UF8に続きUC1もリリース。DTM市場に本気で殴り込みをかけてきたSSLがベース機材と位置付けるSSL 2/SSL 2+

完全にプロ用機材メーカー、業務用スタジオに設置するコンソールメーカーのレジェンドであったイギリスのSSL=Solid State Logic。そのSSLが、昨年にSSL 2(実売価格30,000円前後)およびSSL 2+(実売価格39,000円前後)というUSBオーディオインターフェイスを発売し、世界中を驚かせてくれました。が、今年に入り8chのフェーダーを持つコントロールサーフェイスであるUF8を発売したと思ったら、今度はアナログメーターも備えたプラグイン用コントローラーのUC1もリリースと、立て続けにDTM製品を投入してきています。

SSLによれば、このSSL 2/SSL 2+、UF8、UC1を組み合わせることで、同社のコンソールに匹敵するものをデスクトップ上で実現できるように考えられているのだとか……。同時にマルチチャンネルの入出力が不要なDTM環境であれば、これで事足りそうだし、音質的にもSSLのコンソールと同等であるというのなら、非常に面白い展開です。今回発表されたUC1にはSSLのコンソールに搭載されているものと同じアナログメーターが搭載されているので、ユーザーにとってもテンションの上がるところだと思います。そこで、今後各機材についてより突っ込んだレビューをしていこうと思いますが、「SSLって何なの?」、「SSL4000とかSSL9000といったプラグインは見たことあるけど、よくわからない」……という人も少なくないと思います。そこで今回はSSLとは何なのかを振り返るとともに、この一連のシリーズのベース機材であるオーディオインターフェイス、SSL 2およびSSL 2+についてチェックしてみたいと思います。SSLが一連のDTM製品のベースと位置付けるUSBオーディオインターフェイス、SSL 2+

Solid State Logic(ソリッド・ステート・ロジック)社はイギリス中西部にあるオックスフォードに本社がある、1969年設立の老舗メーカー。同社の案内を見ると「音楽をはじめブロードキャスト、ポストプロダクションおよび映画用プロフェッショナルアナログ/デジタルオーディオコンソールメーカーとして世界最大かつ最も成功しているメーカーです」とあり、現在SSLのコンソールは世界中の3,000以上のスタジオで稼働しています。

左からUC1、UF8、SSL 2+

もちろん、日本国内でも多くのレコーディングスタジオにSSLのコンソールが導入されているし、多くの放送局でも導入されており、コンソールのデファクトスタンダードといっていい機材を長年作り続けてきたメーカーなのです。

そのSSLのミキシングコンソールの歴史を振り返ると、スタートは1976年に発表されたSL4000Aシリーズと1978年に発表されたSL4000Bシリーズ。SL4000Bの初号機は発表前の1976年にロンドンのアビーロードスタジオに入り、その後、爆発的に広まっていったのです。さらに1981年にSL4000Eシリーズ、SL4000Gシリーズ、そして1993年には日本のスタジオのカスタム・コンソールをモデリングしたSL 4000 G+……などなど4000シリーズはSSLのもっとも広く普及したコンソールとなったのです。

その4000シリーズのレイアウトなどは踏襲しつつ、内部回路を刷新するとともにコンピューター・オートメーション機能を取り入れたものとして1994年に誕生したのがSL9000Jでした。2002年にSSLのアナログコンソールのフラグシップとしてXL9000Kが発表されるなど、この9000シリーズも、SSLを代表するシリーズとなっています。

SSLの現行製品であるフルアナログコンソール、ORIGIN

SSLでは、そうしたフルアナログコンソールを現在も開発・販売を続けており、最新版として位置づけられるのが2019年に発表されたORIGIN。いまも世界中でアナログコンソールの需要は高いようです。

一方で、DAWの発展に合わせ、DAWコントローラーとしての機能を搭載したコンソールも登場し、レコーディングスタジオなどでは幅広く使わるようになってきています。2004年に発表されたAWS900シリーズは、その後DAWと連携するコンソールの代表的機材として成長していき、16chのAWS916、24chのAWS924、48chのAWS948……などバリエーションも増え、現行機種としてはこの写真にもあるAWS948 deltaなどがあります。

DAWと連携する現行のコンソール、AWS948 delta

そんな完全に業務用のコンソールを開発・販売するSSLが昨年、突然にようにDTMの世界に降りてきたのです。USB Type-C接続のオーディオインターフェイスで2in/2outのSSL 2、そして2in/4outのSSL 2+を発売し、大きな話題になりました。トップパネルに大きなノブやボタンが並ぶこれらのオーディオインターフェイスは、SSLの製品であること、見た目にもカッコイイことから、話題となり、またちょうどコロナ禍に入ったタイミングでの登場だったため、なかなか手に入らない状況が続いていました。

