レコーディングエンジニアの飛澤正人さんが、立体音響技術”8Way Reflection”を開発。事業化にあたりエンジェル投資家を募集中

Dragon AshやHY、GACKTなどを手掛けるレコーディングエンジニアであり、DTMステーションのサービスの一つ、DTMステーションEngineeringも担当していただいている飛澤正人@flash_link)さんが、立体音響の研究をしていることは、これまでも何度か紹介してきました。その立体音響技術の研究が功を奏し、ヘッドホンで音を立体的に聴かせる技術”8Way Reflection”を開発し、先日、特許も取得されました。レコーディングエンジニアが技術を突き詰めると特許取得まで行っちゃうのか!と驚いたり、感激したりしていたのですが、その次のステップとして、面白い動きがあるという話を伺いました。

この”8Way Reflection”を用いた事業展開をするため、昨年3月、飛澤さんはnext Sound株式会社を設立していたのですが、実際に業務で使えるシステムとして開発するとともに、それを運用していくための資金調達のため、この会社の株主を募集するクラウドファンディングを実施するというのです。1口=100,000円なのですが、クラウドファンディングでは1口、3口、5口の3コースを用意し、6月19日 10:00~6月21日 23:59までの3日の短期決戦でエンジェル投資家を募集するとのこと。つまり10万円コース、30万円コース、50万コースとなっており、誰でもポンと気軽に投資……というわけにはいかないのですが、社会的にも大きな意義がありそうな、投資案件のようにも思いました。実際、どんなことを狙っているのか、飛澤さんに伺ってみたので、紹介してみましょう。
※一人がひとつの企業に投資できる金額は年50万円以下と決められています

レコーディングエンジニアの飛澤正人さんが、エンジェル投資家募集のクラウドファンディングを6月19日開始する

--特許出願する…という話は以前伺っていましたが、本当に取得できてしまったんですね。ご存知ない方が大半だと思うので、改めて「8Way Reflection」とは何なのか教えてください。
飛澤:映像は4Kから8Kへ目覚ましい進化を遂げていく中、音は“モノラル”から“ステレオ”に進化して以降、半世紀もの間進化が止まっていますよね。その間、アナログからデジタルへの大きな技術革新、またサラウンドやハイレゾなどが生まれましたけど、近年は圧縮されたストリーミング・プラットホームが台頭してますから、CDよりも“劣化した”音源が音楽再生の主流になってしまっています。

そんな中で2016年、映像の世界では『VR元年』と呼ばれ、バーチャル・リアリティや360度カメラなども登場して、一般的にも大きな話題となりました。その時「音も360度に広げなければならない」「音も進化するチャンスだ」と考えたんですが、残念ながら映像に追随できるような技術がその時なかったんです。
このままではますます映像との差が開いて、音楽業界がさらに縮小され、またそれが原因による音質の低下といった泥沼に陥ってしまうのではないだろうかと…。そんな危機感から、なんとしても自分の手で立体空間表現の方法を開発しよう、そして立体音響をメジャーなフォーマットとして認知させるべく開発したのが“位相コントロール”による立体音響再現技術である『8Way Reflection』というわけです。

DTMステーションEngineeringも担当いただいている飛澤正人さん

--音も一応ハイレゾ化という動きはあるけれど、なかなか広く一般には受け入れられていない面も大きそうです。
飛澤:そうですね、特別な再生機が必要であったり、スピーカーを設置する場所が必要だったりということは、やはりリスニングする時のハードルが上がりますから一般化するのは難しいのではないかと思いますね。あと配信での音質を上げていくことも今後の大きな課題だと感じています。
オンライン配信はどこにいても参加できるメリットはあるものの、配信データは圧縮されていますから、その分音質の低下や既存のステレオでの配信による臨場感の欠如といった問題が起きますし、生で聴くのとは大きな差がありますよね。結果的にリスナーがだんだん配信ライブから離れていくのも目に見えているので、このままいくと配信ライブ自体も衰退してまうんじゃないかと危惧しています。

