これまで、スマホでのDTMにおいてはiOSとAndroidとで大きな格差がありました。シンセサイザなどの音源アプリでも、エフェクトでも、DAWでもiOSが圧倒的であり、Android用アプリは数も少なく、質の面でも差があったため、Androidユーザーは歯がゆい思いをしていたのではないでしょうか?でも、この1年程度で状況は大きく変わってきました。「比較的新しい機種に限る」という前提はあるものの、AndroidスマホのDTM性能がiPhoneに肉薄するところまでやってきたのです。
最大のボトルネックであったレイテンシー問題が解決されてきたため、Android用のアプリもどんどん増えてきているのです。ここで重要になるのがAndroidスマホにギターやマイクなどを接続するオーディオインターフェイスです。そのAndroid用オーディオインターフェイスとして注目が集まっているTASCAMのiXZという4,000円弱の機材について、最近のAndroid DTM事情と合わせて紹介してみたいと思います。
TASCAMのiXZを使うことで、Androidで思い切りDTMが楽しめるようになる!
「正直、iPhoneのDTM機能はうらやましいけれど、やっぱりスマホとしてがAndroidが好き」、「価格が安いから、やっぱりAndroidを買っちゃうんだよね」、「昔からAppleだけは好きになれなくて……」などなど理由は人それぞれでも、Androidスマホを使っているから、DTMができなかった……という人は少なくないと思います。
「もっとDTM系のアプリ開発者がAndroidに目を向けてくれればいいのに…」、という思いを持つ方も多いと思います。ただ、これまでAndroid用のDTMアプリがあまり開発されてこなかったのには大きな理由があったのです。それがレイテンシー問題です。たとえば楽器アプリを作った場合、iOSなら画面の鍵盤を押せば同時に音が出たのにAndroidだと、その仕組み上どうしても遅れがあり、ワンテンポずれて音が出る形だったのです。
KORGのKAOSSILATOR for Android
そのためどうしても使用上の違和感があり、それが解決できないから、開発者もアプリを作らないし、ユーザーも使わないという状況にあったのです。ところが、最近の機種だとその点が大きく改善され、レイテンシーの面ではiOSと変わらないレベルのところまでやってきたのです。その結果、以前にも記事で紹介したKORGからKAOSSILATOR for Androidが出たり、Image-LineからFL STUDIO mobileが出たり……と着実にAndroid DTMアプリが揃ってきているんですよね。
また直接レイテンシーと関係はありませんが、音楽コラボアプリのnanaやmelocyもAndroidで使えるようになっているため、Androidで歌声や楽器を録音する人もどんどん増えてきているようです。
楽器でのコラボをする人も増えているmelocy
そうした中、先日初めて知って驚いたのが海外のBandLabというアプリです。詳細は、CEOのインタビューをAV Watchの連載記事で載せているので、そちらをご覧いただきたいのですが、簡単にいうとクラウド接続可能なDAWアプリで、シンセも鳴らせるし、ギターエフェクトもボーカルエフェクトも装備して、レイテンシーなく使うことができます。そして12トラックでレコーディングもできるという優れものなのですが、無料で使えるので、まずは試してみるべきアプリなんですよね。
12トラックを持つ強力なDAWとして無料で入手できるBandLab
このようなアプリが登場してきたところで重要になってくるのがオーディオインターフェイスです。スマホのオーディオ性能もよくなってきてはいますが、ここに直接ギターやマイクを接続することができないから、どうしても必要になるんですよね。
Androidで使える非常に便利でマルチに使えるTASCAMのiXZ
いま、各社からいくつかの製品は出てきていますが、すごく手軽で、低価格で、かつオールマイティーという点でお勧めなのがTASCAMのiXZという製品です。先日記事にしたAmazonの年間ランキング大賞2017でオーディオインターフェイス部門の3位に入った製品でもあるのですが、これがなかなか良いのです。
Android上で動作するFL STUDIO mobileとの組み合わせでも快適に動作
