malletKAT(マレットカット)という楽器をご存知ですか?別名電子マリンバとも呼ばれるもので、机やスタンドに置いて使う木琴みたいな楽器。専用のデジタル音源が用意されているほか、MIDIの入出力もでき、ソフトウェア音源を鳴らすことも可能というものです。このアメリカ生まれのmalletKAT、実は30年以上の歴史を持つ楽器であり、この間、機能・性能とも大きく向上してきているのだとか。
また単なるマリンバの置き換えに留まらず、malletKATだからできる奏法などもあり、独自の進化をするとともに、打楽器奏者の間においても広く使われています。そのため、malletKATに対応するソフトウェア音源も数多く存在しています。ちょうど先日maletKATの新バージョンが国内発売されたところなので、これがどんな機材なのか紹介してみましょう。
Alternate Modeというメーカーが作るmalletKAT。これを見て、少し懐かしさを感じる方もいるのではないでしょうか。その昔、小学校で使った卓上木琴をなんとなく彷彿させる風貌ですからね。読者のみなさんの中には学生時代、吹奏楽部やオーケストラ部などに入っていて、木琴とか鉄琴とか演奏していた人も少なくないと思います。ただ、久しぶりにマリンバを始めてみようと思っても、大きさ的に、また価格的にも簡単に家に置けるものではないのはご存知のとおり。
100kg近くあるホンモノのマリンバは、価格も200万円近く。通常のビブラフォンでも100万円近い価格ですからね。それに対し、最も小さい2オクターブのmalletKAT Expressならたったの4.3kg。別売のハードケースに入れれば、電車に乗って持ち歩き、ライブ会場に持ち込んだり、リハスタで使う……なんてことも可能。また価格的にも188,000円(税込み)といった価格帯から購入できるので、個人ユーザーにとっても手の届く範囲の機材なんです。
まずは、こちらの動画をご覧ください。
このビデオにあったのは4オクターブのモデルなので、それなりの重さではありますが、十分持ち運びができることが分かりますよね。さらに実際にライブでの演奏動画があるので、こちらのビデオもご覧ください。
いかがですか?ご覧のとおりステージ上で撮影したものですが、手前にあるのがmalletKATで、奥にあるのがアコースティックのビブラフォン。演奏している山崎ふみこさんはクラッシックやジャズを中心にご活躍されているプロのミュージシャン。ちなみにドラムは、中学生時代にDTMステーションでもインタビューしたことがあった川口千里さんですね。
malletKATはサイズによって大きく3つのラインナップがある
malletKATのラインナップは、一番大きい4オクターブモデルのmalletKAT Grand(408,000円)、3オクターブモデルのmalletKAT PRO(348,000円)、2オクターブモデルのmalletKAT Express(278,000円)の大きく3ラインナップがあり、これにKetron SD1000という音源がセットとなっているのが基本構成。
malletKATの標準音源であるKetron SD1000
Ketron SD1000はコンパクトなMIDI外部音源。ここにはmalletKATの演奏に最適な高品位な512音色が搭載されているほか、47ドラムセット、さらにはGM音源が搭載されているというもの。マリンバ、シロフォン、ビブラフォンなど音色はもちろんですが、ピアノでもギターでもさまざまな音色を演奏できるのも面白いところ。またこの中に248のドラムループも入っているので、リズム演奏を鳴らしながら演奏するということもできるようになっています。
もっともmalletKATの演奏にSD1000が必須というわけではなく、一般的なMIDI音源モジュールを接続して演奏することもできるし、PCと接続してソフトウェア音源を鳴らすことも可能。もちろん、iPhoneやiPadの音源を鳴らすといったこともできますよ。
もちろんPCを音源に使ってもOK
MIDI over Bleutooth LEを用いてiPadなどを音源に使うのもあり
そのため、SD1000を付属させずに購入することも可能であり、その場合、2オクターブモデルのmalletKAT Expressの価格も188,000円となるのです。
ライブステージで使われていた山崎ふみこさんのmalletKATをよく見てみると……
