いまやマスタリングツールの定番となっているOzoneや各トラックをいい音に仕立ててくれるNeutronなど、AI=人工知能を活用した画期的ツールを次々と開発しているアメリカのメーカー、iZotope。今回そのiZotopeから、最新のAI技術を活用した画期的ともいえるポストプロダクション向けのプラグイン、Dialogue Matchが発売されました。
このソフトは、iZotopeが持つAI技術とリバーブ技術を融合して作られた製品で、ソースとなる音をプロファイリングして他の音源に当てはめてくれるプラグインです。たとえば異なるマイクで録った音をマッチさせたり、違う環境で録音した歌やアフレコなどの音質を合わせる作業時間を圧倒的に短縮できるのです。現在、発売キャンペーンのイントロ価格として12月10日までの期間、通常64,570円(税込実売価格)が53,790円となっているほか、Dialogue Matchを含めたバンドル製品もイントロ価格が用意されています。このDialogue Matchとは、どんなソフトなのか、紹介してみましょう。
iZotopeのポストプロダクション用製品、Dialogue Matchが誕生
Dialogue Matchは、もともと、映画やテレビ番組などの制作で利用するポストプロダクションのために開発されたプラグイン。たとえば「異なるマイクで録音された音声データの音質をマッチさせる」、「アフレコ音声の音質をプロダクションの音のようにする」、「吹き替えデータの音質をオリジナル音声の音質に変換する」……といったことを実現可能なプラグイン型のソフトウェアです。
機能としてはソースの音質を検出した上で、別の音源の音質をそれに揃えてくれるというシンプルながら、非常に効果的なツールです。通常はセリフやナレーションなどに利用するものであり、iZotopeのRXのような立ち位置のものなので、DTMというカテゴリーとは少しズレる面はありますが、レコーディングというという観点からすると、さまざまなな応用が効きそうなソフトでもあります。
Dialogue Matchに搭載されているパラメータは大きく分けて3つで、
Reverb Module
Ambience Module
のそれぞれです。
簡単に解説するとEQ ModuleはソースのEQをリファレンスして、音質を合わせてくれるというもので、Ozone 9に搭載されているMatch EQの技術を応用して開発していたものとのこと。これらReverb Module、Ambience Module、EQ Moduleの3つのパラメータを使って、音質から音の空気感まで、ソースとしている音源に近づけていくのがDialogue Matchであり、これまでのiZotopeの技術が詰まったプラグインでもあるのです。
Reverb ModuleはiZotopeの機械学習技術とExponential Audioのリバーブアルゴリズムを融合させたもので、ソース音源から空間の反射音を解析して抽出した上で、ターゲットに反映させる機能。これによって、スタジオで録音したのに、大きいホールで録音したかのようなリバーブ感をつけたり、逆に響きのある場所で録った音を、狭い部屋で録ったかのような音に変換してしまうことができます。
リバーブ成分を解析し、ターゲットに反映させるReverb Module
解析された状況をみてみると、初期反射音(Early Reflections)がどのように届いているのか、リバーブの音の伸びがどうなっているのかなど、細かく表示されるのも面白いところです。
そしてAmbience Moduleはソース音源のスペクトラルノイズを認識し、アンビエンス=“部屋の鳴り”を再現する機能です。これも解析結果をみると、各周波数帯ごとにどのくらいのノイズ成分が載っているのかなどが一目で確認することができます。リバーブ感とは別に、空調ノイズや、ファンノイズ、蛍光灯などからの音を解析した上で、空間固有の音の雰囲気を適用するというわけですね
環境ノイズをスペクトル的に解析し、反映させるAmbience Module
基本的な使い方はとても簡単で、まずリファレンスとなる音を再生し、それをキャプチャしていきます。あらかじめ音のファイルがあれば、それを読み込んでもOKです。続いて、ターゲットとなる音もキャプチャします。
これによって、AIが自動的にEQ、Reverb、Ambienceのそれぞれのパラメータを設定してくれるので、あとはトラックを再生すればOKです。必要あれば、手動でパラメータを調整することも可能です。また、この解析した状況のスナップショットを取っておけば、あとで複数の音に対して同じことを適用することもできます。
