2月17日、Rolandが名機JUNO-60を39年ぶりに復刻し、クラウドサービスであるRoland Cloudを通じてソフトウェアとしてリリースしました。JUNO-60のアナログ回路をACB(Analog Circuit Behavior)テクノロジーという技術で正確に再現したこの製品は、図太いJUNOのアナログサウンドを手元で簡単に鳴らすことができます。現存するビンテージの実機は経年変換によって発売当時とは音が変化していますが、その経年による音色変化をコントロールするコンディション・ノブを搭載しているため、新品の音から40年を過ぎた音にまで調整できるのもユニークなところです。
そのソフトウェア版のJUNO-60は月額19,99ドルのRoland Cloud Ulitimateのメンバーになっていれば、すぐに使えるほか、完全買い切りのLifetime Keyが149ドルで用意されているのでRoland Cloudにあまり興味のない方、サブスクリプションサービスに抵抗のある方でも手軽に入手可能で、Windows、MacのVST3、AU、AAXのプラグイン環境で使うことができます。さらに、PLUG-OUTというものに対応しているのもユニークなポイント。RolandのSYSTEM-8というデジタルシンセサイザを持っていれば、ここにJUNO-60のソフトウェアをロードして、PCのない環境でそのまま使うことも可能になっているのです。そんなJUNO-60を試してみたので、これがどんな製品なのか紹介してみましょう。
PLUG-IN/PLUG-OUTに対応したソフトウェア版のJUNO-60がリリースされた
まずは以下に復刻したソフトウェア版のJUNO-60のサウンドがあるので、ちょっと聴いてみてください。
きらびやかな音だったり、図太いアナログサウンドだったり……、グッとくるシンセサイザの音色ですよね。
改めてJUNO-60について紹介すると、これはRolandが1982年に当時238,000円で発売された6音ポリフォニック(最大6和音が出せる)のアナログシンセサイザのキーボードです。その半年前に発売されたJUNO-6の上位版として発売され、音色メモリーが可能であることを大きな特徴として打ち出した製品でもありました。
アナログシンセサイザではあるけれど、VCOではなくDCO=デジタル・コントロール・オシレーターを使ったシンセサイザであったため、ピッチが安定するというのが大きな売りでもあり、温度変化に弱いVCOのシンセサイザと比較して大きなアドバンテージを持っていました。
JUNO-60をACBで忠実に再現したプラグイン版のJUNO-60
見た目がよく似たシンセサイザであるJUNO-106はその2年後の1984年に発売されたもので、基本的な機能・性能は引き継ぎながら、4段階のハイパスレンジ、エンベロープの位相切替などが追加されるとともに、MIDIを搭載したモデルに進化。一方で、アルペジエーターなどを排除することで、値段を139,000円とグッと抑えた製品でした。私個人的には、マイ・ファースト・シンセは自作だったものの、このJUNO-106が最初に購入したシンセだったので、思い入れのある機材でもあるのです。
すでにJUNO-106のほうは、Rolnad自らの手によって、やはりACBを使って復刻されており、Roland Cloudで入手できるほか、SYSTEM-8の標準音源としてJUNO-106が搭載されていました。またRoland BoutiqueのシリーズとしてもJUNO-106を復刻したJU-06、さらにはその後継のJU-06Aがあったほか、ABM=Analog Behavior ModelingというACBとは異なる技術で復刻したものが、JUPITER-X/Xmにも搭載されていました。が、今回は、JUNO-60にフォーカスが当たって復刻された、というわけなのです(JU-06AにもJUNO-60モードが用意されているので、Rolandとして初というわけではないようですが……)。
JUNO-106は以前からRoland Cloudのラインナップとして用意されていた
Roland Cloudについては、以前「クラウド型のソフト音源サービス、Roland Cloudが大きく進化し、国内でも本格スタート。現行ハードウェア製品と音色互換を持つソフトシンセZENOLOGYもリリース」という記事で紹介しているので、そちらを参照してもらうとして、新製品であるJUNO-60をRoland Cloudからダウンロード・インストールしてみました。
Roland Cloud Managerを介してJUNO-60をダウンロード&インストール
