以前、「プニュプニュする新触感。フランス生まれのMIDIコントローラー、Touché(トゥーシェ)が気持ちいい!」や「氏家克典さんのデモで見るシンセ・コントローラー、Touchéの斬新さ」という記事でも紹介した、不思議な触感のMIDIコントローラーTouché(トゥーシェ)。これはフランスのExpressive Eという会社が開発したもので、つい最近Touché SEというバーチャルインストゥルメントに特化された低価格版もリリースされました。
ソフトウェアシンセサイザでもハードウェアシンセサイザでも、コントロールすることができるし、PCがなくても他の機材と連携して演奏できるTouchéですが、実はこの操作感や表現力は数々の名機を研究してできているものなんだそうです。先日、Expressive Eのセールスマネージャーであるロメオ・ヴァーレット(Romeo Verlet)さんが来日した際に、Touchéがどのような経緯で誕生したかなど、いろいろと話を伺うことができたので、紹介してみましょう。
Expressive Eのセールスマネージャーのロメオ・ヴァーレットさん
--まずTouchéの話の前に、EXPRESSIVE Eについて教えていただけますか?
ロメオ:EXPRESSIVE Eは、5年前にスタートしたフランスの会社で、現在は15人がサウンド、ソフトウェア、ハードウェア、マーケティングに分かれて、開発や販売を行っています。もともとは、創業者でR&D部門トップのEric Simon(エリック・シモン)が、大学の研究所でシンセサイザの名機の表現性を研究していたところから始まりました。当初はオンドマルトノなど、ユニークな楽器の表現を研究していました。そう、オンドノマルトノは電子楽器の元祖ともいわれており、約90年前にフランスで開発されたもの。生楽器を超える表現を実現するためにさまざまな工夫がなされていましたが、そうした研究からはじまったのです。その後、Touchéの原型ともいえる模型を3Dプリンターで作ったり、安くていい製品を作るために、さまざまな研究や開発をしていました。そのときは、アーティストがどんなものが必要なのかを理解するためにも、アーティストと一緒に開発をしていましたね。
シンセサイザや各種音源を自在にコントロールできるTouché(左)とTouché SE(右)
--もとは、大学の研究所からスタートしていたんですね。そこでできたTouchéは、アーティスト自身が必要としている表現をもたらしてくれるものだと。
ロメオ:そうです。既に持っている鍵盤や音源にプラスして使うことで、より幅広い表現をすることのできるコントローラーです。たとえば、打ち込みで音楽を作る際に、アコースティック楽器の表現を楽曲に取り込もうとして、多くのオートメーションなどを書くことがあると思います。ですが、それらの作業をマウスやキーボードを使って行うと、かなり時間が掛かってしまいますよね。また、どうしてもクリエイティブな作業ではなくなってしまうことも多いと思います。そういった問題を解決してくれるのが、Touchéなんです。直感的に音楽に深さや色合いを追加することができるし、リアルタイムに演奏するライブから、部屋での音楽制作まで、今までにない多彩な表現力を自身の楽曲に取り込むことができるんです。
Touchéでは擦ったり、ゆらしたりで音を変化させることができる
--そのEXPRESSIVE Eが先日発売したTouché SE、これはどういったものなんですか?
ロメオ:Touchéの弟分ともいえるのがTouché SEです。Touchéは4つの1/8インチCVとMIDI IN/OUTを搭載し、トップパネルに木製のタッチプレートを装備していました。一方、Touché SEはトップパネルをブラックポリカーボネート製のタッチプレートにして、接続端子をUSBだけにした作りになっています。バーチャルインストゥルメントに特化し、コストを抑えたバージョンです。つまり、TouchéとTouché SEの違いはタッチプレートの素材とCV、MIDI端子の有無だけですね。
Touché SE(右)も構造的にはTouché(左)と同じ。ただし、木製プレートではなくCV、MIDI端子がない
ーーなるほど、見た目もそっくりだし、プニュプニュとした感触も同じで面白いですね。でも、この不思議な感触、どういった構造をしているのですか?
ロメオ:この独特の感触は、上部と下部に装備してある特別なシリコンのシリンダーが重要な役割を果たしています。このシリンダーのおかげで、押したときの心地よい感触を実感できるようになってるんですよ。また、トップパネルを外したところにも、シリンダーを確認できますが、これはTouchéをコントロールしたときの圧力を信号として伝える役割を担っています。さらに、その下にあるスライダーの位置を動かすことで、可動部分の硬さ/柔らかさを調整することができ、軽いタッチで動作するようにするのか、それともある程度のタッチ感で動作するのかを、変えることができるようになっています。
特別なシリコンのシリンダーが独特な感触、操作感を実現してくれると話すロメオさん
--兄貴分であるTouchéは木製パネルがついていて、デジタル機材では珍しい印象ですが、そこにはどういった理由があるのですか?
