ひと昔前はPCIバス接続の内蔵型オーディオインターフェイスはいろいろとありましたが、USB接続が圧倒的になった今、内蔵型オーディオインターフェイスの選択肢は少なくなってしまいました。もちろんSound Blasterなど、コンシューマ用製品はいくつかありますが、しっかりレコーディングができ、業務用の音質に耐えうるオーディオインターフェイスがあまりないのが実情です。そうした中、RMEからリリースされたのがPCI Expressバスに接続する30チャンネル192kHz対応のオーディオインターフェイス、HDSPe AIO Proです。
RMEは先日、USBオーディオインターフェイスのFireface UCX IIを発表し、大きな話題となっていますが、こちらHDSe AIO Proもかなりの実力を持つオーディオインターフェイスであり、Fireface UCX IIと同様、SteadyClock FSを搭載するモデルです。実売価格99,000円(税込み)であるため、実はSteadyClock FS搭載機材の中では、もっとも安価な製品でもあるのです。しかも実験してみたところ、レイテンシーの面では超低遅延で、他社製品を圧倒し、手元にあるFireface UCX(現行モデル)よりも小さい値となっていました。PCI Express接続であるため、ノートPCやiMac、Mac mini、NUCなどでは使用できず、あくまでもデスクトップマシンでの利用が前提となる機材ですが、デスクトップPCユーザーにとってはメリットが大きい機材なので、実際どんなものなのか紹介してみましょう。
RMEのPCI Express接続の内蔵型オーディオインターフェイス、HDSPe AIO Pro
内蔵型オーディオインターフェイスにあまり馴染みのない方も多いと思うので、先に簡単に説明しておくと、これはパソコンの内蔵スロットに挿す形で使うカードタイプ(基板タイプ)のオーディオインターフェイスです。そのため、タワー型やミニタワー型、キューブ型などのデスクトップタイプのパソコンにのみ接続できるもので、ノートPCや小型PCで使えるものではありません。
パソコンに中に内蔵してしまうため、場所を取らないのが最大のメリットであり、とかく邪魔になりがちなオーディオインターフェイスを、とてもスッキリと収納することができるのです。またUSB接続のオーディオインターフェイスと違い、USBケーブルが抜けて使えなくなるとか、ACアダプタが外れて動かなくなる……といったリスクを避けられるのも大きなポイントです。
デスクトップというと、自宅設置用というイメージが強いですが、業務用で使っている人も少なくありません。頑丈なタワーマシンを配信現場に持ち込んで、ここからOBSを使ってネット配信を行うとか、スタジオに持ち込んでレコーディングに利用する……といったケースを時々見かけますが、この際、USB接続のオーディオインターフェイスを使うより、PCに内蔵したオーディオインターフェイスであれば、持ち運びもしやすいし、何より現場での配線が楽になります。
ただし、PCに内蔵するためにPCケースを開き、空きスロットにオーディオインターフェイスを挿し、ネジ留めする必要があるため、USB接続と比較すると、多少面倒な面はあります。中にはそういう作業は絶対嫌い、苦手……という人もいるので、万人にお勧めするものではありませんが、デスクトップマシンを使っている人であれば、検討してみる価値は多いにあると思います。PCI Expressのx16のスロット(奥)とx4のスロット(手前)
ちなみに、内蔵スロットの拡張バス規格は時代とともに、ISA、PCI、PCI Expressなどと進化してきました。ここ15年以上はPCI Express(PCIeとかPCI-Eと表記する場合もある)が主流となっているので、現在の内蔵スロットの規格としてはPCI Expressであると考えて間違いないと思います。正確にはGen1、Gen2……と世代が進化し、2021年にはGen6が登場と言われていますが、基本的な互換性は維持しているので、あまり細かなことは気にしなくても大丈夫です。
ここではx4スロットにx1のHDSPe AIO Proを接続する
また、一番短いバスのx1と、それより長いx4、x8さらにもっと長いバスのx16という規格がありますが、x4やx16のスロットにx1のカードを挿すことが可能になっているので、今回取り上げるHDSPe AIO Proのようなx1のものであれば、どのパソコンにでも取り付けることが可能です。
PCI Expressのスロットに挿すと、PC内にピッタリと収まる
と、前置きが長くなってしまいましたが、改めて、このHDSPe AIO ProはPCI Expressのx1のスロットに接続できるオーディオインターフェイスで、
