各社から続々と登場しているMIDI over Bluetooth Low Energy(BLE-MIDI)の機材。DTMステーションでも、各メーカーの製品を取り上げてきましたが、先日、CMEからWIDI Masterというデバイスが6,500円(税別)で発売されました。シンセサイザや電子ピアノ、リズムマシン、オーディオインターフェイス……といった機器のMIDI端子に接続すれば使えるというもので、MIDI端子から供給される電力で動くからバッテリー不要で利用可能というのはQucco SoundやYAMAHAなどの製品と同様。
しかし、非常に優れているのは、面倒なペアリング作業が不要で、すべて自動で接続してくれるという点。たとえばKORGのmicroKEY Airとも電源を入れただけで自動接続するし、Qucco Soundのmi.1 II、YAMAHAのUD-BT01やMD-BT01、RolandのWM-1、WM-1Dとも自動でペアリングしてくれるので、非常に便利に使うことができるのです。その便利さにおいては、現在ある各種BLE-MIDIの中ではベストと言っても過言ではないと思うので、WIDI Masterとはどんなもので、どのようにして使うものなのか紹介してみましょう。
先日発売されたCMEのBLE-MIDIデバイス、WIDI Master
CMEはワイヤレスMIDIという分野において15年以上の歴史を持つシンガポールのメーカー。BLE-MIDIの規格がうまれるはるか以前、そもそもBluetoothが一般的になる以前からワイヤレスMIDIに取り組んできたメーカーです。薄いUSBキーボードとして広く普及したXkeyやそれにBLE-MIDIを搭載したXkey AirもCMEが生み出した製品ですが、現在XkeyシリーズはRingwayに売却したので、現在はCMEのラインナップからは外れているようですね。
2011年に販売されていたCMEのワイヤレスMIDI製品
このCMEが先日発売したのがWIDI Master。MIDI INとMIDI OUTに接続する小さなドングルのような機材ですが、他社製品とちょっぴり違うのはMIDI IN側とMIDI OUT側が分離された形になっており、2.5mmの3極ケーブルで接続する形になっていること。
WIDI MasterはMIDI IN側、MIDI OUT側が分離されていて、2.5mmのコネクタで接続できる仕様になっている
他社製品の場合、2つの短いケーブルで接続されているため、たとえばAKAIのEWIのように、MIDI OUTしかない機材の場合、片方をぶら下がる形になってしまって不格好になりがちですが、WIDI Masterの場合、MIDI OUTに接続する側のデバイスのみを使えばいいので、スッキリとします。
MIDI OUT端子のみしかない機材の場合、片方だけを接続すればOKなので、非常にスッキリする
また、MIDI INに接続する側は短くなっており、2.5mmの端子を挿す部分とぶつからないため、MIDI INとMIDI OUTの端子の間隔が狭い機材でも問題なく接続できる工夫もされています。
MIDI IN用とMIDI OUT用の長さが異なり、接続部がぶつからない形になっている
今回、WIDI Masterを使うにあたり、1つだけでも十分使えるようですが、2つあれば、双方向通信が可能になるようだったので、2つを購入。どうやってペアリングをするのかなど、あまりよく分からないまま、片方をRoland BoutiqueのJU-06のMIDI IN/OUTに、もう片方をYAMAHAの電子ピアノのMIDI IN/OUTに接続して、それぞれの楽器の電源を入れてみました。
どうやってペアリングするんだろう…とマニュアルをダウンロードしようと探している中、ふと電子ピアノを弾いてみると、JU-06が鳴るんですね。JU-06にキーボードを取り付けて弾いてみると、これによって電子ピアノ側が鳴ります。何の設定もしてないのに、電源を入れただけで繋がってしまうんですね。
電子ピアノのMIDI端子にWIDI Masterを接続するとともに、JU-06にも接続したら、双方が自動的に繋がった
まあ、WIDI Master同士だから、そんなことができるのね……と思いつつ、他のBLE-MIDIと繋がるかの実験もしてみることにしました。とりあえず、電子ピアノの電源を切り、手元にあるKORGのmicroKEY Airの電源を入れると、microKEY Airの青いLEDがペアリング先を求めて点滅するのですが、数秒後には、なぜか点灯。「おや?」と思って、キーボードを弾いてみるとJU-06から音が鳴るのです。そう、勝手にペアリングしていたんです。
KORGのmicroKEY Airの電源を入れたら、自動的にWIDI Masterとペアリングされた
それなら…とmicroKEY Airと接続したままの状態で、さらにKORGのnanoKEY Studioの電源を入れてみると……、さすがにダブルでは接続されることはなく、microKEY AirとJU-06が接続されたままです。ここでmicroKEY Airの電源を切ってみると……、10秒ほどすると、ペアリング先がnanoKEY Studioに切り替わるんですね。ここまで事前準備など何もなし。おそらく、近くにあるBLE-MIDIデバイスをWIDI Masterが見つけて、自動でペアリングをするということのようなのです。これは画期的といってもいいのではないでしょうか?
