音楽制作においてAIを活用するツールが次々と登場していますが、また新たにAIが自動作曲を行い、作曲の支援をしてくれるという、非常に実用的で画期的なWebサービス、Amadeus Codeが月額500円(税込価格で、1か月70回分のダウンロードが可能)で7月1日よりサービススタートしました。これは2年前にiPhone用アプリとして登場した作曲ツール、Amadeus Codeをさらに進化させ、作曲における実務で活用できるようにしたもので、日本のベンチャー企業、Amadeus Codeが開発・運営しているものです。
AI作曲といっても、人間の作曲家に取って代わろうというものではなく、作曲のアイディアを作ったり、そのアイディアのステレオデータやループ素材、ワンショットを抜き出して素材としても自由に使えるサービス。これを活用することで作曲家は曲作りのヒントを得ることができるし、初めて作曲にチャレンジする人でもハードルが低くなり、より楽しく曲作りを実現できるようにしてくれるものなのです。このAmadeus Codeはどんなもので、どういく仕組みで自動作曲をおこなっているのか。そして作曲家にとって、またDTMユーザーにとってどんなメリットをもたらしてくれるものなのか。Amadeus Codeの代表取締役であり、実は数多くのヒット曲を手掛けてきた音楽プロデューサーでもある井上純(@juninoue_)さんにお話しを伺うことができたので、インタビューも交えつつ、紹介してみましょう。
AI自動作曲機能でクリエイターを支援してくれるサービス、Amadeus Codeが7月1日からスタートした
AI歌声合成に、AI音楽データ解析、AIミックスにAIマスタリング……と音楽制作においてさまざまな角度からAIを活用する事例が増えてきていますが、その中で本命ともいえるのがAI作曲でしょう。でもAI自動作曲…というと、すぐに「人間を脅かす…」といった反応をする人も多そうですが、このAmadeus CodeはAIが作曲の支援をしてくれるというツール。
作曲のすべてを行うのではなく、AIが作ったメロディーから人間がモチーフを得たり、一部を部品として使ったり、またAIが作った楽曲のステレオデータやMIDIデータ、ループ素材、ワンショットを自由に使うことのできるというものなので、ある意味、自分にマッチした素材集サイトのような位置づけともいえます。これまで素材集サイトというと、Splice Soundsなど海外のサービスがほとんどでしたが、Amadeus Codeは日本のサービスだから、日本語環境で欲しい音源を見つけやすいというのも大きなメリットとなっています。
このAmadeus Codeでは、いくつかの条件を与えると、自動作曲された楽曲を見つけ出すことができます。たとえば、あるアーティストが「ミドルテンポのバラードを作りたい」と指定した結果、良さそうな感じなものがあったとしましょう。具体的には以下のようなものです。
聴いてみると分かる通り、MIDIで作られたアイディアであって、このまま完成というものではありません。でも、良さそうなイメージなので、このバックトラックとメロディーをAmadus Codeサイトからダウンロードするのです。このバックトラックをDAWに取り込んだ上で、自分が演奏したアコースティックギターをオーバーダビング。さらにメロディーをシンガーに歌ってもらってデモ曲として完成させた例が以下のものです。
確かにモチーフはAmadeus Codeから持ってきていますが、完全にクリエイターの作品として昇華していますよね。気になるのはAmadeus Codeで作った曲の権利が誰に帰属するのかですが、これはすべてユーザーに帰属するので、自由に使ってOKとのこと。1か月500円というサブスクリプション型のサービスとなっており、この価格で月に70クレジット(1ダウンロード=1クレジット)あるので、70回までのダウンロードが可能となっているのです(必要に応じてクレジットの追加も可能)。
Amadeus Code上には、AI作曲された楽曲データが膨大な数あるので、いろいろとチェックし、試聴した上で、気に入ったもの、気になるものを70回までダウンロードできるというのですから、かなりの使いでがありそう。しかも、70クレジットを使いきれなかったら翌月へのクレジットの繰り越しもあるとのことですから、その点でも安心ですね。
ところで、読者の方の中には「すでに、以前からiPhone版のAmadeus Codeは使っているよ!」という人も少なくないと思います。SNS上などでも大きな話題になったアプリであり、まさにその場で自動作曲を行ってくれるというシステム。私も以前ちょっと試してみて、これは面白い!と感じましたが、海外のアプリだとばかり思っていました。
2年前にリリースされたiOSアプリ版のAmadeus Code
それが、日本の会社が作ったアプリであり、しかも自分の知っている方が開発したものだとはまったく考えもしませんでした。そう、Amadeus Codeの井上さんは、以前「自宅に1500万円のモニタースピーカー!? 音楽プロデューサーがPMCを必要とする理由」という記事でも取材させていただいた著名なプロデューサー。以前はジャニーズ事務所で嵐やKAT-TUNなどのアイドル・グループの音楽制作に携わってこられ、独立後はSilky Voice名義で数多くのアーティストの制作を手掛けたり、SPIN名義で作詞家としても活動してこられた方なんです。5年前に記事にした際は株式会社Tokyo Tunesという会社でしたが、これが株式会社Amadeus Codeに社名変更していたとのことで、ビックリでした。
その井上さんに、このAmadeus Codeについて、いろいろ伺ってみたので、以下に紹介していきましょう。
Amadeus Codeの開発者、井上純さんインタビュー
--iOS版のAmadeus Code、大ヒットアプリでしたが、海外のソフトとばかり思っていました。改めて、このアプリAmadeus Codeとはどんなものなのったのか、教えてください。
井上:2年前にiOSアプリとして出したAmadeus Codeは、AIを使った自動作曲アプリで、ユーザーはアプリを立ち上げたらすぐにAIが作曲した楽曲を試聴することができ、気に入った楽曲があれば、オーディオやMIDIで保存することができる、というものです。ここをアイディアのスタートとして、作曲を行うことができます。中身的にはコード、メロディ、ベース、ドラムの4つに分かれており、これらを書き出すことが可能です。
Amadeus Codeを開発した、Amadeus Code代表取締役社長の井上純さん
--もともと何かの楽曲を学習し、それを元に自動作曲しているということなんですよね?
