既存楽曲を含め、さまざまな素材をリアルタイムにつないでパフォーマンスプレイをしていくのがDJだとしたら、さまざまな素材をより緻密につないで、1つの新しい作品を作り上げていくのがトラックメイキング。そうしたトラックメイキングをするトラックメーカーの人たちが海外で大きな注目を集めるとともに、大ヒットになっています。
そうしたトラックメーカー御用達のソフトといわれているのが、ベルギーの会社、Image-Lineが開発したDAW、FL STUDIOです。確かにジャンルとしてはDAWではあるものの、CubaseやSONAR、Logic、ProTools……といったソフトとは、かなり概念の違うもので、まさにトラックメイキング用といっても過言ではありません。今回はトラックメイキングという観点からFL STUDIO 11の実力に迫ってみましょう。
多くのトラックメーカー達がFL STUDIOを使う理由を探ってみた
このサイト、「DTMステーション」のニコニコ生放送版「DTMステーションPlus!」の8月12日に行った第11回目の放送で、FL歴10年という山中裕介さんにお越しいただき、FL STUDIO 11を使ったトラックメイキングの実演をしてもらいつつ、そのFL STUDIOならではの機能を紹介していったので、ここでは、その内容を要約してみたいと思います。
DTMステーションPlus!にゲスト出演してもらった山中さん(左)。右は多田彰文さん
山中さんは新宿にあるDTM、ミニ四駆、レトロゲームなど趣味をコンセプトにしたカフェ&バー、Shuminova(しゅみのば)の店長さん。実はニコ生版DTMステーションPlus!の立ち上げにも尽力してくれたスタッフのひとりなのですが、彼が今回モチーフとして使ったのは、以前番組内で作詞・作曲し、データをニコニコチャンネル内で丸ごと公開している「奥の女」。そう、このデータにはVOCALOIDの歌唱データであるVSQXファイル、伴奏部分のスタンダードMIDIファイルが入っているので、これらを利用して、まったく違う雰囲気の新しい曲にしていったのです。
FL STUDIOを起動させると、まず何も入っていない画面が起動します。ここで他のDAWと大きく違うのは、バックにある大きなトラック画面とともに、小さなステップシーケンサが起動していること。ここにはKick、Clap、Hat、Snareと並んでいますが、たとえばKickのを4つ置きにクリックしてオンにすると、もうこれだけで「四つ打ち」のサウンドが出来上がってしまうんですよね。
Kickを4つごとにオンにすると「ドン・ドン・ドン・ドン」という四つ打ちリズムができる
インストゥルメントトラックを作るとか、イベントを作成するとか、MIDIエディターを起動するとか何もなし。たったこれだけでリズムが作れちゃうのです。
FLが持っている膨大な素材や手持ちのWAVファイルがドラムマシンの音源に即変身
でもEDM系の楽曲の場合って、リズム音に普通のドラム音ではないものも含めて、いろいろなサンプルを用いますよね。FL STUDIOにはEDMに使えそうな数多くの素材が入っているので、それをステップシーケンサにドラッグ&ドロップで持っていくだけで、即音源として使用可能。また手持ちのWAVやAIFFの素材があれば、これも同様に扱えて、すぐに自分の好みのドラムマシンが作れてしまうんですね。
MIDIファイルを読み込むと、こんな感じにまずパターンシーケンサに入ってくる
一方で、前述の「奥の女」のスタンダードMIDIファイルを読み込むことができるので、このメロディーパート、ベースパートを取り出して、各種プラグインシンセサイザに割り当てることで、オリジナルとはだいぶ違ったサウンドになってきます。
またオリジナルでは結月ゆかりが歌っていたパートを予め初音ミクV3で歌わせたものをWAVファイルの素材として書き出しておき、トラックに張り付けると、もう、これでずいぶん違ったアレンジになってきます。
四つ打ちのリズムに、ミクのボーカル、ベースラインなどを加えていく……
「ドン・ツー・ドン・ツー・ドン・ツー・ドン・ツー」という四つ打ちのリズムに乗る形で、初音ミクが歌ってくれるわけですね。初音ミク側とFL STUDIOのテンポさえ、揃えておけば、何も難しいことはなく、すぐにピッタリと同期してくれます。仮に用意したVOCALOID側のWAVファイルのテンポが違っても「Fit to Tempo」というコマンドを使えば、ピッチやフォルマントを変えることなく、テンポを合わせてくれるので、何でもありですよ!
