込むと白い画面に切り替わる
その証拠として、Ultra Miniにはちょっと面白い仕掛けもされています。実はClassicという音色ライブラリのほかにXLというものがあり、こちらを選ぶと白いパネルが現れます。これはビンテージ機材ではなく、2011年に限定発売されたMiniMoog Voyager XLをサンプリングした音源。そのため、出音の雰囲気もちょっぴり違うし、画面上のデザインも変えているんですね。
このUltra Miniは単体で149ドルで販売される一方、ビンテージ音源のテンコ盛りパック、Vintage Vault($499)にも収録されているのですが、Vintage Vaultにはほかに様々なビンテージシンセサイザ音源がいっぱい。
面白いところではMellotronの音を出す音源、Mello。まあ、Mellotronをシンセサイザとは呼ばないかもしれませんが、いわば元祖サンプラー。60年代に誕生したMellotronはテープに録音した音を1つずつ各鍵盤に割り当てて再生させる仕組みとなっています。
このUVIのMelloは、状態のいいMellotronを3台サンプリングし、その中から一番使える音を選んでライブラリ化してあるとのこと。実際に用意されている音色を見てみるとFlutes and Oboe、Strings、Choirs、Church Organs、Guitars、Cellos and Viola……。そうBeatlesのStrawberry Fields Forever、The Rolling Stornsの2000 Light Years From Home、David BowieのSpace Oddity……などなど60年代~70年代の超有名楽曲に使われたサウンドがこれで再現できるんですね。
ちなみに、MelloはフィルターやADSRといったシンセサイザ的なものはなく、あくまでも操作パラメータはMellotronを模したものになっており、テープの回転速度やトーンの設定などがあるほか、テープの回る機械音入りにするか、出力だけを取り出すものにするかの選択パラメータなどが用意されています。
ビンテージ・ドラムマシン80機種を再現するBeatbox Anthology
このVintage VaultにはUltra Mini、MelloのほかにもRolandのJX-3Pの音色を表現するUVX-3P、JX-10、MKS-70、JX-8Pの音色を出すUVX-10P、TR-808やLinn Drum、Simmons、YAMAHAのRX7やRX5など80種類のドラムマシンの音を出すBeatbox Anthology、アナログシンセではありませんが、E-mu SystemsのEmulator-IIを継承するEmulation2、Fairlight CMIを継承するDarklight IIx……など、さまざまな音源、計36種類+80ドラムマシンが収録されたセットとなっているのです。
Fairlight CMIを再現するDarklight IIx
その36種類は、いずれもWindowsの64bit、32bit、MacOSXの環境で動作し、いずれもスタンドアロンで動作するほか、VST、AudioUnits、RTAS、AAXのそれぞれのプラグイン環境でも動作するようになっています。
ここで、面白いのは、この36種類の音源が、別々のソフト音源というわけではなく、いずれも1つの共通のソフトウェア音源であるという点です。ここまでも触れてきたきたとおり、UVIの音源はサンプリングをベースに、シンセシスと合体させたUVIエンジンというもので動作しているのですが、そのプラットフォームとなるのは誰でも無料でダウンロードして使うことができるUVI Workstationというソフトです。
無料でダウンロードできるUVI Workstation。あらかじめ用意されている音色は誰でも試すことができる
ここにUltra MiniやMelloなどのライブラリをダウンロードして組み込むと、UVI Workstationが、各種音源の音色、画面デザインに変身するだけなのです。そう音源としてのエンジン自体は全部共通で、スクリプトを読み込んでユーザーインターフェイスが変わり、サンプリングデータを読み込んで音色が変わっているわけなのです。
ちなみにUltra Miniの場合は1.8GB、Melloは680MB、Beatbox Anthologyは4.1GB、Darklight IIxは2.1GB……といった感じで、いずれもそこそこ大きな容量。ただ、これらはFLACの形で圧縮されているので、WAVファイルベースだと、倍近いのだとか。事実、以前のバージョンではファイルサイズが大きかったけれど、現在はかなりコンパクトになったそうですよ。
なお、無料でダウンロードできるUVI Workstationにも、予めいくつかの音源が用意されているので、とりあえず自分のマシンで動作するのかチェックすることは簡単にできます。さらに、RolandのEP-09のサウンドを継承するAP-09というインストゥルメントも期間限定での無料配布が行われています(TwitterでのフォローかFacebookでの「いいね」が必要となります)。興味のある方はぜひ試してみてください。
※Twitterでのフォローは対象外となったようです。
なおVintage Vaultや、その他の音源も含め、店頭で購入できるほか、UVIの日本語サイトから直接ダウンロードすることもできます。価格的にはどちらもほぼ同じになっているそうなので、入手しやすい方法で購入すればいいと思いますよ。
【製品情報】
UVI日本語ページ
Vintage Vault製品情報
AP-09の無償ダウンロードページ
AP-09製品情報