ドイツのreProducer Audio社というメーカーが、次世代のスタンダードモニタースピーカーを目指し、ペアで15万円の製品Epic5を発売しました。Epic5という名のこの製品、斜めの形状にパッシブラジエーターを底面に装備したユニークなパワードスピーカーとなっています。
reProducer Audio社自体は4年ほど前に設立されたメーカーですが、Epic5は同社初となる製品。その発表会が御茶ノ水のスタジオで行われていたので見てきました。ゲストスピーカーにはAKB48やポルノグラフィティなどを担当され、Mixを中心に年間200曲以上の楽曲を世に送り出しているサウンドクリエーターの松本靖雄さんを迎えての発表会。reProducer Audioプロダクトマネジャーのマイク・リーさんからのコメントも伺えたので、なぜこんなユニークな形をしているのか、実際の出音はどうなのかなど紹介したいと思います。
Epic5は5.25インチのモニタースピーカーで、DTMでの音楽制作にはもちろん、出先でのレコーディングでのモニター用としての利用も考慮された製品です。フロントにボリュームノブ、リアにはHF-TRIM、LF-TRIMが±5dB調整できる1dBステップのノブを搭載。オーディオインターフェイスなどとの接続にはXLRまたはRCAで行えるコネクタが装備されいます。サイズ感は一般的な5インチスピーカーとほぼ同じパワードスピーカーとなっているのですが、なんといっても一番気になるのはこのユニークな形状でしょう。
この斜めの形状は単にデザイン性というわけではなく、設計上、サウンドに大きな意味があるとのこと。アコースティックデザインを緻密に計算して、周波数特性や位相をDSPなしで最適化してこのような形になっているそうなのです。より自然な音を求めて、アナログで実現した結果とのことですが、実際聴いてみても特に低域のモニタリングのしやすさ、分離感のよさ、ローが引き締まって聴こえますね。
これは底面に搭載されているパッシブラジエーターが効いているものと思われますが、内部パーツへのこだわり、またアンプやコーンを専用にカスタムメイドで作っていることが大きな要因だと、reProducer Audio社は主張しています。
実は、このEpic5の開発をしたのは、ヨーロッパのエンジニアやプロデューサー向け、あるいはヨーロッパの有名なスタジオなどで使われているスピーカーやマイク、アンプを20年以上作り続けているUnited Minorities社のCEO アティラ・サージェック(Attila Czirjak)氏。実はこのアティラ氏こそが、reProducer AudioのCEOであり、彼が量産品のモニタースピーカーを生産しようと仲間数名ともに創設したのがreProducer Audioという会社なのです。
発表会にドイツからネット会議システムで参加してくれたアティラ・サージェック氏
メーカーが想定するEpic5の利用シーンとしては、小さいスタジオやホームスタジオ。最近は日本国内だけでなく、海外も含め、大きいコンソールやアウトボードは使われなくなってきており、音作りはプラグインなどコンピューター上に置き換わっているために、この大きさになったようです。
さて、その発表会の会場で、reProducer Audioプロダウトマネジャーのマイク・リーさんは
「モニタースピーカーは実際に仕事で使うものだと思います。そんなモニタースピーカーを作るために、スペックや数字をだた追い求めるのではなく、そのサウンドを聴いた上で音楽的に使えるものか判断して設計をしました。技術的なことよりも音楽的なエモーションを大切にし、Epic5が新しい時代のスタンダードになるようしていますた。形やスペックだけを見るのではなく、実際に聴いてみて次世代のスタンダードを実感いただきたいと思います」
と話していました。次世代のスタンダードモニタースピーカーを目指して作ったとのことなので、もしかすると何年かするとEpic5が業界スタンダードになっている、なんてこともあながちあり得ない話ではない、とも感じました。実際、そのポテンシャルはあると思いますよ。
ちなみにEpic5は付属品としてスパイクやケースが付いてくるのですが、これがかなりしっかりしているんです。モニタースピーカーは、「スタジオではしっかり聴こえていたのに、自宅に設置したら音像がボケてしまった」なんてことはよくあります。原因はいろいろですが、やはり振動による問題というケースが多く、振動を抑える部材であるインシュレーターを使うことでトラブルを避けることができるケースが多くあります。Epic5には専用のインシュレーターが付属しているため、設置という面でも使いやすくなっています。
自宅だけで完結する、というDTMユーザーの場合、あまりモニタースピーカーを持ち運ぶことはないでしょうが、スピーカーを持って現場に出かけることの多いプロのレコーディングエンジニアも使いやすいように、専用ケースが付属しているというのも、玄人ウケしそうなところ。
定番モデルのスピーカーなら、それに合うケースも簡単に入手できますが、この手の変わったデザインの機材だと、なかなかピッタリしたケースがないので、必要な人にとっては嬉しいところだと思います。
なお、実際にEpic5を実務として使ったという松本さんのお話を伺うことができたので、紹介してみましょう。
--時代によっても音楽の種類や作り方が変わってきていますが、そこで必要となってくるモニターのキャラクターだったり、音はどう変わってきたと思いますか?