手ごろな価格で入手できるSSL 2+とSSL 2

が、最近になって、ようやく普通に入手できるようになってきたので、実際に試してみたところ、なるほど、これスゴイ機材だったんですね。現在、多くのメーカーが開発するオーディオインターフェイスとは、明らかに異なるコンセプトのオーディオインターフェイスとなっており、多くのプロミュージシャンがパーソナルユースのサブ機などとして、こぞって導入しているのが分かります。どういうことなのか、説明していきましょう。

2in/4outの仕様のSSL 2+

デジタル的にみると、前述の通りSSL 2が2in/2out、SSL 2+が2in/4outのオーディオインターフェイスであり、その点は他メーカーのものと大きく変わるものではありません。また入力端子として、リアにNeutrikのコンボジャックが2つ用意されていて、マイク、ギター、ラインを接続可能であるという点も大きく変わらないし、出力端子としてSSL 2は標準ジャックのTRSが2つあり、SSL 2+はそれに加えてRCAのピンジャックが4つ出ているというところまでは、ごく一般的といってもいいでしょう。

SSL 2+のリアパネル。電源はUSB Type-C端子からのバスパワー

でも違うのはここから。最大の特徴といえるのは2つある入力チャンネルのそれぞれに4Kというボタンが搭載されていること。ここにはLEGACYとも書かれていますが、これは何なのか。これはSSLの歴史として紹介したSL4000をイメージしたサウンドにするためのボタンなんですね。実際このボタンを押してみると、入力されてきたマイクやライン、ギターの音が、パキっとした音、パンチのある音に変わるんです。

4Kボタンを押すと、完全アナログ・ディスクリート回路を通した音になり、パキっと切れのいい音になる

これをオンにするか、オフにするかは入力するサウンドによってユーザーが判断すればいいもので「ややボケた音だな」「ちょっと勢いが足りないかな」といった音のときに、4Kボタンをオンにすると、シャキっとして、元気のいい感じになるとともに、実際DAWに取り込んだ時にEQなどを掛けても、よりかかり具合がよくなるんです。

2in/2outのSSL 2

SSLは「SL4000シリーズコンソールのサウンドにインスパイアされたアナログの色付け」という表現をしていますが、SSL自身が4000風な音にするためのスイッチとして用意しているわけですから、まさにホンモノ。最近の他社のオーディオインターフェイスでもDSPを搭載してエフェクトをオーディオインターフェイス上で実現するものはいろいろありますが、SSLのアプローチはそれらとは違うのです。そう、この4Kボタンの裏側にあるのはSSLが設計したディスクリートのアナログ回路。まさにSSLのアナログコンソールのノウハウをここに流用していた、というわけなのです。つまりDSPによるエミュレーションなどではなく、ホンモノであり、他のオーディオインターフェイスとは根本的に考え方が異なります。

それぞれの入力のレベルを示すLEDメーターが搭載されている

またCHANNEL 1、CHANNEL 2それぞれ独立した入力レベルメーターが搭載されているのも、ユーザーとしてはとても使いやすく感じるポイント。0dB、-10dB、-20dB、-30dB、-40dBと5段階のカラーLEDランプとなっているので、適正な入力レベルに調整する上でもわかりやすくなっています。

メイン出力の調整は大きいノブを使って行う

そしてトルクの重いノブを搭載しているというのもSSLのこだわりのようです。確かにトップパネルに操作子が並ぶオーディオインターフェイスは他社もいろいろ出しているし、メイン出力コントロール用に大きいノブを搭載しているものも少なくありませんが、いわゆるロータリーエンコーダーといわれるデジタル的にカタカタカタと回すタイプではなく、この青い大きいノブはアナログのボリューム。ほかの入力ゲインの赤いノブやMONITOR MIX、PHONES A/PHONES Bというノブもすべてちょっと重めなアナログボリュームになっているというのも触っていて気持ちがいいところです。

またコンボジャックに入ってきた信号はLINE、Hi-Zボタンを使って手動で切り替えます。マイク入力のときは、LINEをオフにし、ギターを入力する際はLINEとHi-Zの双方をオンにする、という形です。またコンデンサマイクを接続する際に使う+48Vのファンタム電源がCHANNEL 1とCHANNEL 2の双方で独立してオン/オフできるのも好感度が上がるポイント。他社の多くのオーディオインターフェイスの場合、1つのボタンで一括してコントロールする形になっていますが、高価なコンデンサマイクを接続して使うことを考えると、このように1つずつ設定できるほうが安心ですからね。