ダウンロードするファイルサイズはWindows版で15.44MB、macOS版で27.67MBですから、すごくコンパクトな音源であり、サンプリングシンセサイザではないというのがよくわかりますよね。前述の通り、VST3、AU、AAXのプラグイン規格に対応しているので、RolandのDAWであるZenbeatsはもちろんのこと、Cubase、Studio One、Ability、FL Studio、Ableton Live、Pro Tools、Logic Pro……とどのDAWでも使うことが可能です。
ZenbeatsでJUNO-60が使えるのはもちろん、各種DAWでも同じように利用できる
また、Macにおいては、最新のM1 Mac miniでも試してみましたが、こちらも問題なく使うことができました。
M1 Mac miniのBig Sur上でも問題なくJUNO-60を使うことができた
実際にDAWから立ち上げてみると、まさにJUNO-60という画面が現れ、JUNO-106と似ているけれど違う画面であることも分かります。ただし、実機と比較してみると、いろいろと違いがあるようです。
デザインレイアウトの関係か、パラメーターの配置場所が異なっていることは置いておいて、おっ!と思うのがENV-1、ENV-2とエンベロープジェネレーターが2つあること。これによって音作りの幅が大きく広がっています。またJUNO-60の鍵盤はベロシティを検知することはできませんでしたが、ソフトウェア版はもちろんベロシティに対応しており、その反応具合を調整できるようVOLOCITY SENSというツマミも用意されています。
細かくパラメータを見ていくと、ENVが2つあるなど、実機とはいろいろ違いがある
また、VCAの上にはCONDITIONというツマミがあり、これによって経年変化を調整できるようになっているのです。一番左に絞ると新品当初の音となり、右に回していくことで時間が経過していく……という形です。
CONDITIONパラメーターやHPFのJUNO-60モード、JUNO-106モードの切り替えスイッチも
さらに、HPFの上にHPF TYPEというスイッチがあり、60と106で切り替え可能になっています。これはハイパスフィルターのタイプをJUNO-60のモデリングにするか、JUNO-106のモデリングにするかの切り替え。あくまでもハイパスフィルターのタイプだけのようですが、JUNO-106にかなり近いシンセにすることも可能になっているのです。
OPTIONボタンを押すとメニューが現れ、ポリ数の変更ができる
一方、右下のほうにOPTION、SETTINGS、HELP、ABOUTというボタンがあるのもソフトウェアならではのものですが、OPTIONボタンを押すととちょっとユニークな機能があることが見えてきます。JUNO-60は6音ポリのシンセでしたので、このソフトウェア版もデフォルトでは6 Voicesの設定になっていますが、これを8音ポリにしたり、4音ポリ、2音ポリに設定することができるのです。これによって、ちょっと違った仕様のJUNO-60にできるわけなのです。
個人的に好きなのは、やはり画面右側にあるコーラス。JUNO-106と同様でCHORUS I、IIという2つのタイプがありますが、これをONにすることで、サウンドに広がりができ、まさにJUNOのサウンドになるんですよね。ONにしたとたん、バックに少しサーッというノイズが入るのも実機そのものという感じです。
2つのコーラスを両方同時に使ったり、ディストーションなどにすることも可能
しかし、このソフトウェア版JUNO-60では、EFFECT TYPEというスイッチを利用することで、JUNOの2タイプのコーラスを同時にONにできるほか、BOSS CE-1というギター用コーラスに切り替えたり、ディストーションやオーバードライブといった歪み系エフェクトにすることもできます。さらにこれとは別にディレイ、そしてリバーブも用意されているので、幅広い音作りが可能となっているのです。
また、プリセット音色の選択もPATCHボタンを押すと、プリセット名を一覧することができ、簡単に選ぶことができます。あらかじめ120音色が用意されているほか、Roland Cloudには、JUNO-60 CYBER CITY、JUNO-60 SYNTHWAVEというパッチライブラリも用意されているので、これらを読み込んで使うことも可能です。
Roland Cloud Managerを通じてプリセット音色を追加することができる
このように新製品のJUNO-60はプラグインのシンセサイザとして鳴らしてみると、楽しくて気づくと何時間も経ってしまう……という魔の製品。でも、単なるプラグインに留まらないのがJUNO-60のスゴイところです。
