MIDI検定1級を保持し、IQ130以上を持つMENSA会員でもある声優の小岩井ことり(@koiwai_kotori)さんが、今度はメタルバンド、DAW=Dual Alter Worldを結成し、メタルアルバム『ALTER EGO』を本日9月18日にリリースしました。組んだ相手は日本のヘヴィメタルバンドとして世界中で活躍するBLOOD STAIN CHILDのギタリスト、RYU(@RYU_BSC)さん。本気のメタルアルバムの制作です。
可愛いキャラクタを多く演じる小岩井ことりさんと、メタル。ちょっとかけ離れたイメージもありますが、以前からメタル好きを公言しており、今回念願叶ってバンド結成、アルバムリリースとなったようです。ただ、この初アルバムは、東京にいる小岩井さん、大阪にいるRYUさんが、それぞれ自宅でDAWを使って制作・レコーディングし、ネットでデータのやり取りをしながら完成させたものなのだとか。バンド名のDAWもそうですが、曲名を見るとUADなんてのもあるなど、DTMユーザーにとっては意味深なアルバム。実際、どのように制作したのか、お二人にインタビューしたので、紹介してみましょう。
メタルバンド「Dual Alter World」の小岩井ことりさん(右)とRYUさん(左)
ーーお二人のバンド、DAWが発表されたときには、あまりにも唐突だったこともあって、驚きましたが、どういうキッカケでバンド結成されたのですか?
小岩井:私、メタルが大好きなので、メタルボーカリストになるのが夢だったんです。いつか絶対に叶えたい……とは思っていたものの、メタルってバンド文化のものだから、なかなか難しいな、どうしたらいいのかな、と漠然と考えていました。そんな中、RYUさんからお声がけいただいたんです!
RYU:私自身は、長らくバンド活動をしていますが、それとは別にアーティスト活動をしてみたいな、やるなら二人組で何かできたら、と考えていました。一方で、仕事で声優さんの作詞・作曲をすることが度々あるのですが、いつもその歌唱力、表現力の凄さに驚かされてきました。ロックシンガーには無い、いいものを持っているな、と。なので、一緒にやるなら声優さんと…と7、8年前から思っていたのです。あるとき、そんな話をレーベルにしてみたところ『やってみたらいいんじゃない』と言われ、誰かいい人いないだろうか…、と探し始めたんです。せっかくやるならメタル好きな人がいいな、と探して、すぐに見つかったのが、こっこちゃん(小岩井さんの愛称)でした。彼女が出演していたアニメは見ていたけれど、まったく面識はなかったので、レーベル経由で連絡してみたんですよ。
今回リリースされた1stアルバム「ALTER EGO」(豪華版のジャケット)
--もともと面識があったわけではないんですね。
小岩井:もちろん、BLOOD STAIN CHILDは知っていたし、北欧とかでも人気のある日本のメタルバンドだって聞いていたので、RYUさんからお声がけいただいたときには驚きました。ホントにメタルボーカリストになりたかったので、すごくいいキッカケをいただきました。
RYU:声をかけて、どうなるのか、まったく予想がつかなかったので、ドキドキしながら待っていたのですが、それから1週間程度でお返事をいただき、まずは一度会って話をしてみよう、ということになりました。実際にミーティングしたら、話ははずみ、とりあえず1つアルバムを作ってみようということになったのです。
小岩井:RYUちゃん、曲を作るのメチャ速いんですよ。ミーティングの後、すごい勢いで曲がいっぱやってきて、これを元にアルバムを作っていこうか、って。
インタビューに答えてくれたRYUさん(左)、小岩井さん(右)
--いっぱいって、実際どのくらいなんですか?
RYU:普段から1日7曲くらい作るので、そのくらいのスピードで作って送りました。11月の中旬から下旬のころだったでしょうか……。
小岩井:ほぼ、そのまま使えるというくらいしっかりした形で曲ができあがっていて、それぞれにタイトルもついているんです。2月にMVを撮影することを決めていたので、RYUちゃんが送ってきてくれた曲の中から、MV用の曲を決めましょう、それから写真撮影をしましょう……と進めていきました。その撮影したMVがこちらの『chaos effect』です。
--最初のミーティングからトントン拍子で進んでいったわけですね。
小岩井:MV用の曲をどうするか、というのと同時にデスボイスの特訓を始めたんですよ。当初、「デスボイスはできないです」、と言っていたんです。やはり声優なので、これで喉を壊してしまったら困りますから。ただ、なんとかできないだろうか、と家でいろいろと発声法を研究しながら試していたところ、似たような声が出せるようになったんです。LINEで録音した音をRYUちゃんに送りながら、練習し、だんだんデスボイスとして使えるものになっていきました。
--デスボイスを出しても、声優としての仕事に支障はなかった、と。
小岩井:はい。私のやっている方法であれば、声優としての普通のお仕事の範囲内に相当するもの。人によるとは思いますが、大音量で長時間やり続けるのでなければ、大丈夫です。一言でデスボイスといっても、スクリーム、シャウト、グロウル、低音の水が流れるような声を出す下水道ボイス……といろいろあるのですが、私が真似した師匠はアーチ・エネミー(Arch Enemy)の元メンバーで女性ボーカルのアンジェラ・ゴソウ(Angela Gossow) さんの出すグロウル。まだまだ未熟な面はあるのですが、1週間ほどでだいたい習得することができ、歌えるようになったんです。実はこのグロウル、悪魔とかゾンビの役でも使えるものなので、私の声優としてのレパートリーが増えた感じなんですよ!
