自宅でレコーディングしたり、打ち込み作業をすべて行うのであれば、DAWひとつあれば完結できます。でも、「このボーカルトラックだけはスタジオで録りたい」、「ギターだけは、スタジオにあるMarshallのアンプを通したいんだ…」なんてことはありますよね。そんなときどうしていますか?
ノートPCにDAWを入れ、オーディオインターフェイスなど機材一式を持ち込むのが一般的だとは思うけれど、可搬性の点、セッティングの点で結構大変ですよね。そんなときに便利なのがポータブルMTRです。TASCAMやBOSS、ZOOM……といったメーカーから出ていますが、機能的にシンプルでPC上のDAWとの連携を前提とした使い方で大きな威力を発揮するのがTASCAMのPOCKETSTUDIOという機材です。4TrのDP-004、8TrのDP-008という2機種がありますが、8Trのほうを使ってみたので紹介してみましょう。
TASCAMのポータブルな8トラックレコーダー、DP-008
iPadと並べた写真を見てもらうと分かるとおり、DP-008はコンパクトな機材で、大きさは221(幅)×36(高さ)×126.5(奥行き)mmで610gというもの。ズボンのポケットに入るわけではないですが、ギターのソフトケースのポケットになら収まるということで、POCKETSTUDIOという名称になっているみたいですね。
単三電池4本で駆動し、SD/SDHCカードに録音できる8TrのMTRとなっています。また一目見て分かるとおり、とにかくツマミやボタンがズラリといっぱい並んでいます。でもだからこそ、操作がホントにしやすいんです。録音したトラックのRECボタンを押して、レベルを調整、必要に応じてリバーブを掛けて、録音スタートさせれば、もう録れちゃうんですから、マニュアルはいらないほどですね。
SD/SDHCカードに録音するUSB端子でPCとの接続も可能
トラックごとに並んでいるツマミは上からリバーブへのセンド、PAN、音量レベルとなっていて、ラバーコティングされたかなりしっかりしたものになっているのは好感が持てます。またカバンなどに直接入れて持ち歩いても壊れたり、誤動作しないよう、各ボタン類もあまり突起しておらず、かつ頑丈なものとなっています。
各トラックごとに3つのツマミがある。ツマミはすべてラバーコーディングされていて、かなりしっかりしている
リアを見てみると入力には標準ジャックが2つ、XLRのキャノンが2つあり、ギターに直結することも可能。またファンタム電源も装備しているので、コンデンサマイクを接続して使うこともできるんですよね。さらに、フロントには無指向性のエレクトレットコンデンサマイクがステレオで搭載されており、この内蔵マイクで録音しても、結構いい音で録れちゃうんです。
リアには標準ジャックの入力とXLRの入力、RCAのライン出力とヘッドホン出力がある
一番左にあるのはパンチイン/パンチアウトに使えるフットスイッチ端子
出力はRCAピンジャックでのライン出力と、ステレオミニのヘッドホンジャック。これでモニターしながらのレコーディングが可能で、たとえばマイクから入力した音にリバーブをかけた状態でモニターできるからボーカルも気持ちよく録ることができます。この際、録音したトラックにはリバーブが反映されていないのも重要なポイント。そう、細かな音作りはPCのDAW側ですればいいわけですからね。
センドエフェクトの形でリバーブを搭載。必要に応じて細かく設定することも可能
さて、本題はこのDP-008とPCとの連携についてです。DP-008は8トラックすべて、完全独立で録音、再生できる機材であり、独自のファイルフォーマットでデータが記録される形になっています。しかし、「IMPORT TRACK」、「EXPORT TRACK」という機能があり、これを利用することで、SD/SDHCカードにWAVファイルを書き出したり、反対にPCから取り込んだWAVファイルをトラックへ読み込むことができるようになっているのです。
IMPORT TRACK、EXPORT TRACKでトラックデータとWAVファイルの変換ができる
たとえば予めPCでオケのトラックはほぼ完成していて、あとはスタジオで2人のボーカルを録音するという場合を考えてみましょう。この場合、DAWで2chに仮ミックスしておき、それをWAVファイルで書き出しておきます。それをDP-008のSD/SDHCカードにコピーした上で、「IMPORT TRACK」でDP-008のTr.1、Tr.2に読み込みます。
これをスタジオで鳴らしながらTr.3、Tr.4へボーカルを録音していけばいいわけですね。DP-008は同時8Tr再生、同時2Tr録音に対応しているので、2人いっぺんに別トラックで録音することもできるし、順番に行ってもOK。この際、前述のリバーブを掛けてモニターすると歌いやすそうですね。
録音が終わったら、「EXPORT TRACK」でTr.3とTr.4をそれぞれWAVファイルで書き出します。このWAVファイルはSD/SDHCカードの「WAVE」という名前のフォルダに作られるので、それをPC側のDAWのトラックに読み込めば、バッチリ同期するはずです。あとは、DAW上でじっくり音作りをしていけばいいのではないでしょうか?
ファンタム電源もサポートしているのでコンデンサマイクも利用できる
ちなみにサポートしているのは16bit/44.1kHzのWAVファイル。だから「24bit/96kHzじゃないと納得いかない」という方には向いていないかもしれませんが、しっかりレベルを合わせて録音すれば、業務用においてもまったく問題ない音質だと思いますよ。
またDP-008にはパンチイン/パンチアウトの機能もあるので、これを使ってレコーディングしていくのもいいのですが、8トラックあるので、別トラックに複数テイクを録っていくのもいいと思います。どのテイクを使うかの選択、場合によってはテイクの部分ごとに使いたい音を選択していくコンピング作業はPCのDAW上で行えば、スムーズですからね。
ここでは、PCのDAWとの連携の流れを簡単に紹介しましたが、DP-008にはメトロノーム機能やチューナー機能、また3バンドのEQなどを装備しているので、これらも現場で便利に使えるはず。また、DP-008本体だけでのミックスダウン(マスタリング)機能も装備しているので、PCなしに作業することも可能になっています。
でも、使ってみて改めて思うのは、専用機だからこそ、電源を入れればすぐに使え、しかもマニュアルなしにホントに簡単に直感的な操作ができるのが、DP-008の最大の魅力ですね。
出先での録音が多いという方は1つ持っておいて損のない機材だと思いますよ。
【関連サイト】
TASCAM POCKETSTUDIO DP-008製品情報