先月ブラウザ上で利用できる無料の楽譜制作ツール、Flatが国内でリリースされました。これはヨーロッパで数年前からあったサービスを日本語化してスタートしたというもの。FinaleやSibelius、Doricoほどの機能は有しないものの、楽譜作成に関する一通りの機能を装備し、オーケストラ用の譜面作成からバンドスコア、ピアノ譜やTAB譜を活用したギター譜面などのパート譜の作成……と、さまざまなシーンで活用できます。
基本的にはブラウザ上で動作させるツールですが、ブラウザ上で再生して、音を鳴らして確認するといったことも可能。Music XMLのインポート・エクスポートにも対応しているので、既存の楽譜作成ソフトとデータのやりとりもできるようになっています。またクラウド上のサービスだけに、作成した譜面をバンドメンバーだけで共有することができたり、多くの人たちに向けて広く公開するといったこともできるなど、既存の楽譜作成ソフトとは異なる良さも持っているのです。実際Flatでどんなことができるのか簡単に紹介してみましょう。
無料でのサービスがスタートしたクラウド上の楽譜作成サービス、Flat
Flatの最大の特徴は、ブラウザプラグインやソフトウェアをインストールする必要がなく、インターネットに接続されたPCのみで使えるという点。もちろん動作させるためには、ChromeやFirefox、Safariなどのウェブブラウザは必要ですが、基本的には普段使っているもので使用できます。また、PCだけでなくスマホでもFlatは使用することができ、iOSの場合は専用アプリも用意されています(Androidの場合はブラウザで利用)。楽譜を編集する際はオフラインで作業もできますが、同期させるときにはインターネットの接続が必須になります。
では、実際に使っていきましょう。このFlatを使うためには、まずFlatサイトへアクセスし、ユーザー登録が必要となります。メールアドレスを使って登録するかGoogleまたはFacebookと関連づけて登録することも可能になっています。
Flatを利用するにはまずユーザー登録して、ログインできるようにする
ユーザー登録が完了し、ログインすると、「新規プライベート・スコア」と書かれた画面が表示されるので、タイトルを入力して、「続ける」をクリックします。
次に、「楽器を追加、またはテンプレートを選択しましょう」と出てきます。ここでは、どの楽器用の譜面を作っていくかを選択できるようになっており、系統ごとにさまざまな楽器が用意されています。初めてFlatを使うときには、使い方の説明も出てくるので、まずはこれを見るとわかりやすそうですね。
チュートリアルも充実しているので、これを見つつ操作していけば初心者でも使い方がわかるはず
楽器は後から、追加や削除することも可能になっているので、まずはテンプレートを選ぶ形で進めていきます。「楽器を追加、またはテンプレートを選択しましょう」と書かれた中の「テンプレート」という文字をクリックしてみてください。
テンプレートには、
・Choirs And Vocal
・Chamber Group
・Percussions
・Jazz
・Pop/Rock
という6つの項目があり、クリックすると、さらに下層に細かい詳細が表示されるので、それらをクリックすることにより、多数の楽器を一度に追加することができます。たとえばPop/Rockの中にはRock GroupとR&B Bandという2つのテンプレートが用意されており、Rock Groupを選ぶとリードボーカル、バックボーカル、リードギター、リズムギター、ベース、ドラムという編成になっています。また、この際、ギターやベースなどタブ譜が利用できる楽器を選択すると、右下に「タブ譜を使用」という項目が表示されるので、必要に応じてオン/オフを切り替えることも可能です。
ここではPop/RockのRock Groupのテンプレートを選んでみた
これで、「作成する」をクリックすると譜面を制作するページに移動し、6編成でのスコアを編集することができます。もちろん前述の通り楽器を追加することや、削除することもできるので、あとでキーボードを追加する……といったこともできますよ。
テンプレートを選ぶと標準状態でのスコアが構成され、パートの名称も英語で表示されます。パート名をクリックすると楽器設定の画面が現れ、名称の変更はもちろんのこと、楽器の追加や削除、また順番の入れ替えなども自由にできるようになっています。
テンプレートでの準備ができたら、ここからは入力です。譜表の設定、調号の設定やテンポの設定など基本的な設定を行った上で、音符を使ってマウスで入力していくわけです。
この際、フルスコアのまま全体を見ながら入力していくこともできますが、1パートずつ入力していくのであれば、そのパートだけの表示のほうが見やすいので、パート譜表示にした上で入力していくこともできます。
フルスコアで入力・編集するだけでなく、パートごとに行っていくことも可能
また、マウスでポチポチと音符を入力していくのは大変だし、効率も悪いので、画面内にタッチキーボードを表示させて入力することができたり、MIDIの設定もできるので、外部にMIDIキーボードを接続して、キーボードを弾いて入力していくといった方法も用意されています。
MIDI入力を設定すれば、ステップ入力、リアルタイム入力も可能
