8月9日、ソニー本社内でクリプトン・フューチャー・メディアによる発表会が行われ、初音ミクのVOCALOID3版、「初音ミクV3」が9月26日に発売されることが発表されました(直販価格は16,800円)。また、それに先駆け8月31日には、ついに英語版の初音ミクもダウンロード販売という形で登場し、US$149という価格で世界に向けて発売されます。
日本語版の初音ミクV3には歌い方のニュアンスが異なる計5種類の初音ミクの歌声ライブラリが入ると同時に、DAW、さらにはプラグイン型のVOCALOIDのエディタが同梱され、しかもWindowsとMacのハイブリッドという仕様。DTM製品として見たとき、価格破壊的といってもいいほど激安な価格設定となっています。内容が豊富すぎるため、初音ミクV3とはどんなものなのか、混乱してしまう人も多いと思うので、簡単に整理してみたいと思います。
ついに正式発表された初音ミクV3。新パッケージのイラストはKAITO V3と同じくiXimaさんによるもの
先に、「なぜソニー本社内で発表会が行われたの?」と不思議に思われる方も多いと思うので、説明しておくと、別にクリプトンがソニーの子会社になった、なんて話ではなく、9月末に初音ミクのデザインを施したXperiaが発売されるので、その発表会と兼ねて行ったということのようです。すでに数日前から、渋谷駅には大きな初音ミクのポスターも貼られていたので、「だからソニーでの発表会なんだ!」と思っていたわけですが…。
一週間前から渋谷駅の東横線エスカレータにXperia feat. HATSUNE MIKUの大きなポスターが貼られている
Xperiaについては直接DTMと関係なさそうなので、ここでは割愛して、まずはDTMソフトウェアとしての初音ミクのこれまでの経緯を振り返ってみましょう。初音ミクが登場したのは、2007年8月31日。当時やや低迷していた感じのあったDTMの世界がこれによって大きく脚光を浴びるようになりました。そして、今日現在もこの初音ミクが現行製品でもあります。その後、2010年4月10日、オプションソフトという扱いで初音ミク Appendというものが発売されました。これは同じ初音ミクの歌声だけれど、おしとやかな声のSOFT、少し憂鬱な表情の声のDARKなど6種類の異なる歌声ライブラリをセットにしたものであり、オリジナルと合わせて計7種類の歌声が存在することになったのです。これらを組み合わせたり、切り替えたりしながら、みなさん初音ミクの表情付けを行っていったんですね。
この初音ミクはヤマハが開発したVOCALOID2というエンジンで動いていたのですが、2011年10月21日にヤマハはVOCALOID3という新バージョンを発売。多くの人たちは初音ミクのVOCALOID3版を心待ちにしてきたわけですが、なかなか登場しませんでした。一時は、「初音ミクはVOCALOID2のままなのでは……」などとも思われましたが、約2年経ち、ついに発売されることになったのです。
ただ、待った甲斐はあったようで、初音ミクV3はかなりテンコ盛りな内容になっています。中身を羅列すると
・初音ミク歌声ライブラリ5種類(Win/Mac)
・Studio One Artist Piapro edition(Win/Mac)
・PreSonusソフトウェア音源(Win/Mac)
・Piapro Studio(Win/Mac)
・Tiny VOCALOID Editor(Win)
・その他(MUTANT、SONICWIREサンプルなど)
といった内容です。
分かる人なら「おぅ!!」と思うでしょうが、初心者だと、これが何なのか、さっぱり分からないかもしれませんよね。ごくごく簡単に紹介していきます。
まず初音ミク歌声ライブラリが5種類となっていますが、詳細は以下の表のとおり。
データベース | 特徴 | 得意なジャンル | 得意なテンポ | 得意な音域 |
DB 1 ORIGINAL |
清楚で可愛らしい、オリジナル初音ミク | アイドルポップス/ダンス系ポップス | 70~150BPM | A2~E4 |
DB 2 SWEET |
吐息成分を多く含み、甘くささやくような声 | フレンチポップ、バラード、エレクトロニカ等 | 55~155BPM | F2~D4 |
DB 3 DARK |
落ち着きがあり、少し憂鬱な表情の声 | バラード、ジャズ、フォーク、アンビエント等 | 60~145BPM | D2~B3 |
DB 4 SOFT |
全体的に物腰やわらかく、おしとやかな声 | ソフトロック、バラード、フォーク、アンビエント等 | 70~150BPM | A2~E4 |
DB 5 SOLID |
硬く張り詰めた声質、緊張感のある声 | ポップス、ロック、ダンス、エレクトロ等 | 65~160BPM | D2~C4 |
※ 得意な音域は目安であり、実際は非常に広い音域で歌えます。 |
つまりオリジナルのミクの声だけでなく、4種類のバリエーションも用意されているのです。もちろん、それぞれVOCALOID3のライブラリとなっているので、VOCALOID2よりも滑らかに歌うことが可能ですが、VOCALOID2の雰囲気は壊さず、進化させたとのことです。それぞれの歌声をちょっとずつ使った、きくおさんによるデモ曲があるので、以下をビデオを聴いてみると雰囲気はよく分かると思いますよ。
つまりオリジナルのミクの声だけでなく、4種類のバリエーションも用意されているのです。もちろん、それぞれVOCALOID3のライブラリとなっているので、VOCALOID2よりも滑らかに歌うことが可能ですが、VOCALOID2の雰囲気は壊さず、進化させたとのことです。それぞれの歌声をちょっとずつ使った、きくおさんによるデモ曲があるので、以下をビデオを聴いてみると雰囲気はよく分かると思いますよ。
