キックを並べれば、かっこいい4つ打ちになるのか!?リズム作りの奇才、Watusiさんが教えるビート・メイキング・セミナーが11月スタート

かっこいいビートを作りたい!」、これは多くのクリエイター、DTMerが抱く願望ではないでしょうか? 「DAWのドラムトラックで1拍ごとにキックを並べていけば4つ打ちができるんだけど、何かが違う」、「あのヒット曲のリズムをコピーしているつもりだけど、微妙にノリが違う」……そんな悩みを持っているのは初心者だけでなく、プロの作家も同じかもしれません。

そうした問題を解決してくれる、ダンスミュージックにおける究極のテクニックを伝授してもらえるビート・メイキング・セミナーが11月からスタートします。セミナー講師を務めるのはLori FineとのユニットCOLDFEETを中心に、プロデューサー/DJ/トラックメイカー/ベーシスト、そしてソロ・アーティストとしても活躍されているWatusi(@watusi_coldfeet)さん。以前、Watusiさんのスタジオで寺子屋的に教えていたものを、優れた音響空間のスタジオで体系的に展開するのだとか。プロの作家からアマチュアDTMerまで、本気でビート・メイキングを考えている人に向けたセミナーとはどんなものなのか、そのセミナーのさわりの部分をWatusiさんに教えてもらいました。

プロデューサーでありDJ、トラックメイカー、ベーシスト、そしてアーティストとしても幅広く活躍されているWatusiさん

--11月から東京・お茶の水のスタジオ、Rittor BaseでWatusiさんのセミナーがはじまる、と聞きました。これはどんなものなんですか?
Watusi:5年くらい前から、ここ僕のスタジオで「Watusiの私塾」というのを始めたんです。DAWでどうすればいい音が作れるのかなど、実践的な私塾ですね。1クラス5人で始めたんですが、大学生とか若い子たちに5名で2クラスくらいの規模で本質的な部分を僕なりに伝えられたらと、設定も安価でFacebookで募集したら、2日で50人以上以上集まっちゃった (苦笑)。そしたら来たのもプロの作家やエンジニアたちが多くて……、オマエら大金置いていけよ、って (笑)。スタジオが小さいので、5人ずつくらいしかできなくて、1クール=4回で少しずつ少しずつ。仕事も忙しかったので飛び飛びで3年くらいかけ、結果200人以上に教えました。内容を増やしてシーズン1とシーズン2をそれぞれ4回ずつ作ったんですが、名古屋や関西から新幹線で通ってくれた人もいて、僕の方が驚いてました。その「Watusiの私塾」を改めてブラッシュアップし、しっかりと低音まで鳴らせるサブウーファーも備えたRittor Baseという音響空間で、基礎編の前期5回(2019年11月12日~2020年3月10日)、応用編の後期5回(2020年4月14日~2020年8月11日)と、それぞれ定員15名で開講する予定です。ここではまず音楽を見えるようにしていきたいと思っています。

セミナーが行われるスタジオ、御茶ノ水にあるRittor Base

ーー音楽を見えるように、とはどういう意味ですか?
Watusi:僕はよく「音楽はお弁当箱だ」と言っているんですが、音楽は入れ物の大きさが決まっていて、Lがあって、Rがあり、その間にセンターがある。ハイも出るし、ローも出るし、その間にミッドがある9面のお弁当箱。それがバランスよく配置されることで、いいお弁当、いい音楽になるわけです。ところが、ご飯ばかり詰め込んでバランス悪くなって中身が崩れてたり、詰め込みすぎて箱から溢れているのに無理やり蓋をギュってしめたら、こんなに酷いことになっちゃった……僕が見るといまの音楽はそういうのが多いんです。実際には単なる箱じゃなく、同様に3層くらいはある9面の立方体になっている。よく奥行きはリバーブやディレイで、と言われるけど、コンプレッサを使っても前後の奥行きは表現できますし、実際、EQやコンプを使って、上下や前後をどう表現するのかなども見せていきます。