このコロナ禍の影響で、リアルな音楽体験や映像体験を味わえない状況になっていますから、より手軽に臨場感のある音を楽しめ、逆にリアルライブでは得られない新しいオンラインライブの仕組みが必要だと考えています。
『8Way Reflection』は特別な再生機を必要としませんから、リスナーはいつものスタイルで“その場にいるような臨場感”を体感することができます。この特徴を生かし、『まったく新しい立体音響での配信ライブシステムを作ろう』というのが今回のエンジェル投資家募集の大きな理由です。

--ちょうど今週からAppleがDolby Atmosを用いた空間オーディオの配信をスタートし、4月からはソニーが360 Reality Audioの国内配信を開始していますが、これらとは何が違うのですか?
飛澤:バイノーラル再生での立体音響技術という意味では360 Reality AudioやDolby Atmosと同じですが、この両者とはバイノーラル・レンダリングする手前の制作工程で大きな違いがあります。両者の制作工程は、3Dパンニングを行い立体空間を作った後、HRTFをたたみ込んでバイノーラル・レンダリングを行いますが、8Way Reflectionはミキシング時にリバーブを付けているような感覚で3D空間を作り、そこからHRTFをたたみ込んでバイノーラル・レンダリングを行います。


また、8Way Reflectionはアドオンの技術でもありますから、前出の技術に弊社の技術を追加することにより、さらにリアルな空間演出をすることができるようになるでしょう。まずはヘッドホンをつけて、このビデオをご覧になってみてください。実際、8Way Reflectionでどんな音になるのか、その仕組みも含めある程度理解いただけるのではないかと思います。

--個人差なくヘッドホンで立体的に音が聴こえるのであれば、確かに画期的ですね。実際このビデオをヘッドホンで聴いてみて驚きました。これ、どうやって実現しているのですか?
飛澤:8Way Reflectionは原音に対し、1ms~15msのごく短いディレイを付加することにより“位相変化”を起こさせます。そのディレイは、壁や床などのごく近距離の反射をイメージしてまして、音源に対して前後左右の4方向をさらに上下層に分けた計8つの方向に合計16本のディレイ音が再生されます。それらの初期反射を原音と音響合成することで3D空間を表現しているのです。

--この8Way Reflectionは音楽専用に作られた技術ということなのですか?
飛澤:当初は音楽専用、というか、歌を取り巻く楽器達をどうやって立体定位させるかということを延々研究していました。しかしその中で「これがしっかり立体定位表現できたら色々なものに使えるよね?」って思い始めて。現在はゲームのサウンドトラックを3Dでミキシングしている最中ですが、ソーシャルゲームのようなスマホで再生されるものは基本イヤフォンでのリスニングになるでしょうから、とても相性がいいですよね。たとえばゲームの中ではセリフやSEは通常のステレオで再生されますから、頭の中で音が鳴る『頭内定位』になります。で、この3Dのサウンドトラックは頭の外側で鳴る『頭外定位』になるわけですから、セリフなどがすごく際立って聴こえるようになります。3D空間は相対的な距離感が大切ですから、このセリフのような頭内定位の音があると、3D定位したサウンドもまたさらに立体的に聴こえるというわけです。

なので、通常の音楽作品などではボーカルなど近くに定位させたい音源は頭内定位に、そこから距離感を付けて楽器達を3D定位していくという、いわば“2.5次元ミックス”を推奨していこうと思ってます。また音楽配信ライブはもちろん、ASMRを意識したアプリの開発や、さまざまな展開を想定しています。

