先日の「ArturiaがBITWIGとタッグ!?KEYLABとのセット製品が安すぎる!」という記事でも触れた通り、フランスのメーカー、Arturiaが創立15周年記念のイベントを開き、世界各国からジャーナリストや代理店などが呼ばれて参加しました。私も、これに参加してきたわけですが、その15周年記念のハイライトとなったArturiaのCEO兼社長であるFrederic Brunさんのキーノートスピーチにおいて、今後のArturiaのあり方を見る上で重要なキーとなる製品が発表されました。
それは来年発売が予定されているオーディオインターフェイスです。なぜ、オーディオインターフェイスが重要なキーであるのか、これまでの15年をArturiaはどのように歩んできて、今後どこへ向かっていくのか。Fredericさんに話を聞いてみたので、紹介していくことにしましょう。
Arturiaの設立15周年記念イベントにおいて、新コンセプトのオーディオインターフェイスが発表に
--15年前のArturiaの起業時、今のような会社の姿、製品体系などは想定していたんですか?
Frederic:こんな形に進化してくるとは想像もしていませんでした。この15年で会社も世の中も本当に大きく変わってきたという印象です。会社を設立してすぐのとき、アメリカで行われた展示会であるNAMM SHOWに出展したのですが、それはとてもとても小さなブースでした。ここで出したのがSTORMだったのです。
Arturiaの15年の歴史におけるスタートとなったSTORM
--STORM、とっても懐かしいですね。当時、日本ではアイデックス音楽総研が扱っていたんですよね。
Frederic:そう、今でも当社では当時の日本語のパッケージを展示していますよ。あのSTORMはデスクトップ上に色々なソフトシンセを並べてスタジオ環境を作るというコンセプトの製品で大きな成功を収めました。しかし、同時期にスウェーデンのPropellerheadがReasonをリリースしたことで、これと比較され、いろいろとぶつかり、負けてしまったとうい面は否めません。その状況で、いろいろと模索する中でTAE=True Analog Emulationという技術を生み出したのです。
Arturiaの各ソフトシンセのベースにはTAEという技術があった
--そのTAEによって誕生したMOOG MODULAR Vは衝撃的でしたよね。TAEは、そもそもSTORMのときに採用されていたわけではなかったんですか?
Frederic:STORMのときには、まだアイディア自体がなかったですね。1年間かけて試行錯誤を繰り返しながら作り出していった技術です。ちょうどビンテージシンセサイザに注目が集まるようになってきていましたが、ものは少なく、高価でした。それならば、そのビンテージシンセサイザのアナログ回路自体をコンピュータによってエミュレーションすることによって、ビンテージシンセサイザと同じ動きをさせようという技術ですね。
--今はアナログモデリングとか回路シミュレーションという呼び方で、多くのメーカーも取り組んでいる手法だと思います。たとえばRolandではACB=Analog Circuit Behavior、YAMAHA/SteinbergではVCM=Virtual Circuitry Modelingという名前で近いことを行っていますが、これらとのTAEの違いはどこにあるのでしょうか?
Frederic:他社の手法がどういうものであるかは、私もよくわかりません。ただTAEは単に回路をシミュレーションするというだけではなく、最終的にいかに音楽的に魅力ある楽器に仕上げるのかというところに重きを置いてきました。楽器としていいサウンド、演奏して気持ちいいサウンドの製品に仕上げてきたからこそ、多くのユーザーのみなさんに受け入れられたんだと思っています。
--先日発売されたiPadアプリのiProphetもそうだし、現在も高い人気となっているPROPHET VやOBERHEIM SEM V……をはじめとするV COLLECTION 3においてもTAEを使っていますよね。これは13~14年前に登場したTAEがそのまま使われているのですか?