ーーコンプもEQも一番基本的なエフェクトでありながら、なかなか使い方が難しいです。
Watusi:最高の音でドラム、ベース、ピアノ、ギター、ボーカル……とレコーディングできたのに、結果ベースが聴こえて来なくなっちゃった、というときにどうしますか?まずはみんな単にベースの音量を上げようとするんだけど、それではたいていうまくいかない。「ベースの何が足りないのか」、まずこれを把握してからいじり出さないと、ダメなんです。ラインが見えなくなったのか、量感が物足りないのか……、そこを見極める必要がある。ベースといっても実は、ものすごく幅広い周波数帯をもっていて、そのどこかがほかの楽器とぶつかってマスキングされている、それをどう他の楽器と譲り合っていくのか、そこを見極めてEQし合っていく事で、音量は上げなくてもほとんど解決していきます。またベースが聴こえないというとき、ベースのEQをしているとき、ベースだけを聴くのではなく、ベースのEQの変化によってキックが聴こえてくるか、ピアノが、ギターが前に出てくるかを感じる、いじっている音ではない、前に出したい他の音を聴くトレーニングも重要なんですよ。先ほどの通り、音楽は決まった大きさのお弁当箱だから、キャパシティを超えた太いベースがあったら、キックが入る余地ないじゃん、なんてことになるので、その辺を考えながら作っていくんですね。そしてリズムはハーモニーが重要ということもしっかり教えていきたいですね。

Pro Toolsを使いながら具体的に解説してくれるWatusiさん

--リズムはハーモニック??
Watusi:リズムにキーがないなんていうのは大きな間違い。ある意味、最初にキックを作ったときに、自分の行きたいところが全部分かるようじゃなくちゃいけない。なぜなら、キックはキーを持っているので、キックを決めた時点で、極端な話、これがマイナーなのかマイナー7なのかの気持ちでやっていくべきものなんです。実際ハーモニー感覚のないプロのドラマーはいませんし、これは打ち込みでも同様なんですよ。ドラムというのはものすごくハーモニーを生んでいるので、これによって9面体の中に、どういう余地を残して作ったのかが非常に大切なんです。常に、これがマスタリングまで行くつもりでOKのキックを作る。それができたらスネアを作る、そのあとハイハットを作る……だからこそ、録りの段階で徹底的にこだわるんです。キックを作った時点で、ほかのさまざまなマスタリングと比較してみて、負けたらやり直し。そんな気概を持って作っていくものなんです。そんな講義をして前期が終了する感じですね(笑)。後期はこれを各ジャンルの楽曲に当てはめて実践的にやっていくのです。

Watusiさんのスタジオに並ぶビンテージ機材の数々

--すごく深い感じがしますが、これはエンジニアのための音づくり講座というわけではないんですよね?
Watusi:にわかエンジニアになるための早わかりEQ、コンプ講座ともいえるかもしれませんね。でも、これがしっかり分かれば、プロのエンジニアを遥かに超えられずはずです。中田ヤスタカくんが画期的だったひとつは、彼の音作りにはエンジニアが介在していないこと。僕はエンジニアをプロデューサーと思っていて、自分の100%を超える為にお願いしている部分が大きいんだけど、自分だけでは決して超えられない自分の100%というハードルをDAWをバンドメイトのような友達にすることで越えられる可能性があると思っています。コンピュータのおかげで、そんなことが可能になったわけですから。

ただ同じキックの波形をグリッドに並べただけではグルーヴは生まれない、とWatusiさんは話す

--打ち込みの話が出ましたが、MIDIの打ち込み講座というわけではないんですよね?
Watusi:DTMでのMIDI打ち込みではなく、DAWのオーディオをいかにして使い切るかという講座です。一番最初にやるのはDAWのオーディオトラックにTR-909のキックをグリッドに合わせて並べていく。これだけでTEMPO125のハウスのような4つ打ちができる。ここで、みんなすぐに、スネアを……と行ってしまうんだけど、もっとグルーヴというものをしっかり考えてほしい。グルーヴというとタイミングのズレというのを思う人も多いと思いますが、演奏で重要になるのはタイミングだけでなく強弱や長さ。

そのまま4つのトラックに分けてみる

そこでキックが4つあればこれを1拍ずつ4つのトラックに分けてみる。DAWならこれで4つのフェーダーができるわけですが、フェーダーが4つあれば、ボリュームの上げ下げができる。もうこれで4つ打ちでもずいぶイメージが変わります。さらにそれぞれの長さをいじってみると、まったく違うものがものになり、ノリが全然違ってくるのです。

