2007年8月31日、VOCALOID2対応の初代の初音ミクが発売されました。初日は売り切れ店続出で、私も数日後にビックカメラで購入したことを思い出しますが、それから9年経った2016年8月31日の初音ミク誕生日に、3代目(V2 Appendを入れれば4代目!?)となる初音ミクV4Xが発売されました。
数日出遅れましたが、私もさっそく購入して試してみました。が、中身を見てみると、ちょっと異常ともいえる商品構成になっていたんですよね。実際これがどんなものなのか、これまでの初代の初音ミクや2代目のVOCALOID3対応の初音ミクV3とどう違うのかなど、ファーストインプレッションとして簡単に紹介してみたいと思います。
まず、商品構成ですが、初音ミクV4Xには初音ミクV4Xという製品と初音ミクV4Xバンドルという2製品があり、初音ミクV4Xバンドルのほうは英語が歌える英語の歌声ライブラリがセットになったものとなっています。もちろん、どちらの製品もWindowsでもMacでも使えるハイブリッドになっていますよ。
ENGLISHが入るバンドル版のパッケージ。店頭でどうするか悩んだけれど、結局通常版を購入した
価格的には初音ミクV4Xが17,280円(税込み)、初音ミクV4Xバンドルが21,600円(税込み)となっており、他社のVOCALOID製品と比較しても同等の価格ではあるのですが、これがすごいのは、複数のライブラリがセットになっているんですよね(私が買ったのは日本語のみの初音ミクV4Xなので、この先は初音ミクV4Xをベースに書いてきます)。
インストーラーを見ても5つのライブラリが入っているのが確認できる
具体的にいうと
・初音ミク ORIGINAL(E.V.E.C.対応)
・初音ミク SOFT(E.V.E.C.対応)
・初音ミク SOLID(E.V.E.C.対応)
・初音ミク DARK
・初音ミク SWEET
の5種類。ところが、実際には5種類に留まらないようなんです。以前に、巡音ルカV4Xを紹介するとともに、クリプトン・フューチャー・メディアが独自にVOCALOIDの機能拡張したE.V.E.C.というものについて紹介しましたが、初音ミクV4Xでも、E.V.E.C.に対応しているため、その発音拡張を見てみると、以下のようになっているんですね。
ライブラリ名 | 発音拡張 | 発音される音素 |
Accent | Power(新録) | |
ORIGINAL | なし | Original |
Mild | Soft | |
Accent | Original | |
SOFT | なし | Soft |
Mild | Very Soft(新録) | |
Accent | Power Solid(新録) | |
SOLID | なし | Solid |
Mild | Dark | |
DARK | なし | Dark |
SWEET | なし | Sweet |
つまり、発音させる音素としてみると、いくつかあるダブリを除くと実質的には全部で8種類のライブラリがあると考えていいようなんです。単純計算するのも変ですが、16,000円で8ライブラリだら1ライブラリあたり2,000円。こんなに安く出しちゃっていいんだろうか……、ほかのメーカーは困らないんだろうか……なんて心配になっちゃうほどです。
このライブラリの使い方などについては、後程もう少し詳しく紹介しますが、初音ミクV4Xにバンドルされているのはライブラリだけではありません。まず、ものすごく大きな特典となるのが、DAWであるStudio One 3がバンドルされていること。
ダウンロード版が単体で12,800円で売られているStudio One 3 ARTISTの機能拡張版が初音ミクV4Xにバンドルされている!
「無料のDAW、Studio One 3 Primeは、どこまで使えるのか試してみた」という記事でも紹介したとおり、Studio One 3にはPrimeという無料版があり、誰でもネットからダウンロードして使うことが可能ですが、ここには音源やエフェクトの数がわずかしかないほか、VST/AUのプラグインが使えません。
しかし、初音ミクV4Xにバンドルされているのは、Studio One 3 ARTIST Piapro Editionというもので、Studio One 3 ARTISTを機能拡張したもの。そう12,800円でダウンロード版が発売されているStudio One 3 ARTISTよりも上位版が16,800円のソフトにバンドルされているんですよ!ちょっとメチャメチャな価格設定ですよね…。もちろん、Studio One 3 ARTISTは製品版ですから、無料版のPrimeと比較して、プラグインの数などは圧倒的に豊富であり、一通りこれで曲作りが可能な機能を有しています。
通常のStudio One 3 ARTISTに加え、クリプトン製の2種類のプラグインが使えるようになっている
ただしStudio One 3 ARTISTもVSTやAUのプラグインは使えないのですが、Piapro Editionにおいてはクリプトン製のプラグインである
・Piapro Studio
・Mutant
のそれぞれが特別に使えるように拡張されているんですね。以前、初音ミクV3を買ったころ、バンドルされていたのはStudio One 2 ARTIST Piapro Editionでしたが、今はさらに大きく進化したStudio One 3に変わっていたんですね!