そう、冒頭でも触れたとおり、PLUG-OUTというものに対応しているのです。PLUG-OUTについては、だいぶ以前「PLUG-OUT対応の新コンセプトシンセ、AIRA SYSTEM-1を触ってみた」という記事で紹介したことがありましたが、一言でいえば、プラグインをハードシンセに転送して、そのまま楽器として持ち出すことが可能になる、というもの。具体的にJUNO-60のPLUG-OUTが対応してるのは、以前紹介したSYSTEM-1の上位機種、SYSTEM-8だけが対象となっているとのこと。これを持っている方であれば、WindowsやMacがない環境でも、普通に楽器としてJUNO-60を演奏することが可能になるのです。
RolandのSYSTEM-8にJUNO-60をPLUG-OUTしてみた
そのプラグアウトの転送を行うには、パソコンとSYSTEM-8をUSB接続した上で、PLUG-OUTボタンを押すだけ。転送には1分ほどかかりますが、たったそれだけでSYSTEM-8がJUNO-60に変身するわけなのです。ちなみに、SYSTEM-8にはPLUG-PUTスロットが3つあり、最大3つまでのシンセを入れることが可能です。もともとJUNO-106、JUPITER-8、JX-3Pがプリインストールされているほか、オプションとしてSH-101、SH-2、PROMARS、SYSTEM-100が用意されていたのに加え、今回JUNO-60が追加されたという形です。スロットが3つなため、JUNO-60をインストールするためには、何かを書き換える必要があるわけですが、再度書き換えれば、別のシンセに変身させることができるというわけなのです。
ちなみに、SYSTEM-8とJUNO-60では、盤面のパラメーターの位置が異なるため、PLUG-OUTとして動かした際のパラメーターの位置は変わります。そのSYSTEM-8に合わせた形でプラグインのほうのデザインレイアウトを変更することも可能になっています。
なお、プラグイン版のJUNO-60が動いている状態で、SYSTEM-8をUSB接続すると、SYSTEM-8のツマミやスイッチを動かすと、プラグイン側のパラメーターが連動する形となっており、フィジカルコントローラとしてSYSTEM-8を使うことが可能です。
さらに実は、同様のフィジカルコントローラとしてRoland BoutiqueのJU-06およびJU-06Aも使うことが可能になっているのです。私もJU-06が発売されてすぐに買っていたので、久しぶりに機材を引っ張り出して、試してみました。接続すればすぐに動くのかな……と思ったのですが、反応せず、あれ?と思いRolandサイトをチェックしてみたら分かりました。実は発売後、何度もファームウェアがアップデートされていたようで、最新版がVer.1.21となっています。これにアップデートすることで、ソフトシンセ版のJUNO-106のコントロール・モードを備えるようになっていたのです(JU-06Aは発売当初からこの機能が搭載されています)。
ファームウェアをアップデートした上で、PATCH NUMBERの8を押しながら電源を入れるとディスプレイがCtの表示に
アップデートした上で、PATCH NUMBER[8]ボタンを押しながらJU-06の電源を入れると、JU-06のシンセサイザ機能はオフの状態になり、USBのフィジカルコントローラとなって、LEDディスプレイにも「Ct」と表示されるのです。
ここで、DAW側でMIDI入力デバイスとしてBoutiqueを選択すると、JU-06のパラメータを触ると、それがJUNO-60のパラメータと連動するようになるんですね。これならばSYSTEM-8とは違い基本的なデザインレイアウトも同じなので、よりJUNOっぽくコントロールできて、ますますいい感じです。
Roland Boutique JU-06がJUNO-60プラグインのフィジカルコントローラとなる
当面、このJUNO-60で遊んでしまいそうなのが怖いところですが、JUNO-60に思い入れがある方はもちろん、そうでない方も、幅広く使えるシンセサイザなので、入手してみてはいかがでしょうか?ちなみに、まだRoland Cloudに入っていない方は最初の1カ月は無料でUltimateメンバーを体験することができるので、この機会に試してみてはいかがですか?
【関連情報】
JUNO-60製品情報
Roland Cloudサイト
【価格チェック&購入】
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