井上:はい、Amadeus Codeの根本の学習データは、売れた曲をいい曲と定義し、過去60年間を遡って各年ごとにグローバルヒットチャートの上位10曲を学習させています。また、クラシックやジャズの時代のヒット曲なども学習させ、合計1000~1200曲を基礎のデータとしています。
--井上さんは、どうしてAmadeus Codeを開発しようと考えたのですか?
井上:一番最初の時点では、仲間の作曲家が使うためのツールとして開発をしていました。というのも、僕がプロデューサーをしていたとき、作曲家さんが、アイディアを生む苦しみに悩んでいるのを目の当たりしていたからです。なので、なにか閃きのきっかけになるツールがあればいいなと思っていたので、もともとプロの作曲家用ツールとして開発を始めたのです。
--この開発そのものに、音楽プロデューサーである井上さんが携わっているのですか?
井上:コンピュータやプログラミングの世界は子供のころから大好きなんですよ。それこそ、最初に触ったのは小学校2年生のときに買ってもらったNECのPC-6001。PLAY文を使って”C4D4F8……”なんて入力し、3和音を鳴らせてみたりしてました。その後PC-8801を手に入れて、BASICでプログラムを組んでみたりしていました。中学校2年生のときにRolandのミュージ郎が出たので、DTMはそこからですね。そうしたことがベースにあるので、ロジックを考えたりするのも好きなんです。実際、このモデルについては僕と、当社の北川暁と、二人で考えて作っています。
--Amadeus Codeは、どういう仕組みで動いているのですか?
井上:そもそもAIに学習させる方法として、オーディオデータそのものを読み込む手法と文字列にして読み込む手法がありますが、Amadeus Codeでは後者を採用しています。音楽的なものを作るのであれば、音楽を数字とアルファベットで表した文字列を学習させたほうが圧倒的に速いし、構造的なものがつくれるじゃないですか。この文字列にする際、人間が楽曲をデフォルメして置き換えるため、著作権的に見ても、この時点で新作となり、著作権侵害してしまう問題も解消されます。また、この楽曲を文字にする工程は、4割人間作業し、6割はコンピュータが自動で行っています。文字に置き換えているパラメータは、音の長さ、高さです。また、一番重要なところとして、Lickと呼んでいるメロディの断片が存在しています。
Lickを組み合わせて楽曲を自動作曲していく概念図
--音楽を文字列にって、まさにPLAY文のMMLみたいじゃないですか!子供のころの世界に戻ってくるようですね。そのLickについてももう少し詳しく教えてください。
井上:Lickは音楽的に意味のあるフレーズで短い単位です。たとえば、「ドレミファ」というメロディがあったとします。これを「ドレ」と「ミファ」というLickに切り分けます。また「ドレ」や「ミファ」は前後のメロディとのベクトル値を持たせているので、「ドレ」に続いて「ミファ」ときた情報を覚えています。なので、「ドレ」のLickは、「ミファ」と進む可能性を持っていることになります。さらにこれをAメロ、Bメロ、サビ……といったセクションごとにも分けて、それぞれでベクトル値を持っているからベクトル的に見ると5次元になっているんです。
音楽を文字列に置き換えるとともに、フレーズごとに区切っていったデータ、Lickの中身
--すごいですね!先ほど、基礎データは1000~1200曲とおっしゃっていましたが、Lick単位で考えるともっと多くなるということですよね。
井上:Lickの状態の基礎データは、3万個ありました。その後、現在は600万個まで増えています。というのも、その後2年間で、新たな曲データを入力したというのもありますが、Amadeus Codeを使ったユーザーが気に入ってダウンロードしたデータはいい曲であるとの判断のもと、それを新しLickとして登録しているのです。これはすべて自動で行われているので、現在登録されているLickのうち99.5%は機械が作ったLickである、という状態になっているのです。
--そのLickをつなぎ合わせて作曲する工程は、クラウド上で行っているのですか?