接続が確立するとWIDI Masterの内部にある青いLEDの点滅が速くなる
ちなみに、Bluetooth接続が確立されていない状態だと、WIDI MasterのMIDI OUTの端子側の内部にある青いLEDがゆっくりと点滅しています。が、接続が確立すると、速く点滅することで接続されたことを確認することができます。
では、KORG以外のBLE-MIDIとの接続もできるのか?いくつか試してみました。まずはYAMAHAのMD-BT01を使ってみたところ、やはり勝手に繋がります。同様にUSB-MIDIデバイスをBLE-MIDI化するUD-BT01を試してみましたが、これも同様でした。
さらにQuicco Soundのmi.1 IIを使ってみたところ、これも接続できるし、mi.1 Cableの黒いほうも同様に接続できました。ただし、mi.1 Cableの白いほうは繋がりません。mi.1 Cableの場合、白がマスター、黒がクライアントなので、マスター同士だと自動では繋がらないということなのでしょう。
Quicco Soundのmi.1 IIとも自動的に接続された
もうひとつ、つい先日取り上げたばかりのRolandのWM-1も試してみたところ、これも一発で自動接続されました。ただ、WM-1にはHost、Remoteの設定があるほか、通常速度のSTANDARDモードと高速のFASTモードがあります。デフォルトの状態はHostのSTANDARDモードであり、この状態だと接続できましたが、ほかのモードに切り替えると切れてしまいました。また、再度元に戻してもうまく繋がらなくなってしまったので、この辺はまた調べてみようと思っています。同じく、WM-1DでもSTANDARDのHostモードであれば自動接続することができました。
RolandのWM-1とも、Host設定のSTANDARDモードで自動接続された
ここまで見てきたとおり、BLE-MIDIデバイスとは勝手に接続してくれるWIDI Masterですが、iOSやPCとの接続はどうなっているのでしょうか?
