キーボーディストではない私にとって、「鍵盤タイプのシンセサイザって、範疇外」という思いがありました。「確かに打ち込み用にUSB-MIDIキーボードなどは必須だけど、外に持ち出してライブに使うわけではないし……」と。ところが、先日Rolandから発表されたFA-06、FA-08というのは、まさにDAW環境の充実のために誕生した新コンセプトのキーボードタイプのワークステーションなのです。
以前紹介したINTEGRA-7直系のエンジンを搭載した音源でありつつ、シーケンサ、サンプラー、コントロールサーフェイス、エフェクト、オーディオインターフェイス……と思いつく限りの機能すべてを満載した、まさにNewtypeなワークステーション。よく、これだけの機能がてんこ盛りになっているなと驚くと同時に、何でこれまでこの手のキーボードがなかったんだろう…とも思った次第。モノだけを見ても分からないので、FA-06、FA-08を担当するローランド株式会社の国内マーケティンググループの主任、石井宏平さんに説明をしていただきました。DTMユーザーの視点から、このワークステーションについて紹介してみましょう。
2月に発売になるRolandのまったく新しいコンセプトのシンセサイザ、FA-06
まずFA-06、FA-08はそれぞれ61鍵盤(ベロシティー対応)、88鍵盤(アイボリー・フィールG鍵盤、エスケープメント付)のワークステーションで、中にはINTEGRA-7直系の音源が搭載されています。両方オープン価格ですが、実売でそれぞれ110,000円前後、160,000円前後とのこと。ここで、まず気になってくるのが、「INTEGRA-7直系って何?」ということです。
INTEGRA-7については以前「Rolandの歴史すべてが詰まった音源、INTEGRA-7とは?」という記事や「AKBサウンドを編み出す、DTM現場に潜入!」といった記事でも取り上げたことがありましたが、ソフトシンセとは別格なDTMユーザーにとっても憧れのMIDI音源モジュール。当初は人気でずっと品切れ状態で、製品の入手自体が難しかったわけですが、そのINTEGRA-7の実売価格が170,000円前後であることを考えると、内容次第では、コストパフォーマンスが良さそうにも見えます。
INTEGRA-7との違いについて石井さんに聞いてみたところ「INTEGRA-7にはSuperNATURALアコースティック・トーン、SuperNATURALシンセ・トーン、そしてPCMトーンがあります。このうちPCMトーンはSRXシリーズを除き、FA-06およびFA-08にすべて収録、さらにドラムは今回新規に収録したサウンドを入れています。SuperNATURALシンセ・トーンはINTEGRA-7と同じエンジンを使っていますし、SuperNATURALアコースティック・トーンは制作で重要となるアコースティック・ギターやセクション系のストリングス、そしてアコースティック・ドラム音色を抜粋して収録。キーボードなので、鍵盤系のSuperNATURALアコースティック・トーンはほぼINTEGRA-7そのままになっています」とのこと。
FA-06、FA-08にはINTEGRA-7に収録されている多くの音色がそのままの形で入っている
つまりアコースティック系の音源に関してはINTEGRA-7にあって、FA-06、FA-08に入っていないものがあるとのこと。とはいえ、ピアノ、エレピ、オルガン、クラビなどのキーボード音源はすべてまったく同じように入っているそうです。SuperNATURALの音源でアコースティックギター、アコースティックベース、ドラムは一部が入っているけれど、エレキギター、バイオリンなどのストリングスのソロ、トランペット、チューバなどラッパ系のソロは入っていないので、もし、その音色を求めるのならば厳しい、ということですね。もっともPCMトーンとしてはエレキギターだって、ストリングス、ブラスだって入っているので、その点では問題なさそうですよ。
個人的にはJupiterやJUNOをはじめとする、アナログ時代のRolandのシンセサウンドが好きなので、INTEGRA-7はそれらすべてが網羅されているというのに魅力を感じていたわけですが、そこはFA-06、FA-08でもまったく同じというわけですね。
さらにこの音色の面で注目したいのが、AxialというRolandが運営している音色のダウンロードサイトについてです。「Axialには、Rolandのシンセサイザ製品ごとに、さまざまな音色データが無料ダウンロードできるようになっています。そして、ここにはINTEGRA-7の音色データも数多く用意していますが、そのINTEGRA-7用のライブラリはFA-06、FA-08でもすべて使えるようになっているのです。さらに今後、PCM音源を中心にINTEGRA-7、FA-06、FA-08共通でつ開ける音色を数多く拡充していく予定です」(石井さん)とのことですから、ここも大きなポイントです。
パネルの左下に「DAW CONTROL」というボタンが用意されているのに注目!