このiXZはオーディオインターフェイスといっても、USB端子などにデジタル接続するものではなく、ヘッドホン端子に接続して使うアナログ製品なのです。その意味では、ローテクではあるけれど、これを通すことで、ギターを直接接続できたり、しっかりしたレコーディング用のマイクと接続することができるんですよね。
ギターを接続してリアルタイムにアンプシミュレーターを使ってもなかなか快適
ご存知の方にとっては当たり前の話ですが、フォーンジャックと呼ばれる標準サイズ(6.3mm)の差込口は、物理的にはオーディオ機器やシンセサイザなどの電子楽器、そしてマイク、ギターやベースも接続可能です。でもギターやベースは電気的特性が異なるので、Hi-Z入力というところに挿さないといけません。iXZは入力スイッチをギターに設定すれば、ギター用に特性変換をしてくれるんですよね。
MODEスイッチでギターやマイクに切り替える
一方、マイクの場合、ライン信号と比較すると非常に音量が小さいために、マイクプリアンプというものを使って増幅してやらないと適切な音にならないんですよね。しかもボーカルなどを繊細に捉えることが可能なコンデンサマイクの場合はファンタム電源という+48Vの電源供給がないと使えないなど、いろいろと難しい問題があり、これらをそのままスマホに直接接続することができません。
でもiXZがあれば、ダイナミックマイクでもコンデンサマイクでも何でもOK。これを介すことで適切な信号をスマホに入力することができるのです。iXZ自体は小さな機材だけど、単3電池2本を入れることができるため、ここでファンタム電源を供給したり、マイクプリアンプを駆動することができるのです。
iXZは単3電池2本で動作させることができる。もっともギター接続の場合は電池は不要
今回はAndroidスマホとしてONKYOのGRANBEAT DP-CMX1、またGoogleとHuaweiのNexus 6Pで試してみましたが、とくにDP-CMX1などはオーディオ機器としてよくできているので、iXZを介してもなかなかいい音で録音・再生することができました。
もっとも、このiXZ、新製品でもなんでもないんです。DTMステーションでも6年も前に「AmpliTubeもバッチリ使えるiPad/iPhone用マイク・ギターI/F、TASCAM iXZ」という記事で紹介していており、製品としては当時のままで何も変わっていません。しいて言えば、現在販売されているパッケージにはnanaのロゴのシールがドーンと入っているくらいでしょうか…。とくに機能アップとか性能アップしているわけでもないんです。
現在販売されているiXZのパッケージ。中身は6年前のものと同じだが、nanaのロゴなども入っている
一方で、iXZのパッケージを見ると「for iPhone」、「for iPad」、「for iPod touch」との記載はあり「for Android」とはまったく書かれてないんですよね。これだと、なかなかAndroidユーザーも買いにくいと思いますが、いつの間にかAndroidでもバッチリ使えるようになっていたんですね。
実は、こうなっているのにはちょっとした事情があるんです。Androidのヘッドホン端子もiPhoneなどと同様に3.5mmの4極ではあるのですが、2012年ごろまでXPERIAが採用するOMTPという方式のものと、世界標準として使われるCTIAという方式のものが混在していたんです(ヘッドホン側とマイク側の位置の順番の違いですね)。ところが、現在はほぼCTIA標準方式に統一され、iPhoneとも同じになったんです。そのため、iPhone用として販売されていたiXZも、そのままAndroidで使えるようになったんですね。
ヘッドホンジャックに接続する4極端子の特性に2種類の規格があったが、いまはほぼCTIA標準に統一された
だったら、箱に「for Android」というシールでも貼ればいいのでは?とも思うところですが、昔の機種には対応していないから、メーカーとしてしっかりと言い切れないという事情があるのかもしれませんね…!?
いずれにせよ、iXZを使えば、各種Androidスマホでバッチリ使うことができます。レイテンシーは古い機種だとやはり厳しいケースもあるとは思いますが、nanaをはじめ、レイテンシー関係なしに使えるアプリも結構ありますしね。何よりBandLabなど、無料アプリも多いので、AndroidでDTMをしてみたいという方は、ぜひ試してみてはいかがでしょうか?
【製品情報】
TASCAM iXZ製品情報
【価格チェック】
◎Rock oN ⇒ iXZ
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