ロメオ:ギターなどのアコースティック楽器が木製であるのと同様に、Touchéもそういったマテリアル感を大切にしているんです。また、感触は柔らかいのですが、表面に固い素材を使うことで、実際に演奏したときなどに反応しやすいという機能性も持っています。大きさ的にも手にフィットするよう考えて作っているため、違和感を持つことなく扱うことができるんですよ。一方Touché SEは、コスト面を考慮してポリカーボネイト製です。木製の方がいいという方には、交換用のオプションも近日中に用意されます。
左のTouchéは木製パネルを使うことでアコースティック楽器的なマテリアル感を実現させている
--一方で、専用ソフトのLiéがありますが、これがどういったものか教えてください。
ロメオ:Liéは、TouchéやTouché SEの動作を設定するソフトウェアであるのと同時に、Lié自体がUVIエンジンを使ったインストルメントでもあるんです。パラメータの何をどう動かすか、カーブやバリューの範囲などを設定できます。また、サードパーティー製のプラグインも読み込むことができるので、自分が持っているソフトシンセのパラメータも自由にアサイン可能です。このLiéも、EXPRESSIVE Eで開発しているので、完璧にTouchéと連携して、Touchéの可能性を最大限引き出せるようになっているのが特徴です。設定はかなり細かいところまで行えますが、それが面倒くさくならないように、サードパーティ製ソフトウェア音源用の設定プリセットやハードウェアシンセのプリセットを用意しているんです。ちなみに設定する際は、1つのセンサーに1つのコントロールチェンジを割り当てるだけでなく、センサーとパラメータを最大8つまで結びつけることができるので、よりクリエイティブなサウンドを作れるようになっているんですよ。また、UVI Workstationでカスタムメイドされた200個のサウンドを最初から装備しているので、ほかのインストゥルメント音源を持っていなくても、Touchéを使って演奏することができます。Expressive Eのサイトでは、たとえばUVI Falcon用の追加プリセットを無償ダウンロードできるようになっていますし、Liéに最適化されたよりパワフルな拡張音源、MercuryとHeliumも有償で提供されています。
Touchéと連携するコントロールソフトウェアでありUVIエンジンを搭載した音源でもあるLié
--LiéにはUVIエンジンが搭載されているとのことで、UVIとの連携性が高いように感じますが、UVI社と特別な関係があるのですか?
ロメオ:はい。同じフランスの会社であるUVIとはパートナーシップを結んでいます。Liéに用意してある音色パッチを選ぶと、自動的にUVI Workstationが起動するとともに、音色設定され、Touchéの動作に対してフィルタやエンベロープ、LFOなどの各パラメータを自動で設定してくれます。
--Touchéをハードウェアシンセやバーチャルインストゥルメントと一緒に使うメリットや魅力はどんな点にあるのでしょうか?
ロメオ:メリットや魅力を一言で表すならば、音楽をよりエモーショナルにすることができる、といえます。どうしても、エレクトロ系のミュージックはスクウェアで無機質な音楽になってしまいがちです。ですが、Touchéを使えばリアルタイムの演奏でも打ち込みでも、より人間らしい表現を取り入れることができます。また、ギターやベースなどの弦楽器が、片手で音程を抑えて、もう一方で音を鳴らすのと同じ様なこともできるので、ある意味でアコースティック楽器的にも扱うことができます。Touché単体で常に演奏してもいいですし、使い慣れた鍵盤と一緒に使ってピッチベンドやペダル、リアルタイムに操作するツマミのように、プレイにプラスアルファで使う表現技法のように使用してもいいのです。Touchéはより直感的に、より幅広い表現を自身の楽曲へ活かすことのできる、コントロラーでもあり楽器でもあります。
Touchéを使うことで、より人間らしいリアルタイム演奏が可能になるという
--今後EXPRESSIVE Eが目指す、将来について教えてください。
ロメオ:この先も、色々なフィジカルコントローラを作っていきたいと思っています。過去さまざまな楽器が発明されていて、その中には優れた表現力を持つものがあるんです。それらを、現代に作り直していくところも含めて、新しいものを作っていきたいと思っています。
--最後に、DTMステーションの読者に向けてメッセージをお願いします。
ロメオ:映像だけでなく楽器店などに立ち寄って、実際にTouchéに触って確かめてみてほしいです。単なるハードウェアというわけではなく、初めから音源もバンドルされているので、新しいスタイルやサウンドを発見できると思います。ぜひ手に取って使っていただき、Touchéの良さが伝われば幸いです。なお、先ほど拡張音源のMercuryとHeliumの話しが出ましたが、ちょうどこれらが無償提供されるプロモーションがスタートしています。Touché SEを購入してアカウントに登録すると、MercuryかHeliumのいずれか(39ユーロ相当)を選べます。Touchéの場合はMercuryとHeliumの両方(78ユーロ相当)です。2018年12月1日までなので、お見逃しなく。
ーーありがとうございました。
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Touchéチュートリアルビデオ(日本語字幕)
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