続いてチェックしたいのがコントロールサーフェイス機能です。写真を見ても分かるようにトップパネルには「DAW CONTROL」というボタンがありますが、これをオンにするとDAWとの連携モードに入ります。デフォルトでは、LOGIC PRO、SONAR、CUBASEの3つが用意されており、たとえばCUBASEを選べば、FA-06、FA-08のツマミやボタンがCubaseに最適化され、ボリューム調整、トランスポート関連、トラック選択といった操作ができるようになっているのです。もちろん、この3つのDAW以外でも、自分でアサイン可能になっています。
DAWの選択ができるほか、Syncモードなどの設定も一発でできる
またこのDAW CONTROLのスイッチを押すと、コントロールサーフェイスとしての選択ができるだけでなく、FA-06、FA-08をMIDI音源としてどう使うかの設定もできるようになっています。具体的にはSync Outのオン/オフ、さらにSync Modeにおいてマスターにするかスレーブにするかを、ここで設定できるのです。これまでも、いろいろな音源でこうした同期に関する設定が用意された機材はありましたが、たいていメニュー階層の深いところにあって、分かりにくかったものが多いように思います。
「現在、ワークステーションも単体で使うのではなく、みなさんDAWとの連携を前提とされていますので、できるだけ連携しやすいように、このDAW CONTROLボタンを用意しました。たとえばDAWでノートを1つ出すと、それに対応したアルペジオがFA側で鳴り、その結果をDAW側でMIDIでレコーディングする……、といった使い方にも有効だと思いますよ」と石井さん。
実際に触ってみると、シーケンサ機能も結構使いやすく、案外DAWで使うよりも簡単にフレーズが作れてしまう、というケースも出てきそうです。そんなときもできあがったものをMIDIデータとして、PCのDAWへ渡すこともできるし、オーディオ化したデータとしてDAWへ渡すことも簡単にできるようになっています。
そう、FA-06/FA-08では、本体のシーケンサーで作成したソングをオーディオ・データに変換する機能を備えています。特に今回面白いのは、16個のトラックを一回の手順で個別のWAVEファイルにすることができる点です。これはかなり強力な機能だとおもいますが、その手順がとても楽なのです!通常、DAWとハードウェアの音源を一緒に使う場合、オーディオへの変換は、例えば「トラック1をSoloにして書き出し→トラック2をSoloにして書き出し……」と、トラック数分の回数行う必要があるし、ちょっと目を離すとあるトラックを変換し終えたところで止まってた……なんてこともよくありますyね。
大きな液晶画面で結構使いやすいMIDIシーケンサ
しかしFA-06/FA-08では、トラック個別に書き出す場合も、基本的に一回の操作でOK。トラック1が終わったら、続けてトラック2、トラック3……と自動処理してくれるので、手離れがいいのです。
変換したデータはSDカード内に個別のWAVEファイルとして保存されるので、あとはSDカードをPCに挿してコピーすれば、DAW上で活用できるわけです。もちろん、2ミックスでの書き出しも可能ですので、PCを使わずにFA-06/FA-08だけでデモトラックを作ることも可能なのです。
では反対にDAWで作ったデータをFA-06、FA-08に持ってくることはできないのでしょうか?この点も石井さんに聞いてみました。「FA-06、FA-08は16トラックの16マルチティンバーの音源でありMIDIシーケンサとなっているので、MIDIデータはそのまま持ってくることができます。一方でオーディオトラックはないのですが、ここにサンプラー機能を利用することが可能なんです」
トップパネル右側には、16個のパッドがありますが、これをトリガーにするサンプラー機能があり、16×4バンク=64個までのWAVデータを割り当てられるようになっています。16bit/44.1kHzという制限はあるものの、とくに時間制限もありません。1つのパッドに何分のデータでも割り当てることができるので、ここにオーディオトラックを割り振ってしまえばいいんですね。
WAVファイルを読み込むと波形表示され、ここでエディットすることも可能
試しに、このWAVデータをサンプラーに取り込む操作を行ったところ、このスムーズさにもちょっと驚きました。最近、この手の機能を持ったシンセサイザは珍しくはありませんが、USBメモリーなどを経由して渡し、それを内蔵メモリーに読み込んで……という使い方が一般的ですよね。しかし、FA-06、FA-08ではSDカードを利用するとともに、SDカードから直接ストリーミング再生するために、読み込む、という操作が不要で、面倒さがないのです。
サンプルデータはリアパネルに刺すSDカードから直接ストリーミングされる
このようにしてDAW上のMIDIデータ、オーディオデータをFA-06、FA-08に持ってくることができるので、DAWで作ったデータをライブで使いたいという場合、わざわざPCを持ってくることなく、FA-06、FA-08単体で再生できてしまうわけです。
そして、DAWとの連携という意味で、もう一つのポイントとなるオーディオインターフェイスとしての機能。ここは、あくまでもオマケ機能といったところのようで、16bit/44.1kHz・ステレオに限定されるようですが、それでもWindowsならASIO、WDM、MacならCoreAudioに対応しており、USBケーブルで接続すれば、FA-06、FA-08のヘッドホンジャックからDAWの音を即、モニターできるというのは意外と便利かもしれません。
ほかにも強力なエフェクト機能やシーケンサとしてのエディット機能など、説明しきれないほどのいっぱいの機能がありますが、DAW用の超強力MIDI音源機能+キーボード+コントロールサーフェイス+シーケンサ+サンプラー+エフェクト……のように考えていくと、かなり強力でコストパフォーマンスの高いワークステーションだということができるのではないでしょうか?
【関連サイト】
FA-06 / FA-08 製品情報
INTEGRA-7製品情報
Axial – Roland Synthesizer Sound Libraries
【価格チェック】
◎Amazon ⇒ FA-06
◎サウンドハウス ⇒ FA-06
◎Amazon ⇒ FA-08
◎サウンドハウス ⇒ FA-08