プロのレコーディングエンジニア、マスタリングエンジニアからアマチュアのDTMerにとっても、もはや定番中の定番ともなったマスタリングツール、iZotopeのOzoneがバージョンアップしてOzone 9になりました。初代Ozoneが誕生してから17年。ここ最近のiZotope製品はAIによる機能強化が目覚ましく、今回のOzone 9もそこが目覚ましく進展し、他社ツールでは追いつけないレベルへと昇華しています。
Ozone 8と同様、人工知能による自動マスタリング機能=Master Assistantが機能強化されているのはもちろんですが、今回のOzone 9における最大のトピックスといえるのはMaster Rebalanceというもの。これは最上位版のAdvancedのみに搭載された機能で、Vocalだけを大きく持ち上げり、ベースだけ、ドラムだけにフォーカスを当てて、大きくしたり、小さくしたりをリアルタイムに行えるという画期的機能。さらにLow End Focusという低域に張りを出させる機能、既存の楽曲の質感に近づけることができるMatch EQなどユニークな機能がいっぱい。Ozone 9とはどんなソフトなのか、紹介してみましょう。
iZotopeからOzoneの新バージョン、Ozone 9がリリース
先週、Ozone 8 Elementsが無償配布されたり、新バージョンのティーザー広告がネット上でも駆け巡っていたので、どんなものが出るのか……と期待されていた方も多いと思いますが、米iZotopeがマスタリングソフトのOzoneの新バージョン、Ozone 9を発表しました。
ラインナップは従来のOzone 8と同様で
Ozone 9 Standard(24,800円)
Ozone 9 Elements(12,800円)
の3製品(カッコ内は税抜き実売想定価格)。先に主な新機能の名称と各ラインナップの違いだけを紹介すると、以下の表のようになっています。
Ozone 9 Advanced | Ozone 9 Standard | Ozone 9 Elements | |
Master Rebalance | 〇 | ||
Low End Focus | 〇 | ||
Tonal Balance Control | 〇 | ||
Vintage Master Assistant & Modules | 〇 | 〇 | |
Match EQ | 〇 | 〇 | |
NKSサポート | 〇 | 〇 | 〇 |
リサイズ機能 | 〇 | 〇 | 〇 |
では、実際どんな機能なのかを順に紹介していきましょう。まず、その目玉機能であるMaster Rebalanceは、その名前からも想像できる通り、iZotope RX 7にあったMusic Rebalanceのような機能をOzoneに持ってきたもの。Music Rebalanceは2ミックスされた普通の音楽素材を、ボーカル、ベース、ドラム、その他の4トラックに分解する魔法の機能でした。それに対し、Master Rebalanceは最終マスタリングにおいて、「やっぱりボーカルをもうちょっと強めに出したい」とか、「ドラムがキツすぎたので、ちょっとだけ下げたい」、「ベースにもうちょと持ち上げたい」といった、本来不可能なことを実現する機能です。
Ozone 9 Advancedのみに搭載されているMaster Rebalance
普通であれば、これはマスタリングでやるべきことではなく、ミックスですべき処理。でも、最後の最後でちょっとだけ……なんてことはよくあるもの。普通はEQでちょっといじるとか、場合によってはM/S処理をして真ん中の音を上げ下げする……なんて方法をとります。でも、それでは、特定帯域、特定の定位をいじることになるため、ボーカル全体を上げ下げするといったことはできず、下手なことをすると全体のバランスを壊しかねません。しかし、このMaster Rebalanceでは、ボーカルだけを持ち上げるとか、ベースだけを下げる……なんてことが、まるでマルチトラックのデータのフェーダー操作する感覚で処理することができるのです。
しかも、RX7のMusic Rebalanceと異なり、リアルタイム処理するので、音を聴きながら上げ下げすることが可能で、DAWのマスターにプラグインとして挿していれば、そのフェーダーの動きをオートメーションで記録することまで可能なんです。かなり未来のマスタリングツールだ、ってことが分かりますよね。
ただし、これはリアルタイム処理するだけにそれなりのCPUパワーを喰います。そのため調整可能なのは、
ベース
ドラム
のいずれか1つ。まあ、Master Rebalanceを3つ挿せば、3トラック(?)同時に動かすことは可能ではありますが、相当CPUパワーがないと厳しいですし、そもそもマスタリングでの処理だから、ここで派手にいじるというのは正しいアプローチではなさそうですね。
2つ目に紹介するのも、やはりAdavacedのみに搭載されたLow End Focusという機能で、ベース音に着目して、音の雰囲気を変えたり、より目立たせたりすることができるユニークなツールです。これは先日DTMステーションPlus!の番組にも出演していただいた、iZotope RXの開発者でもあるAlexey Lukinさんが発案して開発した独自機能。ほかのどのメーカーのエフェクトにも存在しない特徴を持つ機能とのこと。
単純に低域をブーストするというだけでなく、その高次倍音も持ち上げることで、ベースの音をハッキリ・クッキリと目立たせることができます。また、パンチ力のあるベースにするPunchyか柔らかいベースにするSmoothかを選んだ上でContrastというパラメーターで画像ソフトのように音のコントラストを調整することができ、どんなベースサウンドにするか仕立てていきます。その上で、Gainを動かすことで、より強く打ち出したり、抑え目にしたりすることができる仕掛けとなっています。