--さすが、声優さんですね。では、実際の制作について、どのように行ったのか、役割分担なども含め、少し具体的に教えてください。
RYU:2月にMVを撮影してから、徐々に制作を開始していきました。昨年秋に送った曲を元に私のほうで編曲し、こっこちゃんが作詞です。また、このうち「Veracila」はこっこちゃんの作曲ですね。
小岩井:ホントは、半分くらい自分で作曲してみたかったのですが、RYUちゃんの制作スピードが速すぎて追いつけず1曲だけでした。それから12トラック目の「Tokyo Interface」という曲はヘヴィーメタル・アニソンシンガーFuki(Fuki Commune/Unlucky Morpheus/DOLL$BOXX)(@Fuki_official)さんが作詞で参加しています。実は、Fukiさんが先日リリースした『Million Scarlets』というアルバムで、Dual Alter Worldとしてコラボもしているんですよ。ここではRYUちゃんがアレンジを行い、私がコーラスをしていました。
--小岩井さんは、Cubaseユーザーとして知られていますが、やはりRYUさんともCubaseのプロジェクトデータでのやりとりだったのですか?
小岩井:制作はお互いに家で作業していましたが、コミュニケーションのほとんどはLINEを使って行い、プロジェクトデータも共有していませんでした。書き出したWAVデータやMIDIデータをやりとりしていた程度です。昨年11月に私の手元に来たときには、ほぼ完成品になっていて、まさにカラオケに歌うだけでしたから(笑)。
RYUさんの自宅スタジオ。Pro Toolsを使い、ギターのレコーディングには右上のKEMPER profiling ampを使用している
--RYUさんはDAWは何を使って、どのような手順で制作しているのですか?
RYU:DAWはずっとPro Toolsを使っています。一応Cubaseも入ってはいるんですが、ほぼ起動してないですね(苦笑)。制作の手順としては、まずメロディーから作り、リズム、ベースを入れて、ギターを弾いて、最後にある程度うわものを載せたらデモの完成です。最初のメロディーラインとコード進行はピアノを使ってMIDIで打ち込んでいきます。この時点でフル尺で打ち込んでいきます。ドラムも打ち込みで、音源にはSuperior Drummer 3の拡張音源SDX THE METAL FOUNDRYとSTEVEN SLATE DRUMSを使ってます。またベースは、まずSpectraSonicsのTrilianで打ち込んでデモを作っているのですが、最終的にはBLOOD STAIN CHILDのベーシスト、Yakkyに弾いてもらったものに差し替えてます。ウワモノはストリング関係はKONTAKTベースの音源であるCINEMATIC STRINGS 2やSPITFIRE CHAMBER STRINGSを使っています。そのほかデジタルシンセ系は、その大半はMASSIVEを使っていますが、実機であるACCESS Virus TI2 Polarも少し使っていますね。そのほかクワイア音源として8DIO Lacrimosa Epic Choirなんかも使っています。
RYUさんが普段使っているCaparison Guitarsブランドのギター。DAWでは真ん中の白を中心に隣の青を使用した
--もう少しバンド的なものを想像していましたが、バリバリのDAW環境ですね。RYUさんは、いつごろからこうした機材や打ち込みなどをしていたんですか?