Frederic:名前は同じTAEですし、アナログ回路をシミュレーションするという意味では同じですが、大きく進化してきています。やはりこの10年でコンピュータの処理能力は大幅に向上し、できることの範囲も大きく変わりました。そのため、より細かく、精密な演算を行うようになり、モデリングの精度は格段に高くなっていますよ。
Arutiraがハードメーカーへと進んだ最初の機材Originの特別モデル(一般のモデルは白)
--そのアナログシンセをモデリングするソフトシンセメーカーだったArturiaは、今や本当のアナログ回路を使ったアナログシンセのメーカーにまでなってしまいましたよね。
Frederic:一段飛びでアナログシンセメーカーになったというわけではありませんでした。2006年にはOriginというデジタルシンセサイザのコンセプトを発表し、2010年に製品化しています。これはコンピュータにモデリングをさせるのではなく、Originという楽器内部にDSPを搭載し、これに処理させることで、OriginだけでTAEを実現させることを可能にしたのです。ただ、事実上コンピュータを内包する楽器のようなものですから、かなり高価なシステムになってしまったのは事実です。その一方で、2010年ごろから世間的にはアナログに興味を持つようになっていったんですよね。そこで、Arutiraとしても、アナログシンセ自体の開発に目を向けるようになりました。
15周年記念イベントのキーノートスピーチでTAEなどについて振り返るCEOのFredericさん
--長年TAEをやってきたから、すでにアナログ回路は得意だったということなんですか?
Frederic:いえ、やはりアナログ回路自体の設計にはノウハウが必要であり、TAEの技術だけで作れるものではありませんでした。そのため、それを得意とする人たちを集めて開発をスタートさせました。その中心人物となったのがYves Ussonというエンジニアであり、彼を中心に主に3人のエンジニアによってMini Brute、Micro Bruteを設計してきました。
--他のアナログシンセメーカーから引っ張ってきたといういことなんですか?
Frederic:そうではないんですよ。実際、Yves Ussonの場合、地元グルノーブルの人間で、生物関係の研究者だったんです。でも、アナログ回路、アナログシンセサイザに長けていて、このプロジェクトに加わってもらったんですよ。結果としてMini Brute、Micro Bruteはビジネス的にも大成功となり、この4年間で5倍以上の売り上げ規模へと発展しました。その意味でも、以前とはだいぶ異なる事業形態へと進化してきました。
今回Arturiaロゴの下のサブタイトルは「YOUR EXPERIENCE・YOUR SOUND」になった
--そういえば、Arturiaというロゴの下の文字もいろいろ変わってきましたよね。
Frederic:そうです。2001年の創業当初は社名のサブタイトルにSOFTWAREとしていましたが、Originを出すタイミングでSOFTWARE & HARDWAREとしました。さらにMini Bruteを出すタイミングで、単にソフトとハードというシステム的な会社というよりも楽器メーカーへという変化を意識してMUSICAL INSTRUMENTSとしたのです。
--そして、さらにこの15周年記念において、このサブタイトルを一新しました。
Frederic:はい、インタビューではまだ詳しいことはお話できませんが、今回Arturiaはこれまでにない、まったく新しいオーディオインターフェイスを発表しました。詳細は11月13日に公開する予定であり、価格などは来年のNAMM SHOWで公表できるように準備を進めているところです。やはりミュージシャンにとって、音楽制作においてオーディオインターフェイスは重要であるということからオーディオインターフェイスの開発を決めたのですが、オーディオインターフェイスとなると、やはり楽器という範疇には収まり切れなくなります。そのため今回サブタイトルを「YOUR EXPERIENCE・YOUR SOUND」と改めました。音楽のためという当初からの考え方はまったく変わっていませんが、会社でできることの範囲が徐々に広がってきたためサブタイトルも進化してきているわけです。このオーディオインターフェイスの誕生が音楽制作、DTMの世界に大きな革新を与えるものと確信していますので、ぜひご期待ください。
--ありがとうございました。
というわけで、フランス・グルノーブルでの取材最終日程の最後のところでFredericさんのインタビューを行うことができました。その前日に行われたキーノートスピーチにおいて、このオーディオインターフェイスのプロトタイプを見ることはできたものの、中身については言及は一切NGという箝口令が敷かれてしまい、残念ながらここでは書くことはできません。とはいえ、各国から情報は徐々に漏れ出すのではないか……と思っているのですが、どうでしょうか(笑)。オープンになった時点で、改めてしっかり紹介できればと思っていますので、お楽しみに!
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