もちろん、このように1つずつ音符を入力して譜面を作成していくだけでなく、ほかのDAWで作成したMIDIデータを読み込んで譜面化していくことも可能になっていますよ。
もちろん、歌詞の入力、コードの入力など、Flatには、一般的な譜面作成ソフトとほぼ同等の機能が備わっており、一通りのことが可能であると考えてよさそうです。ここで、全部の機能を書いていってもきりがないので、無料ですし、まずは使ってみてくださいね。ここまでの操作でもお気づきだと思いますが、ここで一つ特筆すべき機能が再生機能です。
各パートごとに音色や音量を設定し、再生時に鳴らしていくこともできる
現在の譜面作成ソフトはどれも再生機能を持っていて、入力した譜面を再生できるので、珍しい機能ではないし、当たり前の機能ではあるのですが、ブラウザで動作するクラウドの譜面作成ツールであるのにも関わらず、さまざまな音色で音符を鳴らすことができ、MIDI入力に対してもリアルタイムに音を鳴らすことができるんですよね。
タブ譜を使って入力する際には、譜面も連動して音符が自動で追加されたりなどしますし、ギターに関しては歪んだギターサウンドやブリッジミュートの音、アコギなどクリーンなギターサウンド以外も用意されています。もちろんギターだけでなく、100種類以上の楽器の音が再生することができます。
装飾音や強弱記号などのアーティキュレーションやリピート機能なども問題なく使え、これらも再生ボタンを押した際には結果が反映されるので、アクセント記号を付けたところはアクセントが付くし、ピアニッシモを付けたところは弱い音で音を再生してくれます。
譜面を細かく入力することができ、再生時にはそれらがしっかりと反映される
こうして一通りの作業を終え譜面が完成したら、クラウド上に保存しておくだけでなく、印刷したり、PDFで出力したり、MIDIやMusicXMLでエクスポートしたり、さらには再生する音をWAVやMP3で保存する……といったこともできます。
印刷したりPDFで出力したり、MIDIやMusicXMLでのエクスポートも可能
しかし、そのように個人で扱うだけでなく、右上の「共有する」をクリックすることにより、簡単に共有できるのもFlatの大きなポイントとなっているのです。
共有の仕方には、上記のように4つの方法があり、目的に応じて使い分けることが可能となっています。つまり仲間内で譜面を共有することもできるし、自分の作った楽譜を多くの人に見てもらうといった使い方もできるわけです。この際、公開した譜面は単にブラウザ上で閲覧させるだけでなく、ダウンロードや印刷させることも可能となっています。
実際、人が共有しているスコアを見るとわかりやすいので「見つける」をクリックして、みてください。膨大な共有スコアが現れるので、どれかを覗いていると面白いですよ。この共有機能はスコアを中心としたSNSの側面もあり、ユーザー数は世界で約1,439,000人もいるそうで、まずはここから何等かの譜面を見つけて読み込んでみると、Flatの使い方を理解するのにも役立ちそうです。
このように無料でかなりのことができるFlatですが、通常の無料アカウントのほかに、有料アカウントというものも用意されています。これは扱えるスコア数を無制限にしたり、高度なエクスポート、印刷ができるようになったり、レイアウトとスタイルがより自由に使える……といった機能強化が図られるものとなっています。主なものとしては以下のような違いがあります。
Flat Free 機能(無料版) | Flat Power 機能(有料版) | |
管理できるスコア数 | 15件まで | 無制限 |
エクスポートや印刷機能 | 標準 | パート譜印刷なども可能 |
レイアウト、スタイル設定 | 〇 | ◎ |
高度な記譜機能 | 〇 | ◎ |
楽器のカスタマイズ | 100以上の楽器が利用可能 | ドラムセットのカスタマイズや好みのチューニングの14弦までのギターへ対応など高度なカスタマイズが可能 |
オーディオ機能 | 〇 | ◎ |
サポート | 〇 | Eメールによる優先サポート |
有料アカウントの価格は月額799円というコース、年間5,500円というコースのほか、1度支払えば将来にわたってずっと使い続けられるワンタイム(これは15,899円)の3通りから選べるので、状況によって選ぶとよさそうですね。
以上Flatについて、その触りの部分を紹介してみましたが、いかがでしょうか? 無料でここまでのことができるというのは、なかなか感激です。感覚的にはMicrosoft Officeを使う代わりに、Googleドキュメントを使うという感じですかね。
実際の利用シーンとしては、バンドメンバーで譜面を共有し、練習したり、一緒にコーライトしていく……といった使い方もできそうですし、ピアノやバイオリンなどのレッスンにおいて先生が活用するのにもよさそうです。練習に使う譜面を先生と生徒で共有し、コメント機能を用いて先生からのアドバイスを生徒の譜面に書き込む……なんてこともできます。また生徒にiPadを持ってもらえれば、PCを起動することなく、電子譜面としてより手軽に活用するといったこともできそうです。
Flatをどう活用するかはユーザー次第。無料でここまでのことができるようになったというのは、ユーザーにとってはうれしい限りですね。
【関連情報】
【iOSアプリダウンロード】
◎AppStore ⇒ Flat