松本:私が仕事を始めた当初は24トラックのアナログレコーダーでした。そして、今はProToolsを使って、1曲に対して300トラック以上の楽曲をミックスしています。そのときに求めるモニタースピーカーの要素は、分離感、位相、音の立ち上がりの早さですね。そういった意味でEpic5は立ち上がりもいいですし、バランスのとれたいいスピーカーだという印象です。30年間ぐらい10Mを使っていますが、10Mは正直いいスピーカーではないと思っています。ですが、10Mはバランスがいいんですよね。なので、ミックスするときに長く使っているのですが、Epic5もそれに劣らないですね。
--マスタリングも担当されることがあるとのことですが、そのときに求められるモニタースピーカーの違いはありますか?
松本:結論からいうと、違いはないです。しかし重要なポイントとしては、ある一定の音量でのバランス、音を大きくしたときのバランス、小さな音量にしてのバランスが変わるスピーカーは、かなり使いづらいですね。そこに関しては、Epic5は小さい音で聴いても通常のバランスとほぼ変わらないです。またEpic5の第一印象としては再生したときの音像が、このサイズではなく、この3倍ぐらいの大きさのスピーカーから出ているように感じて驚きました。
--実際にEpic5を使ってみて、どんな印象を持たれましたか?
松本:まず受け皿が100あるとして、昔はそこに24トラック入れればよかったんですね。でも現在では、そこに300トラック以上入れなくてはいけないんです。しかもそれを同じ音量で一個一個聴かせなくてはいけないので、とにかくモニタースピーカーは大切なんです。私自身はとにかく小さな音でミックスするんでするんですが、そこに関しても十分に対応できるスピーカーですね。また近くで聴いても、遠くで聴いてもバランスが変わらないのは好印象です。
--使い勝手はいかがでしたか?
松本:非常によかった点としては、スパイクが付いているところが挙げられます。本来であれば、わざわざ付けなくてはいけないのですが、底面にラジエーターが付いているとはいえ、スパイクにさらにゴムが付いているなどのサポートはいい印象ですね。台に置く場合はコルクなどの吸音素材を配置することが多いんですよね。またケースが付属しているのも私にとっては嬉しいところです。過去に1度スピーカーを入れるケースを作ったことがあるのですが、特注で5、6万円かかったんですよ。既製品でも2、3万円はすると思うので、それもセットで付いてくるのはいいですね。
--松本さんから見て、このEpic5はどんなユーザーに向いていると思いますか?
松本:もちろんプロのエンジニアでも使えますし、アレンジャーや作曲家にもおすすめですね。ローの分離感は、作り手側として盛り上がる出音だと思います。
以上、Epic5について、その発表会での情報を元に紹介してみました。reProducer Audioの今後の予定としては、NAMM Showでもプロトタイプを発表していましたが、Epic55という5インチスピーカーを2基とパッシブラジエーターをリアに搭載したモデルが、今年の6,7月ぐらいに発売予定とのこと。またサブウーファーと4インチのモニタースピーカーも今後発売する予定とのことです。この辺もまた機会があれば紹介してみたいと思います。
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