2年前、ヤマハから生産完了のアナウンスが出て、この業界に衝撃を与えたモニタースピーカー、MSP3。私も長年、同シリーズのMSP5 STUDIOを使っているので、MSPシリーズ全体がなくなってしまうのでは…と心配していたのですが、そのMSP3が去年の3月からこっそり復活していたのをご存知でしたか? 楽器店の店頭に展示されているのを見て、「まだ、在庫が残ってるんだ……」なんて思っていたら、そうではなく、しっかり生産を続けながら販売されていたんですね。
中には、NS-10M同様に、今後サポートを受けられなくなるのでは…と気になっていた人もいたと思います。でも、ヤマハが生産を再開したため、そうした心配はなくなったし、従来通りのサウンドのモニターとして購入でき、安心して使い続けることができるようです。そんなヤマハのモニタースピーカーにはこのMSPシリーズとともに、NS-10M風デザインでコーン部分が白いHSシリーズがあります。この2ラインナップはどう違い、どう選べばいいのか?少し時代を振り返りつつ、改めてヤマハのモニタースピーカーについてチェックしてみましょう。
MSP3の復活。HSシリーズと2ラインナップとなっているヤマハのモニタースピーカー
国内のモニタースピーカーとして、非常に大きなシェアを持っているヤマハのMSPシリーズ。DTMerのスタンダードモニタースピーカーとも呼べる存在なので、使っている方も多いと思います。あらためて紹介すると、MSPシリーズはNS-10M STUDIOを開発したチームが、次世代のスタンダードモニタースピーカーとして発売した、ヤマハのプロ向けのニアフィールドモニターです。
そもそもMSPの先輩モデルとなったNS-10Mは、通称「テンモニ」「テンエム」と呼ばれ、世界中のレコーディングスタジオの標準モニタースピーカーとして広く使われてきました。そこから派生したNS-10M STUDIO、NS-10M PRO、NS-10MC、NS-10MXなども合わせ、現在でも多くのスタジオで目にする、レコーディングスタジオの象徴的なモニタースピーカーでもあります。
ただ、NS-10Mシリーズを生産するためのパーツが入手困難になったことから2000年代に入って生産完了に。ヤマハとしてもパーツがなくなったため、現在は修理も難しい状況になっています。そうした中、NS-10Mシリーズの後継として登場したのがMSPシリーズだったのです。名前にSTUDIOが付く、10インチのMSP10 STUDIOが登場し、7インチのMSP7 STUDIO、5インチのMSP5 STUDIO、とラインナップが増えていきました。
NS-10Mがパッシブスピーカー、つまり別途アンプを必要とし、そのアンプの力で音を鳴らすモニタースピーカーであったのに対し、MSPシリーズはアクティブスピーカー(パワードスピーカー、パワードモニターなどと呼ぶことも)なので、別途アンプを用意することなく、より手軽に使えるモニタースピーカーとして広く使われるようになっていったのです。
NS-10M STUDIO(手前)とMSP7STUDIO(奥)
ただ、今でこそ当たり前のパワードモニターですが、当初はモニタースピーカーにアンプを内蔵することに抵抗感を持つ人が多かったのも事実。「左右別々にアンプを駆動するなんて邪道だ」、「アンプはスピーカーとは独立させるのが当然」といった主張の人が多かったからです。しかし、実際にはMSPシリーズのアンプ性能が優れていたこと、非常に手軽に使えること、パワードスピーカーはスピーカーとアンプが組み合わさった上でチューニングされていること、また他社でもパワードモニターが主流になっていく中だったので、広く受け入れられていったのです。
そのMSPシリーズの誕生とほぼ同時期にHSシリーズというモニタースピーカーも登場しています。当初8インチのHS80Mと5インチのHS50Mがありましたが、デザイン的にはMSPシリーズよりHSシリーズのほうが、NS-10Mに近いものではありました。ただMSPが業務用途を想定したモニターであったのに対し、HS=Home Studioということで、もう少しエントリーレベルのユーザーを対象にしたものとして誕生したという背景があります。そのため、当初からMSPシリーズのほうがHSシリーズより上の位置づけとして存在していたようです。
その後ラインナップは少し整理され、ざっくりいうとMSPのほうは
3インチ MSP3
またHSシリーズのほうは
7インチ HS7
5インチ HS5
という構成。ただし、正確にいうとHSシリーズのほうはホワイトモデルであるHS8W、HS7W、HS5Wがあるほか、リギングポイントを装備し、天井から吊るすことが可能なHS8I/HS8IW、HS7I/HS7IW、HS5I/HS5IWのそれぞれがあり、さらにHSシリーズにはバスレフ型パワードサブウーファーのHS8Sというラインナップもあります。
これらのうち、MSP3の生産完了が2017年10月にアナウンスされたため、「NS-10Mに続いて、MSPも終わった……」と多くの人が思い、私もつい先日までそのように認識していました。