井上:全部クライアント側、つまりiPhone上で行っています。アプリを起動するとサーバーから約10万個のLickが降ってくるので、これを並べ替える形で生成しているのです。次に起動する際は別の10万個が降ってくるため、同じジャンルの同じ指定をしても、違う曲になるというわけなのです。
--Lick自体は、ある意味、MIDIデータのようなものだと思いますが、最終的には音として再生されていますよね。この音への変換はどのようにしているのですか?
井上:はい、まさにMIDIデータとして曲ができるので、iOS版アプリにおいては、これをbismarkさん開発のMIDI音源であるbs-16iのエンジンを使って音が鳴る仕組みになっています。よりリッチなサウンドに仕立てるには、この音源部分を強化していくことで可能になるのですが、Amadeus Codeは作曲家向けのツールであり、ダウンロードしたMIDIデータをユーザー自身が自分の音源を使って仕上げていくことを前提としていたので、とりあえず再生できればいいといことで、簡易的にしていたのです。ところが、YouTuberの方や動画制作している方などから、BGM用として即使える音楽が欲しいという意見をいただくようになりました。そこで、そうした方たち向けにスタートさせたのが、2020年4月にリリースしたのがWeb上のサービスであるEvoke Musicです。
--動画制作者向けの著作権フリーの音楽提供サービス…という感じでしょうか?
井上:Evoke Musicは、ブラウザ上で使うサービスで、Amadeus Codeを使って出力したMIDIデータに人間が手を加えて楽曲を制作しています。ストックミュージックと呼ばれる種類のサービスとなっており、ユーザーは著作権フリーな楽曲をライセンスで使える形になっています。たとえば、こんな感じの曲が生成されるのです。
即、動画用BGMなどに利用可能なAI作曲された楽曲を入手できるサービス、Evoke Music
世界中で多くの方に利用いただいているのですが、単にBGMとして動画に使うだけじゃなく、ここにある音楽を使ってラップなどを乗せて自分の曲を作って売っていいのか……、といった問い合わせが数多く来るようになりました。当然といえば当然ですよね。そこで、そうしたニーズにも応えられるように、音楽クリエーター向けに作ったのが、今回のWeb版のAmadeus Codeなのです。
--かなりのクォリティーのものになりそうですね。でも、そうだとすると新サービスのWeb版Amadeus Codeは、iOS版のAmadeus Codeとは別モノということなんですか?
井上:Evoke Musicの音楽版ともいえるのがWeb版Amadeus Codeです。Amadeus Codeはもともとミュージシャン、クリエイターを支援するものを作るのが目的だったので、本来の目的に戻る形になりました。両サイトの見た目は似ているのですが、Web版Amadeus Codeの大きな特徴は、完成している楽曲を分解したステム素材、ループ、ワンショット、MIDIデータ……などをダウンロードできる点です。ここから、自分の楽曲を自由に作っていただくことができ、著作権もユーザーにあります。もちろんここの楽曲の元はAmadeus Codeが出力した楽曲となっています。素材集サイトのように利用いただくのもいいかと思います。
さまざまなジャンルに対応しているのもAmadeus Codeの強み
--そうなると、AI自動作曲システムであるAmadeus Code、実はSpliceあたりが競合になったりするということなのですか?
井上:結果的にはそうしたところと競合することになるのかもしれません。もっとも、素材集サイトのほとんどは海外のサービス。それに対し、Amadeus Codeも英語で海外向けに展開する一方、もちろん国内向けに日本語で使えるようにしており、日本のユーザーのみなさんには検索などしやすいと思います。それよりも大きなポイントは、単に素材を探すというのではなく、出来上がった曲のイメージから素材を探し出せるという点です。
--いいサービスですね。ただiOS版Amadeus Codeを使ってきた人からすると、名前が混同しそうですが…
井上:おそらく、世の中の方々のニーズを考えれば、今後、Web版Amadeus Codeを「Amadeus Code」と認知していただけるようになるだろうと思っています。将来的にはiOS版Amadeus Codeは、Web版Amadeus Codeへ統合する予定ですので、この先はWeb版Amadeus CodeとEvoke Musicの2本立てになります。といっても、現在のiOS版Amadeus Codeを愛用していただいている方も多いので、すぐにサービスを止めるわけではないので、ご安心ください。
Amadeus Codeはある意味Evoke Musicの音楽クリエイター版ともいえる
--最後にAmadeus Codeをどんな人に使ってもらいたいと考えていますか?
井上:我々としては、誰でも作曲ができる世界を目指しています。自分の楽曲ができたという喜びを多くの人に感じてほしく、それを支援できれば嬉しいです。できれば、作曲未経験の人でも、ミュージシャンでなくても、楽曲を作れるようになるところまで行きたいですね。長年続いてきた音楽業界のビジネスモデルに限界が来ていると感じているので、音楽を作っている人にしっかりお金が回る枠組みを作っていきたい、というのが我々の一番の思いでもあります。いい音楽を作って暮らしているクリエイターと一緒に過ごしたいと思っているので、そういうプラットフォームを作り上げていきます。
--ありがとうございました。
【関連情報】
Amadeus Codeサイト