RYU:スタジオでレコーディングするようになったころ、現場ではPro Tools 24が使われていて、Sessionファイルを家に持ち帰って編集したいな、と思い、Pro Tools LEを導入したのが最初です。それ以前にRolandのVS-880を使っていたこともありますが。その後、Pro Tools MIXが出てDSPカードのTDM環境に移行していったのですが、プラグインとかが結構不安定だったのと、PCの処理能力が向上してきたのでネイティブ環境へ変えたのです。オーディオインターフェイスはApogeeのQuartetを使っていましたが、いまはRMEのFireface UCが中心ですね。
--そのRYUさんからはSTEMではなく2MIXデータが小岩井さんのところに届くということですね。
小岩井:そうです。2MIXのオケとメロディーラインは音声データとともに、MIDIデータももらっていました。これらをCubaseに読み込ませ、メロディーラインは歌いやすいよう、聴きやすいようにそのMIDIデータを元に好きな音源に差し替えて使っていました。ここに自宅でボーカルを入れていったのです。ボーカルトラックはメインとハモ。いくつかの曲では2種類の声を使い分けたりして、レコーディングしていました。ボーカルのトラック数的には一番多くて8トラック、少ないので2トラックですね。レコーディングは例によってapollo twin USBとNeumannのU87Aiの組み合わせで24bit/96kHzで録っています。それをパラで書き出したWAVファイルを送っていました。実は、当初、デスボイスだけはマイクにShureのSM58を使って録ってみたんです。ところが、やはりダイナミックマイクだと録れる帯域が狭く、どうしても迫力が出ないんですよ。そこで、やはりデスボイスもU87Aiで録音しました。
RYU:やはり、倍音の録れ方が、ダイナミックマイクに比べて断然いいんですよね。EQは削ることしかできないので、元の帯域が狭いとそれを補強することはできません。メタルの世界でもレコーディングにおいては、やはり87とか67を使うケースが多いですね。中にはハンドでコンデンサマイクを持つ人もいますが、まあ、レコーディングにおいてはメタルも普通のロックなどと同じ録り方ですね。
小岩井さんの自宅スタジオ。ここでボーカルもレコーディングしている
--そうやって小岩井さんがレコーディングしたトラックをRYUさんに送ってミックスしていったということですね?
RYU:今回はこっこちゃんからもらったWAVをPro Toolsに流し込んで、私がミックスしました。ただ、マスタリングだけは海外のエンジニアに頼んでいます。ジャイコブ・ハンセン(Jacob Hansen)というデンマークのエンジニアで、メタル界においてはとても有名なエンジニアなんです。BLOOD STAIN CHILDのミックスやマスタリングもお願いしているし、いつもジェイコブからレコーディングの仕方やミックスの方法など教えてもらっている関係なんです。だから、意思疎通ができていて、絶対間違いないことが分かっていたので、お願いしました。
小岩井:マスタリングも含め、全部ネット経由でデータを渡して制作していますからね。みんな家から一歩も出ないでメジャー流通に乗せちゃう。超インドア・メタルなんですよ!
--ところでバンド名がDAWであるだけでなく、楽曲名を見てもUADとかDual Moogとか、気になる名前がいっぱいなんですが……
小岩井:UAD 01、UAD 02、……UAD08と全部で8トラックあるのですが、これらは語りになっています。Universal Alter Dimensionの略ですが、もちろんapolloに入っているUADとのダブルミーニングです(笑)。そのほかにもTokyo InterfaceとかDimension ExpanderとかConsole1……と、DTM系の方なら反応してくれるのでは、という名前がいっぱいなんですよ。
RYU:Dimension ExpanderなんかはMASSIVEのパラメータですね。あと、スペルが少し違いますが、chaos effectなんかもKAOSS PADから想起する名前にしています。
--ということは、歌詞もかなりDTM用語、機材用語いっぱいなものになっているわけですか?
小岩井:歌詞は全然違う方向なんです。このタイトルから拡大解釈して、結構シリアスなテーマにして、外国のメタルを和訳したような感じの歌詞にしています。そのギャップもうまく楽しんでいただければと思っています。
RYU:二人のバンドだからやりたいこともハッキリして、統一・共有でき一丸となって作れたと思います。メタル好きな思いが詰まったアルバムになったかな、と。
小岩井:だからこそ、悔しいこともあるんですよ! 今回は曲が先で歌詞が後だったから……。先にコンセプトをしっかりと決めて、一緒に作ったり、先に歌詞で曲を後から乗せるといった方向も試してみたいと思いました。曲の途中からドラマに入っていく……なんてこともやりたいし……。今度作るとしたら、もう少し別のアプローチもしてみたいですね。
--そういえば、今回のアルバムは通常版のほかに豪華版というのもあるんですよね?
小岩井:はい、MVを収録したDVDをセットにした豪華版もあります。このDVDにはメイキングビデオも入っているので、ぜひ多くの方にご覧になっていただけると嬉しいです。また各店舗によって特典も違うんです。キャプテン和田誠さんというメタル界の有名な人のラジオCDとか、トレーディングカードとか……いろいろあるので、ぜひチェックしてみてくださいね。
--最後に、DAWとしての告知などあったら、ぜひお願いします。
小岩井:11月にDual Alter Worldとしての1st LIVE TOUR 2019 “DAW”を行う予定です。11月16日は大阪府吹田市のESAKA MUSEで、また11月24日は東京都新宿区の新宿MARZで公演する予定です。チケットの詳細は私やRYUちゃんのTwitterなどで公開していくので、ぜひいらしていただければと思います。
--ありがとうございました。
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