常識を覆す魔法のオーディオ・エディタ、Hit’n’Mix Infinityの破壊力

先月DTM界に、トンでもないソフトが登場したということで記事にも取り上げたイギリス生まれのオーディオ・エディタ、Hit’n’Mix Infinity(ヒットゥンミックス・インフィニティ)。従来オーディオエディタといえば、波形編集ソフトが一般的であり、最近はスペクトル表示が可能なスペクトルエディタもいろいろ登場してきていましたが、それとも全く異なる新世代のオーディオエディタとして誕生したソフトです。

これは普通のオーディオデータを、まるでMIDIデータのように表示させて、そのオーディオを構成する音の中身を自由自在に編集できてしまうという、にわかには信じられないようなソフト。先日の「究極の耳コピソフト?魔法のピッチ修正ツール?それとも新手のDAW?従来の常識を覆すオーディオエディタ、Hit’n’Mix Infinity、日本上陸」という記事では、ファーストインプレッションとしてその触り部分だけを紹介してみましたが、日本語で使い方を解説するビデオなども出てきたので、それを見つつ、本当にそんな魔法のようなことができるのか少し自分でも試してみました。

波形編エディタ、スペクトルエディタに続く第3のオーディオエディタとなるアトミック・オーディオエディタ、Hit’n’Mix Infinity

改めて、このHit’n’Mix Infinityについて、その概要を紹介すると、これはまさに常識を覆すオーディオエディタで、CDからリッピングしたオーディオデータなど、普通のステレオの音楽データを読み込むと、それがどんな構成のものなのか、まるでオーディオロック解除するかの如くサウンドを分離して自由自在にエディットできしまうというもの。

たとえば、ドラム、ベース、ギター、キーボード、ボーカルといった構成のポップスの曲の16bit/44.1kHzステレオのWAVファイルを、こいつに読み込ませたとしましょう。普通の波形編集ソフトなら、一瞬で波形表示されるところ、このHit’n’Mix Infinityは、読み込むと同時に解析を始めるため、3分の曲を開くのにそこそこ高速なPCでも10~15分かかるのが難点ですが、解析が終了すると、いきなりMIDIのピアノロールのような画面が開き、その曲の中身が表示されるのです。

CDなどになっているオーディオデータを読み込むだけで、中身が分析され表示される

そしてそのピアノロール画面に表示されている音符を自由に動かすことができ、好きに作り替えていくことができるのです。こんなことって、従来ありえなかったですよね。その活用例の一つとして「Hit’n’Mix Infinityで自然なハーモニーを追加する方法」というチュートリアルビデオが公開されたので、ご覧ください。

どうですか? 常識的に考えると「ちょっと、こんなのありえない!」、「裏でパラデータをいじってるんだろ」、「ピアノとボーカルの構成だからできるのか?」……なんて思いますよね。

ビデオを見ると分かる通り、ピアノに合わせて歌う男性ボーカルのメロディーがピアノロール表示されているので、そのボーカル部分を選択し、コピーしたものをピッチシフトしてハーモニーを作成、さらにその作成されたハーモニーの音量を少しさげ、最後に自然さを出すためにDraw Pitchツールを使ってピッチの軌跡を手でなぞる形で少し揺らした結果、自然なハーモニーが完成というものです。

でも、ホントにそんなことができるのか。前回の記事でも利用したわれわれのレーベルであるDTMステーションCreativeの第1弾ミニアルバム、「Sweet My Heart」の中から多田彰文さん作詞作曲・編曲の「Appreciation100」という小寺可南子さんが歌う楽曲を使って、同じことを試してみました。

この曲を丸ごと取り込むと15分くらいかかってしまいますが、前回の記事を書く際に一度取り込んで、Hit’n’Mix Infinityが解析を終えているので、今度は一瞬で読み込めます。このボーカルのスタートする頭の部分2小節に、3度下のハモを作る実験です。その結果がこちら。

どうですか?結構、自然な感じで下のハモができているのがわかると思います。ただ、慣れていないこともあり、先ほどのチュートリアルビデオのように1分足らずでできた……というわけではないので、少し解説しておきましょう。

WAVファイルの読み込みには結構時間がかかるが、読み込むと、パートごとに色分けされ、ピアノロール風に表示される

この楽曲を読み込むと、Hit’n’Mix Infinityが自動分析して、ボーカル、ピアノ、ディストーションギター、ベース、バイオリン、リズムと分解してくれ、ボーカルが黄色、ピアノがピンク、ギターが紫のように分類してくれています。ただ、このパート分けが100%正しいわけではないんですね。ボーカルの入り始めの「ねぇ~」という歌詞部分がピアノに分類されていました。

ボーカルの頭の音符がギターとして認識されてピンク色で表示されていた

1つ1つ並ぶMIDIのノートのような線をマウスで左クリックすると、その音だけ発音されるので、ボーカルに該当する部分を選ぶことが可能。VOCALOIDではありえないことですが、人間の声を分析した結果を見ると、部分的にはボーカルが2つのノートに分かれて重なっているところもあるんですね。