オリジナル曲は20秒足らずの短いものでしたが、山中さんはイントロとしてその四つ打ちリズムのみの音でスタートするように、そこにベースやコードが加わっていく形で、曲をどんどんアレンジしていきます。
番組を進めながら、パズル感覚でどんどん曲を構成していく山中さん
「本当にパズル感覚で曲が作れるのがFL STUDIOの面白いところです。パズルってピースを当てはめて作っていきますが、そのピース自体に既存のものも使えるし、この四つ打ちのリズムのようなドラムパート、またコードなどもステップシーケンサを用いて作れるので楽しいですね」と山中さん。
同時になるピースを増やしていったり、ピースを並び替えたりするだけで、曲を自由に展開していくことができるので、音楽知識などまったくなくても、フィーリングだけで作っていけるのがFL STUDIOでのトラックメイキングの面白いところ。「展開が同じなんだけど、ちょっとずつ変わっていくクラブミュージック、EDMには相性がいいですよ」(山中さん)。山中さんはピースと呼んでいましたが、正式にはFLでPatternと呼んでいるものですね。
Fruity Slicerに初音ミクのボーカルを読み込ませると自動的にスライスされる
その次に山中さんが持ち出したのはFruity Slicerという飛び道具。ここに、WAVファイルなどの素材を読み込ませると、その素材を切り刻んでくれるのです。概念としてはPropellerheadが開発したReCycleそのものであり、ピークを感知してスライスしてくれるので、初音ミクのボーカルを読み込ませると、各音符ごとにバラバラな部品になるのです。
スライスされた素片を元にして、新たなメロディー?を構成する
その後Slicer内で、切り刻んな素片を適当に並び替えると、同じ歌声を利用しながら、違うメロディーも作れてしまうわけです。さらに、その素片に対してディレイをかけていくと、これまた不思議な効果を出すことができます。そんなサウンドが、四つ打ちリズムの上で展開されると、なかなかカッコイイですよね。
ところで、FL STUDIOが他のDAWと大きく異なる特徴的なポイントの一つが、オーディオサンプル素材の扱いです。前述のとおり、ステップシーケンサ上にサンプル素材を持っていけば、即、ドラムマシンの音源として利用できたわけですが、これをトラックに張り付けると、とりあえずは普通の波形として鳴らすことができます。
WAVファイルをトラックへドラッグすると、それはもうすでにサンプラーとなっている
ここまでは他のDAWと同様ですが、FL STUDIOの場合、単に波形が貼られたというのとは違うんです。貼った瞬間に、これがサンプラーになっているため、ピッチの変更はもちろん、トリミングを行ったり、波形をリバースするといったことも簡単にできてしまいます。
そこで、山中さん、初音ミクの歌声を別トラックへ貼りつけた上でリバースさせた上で、いろいろ切り刻んで使っていくと、また不思議な効果が出てきます。まさにパズル感覚とはこのことですよね。
数多く同梱されているエフェクトも自由に使えるし、もちろんVSTプラグインの利用も可能
もちろん、FL STUDIOには数多くのエフェクトも用意されているので、これらを使うことで、雰囲気を大きく変えていくこともできるし、ミキサーを使ってバランスを変えていくことで、オリジナルとはさらに違うものへと仕上げていくことも可能です。
ここで取り上げた機能はFL STUDIO 11が持つ機能の、ほんの一部に過ぎませんが、ほかにもトラックメイキング用の機能が盛りだくさん。やはり他のDAWとは一線を画すものであり、FL STUDIOがトラックメーカーに受け入れられているのは、当然のことなのかもしれません。
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