--とはいえ、立体音響はこれまで大手メーカーなど、世界中の多くの企業が研究してきたものだと思います。それらに打ち勝っていくことができるのですか?
飛澤:この分野は本当に多くの技術者が世界中にいますし、大手メーカーは多額の研究開発費を投じて長年研究を続けてこられていると思います。しかし、その中で私のような位相をコントロールして立体空間を演出するという発想がこれまで市場に出てこなかったのも事実ですよね。もっと言えば、私がレコーディングエンジニア、ミキシングエンジニアとしてミキシングをしてきたからこそ、たどり着いた結論だったと思ってます。多くのメーカーは音響学、信号処理…といった観点からの研究が中心。ミキシングという観点から立体空間をどうしたら表現できるか、ということを経験を通して研究してきた8Way Reflectionは、既存のものとは明らかに違うので、勝機はあると確信しています。

--技術としてはスゴイことは分かりました。でも、事業展開するにあたり、大手の音楽制作会社やアーティストは乗ってきますかね?
飛澤:実はすでにエイベックス・ビジネス・ディベロップメント株式会社との事業提携契約が進行中で、締結後は先端的な3Dサウンド技術を用いて音の制作をしているチーム「Sound edge」と8Way Reflectionのコラボレーションによる新たなエンターテインメントのライブ配信を行なっていく計画をしています。
また、まだ表には出せない段階ですが、テレビ放送局との共同での実証実験を進めたりしているほか、複数のゲームメーカーとも話をしているところなので、いい感触は掴んでいます。

--飛澤さんの会社である、next Sound株式会社はどのように収益を上げていくのですか?
飛澤:基本的にはこれまでやってきた「3Dサウンド制作事業」をしっかり固め、配信ライブでのロイヤリティ収入やさまざまな配信プラットホームへのライセンス事業を大きく展開していきたいと考えています。


また有名アーティストへの供給によるマネタイズも企画しているところです。この際の受注単価はアーティストのチケット収入の見込金額に応じて設定する予定なので、無理なく展開できるはずだと考えています。このように、弊社では技術開発のみに特化せず、技術提供という形で「8Way Reflection」をプラットフォーム化して多くのユーザーに利用してもらう事業モデルも開始する計画があり、規模が大きくなるにつれて安定した売上が獲得できると考えています。

--さて、今回、エンジェル投資家を募るとのことですが、これはどういうことなんですか?
飛澤:今回想定している配信ライブシステムを作るためには、まず現在プロトタイプとして運用している8Way Reflectionをプラグイン化し、3D制作システムをもっとアップグレードする必要があります。それに関わるプログラミング費用やコンピューター、インターフェイスなどざまざまな設備投資が必要となるわけですが、これをしっかりお金を貯めてから……とのんびり構えていては、旬の時期を逃してしまうと考えました。今コロナの影響で人々の価値観も大きく変わろうとしているところで、まさに分岐点だと思います。このタイミングでスピード感を持って進むことが、今後のエンタメ業界にとっていい影響を与え、音の進化を加速させることができると考えました。
また、この沈みかけているエンタメ業界を微力ながら盛り上げることができたら、そう思い今回エンジェル投資家を募集するクラウドファンディング、FUNDINNOに挑戦してみようと思った次第です。

--KickStarterやIndiegogo、日本だとGREEN FUNDINGやMAKUAKEなどのクラウドファンディングは知っていましたが、エンジェル投資家を募るクラウドファンディングなんてものがあったんですね!
飛澤:いろいろな方に相談していた中、このFUNDINNOにたどり着きました。モノやサービスを提供する一般のクラウドファンディングとは少し位置づけは異なりますが、まだ完成していないものに投資をしていく……という意味では同じではないでしょうか?
今回、投資金額のコースおよび株数は以下の3つの用意しました。

100,000円コース (10株)
300,000円コース (30株)
500,000円コース (50株)

申込期間としては2021年6月19日(金)午前10:00~6月21日(火) 午後11:59までという3日間=72時間の短期間となっています。仮にもっと多く投資したいという方がいらっしゃったとしても、法律上、1人が一つの企業に投資できる金額は年に50万円以下という制限があるため、できません。目標募集額は6,300,000円で、上限応募金額は25,000,000円と設定させていただきました。多くの方に興味を持っていただき、応援いただけると嬉しいです。

