最近ではすっかりハードウェアのアナログシンセサイザメーカーという印象も強いフランスのArturia(アートリア)ですが、同社は2000年にソフトウェアメーカーとしてスタートした会社で、2002年にはタンスという愛称でも知られるMOOGの初期のモジュラーシンセサイザ、MOOG Modular IIIをソフトウェアで再現したMoog Modular V(現在はModular Vという商品名に変更)を発表し、世界的に大きな話題になりました。その後も、RolandのJUPITER-8を再現したJupiter-8 V(現在はJup-8 V4に変更)、YAMAHAのCS-80を再現したCS-80 V……などなど数多くの歴史的シンセサイザをソフトウェアで再現するということを行ってきたユニークなメーカーでもあるのです。
それらArturiaが再現したシンセサイザをパックにまとめた製品をV-Collectionという名前で展開してきたのですが、昨年末にリリースされたのはもう8代目になるV-Collection 8。まさにArturiaのソフトウェアシンセサイザの集大成というものであり、計30本もの音源・ライブラリが詰まっているのです。それぞれ個別にも販売されており、2万円程度のものが中心となるため、全部個別に購入すると60万円程度になるものが、V-Collection 8としてまとめると66,000円(税込)と割安で入手可能です。しかも、現在beatcloudのキャンペーンでは49,490円での数量限定のセールを展開しているため、1本あたりに換算すれば1,650円という激安価格での販売が行われています。改めて、V-Collection 8とはどんなものなのか紹介してみましょう。
Arturiaのソフトウェア音源全部入りパック、V-Collection 8
V-Collection 8は全部で28種類のソフトウェアシンセサイザと2つのプリセット集をセットにした製品。インストールするアイコンを並べてみると、元素記号の周期表のようにも見えてきます。
トータル28種類のソフトウェア音源と、2つのプリセット集がセットとなったV-Collection 8
それぞれの製品には基本的にオリジナルが存在するわけですが、Arturiaも何をオリジナルとしているのか明記しているものと、明記していないものもあるので、わかる範囲で並べてみたのが以下の表です。
ソフトウェア名 | オリジナル機種 | メーカー |
Analog Lab V | -- | Arturia |
ARP2600 V | ARP 2600 | ARP |
B-3 V | B-3 | HAMMOND |
Buchla Easel V | Buchla Music Easel | Buchla |
Clavinet V | Horner Clavinet | Horner |
CMI V | Fairlight CMI | Fairlight |
CS-80 V | CS-80 | YAMAHA |
CZ V | CZ-101/CZ-1000 | CASIO |
DX7 V | DX7 | YAMAHA |
Emulator II V | Emulator II | E-MU |
Farfisa V | Farfisa | ACI Farfisa |
Jun-6 V | JUNO-6 | Roland |
Jup-8 V4 | JUPITER-8 | Roland |
Matrix-12 V | Matrix-12 | Oberheim |
Mellotron V | Mellotron | Mellotron |
Mini V | Mini-Moog | Moog |
Modular V | Moog Modular III | Moog |
OB-Xa V | OB-Xa | Oberheim |
PatchWorks | -- | Arturia |
Piano V2 | -- | Arturia |
Prophet V | Prophet 5 | Sequencial Circuit |
SEM V | SEM | Oberheim |
Solina V | Solina String Ensemble | ARP |
Stage-73 V2 | STAGE-73 | Rhodes |
Synclavier V | Synclavier | New Englaond Digital |
Synthi V | EMS SYNTHI AKS | EMS |
Synthopedia | -- | Arturia |
Vocoder V | Moog 16 channel vocoder | Moog |
Vox Continental V | Vox Continental | VOX |
Wurli V | Wurlitzer 200A | Wurlitzer |
当初はMoog Moduler VやMini Moog Vという名前で、Moog側も音色に関して監修する形で関与していましたが、2012年にライセンス関係が終了してしまった関係で、名称Moduler V、Mini Vと変更するとともに一部デザインを変更するなどしています。同様にRoland製品に関してはRolandが製品名の使用を許諾しない姿勢をハッキリさせたことからJup-8 V4などとしているようですね。
またこの表の中にはオリジナル機種が記載されていないものが4つあります。このうちAnalog Lab Vは、V-Collectionの中から選りすぐりの音色を1つにまとめた、まさに”いいとこ取り”の音源。Analog Lab自体、だいぶ以前から存在していたのですが、Arturiaが新音源を出したり、音源のバージョンアップを図るタイミングでAnalog Lab Vも改良してきているため、最新版はかなり強力な音源に成長してきています。
V-Collection 8の各種音源のエンジンを搭載したAnalog Lab V
