8月30日、大阪でクリプトン・フューチャー・メディアとTOKYO MX主催による初音ミクのイベント「マジカルミライ 2014 in OSAKA」が開催されました。取材に行けたわけではないのですが、ここでコルグからMIKU STOMPなる「初音ミクが歌うボーカロイド・エフェクター」が発表されました。
コルグが何かやるらしいという情報は以前からキャッチしていたものの、こういう形だったとは想定外。私もMIKU STOMPが発表されたのを知ったのは昨夜で、その後、関係者にいろいろと当たっているものの、ややガードが固く、しっかりした情報がとれているわけではないのですが、半分憶測も含めて、これがどんなものなのか見てみたいと思います。
【追記】
9月4日、KORGから正式発表されました。市場予想価格は13,000円前後とのこと。内容的には今回の記事どおりのようです。ユーザーエリアには約6,000文字が入れられるため、1曲分は余裕で入れられるようです。
10月下旬に発売される予定のKORGのボーカロイド・エフェクター、MIKU STOMP
すでにご覧になった方もいると思いますが、MIKU STOMPに関して、コルグは同社サイトにおいて「ギターのピッキングに合わせて初音ミクが歌い出す! ボーカロイド・エフェクター、MIKU STOMP。」というキャッチコピーとともに、YouTubeで以下の動画をUPしています。
この歌声を聴いてもわかる通り、MIKU STOMPには、学研のポケット・ミクに搭載されているチップ、NSX-1を使ったeVocaloidによるもので、歌声ライブラリにはeMIKUが使われいます。
MIKU STOMPに搭載されているYAMAHAのNSX-1(型番:YMW820)※写真はポケット・ミク上のものです
「コルグの製品に、競合であるヤマハのチップが載るというのは、いかがなものか?」なんて思ってしまいますが、その昔、コルグはヤマハの資本参加を受けた経緯があることも考えると、競合とはいえ、仲のいい会社同士なのかもしれませんね。
普通のストンプ・エフェクト型の製品となっており、接続端子は標準ジャックの入力と出力が左右に1つずつ
さて、ここからが本題。レイテンシーが実際どのくらいなのかが非常に気になるところではありますが、MIKU STOMPはギターからの入力信号からピッチ情報をリアルタイムに検出して、eVocaloidへ送って初音ミクに歌わせる構造になっています。
以前、「eVocaloidはVOCALOIDと何がどう違うのか?開発者に聞いてみた」という記事でも書いた通り、eVocaloidはノート情報のほかに、PIT(ピッチベンド)およびPBS(ピッチベンドセンシティビティ)を利用できるようになっているため、ギターのチョーキングによる音程変化もしっかりと伝えることができるわけですね。
このように、基本的にはキーボードではなく、ギターの演奏によってリアルタイムで歌わせることができるのがMIKU STOMPというわけですが、気になるのが歌詞をどのように割り当てるのか、という点です。
写真を見ると、MIKU STOMPにはロータリースイッチがあり、
・Looh
・Lahh
・Ahh
・Pahh
・Nyan
・Phrase1
・Phrase2
・Phrase3
・Scat
・Random1
・Random2
と計11個のモードが設定できるようになっています。
ギターからの入力を元にピッチ検出を行い、NSX-1で初音ミクに歌わせる構造
このうちLooh(ルー)、Lahh(ラー)、Ahh(アー)、Pahh(パー)、Nyan(ニャン)は単音を発音するものと思われます。たとえばLahhに設定すると、ギターが弾くフレーズにしたがって「ラー、ラー、ラー」と歌い、Nyanを選択すれば「ニャン、ニャン、ニャン」というわけですね。
スイッチをオンにすると、ギターからの入力で初音ミクが歌うようになる
またScatというのは、スキャットする機能と思われるので、「ダバダバダバ」とか「ドゥビドゥビ」などと歌うのでしょう。
右側にはPeakと書かれた緑色のLEDがあるが、赤い警告色ではいことから、これが点灯するのがピッチ検出OKのサインか?
一方Phrase1~3を選択すれば、予め読み込まれている歌詞を繰り返し歌う形になるのでしょう。つまり「こんにちわ」と入れてあれば「こ・ん・に・ち・わ・こ・ん……」ということでしょう。
ただ、このYouTubeのデモでは「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド」と歌っているので、検出したピッチに合わせて歌うというモードがあるのかもしれませんが、どうやっているのかはハッキリしません。
問題は歌詞をどのようにMIKU STOMPに送るのかという点。USB端子があるのかなとビデオで筐体回りをチェックする限り見当たりません。となると、無線で飛ばすことになりますが、バッテリー寿命などを考えると、電力を食うWiFiを使うことは考えにくいのでBluetooth LEを使っていることが想像されます。Twitterでの情報を見ると、「iPhoneアプリで歌詞を飛ばすらしい」という話が出ていたので、それが正解なのではないでしょうか。
【追記】
データの転送法、Otomaniaさんからの情報で判明しました。Bluetooth LEやWiFiではなく、iPhoneアプリからオーディオ信号で転送するようです。最近、この手の機器がいくつか登場していますが、ある意味、昔のモデムのようにデータをピロピロピロという信号に変換した上で、iPhoneから出力し、その音をMIKU STOMP側で受け取って、理解するわけですね。
一方、そのTwitter情報では、単3電池2本で駆動とありましたが、これはどうでしょうか……。YouTubeの動画をじっくり見ると、9Vの入力端子あがることが確認できるので、一般のストンプエフェクトと同様に外部から9Vの供給ができるのは確実です。が、そうなるとバッテリーも9Vの006Pを使っていると考えるのが一般的です。中でDC/DC変換で電圧調整をしている可能性はありますね。
【追記】
こちらもOtomaniaさんからの情報で、やはり単3電池2本で駆動するとのことでした。
マジカルミライでのOtomaniaさんによるMIKU STOMPのデモ演奏(KORGのTwitterの投稿より引用)
ちなみに、マジカルミライの会場でデモ演奏をしたのは、『VOCALOID2 初音ミクに「Ievan Polkka」を歌わせてみた』などでも知られるOtomaniaさん。1週間ほど前からTwitterやFacebookで「マジカルミライでコルグのデモをする」とおっしゃっていたので、気になっていたのですが、まさかこれだったとは……と驚いたところです。
また、商品企画担当は、コルグで数々のヒット商品を生み出している坂巻匡彦さん。突撃メールをしたところ、「まだ私の口からは何も言えないので、広報に確認してください」というお返事。ただ、私の推測はある程度当たってる、ということだったので、この記事、デタラメだ、ということはなさそうですよ。
発売は10月下旬とのことで、とっても楽しみですよね。
ついでにVOCALOID絡みなので、ちょっと宣伝を! ボーカロイドの父である、ヤマハの剣持秀紀さんと共著で、「ボーカロイド技術論~歌声合成の基礎とその仕組み」という本を執筆しました。当初の予定より半年遅れとなり、各所にご迷惑をおかけしましたが、ようやく完成し、9月24日の発売となります。2000年に開発がスタートしたVOCALOIDの歌声合成という技術に焦点を当てて、さまざまな角度から解説しています。ほかにはない、さまざまな情報満載ですので、ぜひご覧になってみてください!
9月24日発売予定の書籍「ボーカロイド技術論~歌声合成の基礎とその仕組み」
【関連情報】
MIKU STOMP
【書籍情報】
ボーカロイド技術論~歌声合成の基礎とその仕組み