20年の時を経て、コルグのミュージック・ワークステーション、TRITONが復活! 拡張音源も含めソフトウェアで完全再現

1999年にKORG TRINITY(トリニティー)の後継機として誕生し、世界的大ヒットとなったコルグのミュージック・ワークステーション、TRITON(トライトン)。HI(Hyper Integrated)シンセシス・システムと呼ばれる強力なPCM音源を搭載したTRITONサウンドは90年代後半~2000年代前半のダンスミュージックシーンで数多く使われてきたわけですが、そのTRITONが、KORG Collection(旧称KORG Legacy Collection)の新ソフトウェアとして復活しました。

これまでMS-20PolysixMono/PolyM1WAVESTATION、そしてやや異色ながらARP ODYSSEYまでをソフトウェアで忠実に再現してきたKORG CollectionにTRITONが追加されたことで、各時代のシンセサイザ・サウンドを現在のDAWを中心とした音楽制作の世界で自由に使えることになったのです。ちなみにKORG Legacy Collectionは今年が15周年とのこと、ソフトシンセの歴史もずいぶん長くなってきたんだと実感します。実際、そのソフトウェア版のTRITONを試してみたので、これがどんなものなのか紹介してみましょう。

KORG Collectionのラインナップに1999年に発売されたTRITONが追加された

TRITONが発売された1999年、私もまだ某大手出版社でサラリーマンとして仕事をしつつ、コンピュータ・ミュージック・マガジンという雑誌でいろいろな記事を書いていました。そんな中で発売されたコルグのTRITONを見て、「白いワークステーションだ!」と驚いた覚えがあります。正確には白ではなく薄いグレーだったのですが、それまでワークステーションといえばブラックが常識だったのに、白っぽい見た目はインパクトがあり、その後のワークステーションのデザインが変化していったキッカケになったシンセじゃないかなと思います。

白いボディーのワークステーションとして登場したTRITON

3.5インチのフロッピーディスクドライブを搭載したTRITONは、このフロッピーディスクを介して、コンピュータとMIDIファイルのやりとりが可能であったのと同時に、Windows、Mac、PC-9801と接続可能なTo Host端子を備えたDTMと連携できるワークステーションでもありました。

今回登場したのは、その初代のTRITONを復活させたものです。TRITONシリーズはその後、鍵盤のないラックマウントできる音源モジュールのTRITON-Rack、廉価版であるTRITON Le、HDDやCD-ROMを搭載したTRITON STUDIO、けいおん!のむぎちゃんが持っていたシンセとしても知られる真空管を搭載したTRITON Extreme、5年前に「全部入りUSB-MIDIキーボードコントローラ、KORG taktileを使ってみた」という記事でも紹介したことのあったTRITON taktileなどがありましたが、これは初代にフォーカスを絞り、完全復活させたものとなっています。

もちろんWindowsおよびMacで利用可能で、スタンドアロンとして動作するほか、VST、AU(64bitのみ対応)のプラグイン環境で動作するソフトウェア音源となっています。

TRITONの起動画面

起動すると、ファクトリープリセット000の「Noisy Stabber」という、いかにもTRITONという音色が読み込まれた状態で動作し、鍵盤を弾けば即、演奏できるようになっています。画面には、OSC、FILTER、PITCH、AMP……などなどのパラメータが並んでいますが、和音を弾くとアルペジエーターが動作するようになっているのもTRITONのハードウェアをそのまま踏襲する大きな特徴です。

プリセット音色を選択できるブラウザ画面

画面上部の音色名のところをクリックすると、音色を一覧できるブラウザ画面が現れます。見てみると、FACTORY、EXB-PCM、GM、USERとあり、オリジナルのTRITONが標準で搭載しているファクトリープリセットだけでもBANK A~Dまでそれぞれ128音色ずつ計512音色が入っています。これらを切り替えて音を出しているだけで、楽しくて1日終わってしまうほど。それとは別に16種類のドラムキットにGM配列に対応した256のプログラムと9つのドラムキットも装備されています。

