著名なボカロPである、キャプテンミライ(@tanzi)さん。もともとバンド活動やアイドルへの楽曲提供を行ってきたプロのミュージシャンであり、また映像作家としても活躍してきたという、マルチな才能の持ち主。つい先日には、モデル・DJ・歌手としても知られる野本かりあさんとのユニット「エスエフ」を組んで、自身の持つレーベル、バイバイレコードから、「SingFuture」をリリースしたばかりです。
そのキャプミラさんに、先日、お話を伺い、どんなDTM環境で楽曲を作っているのかを聞いてみました。インタビューの中で、キャプミラさんの音楽制作の原点まで遡って聞いていくと、なんと小学校時代から宅録でオリジナル曲を作っていたというすごい話まで飛び出してきました。もちろん、今使っているDAWやソフトシンセなどの細かな話まで聞いてきたので紹介してみましょう。
DTM制作環境など、いろいろとお話を伺ったキャプテンミライさん
--キャプミラさんがDTMを始めたのは、いつごろなんですか?
キャプミラ:子供のころから音に興味がありました。DTMとは言わないかもしれませんが、一番最初は小学校5年生のときに、ダブルカセットデッキにマイクで音を入れて多重録音もどきをしたのがスタート。中学校のときに、TASCAMのPortaOneという4TRのMTRを手に入れてさらに本格的に作るようになっていきました。
昨日アップされたばかりのMV、新ユニット「エスエフ」の「プロペラソング」
--PortaOne、私も大学時代に使ってましたよ!
キャプミラ:小学校のころからオリジナルで曲を作り出したのですが、そのころからのテープはすべて、保存してありますよ。確か中学のときに、質屋に行って、そこにおいてあったYAMAHAの中古のアナログシンセ、CS15Dというのを買ったんです。何も知らずに買ったのですが、自宅に持ち帰って音を出したら、和音が出なくて驚きましたよ(笑)。その後、RolandのドラムマシンTR-626を買うなどして、いろいろ作りましたね。
YAMAHAのモノフォニックアナログシンセ、CS-15D
--そのまま、ずっと宅録一筋?
キャプミラ:いいえ、高校に入ってからバンドを始めたこともあり、多重録音からはちょっと離れてしまいました。大学でもやはりバンドだったので、宅録からはしばらく疎遠な感じでしたね。もっともバンド関係で大学時代にはAKAIのサンプラー、S-3000とRolandのMIDIシーケンサMC-50を買い、サンプラーをコントロールしたりはしていましたが、あくまでもバンド活動であって、宅録的なことはしていなかったですね。
--当時バンドのレコーディングはしなかったんですか?
キャプミラ:それはやってましたね。RolandのVS-880を買い、マルチマイクを立ててレコーディングしてましたよ。そういえば、VS-880はアナログテープとの同期などもできたので、そんな面白い使い方もしていましたね。その後も、DATに録音というようなことはありましたが、宅録に戻ってきたのは初音ミクの時代になってからですよ。私が最初にボーカロイドを買ったのは、2008年3月。翌4月には「幻想論」を初投稿しています。
キャプミラさんのボカロPとしての初投稿作品、「幻想論」
--なぜボーカロイドに?
キャプミラ:それまでやっていたバンドが解散してしまったので、これから何をしようかな…と思っていたんです。それまでやっていたのが、激しい音楽だったので、もっとポップソングを構築してみたかったんです。そのためにはDTMみたいなのが向いているんだろうと思っていたし、打ち込みをやってみたかったんです。そんなときに、初音ミクの存在を知って。ただ、最初に買ったのは鏡音リン・レンでした(笑)。
--どうしてリン・レン?
キャプミラ:いや、当時何も知らなくてね…。ちょうどリン・レンが出て間もないころで、ヨドバシカメラに行ったら、店頭でPUSHされていたのです。キャンペーンで値引きされていたため、初音ミクよりも安かった。しかも、リンとレンと2つ入っているというしね。そのころは、キャラなどもまったく分かっていなかったので、まあ、これでいいかっ、てね(笑)。
--そこからすぐに曲を作っているんですよね?当時は、どんな機材を使っていたのですか?
キャプミラ:正確に覚えていないのですが、当時、映像関係の事務所にいて、そこにいろいろなオーディオインターフェイスが転がっていたのです。そこで、それらを使い、バンドルソフトのCubase LEで苦労しながら作りました。何が大変だったかというと、このCubase LEってプラグインエフェクトが4つまでしか使えなかったのです。そのため、WAVで書き出して、また読み込んで使うなどかなり手間がかかりました。それでも、なんとか使っていたのですが、やはりもっといいDAWということで、Samplitudeを購入しました。
--Samplitudeとは、またちょっと珍しいですね。
キャプミラ:ひねくれ者なので(笑)。でもすごくいいDAWで、とにかく自由度が高いのがよかった。たとえばドラムフレーズを切り刻んで、スネアにフェイザーをかけたり、キックにコンプをかけたり……ということが、ワントラックでできてしまうんですよ。そもそも、オーディオトラックとかMIDIトラックなんて概念がなく、全部一緒でシームレス。ものすごくよかったですね?たとえば、「エンドレス」という曲はSamplitudeを駆使して作っていますよ。
--今もSamplitudeを中心に作っているわけですか?