4つのトラックのフェーダーを変えるだけでずいぶん雰囲気は変わってくる

DAWにはグリッドというオイシイものがあるおかげで、チェスみたいにコマを並べていけば、気持ちいいもの、カッコイイものができていくわけです。

クリップの長さを変えれば、さらにバリエーションも増えていく

--キック1つを別のトラックに分解するというのは、考えていませんでした。これだと発想も変わりそうですね。グリッドに揃えるのは非常に便利ではあるけれど、タイミングを動かしたりはしないのですか?
Watusi:そこについては面白い考察があるので、それを紹介していきます。TR-808やTR-909、あらゆるシーンで使われていますが、実機のシーケンサで自走させて鳴らしたものって、独特な雰囲気があって、サンプリング素材をDAWで並べたものとはちょっと違うように思いませんか?それが気になって、調べてみたんですよ。すると自走させた909とDAWでの正確なグリッドを比べると、少しバラツキがあるんです。さらに見ていくと、頭は割と正確に出ているんだけど、1拍目の裏は微妙に前に来ているのに2拍目の裏がちょっと遅れている。個体差があるとしても、ウチの909の場合、明らかに奇数拍の裏が前目にあって、ジャストにグリッドに揃っていないんですよ。また音色で見てみると909のハイハット、シンバルなど金物系のサンプリングしたものは若干前倒しになっている。当時の処理能力を考えて少し前に出すようにしていたのかも……なんて思っています。そこで、奇数拍だけを少し前に、偶数拍だけを少し後ろにズラすことで、何か違ったグルーヴが出てくるのでは……と試してみると見事に気持ちいいノリが出てくるんです。

TR-909を自走させたタイミングの頭がグリッドから微妙にズレている

--最近、TR-808やTR-909の開発者である菊本忠男さんとやりとりをさせていただいていますが、サンプリング再生のタイミングはともかく、偶数拍・奇数拍の揺れは、それを狙ってやっているわけではなく、偶然の産物でしょうね……。TR-909(上)とTR-808(下)

Watusi:そうだと思います。一方で、808でも4つ打ちを打ち込んで、自走させてみると、909とはまた少し違う動きをするんです。タイミングという意味では、909以上に結構頑張って、グリッドに合わせてくる。表も裏も結構ジャストのところにあるけれど、正確に見ていくとある法則性が見えてくる。808はパラアウトができるので、これを使って比較していくとキックとスネアは裏拍までジャストに近いのに、16分のグリッドで見てみると、上モノは結構遅れているんですね。ただ、このズレが808らしさを出している。だからDAWでもそのままグリッドに並べるだけだとそれっぽくならない。これくらい、ハネているということを認識すると違ってくると思います。実はこれ、世界中の音楽のリズム、たとえばサンバやボサノヴァなんかでも似たことが言えるんです。どこでモタって、どこで取り戻しているのか…そうしたノリを把握していくことで、ダンスらしいリズムを打ち込めるようになる基本中の基本なんです。

808の上モノはジャストタイミングより遅れている

--WatusiさんはPro Toolsをお使いですが、講座もPro Toolsになるんですよね。
Watusi:確かに、僕が使っているのがPro Toolsなので講座もPro Toolsを使いますが、とくにPro Toolsでしかできないとか、Pro Tools特有の機能を使うわけではないので、どんなDAWでも問題ないです。ダンスミュージックの基本は4小節で、これを作ってみて、一生聴き続けていたい、と思うようなものをどう作るか。これさえ決まれば、ここに入るベースの音色やノリも自ずと決まってくるんです。そういう意味で、前期においては、これを延々とやっていきますよ。1回の授業時間は2時間で19時スタート。参加してもらった人には自分の曲を持ってきてもらってコメントしていくといったこともする予定です。ぜひ、多くの方に参加していただければと思います。

ーーありがとうございました。

以上、Watusiさんにセミナーのさわりの部分だけをお話いただきましたが、いろいろな発見がありそうです。なお、このセミナーに参加すると「Watusiさんのオリジナルサンプル素材詰め合わせセット」が受講者全員にプレゼントされる特典も用意されているとのこと。ビンテージマシンのアレコレや、Watusiさんが加工したループ素材なども入っているとのことなので、これも気になるところですよね。興味のある方はぜひ申し込んでみてはいかがでしょうか?

【関連情報】
Watusiのビート・メイキング・セミナー概要