別売になっていた拡張ボードEXB-PCMシリーズの全タイトルがすべて揃っている

さらにEXB-PCMでは、拡張ボード「EXB-PCMシリーズ」として別売されていた音色もすべて再現されるようになっています。具体的にはピアノやキーボードなどを中心としたEXB-PCM01、ストリングスやブラス、クワイアなどをライブラリ化したEXB-PCM02、リズムのループを作るのに特化したライブラリのEXB-PCM03……と9つ全タイトルの拡張ボードが利用できるようになっています。

その結果、このKORG CollectionのTRITONには4,000を超えるサウンドプリセットが搭載されているのです。これらプリセットを使うだけでも、十分すぎるパフォーマンスを発揮してくれるTRITONですが、もちろん、さらにもう一歩中に入って音色をエディットしていくと、シンセサイザとしての可能性が大きく広がっていきます。

COMBIモードでは最大8つまでのPORGをレイヤーすることが可能

ちなみに画面右上のスイッチでPROGを選ぶと1つの音色を設定する形になるのに対し、COMBIを選ぶと最大8つのPROG音色をまとめたモードとなります。ライブ演奏などで積極的に活用可能ないわゆるパフォーマンスモードですね。8つの音色を同時に出力できるパワーを持ったワークステーションがTRITONというわけなのです。

この4つのノブだけで音色をいい感じにコントロールできる

では少しパラメータを見ていきましょう。まず抑えておきたいのが画面左上にあるREALTIME CONTROLSという1~4のノブ。これらは各プリセット音色に対して「いい感じに効く」ように割り振られた音色エディットパラメータ。適当に動かすだけで、気持ちよく音色が変化してくれます。これを画面上でマウスで動かしてもいいのですが、GLOBAL画面の左側のCONTROL ASSIGNでMIDIパラメータを割り当てておけば、外部のMIDIコントローラで動かすことができるようになります。

GLOBALS画面で、ノブのアサインなどもできる

では、シンセサイザとしてはどうなっているのでしょうか?まずEASYというタブをクリックして開くと、TRITONの大枠の構成を把握することができます。OSC=オシレーターにはTRITON本体に入っている波形およびEXB-PCM0~9の拡張音源ボードに入っている波形それぞれを読み込むことが可能になっており、それによって音の大枠が決まります。これを見るとHIGHとLOW、それぞれに波形を割り当てられるようになっていますが、鍵盤を強く弾いた場合、HIGHの波形が、弱く弾くとLOWの波形が出力される構成です。

EASY画面でTRITONの大枠の音色エディットが可能になっている

またFILTER TYPEでローパスかハイパスかを選ぶとともにその特性を設定できたり、FILTER EGでフィルターのエンベロープ、AMP EGでアンプのエンベロープを設定できるなど、この画面だけでもかなりの音作りができるようになっています。

計7つあるエフェクトのスロットにそれぞれ102種類のエフェクトからアサイン可能

またこのEASY画面の設定でも重要になるのが左下にあるIFX/MFXという7つのスロット。これはエフェクトを設定するためのものでインサーションエフェクトとしてIFX1~5、マスターエフェクトとしてMFX1~2と計7種類ものエフェクトが設定できるようになっています。フィルター、フェイザー、モジュレーション、リバーブ、ディレイ…といったカテゴリーで計102種類のエフェクトが利用でき、それを7つも組み合わせることができるからこそ、TRITONではこれだけ多様性のあるサウンドを作り出すことができるわけですね。

オシレーターの設定画面
さらにもう一歩踏み込むと、OSCをより細かく設定したり、PITCHを詳細に設定したり、FILTER、AMP、LFO、そしてエフェクト…とそれぞれしっかりと設定していくことで、より突っ込んだ音作りが可能になっていくのです。もちろん、そうして設定した結果はユーザープリセットとして保存することもできるので、自分のライブラリを増やしていくことが可能です。