次にターゲットになる音をキャプチャすると、AIが解析してくれる
ちなみに、そのEQ Moduleの元となったMatch EQについては先日「プロ御用達のマスタリングツールがOzone 9にバージョンアップ。人工知能・機械学習の強化で不可能を可能に!」という記事でも触れていますが、ある特定の曲に似た雰囲気の音に仕立てることが可能にするEQ機能です。
具体的には、リファレンスとなる楽曲をキャプチャして、そのEQ特性を抽出し、それを当てたい曲に施すと、似たEQ特性になるというもの。Ozone 9では、2mixでのEQ特性をメインに扱っていましたが、Dialogue Matchではより細かくEQ特性をキャプチャします。ソースとなっている音源のマイクやマイクプリ、そこに掛けられたEQなどの特性とそっくりな音質にすることができるのです。
そのためポストプロダクション用だけでなく、たとえば「ボーカルのレコーディングを終えたけど、次の日になってもう一度聴いてみたら、1部分だけ録り直したくなった」とか「ミックスの段階になって歌詞が間違っていることが発覚して、録り直さなくてはいけなくなった」……といった場合に、Dialogue Matchを活用できそうです。
そう、本来であれば同じスタジオに戻り、同じマイクを使って、同じセッティングをして、フルコーラスでの録り直しが必要なところを、ボーカリストの自宅で、ボーカリストの手持ちのマイクを使って1部だけを録り直しても、それを同じスタジオで録音したかのような音に仕立て直すことができるというわけなのです。
また、たとえ同じスタジオが使えなくて、以前録音した環境と違ったとしても、さすがに限度はありますが、違和感ないところまで音質を揃えることができるのです。それこそ、アフレコなどのケースにおいて、キャラクターごとに録音環境が違ったとしても、音質を揃えたりできそうですね。他にも使えるケースはあると思いますが、とにかく今まで不可能だったり、時間が掛かっていた作業の短縮ができるので、便利で画期的なプラグインといえると思います。
動作環境としては、Macの場合はOS X 10.8.5 Mountain Lion~macOS 10.14 Mojaveで、WindowsはWin 7~Win 10となっています。現時点ではAAX Audio Suite(64bit)のみの対応となっていて、対応のDAWはProTools 11以降です。ここは、ポストプロダクション向けの製品として開発されているので、仕方ないところではありますが、今後いろいろな環境で使えることを期待ですね。
そんなDialogue Matchですが、今回新発売したのを機に、
・RX 7 Advanced Reverb Bundle
・Post Production Suite 4
・RX Post Production Suite 4
というセット製品も発売されます。このうちPost Production Surround Reverb Bundle、RX 7 Advanced Reverb Bundle、Post Production Suite 4の3製品については、Dialogue Match同様12月10日まで特別価格で販売されています。なお、それぞれの商品内容は以下のようになっています。
Post Production Surround Reverb Bundle | RX 7 Advanced Reverb Bundle | Post Production Suite 4 | |
Dialogue Match | ◯ | ◯ | ◯ |
RX 7 Advanced | ◯ | ◯ | |
Stratus Surround Reverb | ◯ | ◯ | ◯ |
Symphony Surround Reverb | ◯ | ◯ | |
Neutron 3 Advanced | ◯ | ||
Insight 2 | ◯ | ||
RX Loudness Control | ◯ | ||
Groove3 Tutorials | ◯ | ||
Pro Sound EffectsThe Odyssey Collection:Design Elements library | ◯ |
今後RXと同様にDialogue Matchは、ポストプロダクションの世界の定番ツールになりそうな気がします。こういったタイミングで、セットでiZotope製品を手に入れるのも一つの手ですね。
【関連情報】
Dialogue Match製品情報
TACオンラインストア(iZotope製品)
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