キャプミラ:実は、1年ちょっと前にCubase 5に乗り換えました。実は趣味でアナログシンセを自分で電子工作して作っているのですが、そのシンセをMIDIで制御したかったのですが、Samplitudeだとどうにもうまくいかなかったんです。そこで試しに昔使っていたCubaseを引っ張り出して使ったらあっさり動いて……。そこでCubaseへの乗り換えを決意したんです。
ちょっとカオスなキャプミラさんのDTM制作現場、拡大表示すると色々な機材も見つかる!
--ええ??ちょっと待ってください。シンセを自作するんですか?しかもそれをMIDIでコントロールって、何をどうしているんですか?
キャプミラ:ネット上を探すといろいろ回路も出ていますし、基本的な回路って決まっていますから、それを自分で微調整するくらいですよ。内部のことはそんなに理解しているわけではないですが、回路図の読み方さえ分かれば作れますからね。同じくネット上で公開しているMIDI-CV変換機を作り、AVRマイコンを使ってプログラミングしていたのですが、それがSamplitudeと相性が悪くて……。
--ええ??マイコンのプログラミングまでしちゃうんですか?
キャプミラ:はい、プログラムはそれこそ小学校のころから……。マイコン少年だったのでね。当時はシャープのMZ-80Kとかを使っていました。だから、今でもその辺は得意ですよ。まあ雛形があれば、それを改造するくらいならすぐできますよ。
--キャプミラさん、マルチな人だとは思ってましたが、本当に何でもできちゃうんですね…。
キャプミラ:いやいや、私、スポーツ得意じゃないですし(笑)。
PreSonusのFirebox
--さて、現在のDTM環境を教えていただきたいのですが、今もそのCubase 5を使っているのですか?
キャプミラ:そうですね。オーディオインターフェイスはPreSonusのFireboxという4IN/4OUTのものを使ってます。これだけあれば、アウトボードなども接続できますしね。具体的には自作アナログシンセを使うのと、ギターなどの生モノを録るのにマイクプリを使うくらいですね。ただ、ソフトシンセも1回外に出して、マイクプリを噛ませて戻したりしますよ。まあ、最近はちょっと減ってますが、やはり生っぽくしたいときに、これが有効なんですよね。
フランスGForceのimpOSCar(画面は最新版のimpOSCar2です)
--ソフトシンセはどんなものを利用しているのですか?
キャプミラ:とにかくメインで使っているのはimpOSCarというフランスの音源。これは1983年に発売されたOxford Oscarという幻のMIDI装備アナログシンセを復元したもの。これがすごくよくてね、今回のアルバム「Sing Future」でも8割程度このimpOSCarを使っていますよ。そのほかに使うの主に3種類ですね。
リリースされたばかりのアルバム、「エスエフ」デビューミニアルバム「SingFuture」
--せっかくなので具体的に教えてもらえますか?
キャプミラ:あとは全部フリーウェアですよ。まずはアルペジエータ用に使うSynth1。impOSCar2が柔らかい音なので、固めな音にしたい場合TAL(Togu Audio Line)のElek7roというものを使ってます。またアルぺジエーター用にはSynth1ですね。そのほかGTGのNK1001というのを使います。これはベース用ですね。普通は自作のアナログシンセを使うんですが、それのハマリが悪いときにNK1001を使っています。
ベース音源として使用しているフリーのソフトシンセ、NK1001
--よく使うプリセット音色ってありますか?
キャプミラ:基本的に音色は1から作るので、プリセットを使うことはないですね。あ、生音が欲しいときは、Cubase付属のHALionOneを使ってますよ。これはプリセットで。ピアノとか、ビブラフォン、シロフォン……。それからデジタルっぽいベースもHALionOneを使うことがります。
--最後にボーカル録音について伺いたいのですが…。
キャプミラ:ボーカルも先ほどのFireboxとマイクプリを使って録音していますが、場所的には練習スタジオを借りていますね。練習スタジオなら安いじゃないですか。普段はデスクトップPCを使っていますが、このときだけはノートPCに入れてスタジオに持ち込んでいます。「Sing Future」も練習スタジオで録ってますよ(笑)
--普段なかなか聞けない面白い話をいろいろとありがとうございました。
【関連リンク】
バイバイレコード
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TAL-Elek7ro
Software Synthesizer Synth1
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