--もし、これに投資した場合、どのようなリターンを期待できるのでしょうか?
飛澤:今後弊社の事業がうまくいき、M&AやIPO(新規公開株)に進んだ場合には大きなリターンを期待していただけます。現在は事業をスタートさせてばかりですので株価としては最低ラインですが、企業の成長とともにバリュエーション(企業価値評価)が上がっていきます。ただ今回は少額投資という形になりますので、リターンを期待するというよりは弊社の成長を間近で感じていただき、一緒に事業を進める感じで応援していただけたらととても嬉しく思います。また、弊社は現在創業2年目ですので、『エンジェル税制』を受けることができます。これは投資いただいた金額に応じて所得税の優遇制度が受けられるというもので、例えば10万円の投資金額に対して、3万円程度の金額が控除されるとのことでした。この辺の情報は、FUNDINNOのサイトにもあるので、ご覧になってみてください。

--誰でも気軽にという金額じゃないように思いますが、もし投資に興味があるという場合、どのような手順をたどればいいのですか?
飛澤:クラウドファンディングの期間は3日間なのですが、実はここに参加するには投資家登録する必要があり、しかもその登録には投資家適合審査というものがあって、そこに1営業日かかってしまうとのこと。しかも週末での実施となるため、いざ2日目、3日目に参加しようとしても間に合わないという問題があるのです。そのため、もし興味がある方は、投資家登録だけは済ませた上で、実際に弊社に投資するかどうかを考えていただけると嬉しいです。

※注 私、藤本も投資家登録をしてみたところ、朝10時ごろに申請した結果、14時半には審査通過のメールが届いたので、タイミングが良ければ、早く通ることもるようです。

この投資家登録自体は、単なる登録であって、もちろん金額が発生するものでもありません。手続き自体は簡単で免許証やマイナンバーカードの本人の顔をスマホで撮影して登録するのが早いです。また、この登録時に金融資産や投資経験を問われるのですが、この際、金融資産が300万円以上あること、投資経験(株式でも外貨預金でも投資信託でもOK)が1年以上あることが問われ、そこに満たないと参加できないので、その点はご注意ください。


その上で、19日、クラウドファンディングがスタートしますので、ぜひそちらをご覧になってみてください。

--ありがとうございました。クラウドファンディングが成功することを祈っています。

【関連情報】
3Dサウンドテクノロジー「8Way Reflection」クラウドファンディングページ(6月19日10:00開始)
FUNDINNO投資家登録ページ
next Sound株式会社サイト

Commentsこの記事についたコメント

3件のコメント
  • erytiuy

    位相を変化させて立体音響を作るのは新技術ではありません。特許庁で検索すると立体音響だけで448件もヒットします。実際に位相差を用いた特許は昭和50年代から受理されています。特許の受理は新技術の証明になりません。RolandはRSSなどで実際に製品化もしており、新技術を主張するのは不可能だと思います。

    関係者はこのことに当然気付いているはずですが。これでお金を集めるのはかなり問題だと思います。

    2021年7月26日 2:06 AM
    • 藤本 健

      erytituyさん

      もちろん、わざとおっしゃっているんだと思いますが、特許は新しい技術に与えるものではないです。新しいアイディアに対して与えるものです。飛澤さん自身は技術者ではなくレコーディングエンジニアなので、あくまでもアイディアを打ち出しているわけです。立体音響技術自体、おっしゃるとおり長年の歴史があり、私のAV Watchの連載でも何度も取り上げてきているネタ。その新しいアイディアをどう判断するか、ということではないでしょうか?

      2021年7月26日 8:59 AM
  • erytituy

    これが新しいアイディアと主張してもそうは思えません。
    それはともかく、問題はこれは投資話なので安易に紹介するのは大きなリスクがあります。
    投資した人がもし損失を出せば確実に恨まれます。

    2021年8月8日 11:24 PM

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