まずiPadで試してみました。まあ、当然といえば当然ではありますが、これは勝手には繋がりませんでした。でも、BLE-MIDI対応のアプリ側からペアリングすると接続できます。一度電源を切ると、やはり途切れてしまうのはiOS/iPad OS側の仕様なので、こればかりは自動再接続というわけにはいかないようですね。
iOSの場合、BLE-MIDI対応のアプリを通じてペアリングを行うことで利用できた
続いてMacはどうでしょうか? せっかくならと先日、購入してテストしたM1チップ搭載のMac Miniとの接続を行ってみました。一般的なBLE-MIDIデバイスと接続するのと同様の手順でAudio MIDI設定のMIDIスタジオを起動し、Bluetoothボタンをクリックすれば、WIDI Masterが見えるので、これを使うことで接続できました。
Macの場合はAudio MIDI設定のMIDIスタジオにおいて、Bluetooth機能を使って接続できる
試しにRosettaを使って動くDAWであるDigital Perfomer 10で確認したところ、問題なく動作することが確認できました。ただし、こちらもiOSと同様にWIDI Masterが接続されているJU-06の電源を一度切って、Bluetooth接続を切断した後、再度電源を入れても、勝手には繋がりません。これもmacOSの仕様ということですね。
Digital Perfomer 10から使ってみたところ、問題なく動作させることができた
では、Windowsはどうなっているのでしょうか?ご存知の方も多いと思いますが、WindowsでBLE-MIDIを使うためには、ひと手間が必要となります。実はWindows 10はBLE-MIDIを4~5年前からサポートしているのですが、やや変わったサポートの仕方であるため、一般のDAWからは見えないのです。そう、通常のMIDIドライバはMMEに対応したものであるのに対し、BLE-MIDIに対してはUWP(Univerasal Windows Platform)という形でのサポートであるため、そのままでは使えないのです。しかも、約1年ほど前からUWP MIDIに関してもWindows側のバグがあって、うまく使えない…という問題が起こっていたのです。
Windows 10のBluetooth機能を用いてWIDI Masterと接続
そのため、Windowsで使うのはちょっと難しいかな……と思っていたのですが、結論からいうと、とってもあっさりと使えてしまいました。まずWindows側のバグはつい先日、解決したようで、最新のOSアップデートを施すことでトラブルは解決します。
MIDIberryを使ってWindowsからWIDI Masterを使うことができた
一方、UWPをサポートするソフトであるフリーウェアのMIDIberryを試してみたところ、WIDI Masterを認識し、すぐに使うことができました。MIDIberryはWindowsのMIDI INに入ってきた信号をMIDI OUTに送ることができるソフトですが、UWPのMIDIポートも見えるので、使うことができるんですね。
試しに、WIDI Master側の電源を切って、再度入れてみたところ、自動的にBluetoothの再接続してくれます。さらにWindowsを再起動してみたところ、こちらも自動的に再接続して、そのままMIDIポートとして使うことができるので、ある意味Windowsのほうが便利かもしれませんね。
DAWから利用する場合はフリーウェアのLoopMIDIを介してMIDIberryを使うことで利用可能になる
ただし、このMIDIberryの場合、DAWから利用することができないため、DAWで利用するためには別途LoopMIDIをインストールする必要があります。このLoopMIDIはDAWから見えるので、ここに出力したものをMIDIberryを通じてWIDI Masterへ送れば利用できるというわけですね。
MIDI IN、MIDI OUTの双方を利用するためにはMIDIberryMを利用する
MIDIberryの場合、片方向でしかデータを送ることができませんが、双方向で利用したい場合には2,900円と有料にはなりますがMIDIberryMというものがあるので、これとLoopMIDIを利用することで使うことが可能です。
※2020.12.02追記
開発者のlinclipさんより、以下の情報をいただきました。
「MIDIberryMは送受信対応・複数起動可能ですが、ちょっと高いという方のためにWIDI Master専用バージョンのMIDIberry-IO for WIDI Masterをリリースしました。現在イントロプライスの805円(税込)で提供中です。またMIDIberryMもMIDIberry-IO for WIDI Masterも1か月間の試用が可能です」
MIDIberryの開発者であるlinclip(@linclip)さんに伺ってみたところ、Cakewalkは3年ほど前のSONARの時代からUWP MIDIをサポートしていたそうで、Cakewalkの設定をMMEからUWPに切り替えることで使えるのだとか……。試してみたところ、あっさり使えてしまってビックリしました。
CakewalkならMIDIberryなどがなくてもドライバモードをUWPにすることで直接利用可能
以上、CMEのWIDI Masterについてレポートしてみましたが、いかがでしょうか?想像していた以上に簡単に使うことができ、非常に快適でした。製品情報を見ると、WIDI MasterはBluetooth 5に対応したデバイスであり、レイテンシーも3msecと低レイテンシーを実現しているとのこと。実際、使ってみてもレイテンシーはまったく感じないレベルなので、その点でも優れています。
今回は2台のWIDI Masterを導入して使ってみましたが、普通は1つあれば十分かもしれません。価格的にも手ごろですので、1つ入手しておいても損はないと思います。
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