6種類あった初音ミクAppendの歌声のうち、LIGHTとVIVIDが消えた形にはなっていますが、最初から5つがセットになっているというのは嬉しいところ。現行の初音ミクが15,750円、初音ミクAppendが16,800円ということだけを考えてもお得感がありますよね。
※追記
優待販売を申し込んだ人で『MIKU APPEND』の登録ユーザーには、追加データベース「初音ミク V3 VIVID」と「初音ミク V3 LIGHT」の無償提供ができるようヤマハと調整中という旨の記載が、優待販売メールにありました。
次に挙げたStudio One Artist Piapro editionというのはアメリカのPreSonusが開発したDAW。つまりレコーディングしたり、打ち込みをしたりする、DTMの中枢的ソフトであり、初音ミク関係なしにでも利用できる高性能なソフトなのです。Studio One Aritstというソフトは、Studio Oneシリーズのエントリー版に位置づけられるもので、ダウロード版が9,800円で販売されているほか、PreSonusのオーディオインターフェイスにバンドルされているというものです。
上位版のStudio One ProducerやStudio One Professionalと比較すると、プラグインが使えないなど拡張性は少ないのですが、初音ミクにバンドルされるPiapro editionはPiapro StudioというVOCALOIDエディタだけは追加できるようなトリックが施されているのが特徴です。
プラグインが使えないとはいえ、予め数多くのソフトシンセ、エフェクトがバンドルされていますから、多くのユーザーにとってはこれで十分すぎる内容といえるのではないでしょうか。
そして、Piapro Studioというのは以前にもKAITO V3の記事などで何度か紹介しましたが、VOCALOID3のエディタソフトです。単独で起動して使うソフトではなく、いま述べたStudio Oneにプラグインとして組み込んで使うものです。ただし、StudioOne専用というわけではなく、VSTiという規格に対応しているため、WindowsのほぼすべてのDAWで使えるほか、Macについても近い将来Audio Unitsプラグインに対応することが表明されているのでGarageBandやLogic PRO Xを含め、大半のDAWで使えるようになります。
プラグイン型のVOCALOIDのエディタ、Piapro Studio。トラックアイコンにMIKUなどのキャラクタが設定できるようになる
従来、VOCALOID3の歌声ライブラリを歌わせるためには、ヤマハのエディタであるVOCALOID3 EditorまたはTiny VOCALOID Editorが必須だったのですが、それらがなくてもPiapro Studioがあれば歌わせることができる、というのが大きな特徴なのです。
なお、初音ミクV3にもTiny VOCALOID Editorはバンドルされていますから、これを使って歌わせることも可能です。ただし、Tiny VOCALOID EditorはWindows専用でありMac版はありません。
そう、ここまで触れませんでしたが、初音ミクV3の大きな特徴はWindowsとMacのハイブリッドであるという点。これまでMacユーザーが初音ミクを動かすためには、Windowsマシンを用意するか、MacにWindowsをインストールして使うか、WINEといった仕組みを利用して無理やりMac上で起動させて使うか…といった方法しかありませんでしたが、今回ようやくMacに正式対応したので、快適に使えるようになるはずです。
一方、ヤマハからもVOCALOID Editor for Cubase NEOというWin/Macハイブリッドソフトが発表されており、これで初音ミクV3を歌わせることも可能ですが、これはCubase7をもっていることが前提。でも初音ミクは前述のとおりStudio One Artist Piapro editionがバンドルされているから、これだけでOKなわけですね。
このように、いろいろなものが入っているので、頭を整理するのがちょっと大変ですが、初音ミクV3をキッカケにDTMをはじめよう!という人も、急激に増えてくるのではないでしょうか?従来の初音ミクと違い、歌を歌わせるだけでなく、DAWを使ってバッキングパートを作ることもできるわけですから、その可能性は遥かに大きいわけです。
その分、複雑にはなるので、最初とっつきにくい面はあるとは思いますが、だからこそ、DTMの世界が盛り上がるのでは……、なんて期待しているところでもあります。
初音ミクV3と英語版の初音ミクをセットにした初音ミクV3バンドルも同時発売される
なお、6種類の歌声を持つ日本語版の初音ミクV3とは別に英語版があるわけですが、その2つをセットにした初音ミクV3バンドルも9月26日に21,000円(直販価格)で発売されます。
また、すでに初音ミクを持っている登録ユーザーには、優待販売が行われます。私の手元にも8月9日に案内が届いていましたが、それによると優待販売期間は2013年8月9日~2014年2月28日。気になる優待価格は初音ミクV3が12,600円、初音ミクV3バンドルが15,750円となっています。もし、VOCALOID2版の初音ミクを持っているけれど登録していないという方は、急いで登録するとよさそうですよ!
【関連サイト】
初音ミク製品情報
【関連記事】
KAITO V3がいよいよ登場、新エディタ、Piapro Studioを使ってみた!
VSTi型のボカロエディタ、Piapro StudioがバージョンUPだ!