Windowsベースの新しいDAW、ABILITY(アビリティ)が6月19日に発売されます。これは株式会社インターネットが開発した国産のDAWで、上位版のABILITY Pro(56,000円)と普及版のABILITY(30,000円)の2ラインナップがあり、いずれもDTMの中・上級者ユーザー以上に向けに作られたプロ仕様の音楽制作ソフトとなっています。
CubaseやSONAR、ProTools、StudioOne、Live……といった海外のDAWが競い合っているDAWの世界に挑むという格好ですが、勝ち目はあるのでしょうか? 6月10日、東京・渋谷でABILITYの製品発表会が行われ、私も参加してきました。ここでの機能、性能を見る限り、海外勢に勝るとも劣らない内容で、見た目のデザインも洗練され、なかなか使いやすそうな印象です。実は、一足早く上位版であるABILITY Proを入手して実際に使ってみたところ、動作は軽快だし、かなり安定して動作してくれました。ファーストインプレッションというところではありますが、このABILITYとはどんなDAWなのか紹介してみたいと思います。
国産DAWとして新たに登場するABILITY Pro
「株式会社インターネットのDAWということは、Singer Song Writerの姉妹ソフトということ?」と思われる方ももいると思います。正確にいえば、姉妹ソフトというよりもSinger Song Writer 10の後継ソフトという位置づけ。機能的にはSinger Song Writerのものを踏襲しつつも、新しいDAWへと大きく進化させているのです。
ABILITY Pro / ABILITYはSinger Song Writer 10の後継ソフト。SSW LITEはABILITYのエントリー版という位置づけ
もちろんABILITYはDAWなので、AUDIOとMIDIをシームレスに扱えると同時に、作曲、アレンジ、レコーディング、サウンドデザイン、ミキシング、さらにはマスタリングからリリースまで一通りの音楽制作工程をすべてをカバーするソフト。Windowsの64bitネイティブで動作させることが可能です(インストール時に32bitを選択することも可能)。
Windowsの64bitネイティブ・アプリケーションとしてインストール、使用することができる
でも、どうしてSinger Song Writer 11ではなく、ABILITYなのか。開発元の株式会社インターネットの村上昇社長に聞いてみました。
6月10日、東京・渋谷で行われたABILITY発表会で説明する村上社長
「確かにABILITYはSinger Song Writer 10の後継ではあるのですが、初心者ユーザー向けソフトと、プロ仕様ソフトをキッチリと分けようという考えから、ブランド名も新たにしてリリースしました。ちょうど当社が昨年で25周年であったことから、心機一転という意味も込められています。中上級者向けをABILITY、初心者ユーザー向けをSinger Song Writer Liteと切り分け、プロユーザーでも使いやすくするために、ユーザーインターフェイス、オーディオエンジンなどをブラッシュアップしたのです。中でもとくにチェックいただきたいのがABILITY Proに搭載したボーカルエディタのハーモナイズ機能です」
とのことだったので、まずはボーカルエディタの辺から使ってみました。
ボーカルをレコーディングしたオーディオトラックから「ボーカルエディタで開く」を選択
プロジェクトを新規作成し、テンポ設定などを行ったうえでボーカルをレコーディング。レコーディングしたイベントから「ボーカルエディタで開く」を選択すると、しばらく処理をした後、ボーカルが解析されてMIDIのピアノロールのように表示されます。MelodyneやV-Vocalなどと近い機能ですね。音符を上下に動かせばピッチを修正できるし、左右に動かせばタイミングを変えたり、音符の長さを変えるなど自在にボーカルをいじることができます。
ここでABILITYが非常に便利なのがその「AUTOハーモナイズ」という機能。これを使うと、先ほどレコーディングしたメインボーカルを元にハモりパートを自動で作り出してくれるんですよ。固定で3度下とか5度上といった指定をすることもできますが、曲のコード進行によって、ハーモニーの仕方は変化していくのが普通です。そこでABILITYでは、あらかじめトラックにコードを設定しておくことで、そのコードに従ってハーモニー展開をしてくれるため、非常に効率よくハーモニーを作り出すことができるのです。
