シンセにエフェクト、MIDIシーケンサ、DAW……、DTMの要素は何でも揃うようになったiPad、iPhoneの世界。昨年iOS7がリリースされるとともに、Inter-App Audioというシステムが搭載されたことにより、アプリ間の接続が可能になり、PCのDTMも顔負けなシステム環境を構築できるようになりました。
Apple標準のInter-App Audio登場前にアプリ間接続を可能にするAudiobusというアプリが登場し、多くのDTMアプリがそれに対応するようになっていましたが、4月に大きくバージョンアップしてAudiobus2となっています。このゴールデンウィークにようやく時間が取れて、このAudiobus2を使ってみることができたので、これでどんなことが可能になったのかを紹介してみたいと思います。
大きく機能強化されたAudiobus2を使ってみた
Inter-App Audioについては、以前、「iOS7のInter-App Audio機能はiOS DTMの革命だ!」という記事で紹介しているので、そちらをご覧いただくとして、ここではAudiobusについて、まず簡単に振り返ってみましょう(以前「iOS上のシンセ、エフェクト、レコーダーを有機的に接続するAudioBusはスゴイ!」という記事も書いているので参考までに)
INPUT、EFFECTS、OUTPUTの3つの要素で構成されるAudiobus
これは
INPUT
EFFECTS
OUTPUT
という3つのモジュールで構成されるシステムアプリで、それぞれに好きなアプリを設定することが可能になっています。たとえばINPUTにシンセアプリであるKORGのiPolysixを、EFFECTSにマルチエフェクトのEcho Pad、そしてOUTPUTにDAWであるCubasisを設定したとしましょう。
iPolysixの音がEcho Padを経由してCubasisへ
この状態でiPolysixを弾くとこの音にEcho Padによるエフェクトが掛かった状態で、Cubasisのオーディオトラックにレコーディングしていくことができるのです。
INPUTはiPadやiPhoneのマイクを使うこともできるし、OUTPUTにはヘッドホン/スピーカーを設定することもできるので、これさえあれば、いろいろなDTMアプリを組み合わせて楽しむことができるわけです。
今やDTM主要アプリのほとんどがAudiobus対応し、アプリ数は400を超えた
2012年末のAudiobus登場当初は、まだ対応アプリが少なかったのですが、現在は主要のDTMアプリはほとんどが対応しています。Audiobus自体はAppleの規格ではないにも関わらず、GarageBandまでもが対応しているので、実質的な標準規格といっていいと思います。Inter-App Audioの登場でAudiobusは消えてしまうのかなと思っていたのですが、今後も両立していきそうです。
そのAudiobusがAudiobus2へとバージョンアップし、さらに機能が大きく強化されました。まずは、マルチポートの入力を持つオーディオインターフェイスへの対応です。
Lightning-USBカメラアダプタ経由でSteinbergのUR44と接続
たとえばSteinbergのUR44はLightning-USBカメラアダプタを経由することでiPadやiPhoneと接続可能なオーディオインターフェイスで、計6つの入力を備えています。これを接続した状態でAudiobus2を起動するとその中の任意のチャンネルを選択することができるし、必要あればCH2とCH4とCH6のように組み合わせて扱うことも可能です。もちろんUR44以外でもPreSonusのAudiobox44VSLをはじめ、CoreAudio対応のデバイスであれば同様にして使うことができます。
またオーディオインターフェイスのバッファサイズの設定=レイテンシー調整も強化されているので、iOSデバイスのCPU処理能力によって最適値を設定することが可能になっています。
また従来のバージョンのAudiobusでは、各種アプリを設定しても、その場限りのものでしたが、Audiobus2では設定を保存することが可能になりました。この際、Audiobusの設定だけでなく、各ソフトシンセやエフェクトのパラメータも一緒に保存できるのは大きなポイントですね。こうした設定をメールやTwitterで共有することもできるようになりました。
アプリ内課金500円によってサポートされるマルチルーティング機能
が、それよりも大きいのがマルチルーティング機能です。この機能は500円のアプリ内課金が求められるのですが、1度支払ってしまうと、Audiobusがさらに使えるアプリへと進化します。
これまでINPUTデバイスは追加が可能でしたが、マルチルーティング機能が使えるようになると、エフェクトを追加していくことが可能になります。つまり前段にAmplitubeを入れ、後段に先日紹介したマスタリングアプリのFinal Touchを入れ、さらにエフェクトを追加するなんてこともできるのです(そんな使い方はしないと思いますが……)。
さらに、INPUT-EFFECTS-OUTPUTという流れを1系統だけでなく、複数系統設定することも可能で、それぞれを同時に動かすことができるのです。
CPUパワーさえあれば、3系統、4系統と増やしていくことも可能
一番速いCPU処理能力を持つiPad Airであっても、あまりたくさんのデバイスを組み込むとパワー不足で破たんしてしまいますが、かなり大きな可能性を持ったシステムということができると思います。
「複雑なことをするならPCのDAWを使えばいい」という方も多いと思いますし、それが正論だとは思います。でも、iPadやiPhoneでどこまでできるかを挑戦する意味でも、なかなか面白いシステムだと思います。