フィルターの設定画面

そしてもう一つ忘れてはいけないのがアルペジエーター。コルグのワークステーションとしては、初めてアルペジエーターを搭載したのが、TRITONだったわけですが、ARPタブを選ぶことで、そのアルペジエーターのパターンや動作を設定することが可能になっています。このアルペジエーターのパターンもファクトリープリセットと拡張ボード用と選択可能で、その数300以上。これを試すだけでも結構楽しいですよ。

300種類以上用意されているアルペジオのパターンから選択が可能

以上ざっとKORG Collectionとして登場したTRITONについて触りだけを簡単に紹介してみました。20年前のミュージック・ワークステーションをコルグ自らが忠実に再現したTRITONは単体の楽器として使っても楽しいですし、もちろんDAWでコントロールして音楽制作に用いてもOK。当時TRITONを使っていた人にとってはもちろん、まったく触ったことのない人やTRITON自体を知らなかった人でも新しい音源として存分に活用できるものなので、まずは今回新しく登場したデモ版から試してみてはいかがですか?

 

開発マネージャー 井上和士さんのコメント
1999年登場ということで、ちょうど20周年… 間に合いました(笑)。ずっとソフト中心で音楽と関係してきた身としては、ワークステーションに対する偏見があったわけです。しかし、今回の再現の結果、その音の良さや細かい仕様の作り込み、はたまたデジタルシンセにおける、アナログ性とも呼べるものの発見など、開発には様々な驚きがありました。まさに温故知新です。80s, 90s リバイバル、そして来るべき00sのリバイバル…音楽は流転しますから、昔触っていただいていたお客様だけでなく、当事者ではなかった方々にも再発見していただけることを信じています。

開発リーダー 小野昌樹さんのコメント
ついにあのTRITONが、ソフトウエアならではの進化を遂げて復活しました!
一世を風靡したTRITONならではの分厚くて存在感のある音はソフトウェアでも健在です!また、多くのPCMや102個ものエフェクターを駆使したプリセットには、想像力を掻き立てられる音がたくさん詰まっています!皆様の音楽制作やライブ等、さまざまな場面で使っていただければと思います!

音源開発担当 藤山浩一さんのコメント
2004年に発売したKORG Legacy Collectionを開発する際、当時主力機種であったTRITONの製品仕様をずいぶん参考にしましたが、そのTRITONを遂にソフトウェア化しました。
アナログ回路を徹底解析し、オリジナルのデジタル信号処理技術でソフトウェア化したMS-20, Polysix, Mono/Polyの生みの苦しみとは異なり、デジタルシンセサイザーであるM1やWAVESTATIONはソフトウェア移植が中心ですが、それらに比べてTRITONの開発規模は非常に大きく困難な作業でした。こうして皆様にお披露目できることを嬉しく思います。

サウンド担当 岩田昌樹さんのコメント
TRITONは学生時代に中古で購入をして使っていた思い出の多いシンセサイザーです。TRITON-Rackは最近まで使用していましたが、芯のある音は楽曲の中での存在感と主張が凄かったので、TRITONを復刻するとなった時はその部分も含めて徹底的に音にこだわりたいと言う気持ちが強く出ていました。エンジニアの方々には細かくてうるさいと思われたかもしれません(笑)当時の開発者の方々にもご協力いただき、こだわりを持って細かな調整をしたことで、TRITONのサウンドを完全再現できたと言えます。EXB-PCMシリーズをすべて搭載した豊富なサウンド、アルペジエーターによるフレーズなど、ワークステーションの美味しい部分が詰まっていますので、音楽制作やライブでご活用いただければと思います。

 

【関連情報】
KORG TRITON製品情報
KORG Collection – Special Bundle v2製品情報
KORG Collection情報

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2件のコメント
  • 菅原至

    今でもリスニング派ですが、当時憧れの音源でした。
    是非ともZ1もだしてほしい…

    2019年12月29日 2:41 PM
  • TNT

    01/Wの前にTritonが来るとは!!

    2020年1月7日 10:03 AM

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