が、非常に評価が高く、小さい割に高音質ということで大人気のMSP3は、世の中からは継続の声が非常に高かったようで、いつのまにか何事もなかったかのように復活し、2019年3月から生産も再開されていたんですね。私は長年同シリーズのMSP5 STUDIOユーザーなのですが、「MSP3が廃盤になったのなら、MSP5 STUDIOもそろそろなのかな…なら買い替えようか…」なんて思っていたところですが、完全元通りの形で復活していたことが分かり、安心したところです。
MSP STUDIOシリーズ。サブウーファーSW10 STUDIO(左)と7インチMSP7 STUDIO(中)は生産完了し、現行品はMSP5 STUDIO(右)
「2018年3月から2019月3月まで、諸々の事情でMSP3は販売停止していました。MSP5 STUDIOに関しては、数か月在庫を切らしてしまい、一時的に手に入らない状況であったことも事実です。今回の件でユーザーの方々には、大変ご心配をおかけしました。今後は、MSP5 STUDIO、MSP3ともに販売、またサポートを続けていきますので、末永く愛用していただけるよう尽力いたします」とヤマハの担当者は話していました。
MSP5 STUDIOを一回り小さくした3インチウーファーのMSP3
結果として現在、MSPシリーズとHSシリーズの2ラインナップが併存し、とくに5インチだけはMSP5 STUDIOとHS5の両製品がありバッティングしている状況。「結局、どっちがいいんだろう?」と迷われる方もいると思います。そこで、「好き嫌いはともかくとして、性能面ではどのような順番になるんですか?」とヤマハの担当者に率直な質問をぶつけてみました。その結果返ってきたのが、以下のコメントです。
「もともとMSP STUDIOシリーズはHSシリーズの上位モデルとして製品展開を進めてきました。その位置づけ自体は今も変わっていません。ただし、当然のことながらモニタースピーカーはサイズが大きいほうが、より広い周波数帯域や大きい音を再生できます。そのため周波数帯域や最大出力音圧レベルという意味では大きい順であり、同じ5インチにおいてはMSP5 STUDIOのほうが上、となっています」
つまり上から順番に並べれば、以下のようになっているというわけです。
HS7
MSP5 STUDIO
HS5
MSP3
ただし、スペックを詳細に表すと以下のようになっており、必ずしもこの順番通りではない点もありそうです。
MSP3 | MSP5 STUDIO | HS5 | HS7 | HS8 | ||
再生周波数帯域(-10dB) | 65Hz-22kHz | 50Hz-40kHz | 54Hz-30kHz | 43Hz-30kHz | 38-30kHz | |
クロスオーバー周波数 | 4.0kHz | 2.5kHz | 2kHz | 2kHz | 2kHz | |
最大出力音圧レベル | 96dB SPL | 101dB SPL | 101dB SPL | 102dB SPL | 105dB SPL | |
コンポーネント | LF | 10cmコーン | 5”コーン | 5”コーン | 6.5”コーン | 8”コーン |
HF | 2.2cmドーム | 1”ドーム | 1”ドーム | 1”ドーム | 1″ドーム | |
定格最大出力 | Total | 20W | 67W | 70W | 95W | 120W |
LF | 40W(4Ω) | 45W(4Ω) | 60W(4Ω) | 75W(4Ω) | ||
HF | 27W(6Ω) | 25W(8Ω) | 35W(8Ω) | 45W(8Ω) | ||
サイズ(WxHxD) | 144x236x167 mm | 179x279x208 mm | 170x285x222 mm | 210x332x284 mm | 250x390x334 mm | |
質量 | 4.4kg | 7.9kg | 5.3kg | 8.2kg | 10.2kg |
いずれにせよ、これはメーカーが示すスペックであり、自分のDTM環境にマッチする大きさか、好きなデザインか、そして好きな音であるか、は別問題。可能であれば楽器店など実物を見て、試聴して比較できるとよさそうですね。
また、現在「ヤマハ マイスタジオ投稿キャンペーン」と題し、自宅にあるMSPシリーズやHSシリーズの写真を撮って、FacebookまたはTwitterに投稿すると、毎月1名様にスタジオモニターヘッドホン「HPH-MT8」をプレゼントというキャンペーンが行われています。ヤマハのパワードモニタースピーカーをお持ちであれば、手軽に参加できるので、ぜひ投稿してみてはいかがでしょうか?詳しい応募方法については特設ページにて、ご確認ください。
【関連情報】
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ヤマハ マイスタジオ投稿キャンペーン
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