さらに機能強化されたPiapro Studioの現在Version 2.0.4となっている
初音ミクV4Xの2つ目の大きな特典は、そのPiapro Studioがバンドルされていることです。Piapro Studioについては、これまでもDTMステーションで何度も取り上げてきましたが、これはいわばクリプトン製のVOCALOID4 Editor。スタンドアロンで動かすのではなく、VSTおよびAUのプラグインとなっているため、前述のStudio One 3上で動作するのはもちろん、CubaseやSONAR、Ableton Live、FL STUDIO、Logic、GarageBand、Digital Performerなどなど、各社のDAWで使えてしまうんです。
Piapro StudioはVOCALOID4 Editor for Cubaseの替わりとしてCubase上でも使うことが可能
普通はVOCALOID4 EditorかVOCALOID4 Editor for Cubaseがないと歌わすことができず、これらを購入するのにも1万円ほどの投資が必要になりますが、それなしで初音ミクを歌わせることができるというのがすごいところですよね。
さて、ここではそのバンドルされるStudio One 3にPiapor Studioを使って、初音ミクV4Xを歌わせてみました。前述の通り、見た目は5つのライブラリとなっており、まずは基本となるORIGINALで歌わせてみたところ、歌声は確かに、いままでよくしっている昔からの初音ミク。でも、なんか上手でキレイなんですよ!初代から初音ミクV3になったときも、ちょっとそんな気がしたけれど、さらに成長しています!
選択肢としては5種類の初音ミクがいる、ただしデフォルト設定での顔は全部同じ!
「初音ミクの不安定なところが好き」「あの微妙に音痴なところが好き」という人にとっては、もしかしたら物足りなく感じるのかもしれませんが、これなら調教不要で、上手に歌ってくれますよ。でも、もしかしたら気のせいかも……と思い、初音ミクV3のORIGINALもインストールして歌わせてみましたが、やはり思った通りで間違いないようです。
さらにSOFT、SOLID、DARK、SWEETと切り替えて歌わせてみましたが、こららもみんな安定しているし、従来それぞれがバラバラのライブラリのような印象があったのに、ツブが揃っているんです。これなら、細かな設定不要で、それぞれを使い分けられそうですよ。
クロスシンセシスで、2種類のライブラリ間をシームレスにモーフィングできる
もちろん、初音ミクV4XはVOCALOID4のライブラリですから、ORIGINALからSOFTへ、SOLIDからDARKへなどと、モーフィング的に切り替えていく(正確には切り替えるわけでなく、ソックリな声質に変えていくといったほうがいいかもしれませんが)、クロスシンセシス機能も装備していますから、かなりいろいろな応用がききそうですね。
そして、ここで実際に確認してみたのが前述のE.V.E.C.。これは基本的にノート単位で設定できるものなんですが、Piapor Studio上でノートを選択して右クリックすると、「E.V.E.C.の設定」というメニューが出てきます。これを選んでみると……、設定画面が出てきますね。
E.V.E.C.の設定画面
発音拡張というところに
・なし
・Mild/Soft
・Accent/Strong
という3つがありますが、これで実質的なライブラリ(音素)を切り替えるわけですね。実際に試してみると、なるほど、違う声になることを明らかに確認できます。さらに、Voice Color、Voice Releaseといったものが選択できるようになっているのですが……あれ?なんとなく以前、巡音ルカで見たE.V.E.C.の設定項目と違いますね。
同じ環境に巡音ルカV4Xをインストールして、「E.V.E.C.の設定」を見たら、項目が異なっていた
気になって、7月発売号のDTMマガジンを見てみたところ、まさにこの話が書いてありました。E.V.E.C.の設定は巡音ルカV4X、鏡音リン・レンV4X、初音ミクV4Xのそれぞれで違っているのだとか。私は鏡音リン・レンV4Xを買ってないので、確認できていませんが、巡音ルカV4Xをインストールしてチェックしてみたところ、確かに違います。
そう、巡音ルカではVoice Colorが数多くあって、ここから選択する形でしたが、初音ミクではVoice Colorは2種類だけど、発音拡張での実質的ライブラリ変更が可能という形です。個人的には初音ミクのほうが分かりやすいかな…と思いましたが、いずれにせよ、どう使い分ければいいのか、まだしっかり飲み込めていないというのが正直なところ。でも、この辺を使いこなしていくと、かなり表現力はつきそうです。
グロウルのパラメータを使うことで、初音ミクのカワイイ歌声がダミ声に!
なお、初音ミクV4XはVOLCALOID4のライブラリですから、各歌声において、グロウルも使えます。「初音ミクが、こぶしを回してがなり声をあげるところなんて聞きたくない!」という人もいそうですが、E.V.E.C.でAccent/Strongの設定にし、Voice ColorをPowerに設定した状態で、グロウルで歌わせてみたところ、かなり迫力ある感じでしたよ(笑)。
Accentを選び、Voice ColorもPowerにしてグロウルを掛けると、かなりドスの効いた歌声に!
まだまだ、触ったばかりで、初音ミクV4Xの全体が把握できていないところですが、かなり面白いし、この内容からすると、相当なお得感ではありますよね。VOCALOIDを使ってきた人はもちろん、これまでVOCALOIDを使っていないという人、さらにはDTM自体初めてという人も、かなり満足度の高い製品だと思います。
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