唯一の国産DAWとして頑張っているインターネット社のSinger Song Writer(以下SSW)。その待望の新バージョン、SSW 10が11月9日にリリースされます。そのSSW 10の開発がほぼ完了し、最終的なバグFIXをしている段階だという話を聞いたので、先日SSW 10がどんな仕上がりであるか見学しに、大阪のインターネット社に伺い、その開発者でもある村上昇社長にいろいろ話を聞いてきました。
SONAR、Cubase、Logic、ProTools……といった海外勢のDAWが、横並びにさまざまな機能を搭載し、ある意味、限界に近いところまで来ている中、SSWはそうしたDAWと機能的には肩を並べつつも、独自色を打ち出してきています。「クリエイターが効率よく音楽制作をするためのツール」という思想のもと、海外のDAWにはないユニークな機能を搭載すると同時に、もちろん他のDAWへの機能的キャッチアップも図っているのです。さまざまな機能が追加されているので、3回に分けて紹介していきたいと思います。今回はまずSSW 10の全体像について見ていきます。
11月9日に発売される予定のSinger Song Writer 10
11月9日に発売されるSSW 10はSSW 9と同様に上位版の「Singer Song Writer 10 Professional」(標準価格:56,000円)と標準版の「Singer Song Writer 10 Standard」(標準価格:33,000円)の2種類。またSSW 9と同様にTASCAMのオーディオインターフェイス、US-144mkIIとのバンドルパッケージもそれぞれ発売されます。
インターネット社の開発ルームでSSW 10について説明してくれた村上社長
村上社長は「新たにDAWを使いたいというユーザーの方はもちろんですが、今回も安い価格設定でのクロスアップグレードを用意していますので、他のDAWからの乗り換えを積極的にお勧めしたいです」と話していました。まあ、完全な乗り換えであるかどうかはともかく、SSW 10の独自機能を活用して併用するという手はありそうですね。対象となるDAWはバンドル版を除けば、ほとんど何でもOKとのことですから、多くの人はその対象になりそうです。
さて、その具体的な機能に入る前に、システム的なバージョンアップ点をピックアップすると、まずは従来からのWindows 32bitアプリケーションとともに64bitネイティブのアプリケーションとしてもインストールできるようになったことが挙げられます。64bitならより広いメモリー空間で、より高速に処理できるようになります。またいずれの場合でも内部演算処理は32bit浮動小数点演算と64bit不動小数点演算のいずれかを選択できるようになっています。
また64bitネイティブ対応になったのに伴い、32bitのVSTプラグインを動かすためのブリッジ機能が標準搭載されました。「開発には苦労しましたが、これには自信を持っています。他社のブリッジ機能を見ると、オートメーションが使えない、うまく動作しないといった例がありましたが、SSW 10のものは64bitプラグインとまったく同じように使うことが可能です」と村上社長。
もちろんReWireも利用可能であり、64bit版もこれに対応しています。ここで1つ注目すべきはVOCALOID3 Editorとの連携です。先日V3Syncというフリーウェアを紹介しましたが、これと非常に近い手法を用いてのReWire接続が可能になっているのです。そう、SSW 10にバンドルされているVOCALOID3 Editor用のVSTプラグインをインストールするとReWire接続可能になるというものなのです。しかしV3Syncと違い、テンポマップなどもSSW 10のものがそのまま利用できるというのが大きなポイント。これだけをとってみてもSSW 10導入の価値はありそうですよね。
では、そのSSW10独自の機能とはどんなものなのでしょうか?まず注目したいのがMIDI機能です。もともとSSWは日本独自の入力方式であるレコンポーザ互換の数値入力に対応していたわけですが、今回はMIDIフレーズトラックというものがMIDIトラックの子トラックのような形で追加され、データ作成の効率を飛躍的に向上させているのです。
MIDIループにコードを振るだけでコード展開が可能なMIDIフレーズ機能
簡単にいえばMIDIのループ素材を置いて並べられるトラックなわけですが、ループ素材を並べたところに、「C、Dm、G…」のようにコードを設定すればコード展開させることができるのです。そして、そのループ素材自体たくさん用意されていますが、これ自体を自分で作成することが可能になっているため、自分の打ち込みによるデータ作成が効率よく行えるというわけなのです。
また、とりあえずループさせてコードを振ったはいいけれど、コードチェンジのところで、イマイチ気に入らない部分があるということは容易に想像できます。そんなときは、MIDIフレーズエディタを立ち上げれば、簡単にエディットできてしまうというのも大きなポイント。さらに、それをMIDIの親トラックにドロップすれば、通常のMIDIトラックに変換されますから、ステップエディタやスコアエディタ、ピアノロールなどで編集することも可能になるのです。
こうしたMIDI周りの独自機能、非常によくできているので、この辺の詳細についてはまた次回解説してみたいと思います。
ボーカルのタイミングやピッチを自在にエディットできるボーカルエディタ
一方、オーディオ系についてはボーカルエディタが搭載されたのが大きな進化点です。これもインターネット社独自で開発したものであり、ボーカルトラックやVOCALOIDが作った歌声のトラックなどを解析した上で、タイミングを変えたり、ピッチを変えたりといったことが自在にできるようになっています。さらに、このボーカルエディタとはまったく別に、ピッチコレクト専用のプラグインも搭載されたため、AutoTuneのようなリアルタイムなピッチ補正も可能になっています
リアルタイムにピッチ補正ができるPitch Correct
実はこうしたボーカルをエディットするエンジンを新たに開発したのに伴い、鼻歌入力機能もエンジン部分が強化され、より使いやすくなっているようです。
そのほかプラグインの音源も充実しています。これは主にSSW 10 Professionalのほうになるのですが、かなりの数が入っています。具体的にあげると、まずは以前記事でも紹介したサンプリング音源であるLinPlug CrX4を標準で搭載。また物理モデリングのサックス音源、LinPlug Saxlab2も新規に追加されました。
またユニークなところでは、ドラム音源であるLinPlug RMVをインターネット社が独自に強化した点も見逃せません。RMVといえば、やはりエレクトリックドラム、シンセドラムで著名な音源であり、多くの作品で使われていることが知られています。しかしRMV自体はアコースティックドラムでも十分に使えるシステムであるけれど、アコースティック系のライブラリが少ないということで、インターネット独自でアコースティックドラムを4キット分レコーディングして追加しているのです。こんなことしてしまう会社もあまりないですよね(笑)。
LinPlug RMVには独自に制作したアコースティック系のドラムキットを搭載
「都内でレコーディングを行ったのですが、知人にZildjanやYAMAHAのビンテージシンバルなどを山ほど持っているコレクターがいるので、彼にモノを借りてサンプリングしました。かなり使えるキットとなっているので、ぜひ使ってみてください」(村上社長)と、この辺にもこだわりを持って開発しているようです。
Native Instuemrnts KOMPLETE ELEMENTSも搭載している
さらに、Native InstuemrntsのKOMPLETE ELEMENTSの最新版を別パッケージではなく、標準で搭載するなど、とにかく機能満載。「これ1本あれば、すべてが賄える環境を作りたいと、製品開発するとともに、さまざまなVSTインストゥルメントを搭載しました。ぜひ、多くの方々に使っていただけたらと思います」(村上社長)というように、なかなか期待できそうなDAWがまもなく登場します。