ADAT入出力 x 1
SPDIF入出力 x 1
AES/EBU入出力 x 1
ヘッドフォン出力 x 1
MIDI入出力 x 1
を備えた機材となっています。
PCに取り付けると、リアパネルに見えるのは、オプティカルの入出力とD-SUB端子アナログ、デジタルさまざまな入出力が可能となり、最大14IN/16OUTのオーディオ入出力と1系統のMIDI IN/OUTが可能になります。
2つのD-SUB端子に付属のブレイクアウトケーブルを接続することで、アナログ/デジタル各端子とつなげることができる
たとえばFireface UCXなどのオーディオインターフェイスと大きく異なるのは、マイクプリアンプを搭載していないという点。そのためマイクを使ってのレコーディングの場合は、ADAT接続のマイクプリアンプを用意するなどの必要がありますが、外部機器との接続用としては必要十分な機能が備わっているわけです。
RMEのオーディオインターフェイスは、高音質で好評ですが、ここ数年話題になっているのは、SteadyClock FSという高精度なクロック。ジッター値をフェムト秒(1000兆分の1秒)単位の精度で抑制させることができるという超精密なクロックは、レコーディング/DTMの世界はもちろん、オーディオの世界でも高い評価であり、これを目的に機種を買い替えるというユーザーも増えているようですが、SteadyClock FS搭載機はどれも結構なお値段であるのがネック。そうした中、HDSPe AIO PcoはSteadyClock FSを搭載したRMEオーディオインターフェイスの中で一番安く入手できる機材。そうした点からもお勧めできる機材です。
フェムト秒オーダーでジッターを抑制できるSteadyClock FSを搭載
そして、もう一つ重要なポイントがレイテンシーです。オーディオインターフェイス性能においてレイテンシーの小ささを最重要視する人も多いと思います。とくに、レコーディングでのモニター環境であったり、SYNCROOMのようなネットセッションをする上での遅延をできる限り縮めたい人にとってレイテンシーは切実な問題。そうした中、このHDSPe AIO Proは極めて小さいレイテンシーを実現しているのです。
海外サイトのgearspace.com内の「Audio Interface – Low Latency Performance Data Base」では、レイテンシーの小さいオーディオインターフェイス・ベスト20を挙げており、その中でのNo.1としてHDSPe AIO Proを取り上げているのです。
実際、どれだけのものなのか、私も44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzのそれぞれのサンプリングレートで最もバッファサイズを小さくした状態で測定した結果が以下のものです。
44.1kHzでの測定結果は2.52msec48kHzでの測定結果は2.31msec96kHzでの測定結果は2.16msec192kHzでの測定結果は1.76msec
これを見てもわかる通り、44.1kHzの場合で、2.52msec、192kHzともなると1.76msecと極めて小さい値を実現しているのです。これまで私がテストしてきた結果でいうと、歴代2位(1位はZOOMのUAC-2)に相当すると思いますが、Fireface UCXやFireface UFX+などよりも小さい値を実現するのは驚きです。
なお、WindowsでもMacでも、PCに内蔵し、ドライバを入れてからは、Firefaceシリーズなどと使い勝手は同じ。つまり、TotalMix FXを使い、入出力のレベルやバランス調整など、すべてここからコントロール可能になっています。RME製品に慣れていない人だと、最初少し戸惑う面もあるとは思いますが、ユーザーが多いRME製品だけに、ネット上には使い方の情報などいくらでもあるので、マニュアルとともに、そうした情報を参考にすれば、すぐに理解できると思います。
HDSPe AIO ProをコントロールするTotalMix FXのマトリックス画面
以上、内蔵型オーディオインターフェイスであるRMEのHDSPe AIO Proを紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?正直なところ、現時点において競合製品がほとんどないので、高品位な内蔵インターフェイスであれば、これ一択という感じではありますが、内蔵スロットがあるデスクトップPCを使っている方なら、検討してみるべき製品だと思います。
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