Low End Focusにはさまざまなプリセットも用意されている
理論としては、以前、レコーディングエンジニアの飛澤正人さんに教えてもらった「プロが明かす、低域を安定させ、作品のバランスを整える魔法のテクニック」というものと近いのかな、と思いますが、これを簡単にできてしまうと同時に、ベースの音色も大きく変えられるのは面白いところ。プリセットもいろいろ用意されているので、マスタリング用途だけでなく、トラックに使うのにも良さそうです。
一方で、前バージョンであるOzone 8で大きな話題になった、人工知能によるマスタリング機能、Master Assisntantも進化しています。これはAdavancedとStandardでの進化なんですが、モードとして、Modern(モダン)とVintage(ビンテージ)を選択できるようになりました。どちらを選ぶかによって、実際の処理に使うEQやコンプに通常のデジタルモノを使うかビンテージモノを使うかを決めるのです。
人工知能でマスタリングを行うMaster Assisntant機能
これまでのOzone 8 Advancedを使ってきた方ならご存知の通り、Vintage EQ、Vintage Compressor、Vintage Limiter、Vintage Tapeといったモジュールがあるので、AI解析した結果、これらのビンテージモノを使うモードができたというわけなのです。どちらのモードを選ぶかによって、だいぶ雰囲気も変わってくるので、切り替えて試してみると面白いですよ。
人工知能が判断した結果、ビンテージエフェクトでマスタリング処理される
さて、このOzone 9でもう一つ大きな新機能として挙げられるのがAdavancedおよびStandardに搭載されたMatch EQというもの。実は従来のOzone 8のEQの中にもMatchingという機能が用意されていたので、それを分離独立して、より使いやすくしたもの。簡単にいうと、ある特定の曲に似た雰囲気の音に仕立てることが可能なEQ機能なんです。
リファレンスとする曲の雰囲気を他の曲に施すことができるMatch EQ
使い方は簡単。レファレンスとなる似せたい楽曲をキャプチャし、そのEQ特性を抽出。それを当てたい曲に施すと、それっぽくなる、というものなんです。たとえて言うなら、ギターアンプシミュレーターであるKemperの、マスタリングEQ版みたいな感じでしょうか……。まあ、さまざまな特性をモデリングするKemperに対し、Match EQはあくまでもEQだけに特化したものではありますが、とても簡単にそれっぽいサウンドに仕立てることができる意味では、非常に便利ですね。またMatch EQのプリセットもいろいろと用意されています。
ちなみにEQ自体の性能は、Ozone 8のものと大きな差はないとのことですが、EQもコンプレッサも、UIが進化し、ちょっとNeutronっぽい使いやすいものになっているのも大きなポイントだと思います。
そのほか、今回のOzone 9で、iZotope製品としては初めてNative Instrumentsの規格NKS=Native Kontrol Standardに対応となりました。これによりキーボードのKomplete Kontrol-SシリーズやMaschineなどでOzoneを操作することが可能になっています。
VST2/3、Audio Units、AAXはもちろん、NKSにも対応した
そのほかにも、4Kのディスプレイにも対応できるよう、Ozoneの各画面の大きさを自由にリサイズできるようになったり、Tonal Balance Controlが進化して、メータリングが滑らかになったり、Imagerが進化してステレオイメージをより直感的に調整できるようになったり……とさまざまな点で進化を遂げています。またAdavancedであれば、すべてのモジュールを独立したプラグインとしてDAW内で使用できるのも大きなポイントですね。
Ozone 9 Advancedなら、各モジュールを独立したプラグインとして利用可能
このように新しくなったiZotopeのOzone 9はAdvanced、Standard、Elementsの3ラインナップがあるわけですが、今回Ozone 9にバージョンアップしたのを機に、
Music Production Suite 3(99,800円)
というセット製品も発売されます(カッコ内は税抜き実売想定価格)。このうちTonal Balance Bundleは
Neutron 3 Advanced
Neckar 3
Tonal Balance Control 2
iZotope Relay
Tonal Balance Controlには計5つのソフトが収録されている
をセットにしたものとなっています。
一方のMusic Producition Suite 3はiZotopeの全部入りパックともいえるもので、
Neutron 3 Advanced
Neckar 3
RX 7 Standard
VocalSynth 2
Insight 2
Tonal Balance Control 2
iZotope Relay
Exponential Audio R4
Exponential Audio NIMBUS
をセットにしたものです。このタイミングで、こうしたセットでiZotope製品を手に入れるというのもいいかもしれませんね。
【製品情報】
iZotope Ozone 9製品情報
【価格チェック&購入】
◎Rock oN ⇒ iZotope Ozone 9 Advanced , Standard , Elements
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◎Rock oN ⇒ Music Producition Suite 3
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