ところで先ほどの山崎さんのライブで使われてたmalletKATは4オクターブとなっているのですが、写真をよく見てみると、継ぎ目があるのにお気づきでしょうか?実はこれ、2オクターブモデルのmalletKAT ExpressにExpander(84,000円)という1オクターブ拡張ユニットをつなげて4オクターブにしていたんですね。このExpanderを利用することで、malletKATは最大5オクターブまで拡張することが可能となっています。
そんなmalletKATの誕生はアメリカで、もともとミュージカルで演奏していたミュージシャンが開発したとのこと。そもそもは、本物のマリンバにピエゾマイクを付けて電子楽器にしたのがスタート。現在はFSR=圧力センサーで検知する仕組みになっており、強弱のみならず、アーティキュレーション、ミュートさえも理解し、演奏に反映できるようになっています。またフットペダルを使用することで、ピッチベンドなど従来の打楽器では不可能であった表現すらも可能にします。
とはいえ、マリンバを演奏してきた人からすると、「やっぱりマリンバとは感覚が違うのでは……」という思いを持つかもしれません。それは確かにその通りであり、malletKATは電子マリンバというよりも、やはりmalletKATという新しい楽器なのです。
クラリネットとオーボエが同じ奏法で演奏可能な違う楽器であるように、アコースティックピアノを目指して開発してエレクトリックピアノが生まれたように、新しい楽器として捉えたほうがいいと思います。
そのためジャズミュージシャンがmalletKATに飛びつき、Roy Ayersのようなファンクユニットが使うようになり、世界中の多くのミュージシャンが使っているとのこと。もちろん日本でも多くのユーザーがいるようですよ。Alternate Modeのサイトを見ると、数多くのmalletKATを使うアーティストの一覧を見ることもできます。
メーカーによるとmalletKATは今も進化を続けており、より強く、軽くなってきているのだとか。プロミュージシャンが使う楽器となると、やはり耐久性というのも非常に重要なポイントですが、叩かれる楽器だけに、強度にはかなりこだわりを持って作っているとのこと。実際5年前の製品より、かなり軽くなっているそうですが、軽すぎると、バウンドしてしまうため、ギリギリの重さにしているようです。
黒鍵と黒鍵の間にダミーのパッドが置かれているのは間違って叩いても変な音が鳴らないようにするため
もちろん物理的にだけでなく、ファームウェア的にも、さまざまな進化をしてきました。たとえば、マリンバのような楽器とピアノやオルガンなどの楽器とでは、音の長さ=デュレーションに関する概念も違ってきます。そう、叩く強さによって音長が変わってくるし、連続して叩くことで音を伸ばすといった奏法があります。
またマレットミュートと呼ばれるミュートをするとMIDIからはVelocity=1という信号が出るようになっています。前述の音源、SD1000は、それを理解してミュートを行うのですが、こうした奏法をNative InstrumentsのKONTAKTなども設定によって受け入れるようになっているんですね。
液晶パネルの下にBackword、Forwardというキーがある
そのほか右上の液晶パネルの下にBackword、Forwardというキーがあり、これで音色切り替え(プログラムチェンジ)ができるようになっています。ただ、演奏中に誤って叩いてしまったら一大事。そこで、そうしたミスがないよう、ある程度の間が空いてからのみ反応するようになっており、演奏中に叩いても大丈夫なようになっています。またHangモードといって、フットスイッチを踏んでいる間だけ音色が切り替わるような設定にすることも可能です。
このようにmalletKATは30年という長い歴史を持ち、多くのプロミュージシャンが使っている楽器だけに、使い勝手という面でも成熟しています。ここで紹介できたのはmalletKATのほんの一部。先ほどの写真からもわかるようにフットペダルも最大5つまで接続できるので、ピッチベンド、サステインのほかにも、ビブラフォンのコーラスのような操作をしたり、ペダルを踏むことで、譜面のページめくりを行うなど、さまざまな使い方ができそうです。
Alternate Modeのサイトにいくと、ほかにもさまざまな情報があるので、チェックしてみてはいかがですか?