昨今のアナログシンセブームは、すごい勢いですよね。KORGがARP ODYSSEYをリリースしたり、MOOGからはMoog SUB 37 Tribute Editionなんていうのが発表されたり、AKAIからはRythm Wolfが発売され、Dave Smith InstrumentsからはProphet-6なんてシンセが発表されるなど、1970年代にタイムトリップしたのでは……と錯覚するほどです。昔の機材を持っていれば、これらとアナログ接続できてしまうのも楽しいところでもあります。
とはいえ、今は21世紀。やはり単にアナログシンセで遊ぶだけではなくDAWからコントロールすることで、その面白さをさらに深めていくことができます。そんな架け橋となる便利なシステムをKORGが作ってくれました。それがSQ-1という約1万円のアナログシーケンサです。本来、これはアナログシンセを自動演奏するための機材なのですが、USBでPCと接続することで、PCからアナログシンセをコントロールすることを可能にしてくれるのです。アナログシンセに詳しくない人にとっては、さっぱり意味が分からないかもしれませんが、簡単な用語解説も含め、DAWとアナログシンセの関係について考えてみたいと思います。
アナログシンセとPCとの間を取り持ってくれるKORGのSQ-1
アナログシンセの歴史については、いろいろなところに情報があるので、そちらを検索してご覧いただければと思いますが、MIDI以前(MIDIの概要については“今さら聞けない、「MIDIって何?」「MIDIって古いの?」 ”を参照)に使われていたコントロール手段がCV/GATE(シーブイゲート)というものでした。よく意味は分からないけどアナログシンセのスペックなどでCV/GATEという用語を目にした、という人も少なくないと思います。
デジタルな現在であっても、アナログシンセをコントロールする上でCV/GATEは今でも非常に重要であり、今回紹介するSQ-1はCV/GATEをフル活用できる貴重なツールともいえるので、まずはCV/GATEとは何かを簡単に紹介してみましょう。
CV/GATEを2系統持ち、アナログシンセを制御できるSQ-1
CV/GATEとまとめて表現するけれど、正確にはCV=Control VoltageとGATE、電圧制御と門ということなんです。アナログシンセでは、オシレーターをVCO、フィルターをVCFなんて表現しますが、いずれもVCと頭についているのはVoltage Controledの意味で電圧で制御される、つまりCV信号を受け取って制御するということ。ちょっと難しくなってしまったかもしれませんが、CVとはたとえば3Vならド、3.16Vならレ、3.33Vならミ……のように電圧の高さによって音程を制御したりする信号なんです。
一方GATEのほうは、鍵盤をスイッチと見立てたとき、オンであるかオフであるかを知らせる信号と考えるといいと思います。いまのデジタルシンセでは、ベロシティー付が当たり前ですが、アナログシンセにおいては基本的にはベロシティーはなく、単に鍵盤はスイッチだったんですね。
このCVとGATEの仕組みを用いて、シンセサイザを自動演奏させちゃおうというのがシーケンサです。そして当初はアナログシーケンサなるものが使われていたんですね。今回紹介するSQ-1、昔のKORGのアナログシーケンサSQ-10を復刻したものなんですね。「アナログっていったって、自動演奏させるんだから、デジタルなんじゃないの?」と思った方もいると思いますが、昔のものはホントにアナログな仕組みなんですよ。もちろん、最新鋭の機材であるSQ-1はかなりデジタル機材ではありますけどね。
赤いボタンで音のON/OFFを決め、上のノブを回して音程を調整するアナログシーケンサ
このSQ-1は基本的にスタンドアロンで動作してアナログシンセを演奏させる自動演奏マシンなわけですが、もっとも簡単な操作方法は、Aという上の段に並んだ8つの赤いボタンを使って、音を鳴らすステップを設定します。「ON,ON,OFF,ON,ON,ON,OFF,ON」なら「ピピッピピピッピ」と繰り返しなってくれます。その際の音程を決めるのが上のノブ。左に回せば低い音、右に回せば高い音となります。DAWのピアノロールを使うのとはずいぶん違う、原始的なものですよね。
すでにお気づきだと思いますが、ボタン側がGATE信号をコントロールし、ノブ側がCV信号をコントロールしているのです。SQ-1にはA段とB段と2段あるので、2系統のCV/GATEを独立してコントロールできるほか、モードの切り替えでA段とB段で1つのCV/GATEを使ったり、ちょっと別の信号を流すといったことも可能になっています。
MS-20miniのCV入力、GATE入力へ、SQ-1の出力を接続
試しにこれを使って私の持っている2つのアナログシンセにつないでみました。一つは2年前に購入したKORGのMS-20mini、そしてもう一つは1年前に買ったArturiaのMicroBruteですが、どちらも完全に同期する形でSQ-1から自動演奏させることができました。すごく原始的なことをやってる気もしますが、なかなか楽しいですよ。
と、さらっと2つのアナログシンセを同時に制御できたと書いてしまいましたが、実はこれ、かなり画期的なことなんです。というのも一言でCV/GATEといっても、CV側には2つの異なる規格が存在しているからです。MOOGやARP、Roland、そしてこのArturiaなどが採用しているのはV/Octという方式なのに対し、KORGのMS-20miniやYAMAHAのCSシリーズなどが採用しているのがHz/Vという方式。