全部入りという意味では、「V-Collection 8のミニチュア版がAnalog Lab Vである」といっても過言ではなく、これ単独で購入するのもあり(ちなみに、Beatcloudでの税込価格は22,000円、ただし1月28日現在数量限定のセールで10,400円)。たとえばMINI Moogを再現するMini Vの音色をAnalog Lab Vで読み込んで出す場合、Mini Vで出すのと基本的には変わらないのですが、動かすことが可能なパラメーターは限られています。そのため、プリセット音色だけで事足りるのならばAnalog Lab Vは安く入手可能で便利ですが(プリセット数は限られます)、パラメーターを動かして自分で音色を作りたい場合には、やはりV-Collection 8を選択するべきだと思います。
V-Collectionの各種音色データを読み込んでプレイすることができるAnalog Lab V
そのAnalog Lab Vのプリセットを拡充するプリセット集がPatchWorksおよびSynthopedia。Analog Lab Vはゼロから音色を作っていくことはできないので、物足りなさを感じたら、これらを利用することで、音源としてのバリエーションを大きく広げることができるわけです。
使うエンジンのシンセがインストールされている場合、Analog Lab V内からエディット可能
なお、もしV-Collection 8の各種音源がインストールされている状態であれば、Analog Lab Vの中に各シンセサイザの画面を開いて、より細かくエディットしていくことも可能で、まさにシームレスな関係になているのです。
そして、もう1つ一覧の中で「ーー」という表記になっているのが、Piano V2と今回新たに追加されたVocoder V。まずPiano V2はさまざまなグランドピアノやアップライトピアノをモデリングしたアコースティックピアノ音源。その意味ではV-Collection 8の中ではやや異色な存在ではありますが、サンプリングではなく物理モデリングでかなりリアルな音を出すという点で、重宝する音源だと思います。
さまざまなアコースティックピアノをモデリングするPiano V
さて、このV-Collection 8で今回新たに追加されたのが
Emulator II V
Vocoder V
OB-Xa V
のそれぞれ。これらについても簡単に紹介してみましょう。まずJun-6 VはRolandのJUNO-6をモデリングしたもので、見た目もJUNO-6ソックリで、独特なコーラスエフェクトを含め、リアルにJUNO-6の音を再現してくれます。実機においてはコーラスをONにすると結構ノイズが入るのですが、Jun-6 Vでは、このノイズを実機のように出すモードと、それを消してキレイな音にするモードが用意されているところも嬉しいところです。
Emulator II Vは80年代のサンプラーとして一世を風靡し、YMO作品でも数多く使われたE-MUのEmulator IIを再現したもの。私が高校生だった当時、300万円したEmulator IIはまさに憧れの機材であり、それが手軽にソフトウェア音源として使えるようになったことに個人的には感激するところが大きいです。
E-muのサンプラー、Emulator IIを再現するE-MU V
最新のサンプラーと異なり、Emulator IIのサンプリング性能は8bitの27.7KHzというものであり、Emulaotor II Vでもその精度で音を処理しているため、80年代っぽいLo-Fiサウンドとなっているのも面白いところ。プリセットとして、オーケストラヒットをはじめ、当時の雰囲気のサウンドが数多く用意されています。
そしてE-mulator IIの実機には存在していなかったエディターが搭載されているのも面白いところ。これを用いて、波形でエディットできるのはFairlight CMIっぽいところですね。ちなみに、Fairlight CMIを再現するCMI VもV-Collection 8の中に含まれていますよ。
MOOGのボコーダー、Moog 16 channel vocoderを再現したVocoder V
Vocoder VはMOOGのMoog 16 channel vocoderをエミュレーションしたもの。実機ではマイクから入力した声とアナログシンセサイザを掛け合わせる形で、使っていたわけですが、このVocoder Vはオーディオインターフェイス経由でマイク音を入力することで同様のことができるだけでなく、数多くの声やサンプルサウンドがプリセットとして用意されているので、マイク入力なしに、もっと手軽にボコーダーサウンドを楽しめるのも面白いところです。
サンプル素材も入っているので、それらを利用したボーコーダーサウンドも簡単に演奏できる
そしてもう一つの新音源はOB-Xa VはVan Halen のJUMPのイントロでも知られるOberheimのポリフォニックシンセサイザ、OB-Xaを再現した音源です。Curtis Electromusic Specialties社のCEM3320というICが搭載されたことで、非常にキレのいいフィルターであることが評価されたシンセサイザであり、当時は150万円程度と高価なシンセサイザであったため、一般ユーザーにとっては夢の機材でした。
以上、今回搭載された4音源を中心にArturiaの全部入り製品、V-Collection 8を紹介してみました。まさに、Arturiaの集大成であり、主だったビンテージシンセがこれですべて揃うという製品。数量限定ではありますが、今なら1本あたり1,650円という激安で入手できるので、持っておいて決して損はないと思いますよ。
【関連情報】
【価格チェック&購入】
◎beatcloud ⇒ V-Collection 8
◎beatcloud ⇒ Analog Lab V