もちろん、作り出したハーモニーの中で、一部気に入らないところがあれば、個別に修正することも簡単です。さらに、メインボーカルと作り出したハーモニーの音量を変化させたいというニーズにもバッチリ答えてくれます。
設定したコードにマッチした形でハーモニーパートが自動で生成される
専用のミキサーがあり、これを使えば簡単に調整できてしまうんですね。このコード管理の便利さというあたりは、まさにSinger Song Writerの伝統をうまく受け継いでいる部分だと思います。
AUTOハーモナイズ機能専用のミキサーで音量バランスの調整も可能
いまのは、マイクからレコーディングした結果に対しての処理でしたが、VOCALOIDの歌声をABILITYで処理するというのも効果的です。そのVOCALOIDともReWireを用いてうまく連携できるのもABILITYの特徴のひとつです。これはSinger Song Writerにも搭載されていた「VOCALOID-SSW ReWire」というツールを組み込むことでVOCALOID3 EditorとReWire接続できるようにする、というもの。VOCALOID3 EditorとABILITYを完全に同期させることができ、VOCALOID側で複数パート歌わせているものを個別のチャンネルで受け取って、別々のエフェクト処理をかけていくといったことも可能になっているのです。
VOCALOID3 Editorのプラグインという形で組み込んでABILITYとReWire連携させるVOCALOID ReWire
さて、次に見てみたいのがエフェクト回りです。ABILITY Proには標準で34種類、ABILITYでも25種類のエフェクトが入っているほか、もちろんVST2さらにはVST3対応のプラグインも組み込んで使うことができます。ABILITYは、軽いこともあり、かなり多くのエフェクトを同時に立ち上げても問題なく動作してくれるのも大きなポイントです。
そのエフェクトの組み込み方もプリフェーダー8つ、ポストフェーダー8つ、そしてセンドエフェクトも8つといろいろあるので、数多く設定していくと、ミキサーで一目ですべてを確認、というわけにはいきません。そこで用意されたのがオーディオミキサーインスペクタというもの。これがなかなか強力で便利なんですよ!
1つのトラックに設定されているすべてのエフェクトを俯瞰して見ることができるオーディオミキサーインスペクタ
ご覧いただくと分かる通り、1つのトラックに組み込まれているエフェクトをすべて俯瞰して見ることができ、直接設定することが可能です。そして、これを見て気づくのが、一番左にあるRECエフェクトという項目。そう、ここにエフェクトを設定すると、かけ録りができてしまうんですね。コンプをかけた状態でレコーディングするとか、ディストーションをかけた状態でギターを録るなど、便利だし、何よりわかりやすくていいと感じました。
このオーディオミキサーインスペクタは、同時に複数のトラックに設定することができ、それぞれのトラックを録音モードに設定しておけば、異なるエフェクト設定で、同時にレコーディングしていくことができるのも便利です。
イギリスのSonnox社のエフェクトでノイズ除去するためのSONNOX DE-NOISER
そのエフェクトにおいてABILITY ProにはイギリスSonnox社製のEQUALISER & FILTERS、LIMITER、REVERBや3種類のRestorationエフェクトがバンドルされているのも大きなポイント。これはSinger Song Writer 10 Professionalにもバンドルされていたものですが、まさにプロ御用達のエフェクトであり、これだけが入っているというだけでも、十分に元が取れてしまいそうですね(SonnoxのエフェクトはABILITY専用でほかの環境では使えません)。
これらエフェクトの数を含め、ABILITY ProとABILITYの間には、スペックの違いもあるので、それをまとめたのが以下の表です。
製品名 | ABILITY Pro | ABILITY |
複数ソングの同時編集 | ○ | × |
ミキサー | ||
ウインドウ数 | 4 | 1 |
AUDIOトラックRecエフェクト | ○ | × |
INSERTION EFFECT数 | Pre/Post×各8個 | Pre×8個 |
トラック構成 | ||
GROUPトラック | ○ | × |
FOLDERトラック | ○ | × |
ボーカルエディタ | ||
ハーモナイズ機能 | ○ | × |
VSTインストゥルメント | ||
VSTインストゥルメント対応数 | 64 | 16 |