モード切替により、A、BそれぞれのCV方式を自在に設定できる
V/Octは1オクターブを1Vとして音程を割り振る方式で1V上がると1オクターブ上がるのに対し、Hz/Vは周波数と電圧を対応させる方式で、音程が1オクターブ上がると電圧も倍になるというものなんですね。このSQ-1ではV/OctとHz/Vをモード切り替えで対応できるようになっていて、混在できてしまうのが凄いところ。しかもCVのレンジが通常の5Vだけでなく1V、2V、5VそしてHz/V専用の8Vと選べる柔軟さもすごい機材なんです。これを使うことで、大昔のシンセも含めてなんでも接続できちゃうんですから。
CV/GATEの出力だけでなく、MIDI OUTも備えている
また、このSQ-1が有能なのはCV/GATEのコントロールだけではないという点です。ここにはMIDI OUTの端子があるので、これを使って現代のMIDI対応音源に接続すればシンセサイザだけでなく、電子ピアノだって鳴らせちゃうんです。さらにUSBまでついているから、これをDAW上で動くソフトシンセに送ると、ソフトシンセをアナログシンセさながらにコントロールできてしまうという意味では画期的ですよ。
SQ-1のUSB端子を通じてPCとMIDI信号のやり取りも可能。普段はバッテリー駆動だが、この際、USBからの電源供給となる
実際にテストしていたところ、ごく簡単にソフトシンセが鳴らせて驚きました。ただアナログシンセと違って、ずいぶん音程が安定しているなと思ったら、USBを通じてMIDIのNOTE ON/NOTE OFFが送られてきているからなんですね。
SQ-1のシーケンス信号をUSB経由でMIDIで録音してみると、VEL、ピッチベンド一定のノート情報が録れた
半音と半音の間のあいまいな音程信号が来るわけではないので、スッキリしているわけです。ちなみに、SQ-1側の設定でスケールを設定することで、その演奏をマイナーにしたりメジャーにしたりすることもできるようになっています。
一方で、SQ-1には同期用の端子もSYNC-IN、SYNC-OUTという2つが用意されています。これもアナログの端子なのですが、「プチッ、プチッ、プチッ、プチッ」という単純なクロック信号が流れることで、シーケンサ同士やドラムマシンなどと同期ができるようにしたものです。
KORG volcaシリーズやiPhone/iPadとの同期もラクラク
以前に「DAWとの連携でKORG volcaの実力を120%引き出そう!」で紹介したKORGのvolcaとも連動させることができるし、SyncKontrol for monotribeという無料のiOSアプリを使うとで、iPhoneやiPadの各種アプリとSQ-1を同期させることだってできるのです。
USB接続するだけでMIDIデバイスとして認識されるが確実に使うにはKORGのドライバのインストールが必須
と、ここまではあくまでもSQ-1を中心にさまざまなシンセサイザをコントロールするという話でしたが、この記事の目的は、その逆。つまりPCのDAQから各種アナログシンセをコントロールするという話でした。実は、それもSQ-1を間に入れることでとっても簡単にできてしまうんですね。
Cubaseでみると、MIDIデバイスとしてSQ-1の入力1系統、SQ-1の出力2系統が見える
一旦、SQ-1の自動演奏をストップさせると、SQ-1はPC用のCV/GATEインターフェイスへと変身してくれます。USBでPCと接続するとPCからはSQ-1がMIDIデバイスとして見えるようになっています。
Cubaseのほか、StudioOne、SONARでも確認してみましたが、いずれも出力先としてSQ-1 CTRL、SQ-1 MIDI OUTという2つのポートが見えます。
StudioOneでも同じように扱うことができた。フリーウェア版のStudioOne FreeでもOK
このうちSQ-1 CTRLがまさにCV/GATEをコントロールするものであり、MIDIの1chでA OUT、MIDIの2chでB OUTを出力することができます。もっとも、アナログシンセをコントロールするので、いずれもモノフォニックで和音を送ることができないのは注意点ですよ。
SQ-1 CTRLを出力ポートとして選びMIDI 1chで出力するとA、2chならBのCV/GATEから信号が出る
まあ今回試したMS-20miniもMicroBruteもMIDI IN、USBを整備した機材なので、SQ-1なしでも鳴らすことができるのは事実ですが、SQ-1のCVを介すことで、演奏情報だけでなく、VCFやVCAを制御するといったことも可能になるため、できることの幅が大きく広がるし、古い機材を含めDAWからなんでも接続できるようになるという点が嬉しいですよね。
SQ-1 MIDI OUTを選んだ場合は、CV/GATEではなく、SQ-1のMIDI OUTから信号が出る
以上、SQ-1とCV/GATEということについて紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?ここで紹介したのは、あくまでも触りの部分。SQ-1自体にはまだまださまざまな機能が搭載されているし、CV/GATEの利用法の奥は深いので、知れば知るほど、楽しい世界にハマっていくことは間違いないと思います。こんな機材が手頃な価格で買えるんですから、DTMの世界にアナログシンセを融合させてみるのも、いいのではないでしょうか?
【価格チェック】
◎Rock oN ⇒ SQ-1
◎Amazon ⇒ SQ-1
◎サウンドハウス ⇒ SQ-1
【製品情報】
KORG SQ-1製品情報
KORG MS-20mini製品情報