前回の記事で紹介した、ゲーム機風な小型DTM機材、KDJ-ONE。コンパクトながらMIDI機能、ソフトシンセ機能、ループシーケンス機能、エフェクト機能などを備えた強力なDAWとなっています。まだ開発の過程にあり、発売予定の8月までには、さらに機能もデザインも操作性も強化されるというからとっても楽しみ。
今回は、KDJ-ONEの記事の第2弾として、開発者であるサイバーステップ株式会社の取締役でシニアプロデューサーの大和田豊さんへのインタビューを掲載したいと思います。このサイバーステップ株式会社は、東京証券取引所マザーズに上場するオンラインゲームの会社。まだ33歳と若い役員の大和田さん、実は大和田さんを含む役員の3人は高専の同級生で22歳のときにいっしょに作った会社なのだとか。そして大和田さん自身、現在でもバリバリのエンジニアなのです。どうしてゲームメーカーが、このようなユニークな機材を開発することになったのか、その狙いがどこにあるかなどを伺ってみました。
--サイバーステップは楽器メーカーでなければ、ハードウェアメーカーでもなく、オンラインゲームの会社とのことですが、何でこんな機材を開発することになったのですか?
大和田(敬称略):KDJ-ONE自体、僕が企画して、開発もすべてしているんです。もともと個人的な趣味としてシンセが大好きで20年近くやっていました。一番最初に買ったのはYAMAHAのQY300、これにはかなりハマりました。Alesisの音源をか海外のシンセを買ったり、KORGのELECTRIBEやRolandのMC-808を買ったり……、いろいろと楽しんできました。そんな中、趣味の延長線上で、1年ちょっと前にソフトシンセを作ってみたところ、そこそこいいものができたのです。
KDJ-ONEのソフトウェアは大和田さんが一人で開発している
--それは、オンラインソフトなどで公開していたりするのですか?
大和田:いいえ、とくに商品化したり公開はしていませんが、うちの会社のゲームのBGM作成などには使いました。そんな経験があったので、シンセを商品化できないものか……とは思っていました。その一方で、ハードウェアも作りたいなと考えていたんです。
--ハードウェアというのは、ゲームの?会社としてみんなでそうした方向を目指していたわけですか?
大和田:いえ、あくまでも個人的な思いですけどね。ただ、ゲームマシンを作ってもやはり、どのようにしてソフトを揃えていくかなど、難しい問題がいっぱいあります。でも、もしこうしたハードにシンセを組み込んで販売するとなれば、ソフトハウスをいっぱい巻き込むといったことも必要なくなるので、行けるんじゃないか、と。
--大和田さんは、ハードウェアの開発もするのですか?
大和田:いいえ、ハードは全然分かりません(笑)。ハードに強い知人などを通じて、昨年3月ごろから、いくつかの開発会社に当たってみました。その中で、Flatoakという会社がベースになりそうな機材を作っていて、これならお願いできそうだということで8月にプロジェクトが動きだしたのです。
--そのハードウェアについて、具体的に教えてもらえますか?
大和田:最初はARMプロセッサをベースにいろいろ当たっていたのですが、IntelのATOMが使えるという話を聞いて、それがいいなということになりました。やはり最新チップでもARMは遅く、ATOMのほうが断然速い。
--Flatoakという会社は楽器やゲームなどに強い会社なんですか?
大和田:だいぶジャンルの違う会社ですね。まさに組み込み系のシステムをハードから作っているデバイス開発会社ですね。比較的新しい会社ですが、開発の方々はみんなベテラン。OSはMeeGoがいいよ、と進められて、これを採用することにしたのです。MeeGoはAndroidと同様携帯機器用のOSで、Intel、Nokiaが共同で開発したOSですね。
--MeeGoって全然知らなかったのですが、実績があるOSなんですか?
大和田:まだ世の中には1製品しか出ていないと思います。またネットブック用、ハンドセット用、車載用など複数のエディションがあり、KDJ-ONEではハンドセット用を入れたいのですが、先日NAMMでプロトタイプを展示するときには、まだハンドセット用がなかったので、仕方なくカーナビなどで使う車載用のOSを採用しました。だから、製品化する際には、ハンドセット用を使うために、だいぶ使い勝手はよくなると思います。
--ということは、このKDJ-ONE自体はDAW専用機ではなく、実は汎用的な機材ということなんですか?
大和田:そのとおりです。電源を入れれば自動的にDAWが起動するようにはなっていますが、ほかのアプリケーションも使うことは可能です。実際、FireFoxなども動きますしね。その汎用的機材にキーボード的なボタンやスイッチなどを搭載したわけです。また搭載デバイスもまだまだ変更する予定です。現在タッチパネルも抵抗膜タイプのものなので、使い勝手が悪いため静電容量型に切り替えます。またフェーダー的に使えるものをサイドに設置するなど、デザイン的にもブラッシュアップする予定です。
--KDJ-ONE、かなりいろいろな機能が搭載されていますが、システム容量的にはどのくらいなのですか?
大和田:本体には4GBのSSDを搭載していますが、OSとDAWなどを含めて1GB分をシステムエリアとして使います。つまり3GBが空きエリアとなっているので、結構なデータを保存できるほか、MicroSD/SDHCにも保存できるので、容量的な心配はないと思います。
--見た感じ、かなり完成度も高いと思うのですが、発売となる8月までどんな機能を追加していくのでしょうか?
大和田:いろいろですよ。たとえばエフェクトはフィルター、リバーブ、ディレイ、コーラス、フランジャー、イコライザ、ディストーション、コンプレッサ、Lo-Fi、フェイザー、オートパン、ピッチシフタ、オートワウなど搭載しましたが、あらにハードドライブ、ゲートリバーブ、グレインシフターなども追加していきたいと思っています。ほかにもできていないところはいくつもあるので……。
--サンプリング機能はあるようですが、ぜひ単なるオーディオのレコーディング機能も搭載してください。そうすることで、用途も広がると思いますし。
大和田:ありがとうございます。検討してみます。
このように開発が進んでいるKDJ-ONEですが、次は3月にサンフランシスコで行われる展示会に向けて、もう一段階進んだバージョンへと仕上げる準備が行われているようです。現在のプロトタイプでも十分魅力を感じますが、今後のさらなる進化にますます期待したいところです。