ボーカルパートをすべて選択し、コピー&ペーストした上で、ピッしを下げていく

1つ1つの音を確認しながらピアノと分類された「ねぇ~」も含め、2小節分のボーカル部のノートを、チュートリアルビデオのように選択して、コピー。さらにペーストすると、ユニゾンで重なるので、下キーを押しながら半音ずつ下げていきます。ただし、これは全部を半音ずらす形なので、ハーモニーとしては正しくなりません。そこで、キー的に正しく3度下がるように部分ごとに調整しました。

キーに合わない音符は個別に動かす

その後、チュートリアルのようにハーモニーとして作成した部分のボリュームをさげてみます。

ハーモニー部分のボリュームを下げる

続いてDraw Pitchツールでピッチを描こう……と思ったら、このビデオのようなものがすぐに見つけられませんでした。そこで、画面を右クリックしてみるとパレットメニューが現れ、ここにPitch Toolなるものを発見。これでなぞって作ったのが先ほどのビデオです。

右クリックしてDraw Pitch Toolを選ぶ

こうして使ってみると、何でもインスタントに簡単というわけではないですが、確実にボーカルを引っ張り出して、そこを自由にいじっていくことはできるようです。これって物凄いことだと思いませんか?

チュートリアルビデオは、イギリスのメーカー側が作ったものを随時、日本の代理店であるタックシステムが翻訳してUPしているようですが、たとえば以下のような「Hit’n’Mix Infinityでスケールとキーの検出と変更を行う方法」といったものもあります。

試してみましたが、ホントにコード・キーを解析してくれ、まったく違うスケールに当てはめることができました。これをどう利用するのかはアイディア次第だとは思いますが、面白いことができそうです。

また、ちょっと妙にも思えたのは、オーディオエディタのくせに、MIDIファイルを読み込むこともできること。そもそも、Hit’n’Mix InfinityがオーディオをMIDIのように扱えるようにするソフトなわけですが、MIDIを読み込んでそれとテンポを合わせる「Hit’n’Mix InfinityでオーディオとMIDIを併用する方法」なんていうチュートリアルビデオもありました。

一方、この辺もチュートリアルビデオを見ながら自分でも再現してみましたが、まだまだ改善の余地があるのでは……と感じたのがテンポ検出機能です。オーディオファイルを読み込むとそれに合わせてテンポ/BPM検出してくれるのですが、それが必ずしもピッタリ当てはめてくれないのです。この辺は現時点においては、画面を見ながら手動で合わせたほうが早いので、すべてHit’n’Mix Infinityの自動検出に頼らないで、必要に応じて手動を組み合わせていくほうが効率的なようにも感じました。

テンポ/BPM検出性能は今一つなので手で調整したほうが早そう

ところで、このソフトによって一番大きな恩恵が得られるのは誰なのでしょうか?いろいろな人がいろいろなシーンで役立てることが可能だとは思うけれど、自分で楽曲を作っている人なら、パラのデータは持っているので、必ずしもコイツに分解してもらう必要はないでしょう。ボーカルのハモを作るならボーカルパートをMelodyneで作ればいいわけですから。でも人が作った既存の楽曲を自分なりにリミックスしてみたいという人にとっては最強のツールではないでしょうか?

もちろん、リミックス作品を作る上ですべてをHit’n’Mix Infinityで作業する必要はなく、DAWやループシーケンサなどと組み合わせていくほうが効率的かもしれませんが、従来では絶対に不可能だったことがいろいろできる可能性を秘めたソフトであることは間違いなさそうです。

マウスオーバーすることで、その機能について日本語表示されるようになる(画面はイメージ)

なお、現時点においては、Hit’n’Mix Infinityはすべて英語のソフトなので、苦手に感じる人も少なくないと思います。しかし、国内販売代理店であるタックシステムでは現在日本語PDFの詳細マニュアルを作成しており、日本で購入したユーザーに向けて近日中に配布する予定とのこと。また、1か月利用可能なトライアル版を使ってみると分かる通り、マウスカーソルを持っていくと、それがどんな機能かが表示されるマウスオーバーヘルプ(インタラクティブヘルプ)機能があり、それが英語表示されていますが、これについても国内購入ユーザー向けに、近いうちに日本語表示できるようにするとのこと。この辺の環境が揃ってくると、ますます使いやすくなりそうですよね。

なお、このHit’n’Mix Infinityは日本上陸キャンペーンとして通常価格が36,000円(税抜)のところ、4月6日~5月6日の間、28,800円となっています。前述の通り、30日間のトライアル版もあるので、それを少し試した上で、使えそうだと判断できたら、このゴールデンウィーク中に入手するのがいいかもしれません。

【関連情報】
Hit’n’Mix Infinity製品情報
日本語チュートリアルビデオ
Hit’n’Mix Infinity30日間体験版ダウンロード:Windows版  Mac版

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