MONITOR MIXノブを使って入力信号とPCからの信号のバランス調整ができる

MONITOR MIXのノブを右に振るとDAWからの音が出力され、左に振ると入力をダイレクトモニタリングできるという点では、他社製品とあまり変わらないですが、ここにはもう一つ大きな意味が隠されています。実はSSL 2およびSSL 2+はWindowsやMacと接続せずに、USBケーブルをACアダプタに接続すればスタンドアロンとして単独で動かすことが可能であり、このノブを左に振っておけば、CHANNEL 1およびCHANNEL 2に入ってきた音を、そのままヘッドホンでモニターすることができるのです。

SSL 2+をDAW側から見ると2in/4outとなっている

SSL 2の場合、そのヘッドホン出力は1つ、SSL 2+の場合は2つとなっていますが、その音を聴いてみて、その迫力にちょっと驚かされます。SSLが設計した製品だからだと思いますが、高インピーダンスのヘッドホンでも駆動できるようMDR-CD900STなど比較的ローインピーダンスのヘッドホンの場合、爆音で鳴らすことができるのです。つまりこれらはオーディオインターフェイスでありつつ、SSLのアナログ回路を通した音にできる高出力のヘッドホンアンプとしても使うことができ、そこだけで見ても、すごく優秀な機材なんですね。

まだ、SSL 2、SSL 2+をヘッドホンアンプとして使っているという話はあまり聴いたことがないですが、そのうちオーディオ系のユーザーが気づくと、また一気にユーザー層が広まるのでは……と思っているところです。

SSL 2およびSSL 2+にバンドルされているプラグイン、VocalStrip 2

ちなみに、SSL 2もしくはSSL 2+を購入し、SSLサイトにユーザー登録をすると、WindowsおよびMacのCPUベースで動くプラグインとして、SSLのボーカル用エフェクトVocal Strip 2とドラム用エフェクトのDrumstrip の恒久ライセンスが付属してくるのも大きなポイント。そう、SSLは昨今プラグイン系もラインナップを充実させてきており、SSL Nativeというプラグインシリーズを揃えています。そのSSL Nativeの中の2つがSSL 2もしくはSSL 2+を購入することで入手できるというのも重要なポイントです。

VocalStrip 2とともにバンドルされているDrumStrip

そのほかにもAbleton Live Lite、Pro Tools|First、Native InstrumentsのKOMPLETE STARTなどもバンドルされています。

でも、なぜアナログのディスクリート回路を入れて、ノブにこれだけの高品位な部品を使っているのに、3万円程度の価格に抑えられているのか……。この点をSSLジャパンの担当者に聞いたところ「輸送や組み上げといったコストを抑え、譲れないパーツなどはしっかり使用しています。値段に合ったクオリティではなくそれ以上のサウンドを提供するため、正直キツいですよ」と話していました。

昨年のAKMの火災でDACやADCチップが不足していることに加え、ARMプロセッサをはじめとした半導体不足が世界的に深刻になってきていることも勘案すると、欲しいものは早めに入手しておくのが吉なのでは……とも思うところです。

なお、5月27日にアナウンスされて、世界的にも大きな話題になっている、エフェクトコントロールユニットであるUC-1。先日、その実物を見てきましたが、これも今後大ヒットになりそうな予感がします。ここには、ORIGINなどに搭載されているのと同じアナログメーターが搭載されており、これだけでもグッとくるところ。

新たに発売されたコントローラー、UC1

このUC1について簡単に説明すると、アナログのゲインリダクションメーターは搭載されているものの、これ自体はアナログ機材というわけではなく、USB接続のコントローラー。前述のSSLが出しているプラグインであるSSL Nativeのうち、Channel StripとBus Compressorをコントロールするための専用のコントローラーとなっているものです。正確にいうとUC1が出るタイミングでバージョンアップしたChannel Strip 2およびBus Compressor 2のためのもの。

UC1にはSSLのコンソールに搭載されているのと同じアナログのゲインリダクションメーターが搭載されている

このゲインリダクションメーターはBus Compressor 2搭載のゲインリダクションメーターと連動する形ですが、よく見ると、プラグインで表示されるメーターと、このアナログのメーターとでは、やはり針の動きに少し違いがあり、完全にアナログのメーターとして見えるわけです。またバックライトのオン/オフ機能などがあるのも気持ちが上がるところではあります。

UC1のリアパネル。基本的にはPCと接続するためのUSB Type-C端子とACアダプタ用の端子のみが用意されている形だ

この辺の詳細については、近いうちに機材を借りて試してみようと思うので、改めてレポートしてみる予定です。

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