収録プラグインエフェクト | ||
収録プラグインエフェクト数 | 34 | 25 |
Sonnox EQ(※1) | ○ | × |
Sonnox LIMITER(※1) | ○ | × |
Sonnox REVERB(※1) | ○ | × |
Sonnox De-Buzzer(※1) | ○ | × |
Sonnox De-Clicker(※1) | ○ | × |
Sonnox De-Noiser(※1) | ○ | × |
KOMPLETE ELEMENTS | ○ | × |
Vocoder | ○ | × |
Vocoder SC | ○ | × |
Loudness Meter | ○ | × |
収録VSTインストゥルメント | ||
収録VSTインストゥルメント数 | 8 | 3 |
LinPlug SPECTRAL(※1) | ○ | × |
LinPlug CrX4(※1) | ○ | × |
LinPlug RMV(※1) | ○ | × |
LinPlug Saxlab2(※1) | ○ | × |
Roland Hyper Canvas | ○ | ○ |
Roland VSC(※1) | ○ | ○ |
LinPlug Alpha3(※1) | ○ | ○ |
KOMPLETE ELEMENTS | ○ | × |
※1 ABILITY Pro/ABILITY専用であり、ほかの環境では動作しません
MIDIのシーケンス機能は、ABILITY Pro、ABILITYともに共通となっていますが、CubaseやSONARなど海外勢と異なる大きなアドバンテージともいえるのが、数値入力ができるステップエディタを搭載していることです。そう「打ち込み」という言葉の語源ともいえるレコンポーザ形式での数値入力が可能になっているんです。これもSinger Song Writerから引き継がれた機能ではありますが、これがあるからこそSinger Song Writerを選んできた、という人も少なくないはず。そうしたユーザーにとってもABILITYは安心して使えるソフトといえるわけなのです。
Singer Song Writerからそのまま引き継がれた数値入力機能はレコンポーザとキー互換になっている
その数値入力やエフェクト機能などを含め、実際にABILITY Proを入れて使ってみて、なかなか快適だったわけですが、もうひとつ特筆すべき点がアクティベーション機能です。ABILITYもほかのソフトと同様にインストール後、ネットを介してのアクティベーション作業が必要でなのですが、この際アクティベートに使用するデバイスの選択ができるのが大きなポイント。そう、パソコン本体でアクティベートした場合、そのマシンのみで使うことができるのですが、USBメモリでアクティベートすると、そのUSBメモリがドングルとして利用できる形になるので、自宅ではデスクトップPCに刺して使い、出先ではノートPCに刺して使う……といった利用法ができるのです。必要に応じてアクティベーションの解除を行うこともできるから、なかなか融通が利いて便利ですよ。
USBメモリを用いてアクティベーションして持ち歩けば、いろいろなマシンで使うことができる
以上、ABILITYについて、特徴的な機能をいくつかピックアップして紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?見た目にもカッコよく、動作もキビキビしていて、なかなか好印象です。数ある海外の強豪DAWがある中、十分対等、もしくはそれ以上の力を持って戦っていけるだけのソフトに仕上がっているように思います。とくにボーカルエディタやVOCALOID-SSW ReWireを含むVOCALOIDとの連携ではほかのDAWにはない特徴を持っているし、海外のDAWにはないコード変換、フレーズLOOP機能などユニークな特徴が数多くあるのも
大きなポイント。DAWを購入する上で、大きな選択肢が登場したといえるのではないでしょうか?
なお、ABILITY Pro、ABILITYともにクロスアップグレード版というものが用意されており、VOCALOIDもしくは他社のDAWを持っていれば(LE版などを除く)、安く購入することが可能となっています。気になる方は、ぜひ対応DAWについてチェックしてみるといいですよ。
【関連情報】
ABILITY Pro/ABILITY製品情報
クロスアップグレード対応製品について
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