ビンテージ機材のドラムマシンといえば、やはりRolandのTR-808やTR-909が有名ですよね。でも私個人的には、TR-707というのに思い入れがあるんです。なぜなら、大学1年生だった1985年に初めて買った機材だったからです。
ただTR-808/909と違い、TR-707は世の中的にほとんど注目されていない機材で、なんとなく寂しい思いでいたのです。が、この1月25日にTR-707を復刻させたiPad/iPhone用のアプリが登場していましたので、ちょっと紹介してみたいと思います。
TR-707を復刻させたmR-7070
復刻したのはアメリカのmalcolm deasという会社で、「mobileRhythm mR-7070」という500円のアプリです。iPad/iPhoneそれぞれで使えるユニバーサルアプリとなっています。TR-707という表記こそありませんが、パッ見のデザイン、構成はTR-707ソックリですね。
実はつい先日、実家から現物のTR-707を持ってきたところだったので、箱から取り出してみました。よく見ると、ボタンの配置や数などにも違いはありますが、iPadの画面にキレイに収まるようにうまくまとめたな、という印象です。
実家から持ち帰ったTR-707。汚れているだけでなく……
が、そのホンモノのTR-707の電源を二十数年ぶりに入れてみたら……動かない。というか、電源が入らない。デジタルモノは壊れない、と勝手に信じていたので、ちょっとショックでしたが、やっぱりそういうもんですかね……。
このTR-707、私の認識が正しければ、Rolandが出した最初のPCMドラムマシン。TR-808などはアナログ音源だったので、当時の私は、「TR-707こそ本命のドラムマシンだ」と思って買ったのです。まだPCM音源自体が非常に珍しい時代であり、E-MUのEmulatorIIやYMOが使っていたLMD-649に憧れていたころ。
【追記】
※何人かの方から指摘をいただきましたが、正しくはTR-707はRolandが出した最初のフルPCMのドラムマシン。前出のTR-909がシンバルやハイハットなど金属系の音をPCMで入れています。
結局はその後、PCM音源があふれ出すとともに、音質性能も飛躍的に向上していったため、初期のPCM音源であったTR-707は相手にもされなくなり、もう消える技術だと思っていたアナログ音源がその後、ビンテージモノとして珍重されるようになっていったわけですが……。
iPhone上で動かしてもまった同じ画面
さて、このmR-7070の音を聴くと確かにTR-707ソックリです。ただ、肝心のマシンが動かなかったので、実際に比較しているわけではないのですが、感覚的にはTR-707の音をサンプリングしたか、それとよく似た音を使っているように思います。
操作性もソックリで、画面上部にある黒い液晶の点が表示されるマトリックス画面で打ち込んでいくことができます。この使い勝手のよさでもTR-707はTR-808と比較して格段にいい、と当時思ったんですけどね…。
ただmR-7070はTR-707のすべてを復元しているというわけではありません。そうTR-707はリアルタイムに手で叩いて演奏できるマシンでしたが、そうしたことはできません。また手で叩いたものをそのままリアルタイムレコーディングできるといった機能もありましたが、そうした機能もないようです。
基本的にはステップタイムでパターンを打ち込み、それを演奏するというのがmR-7070でできること。まあ、それがTR-707のメイン機能であったので、それで十分なわけですが…。記録できるパターンはA~Dのグループでそれぞれ16あるので、16×4=64パターン。その切り替えは演奏しながら手動で行う形になっています(オリジナルのTR-707では、演奏する順番を組み立てることができた)。
上のマトリックス画面を見ながらパターンを入力する
と、まあ制約はあるものの、基本的なリズムマシンとしては今見てもよくできていると思います。これを使えば、本当に簡単にリズムパターンを組むことができますから。また各リズム音のレベルをフェーダーで自在に調整できるのも魅力ですよね。TR-707の場合は、2chにミックスしたマスター出力があるほか、それぞれをパラで出力する端子も用意されていたので、スネアだけにゲート/リバーブをかけて……なんてこともできたのですが、mR-7070の場合、さすがにそこまではできませんね。
なお、mR-7070はCoreMIDI、CoreAudioにも対応しています。細かく検証したわけではないのですが、打ち込んだ内容でMIDI出力できるほか、MIDIクロックの同期信号も出力可能です。mR-7070の紹介ページを見るとMIDI入力にも対応とありましたが、どうすれば使えるのかはよく分かりませんでした。
TR-707とiPad、iPhoneをいっしょに並べてみた
大学に入ってすぐに買ったのがこのTR-707とRolandのJUNO-106、そしてTASCAMのPortaOneの3つでした。JUNO-106はすでにいろいろとソフトで復刻されているほか、PortaOneは以前の記事でも紹介したとおり、iPadアプリとしてTASCAM自らが復刻しています。リアル機材はどうしても時間の経過とともに壊れてしまいますが、このようにアプリで復活してくれるというのは、やはりうれしい限りですね。
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