先日、Twitter経由で「いま使っているオーディオインターフェイスの入力音が痩(や)せていて、使いものになりません。USB 1.1対応のオーディオインターフェイスであることが原因だと思いますが、2.0対応にすると入力にどの程度の差が出るでしょうか?」という質問をいただきました。さらに「それ以前に使っていた機材でも、音痩せを感じていました。やはりUSB 2.0のなるべく高価な機種のほうが良いのでしょうか?」というメッセージが来ていたのです。
個別の質問にはお答えできないケースも多いのですが、今回の話はちょっと気になったのと、ありがちなミス、勘違いが原因なのでは……と思い、やり取りした結果、うまく解決することができました。同じような間違いで、オーディオインターフェイスを正しく使えていない人も多いように思ったので、改めてオーディオインターフェイスの正しい使い方について考えてみたいと思います。
あなたのオーディオインターフェイス、正しく使えていますか?写真はRoland DUO-CAPTURE EX
予め断っておくと、音質の評価というのは非常に難しく、私自身も苦手なほうです。オーディオ評論家の先生方は、ほとんど差のないような音の違いを文章にして評価されているので、スゴイなと思っているのですが、すごく耳のいい人、毎日音を作りこんでいるプロの方だと、微妙な差が致命的に思えるほどに感じるのだと思います。そうした場合、ある意味、音の好き・嫌いというところになるため、アドバイスも難しくなりますが、今回のケースはちょっとそうではないように感じます。
まず最初にお答えしたのは、「USB 1.1とUSB 2.0の違いで音質に大きな差が出るわけではない」ということです。確かに規格上USB 1.1だと最高で24bit/96kHzまでしか扱えず、しかも録音・再生を同時に行うDTMの使い方においては24bit/48kHzが限界。24bit/96kHzや24bit/192kHzが扱えるUSB 2.0と比較するとフォーマット上の音質が劣るのは事実ではあります。でも、これは微妙な音の違いであり、ちょっと聴いてすぐ判別できるようなものではないし、明らかに音が変質する「音痩せ」の原因にはなりえません。
Mackieのアナログミキサー、写真は802-VLZ3
だから、「今回のケースはアナログ側に原因があるのではないでしょうか?」とお返事したのです。すると「“アナログ側に原因”とはどのような意味でしょうか? ちなみにMackieのミキサーのメインアウトからオーディオインターフェイスに接続しています。レベルオーバーは起こしていません。DAWはAbleton Liveです」、「Mackieのヘッドホンアウトから直接聴く音と比べると、極端にコンプレッションがかかったような音になるのですが、何に原因が有るのでしょうか? お知恵を拝借出来れば幸いです」という連絡がありました。
みなさんは、なぜこうした現象が起こったのか原因が分かりますか?これだけの限られた情報で原因究明するのは難しいところではありますが、「もしかして?」と思い、次のような返事をしました。
オーディオインターフェイスのインプット端子に入力し、入力レベルは最小に設定する。写真はQUAD-CAPTURE
「Mackieの出力を割れない範囲で大きくして(0dB設定できるなら、そのように)、オーディオインターフェイスの入力ゲインを最小にして試してみてください」と。結果はビンゴだったようです。
知っている人なら当たり前、知らない人にはとっても不思議な話ですが、これ、最近の多くのオーディオインターフェイスで、非常にありがちな使い方のミスですね。先日の「DTM初心者のためのオーディオインターフェイス選び 」という記事でも紹介したとおり、オーディオインターフェイスの多くは、1つの入力でライン入力、マイク入力、ギター入力などを兼ねており、それに適した入力をしないと、音が変質してしまいます。
入力レベルの調整はオーディオインターフェイスによって表記に違いがあるケースもあるが基本はどれも同じ
今回の例だとミキサーのメイン出力を突っ込んでいるということですから、ラインレベルでの信号、つまり非常に大きいレベルの信号が入ってきています。その場合、オーディオインターフェイスはラインレベルに合わせて最小に絞る必要があるのです。オーディオインターフェイスによっては、左に回すと「LINE」、右に回すと「MIC」といった記載がされていますが、そうでない機器も同様です。
先ほどの方からは「指示通りの操作で問題が解決しました!オーディオインターフェイスのSENSって最小でも音が入るんですね……。あと、レベルオーバーしても音割れせずに自動でコンプレッションがかかるとは知りませんでした。そもそもマイクもラインも同じ端子から入力するんですね、今更ですが……」との連絡があって、無事解決しました。
レベルオーバーした際、自動でコンプレッサがかかるかどうかは、製品によっても違います。基本はレベルオーバーしないようにすることが大原則です。でも、この「入力レベルを最小にすると、音が入らないのでは…」という勘違いは非常にありそうですよね。
多くのオーディオインターフェイスには、マイク用のプリアンプが内蔵されており、この入力レベルを上げることで、マイクプリが動作しだします。そう、ラインレベルと比較してマイクの入力は非常に微小だから、アンプが必要なのです。しかし、マイクプリ単独の製品も数多くあり、価格も高いものだと数十万円もすることからも分かるとおり、これを通すことで音量が上がると同時に音も変化するのです。
1つの端子がマイク入力、ライン入力、ギター入力を兼ねているオーディオインターフェイスが大半。写真はUS-366
しかし、今回の例ではミキサーで作った音をレコーディングするのですから、マイクプリは不要。そのため、最小に絞っておく必要があるわけですね。ちなみに、この方の場合、マイク、楽器、オーディオ機器の音をミキサーでまとめた後に、オーディオインターフェイスへと接続していたわけですが、できるだけいい音で録るのであれば、できれば直接オーディオインターフェイスに接続することをお勧めします。
レコーディングの基本は、なるべく音源に近くして録ること。つまり、間にミキサーやパッチなどを入れず、できるならエフェクトも通さず、ケーブルも短くして録音したほうが、いい音で録ることができます。ミックスが必要なら、DAWでミックスするほうが、音質的には有利ですからね。
24in/24outの入出力を装備するUSB 2.0対応オーディオインターフェイス、Steinberg UR824
もし、どうしても複数楽器の音を同時に録りたいのであれば、それこそUSB 2.0対応でマルチポート入力を持ったオーディオインターフェイスを入手して行うのがいいですね。
いまのオーディオインターフェイス、どれも非常に高性能ですから、製品による音質の違いはそれほど極端なものではありません。機器ごとによる音質の違いよりも、間にミキサーを通すかどうかのほうが、遥かに音質を劣化させますから、その点もよく考えたほうがよさそうですね。
今回は、ラインレベルとマイクレベルの使い分けについて紹介しましたが、それと同時に、ギターを入力する際に、ハイインピーダンス(Hi-Z)入力の設定にしておくことも重要ですね。これをしないと、ギター音色の音痩せの大きな原因となります。ただし、これもギターやベースをオーディオインターフェイスに直結する場合の話であり、間にエフェクトやDIを挟む場合は、ラインレベルになるので、Hi-Zはオフにしておく必要があります。もっとも「ロー出し、ハイ受けの原則」というのがあるので、Hi-Zのままでも、大きな問題はないはずですが……。
新しい、高性能な機器を入手するというのは、楽しいし、それでグッと良くなる可能性もありますが、まずは手持ちの機材の使い方を見直すことで、音質を大幅に改善できる可能性もあるので、気になる方はぜひ試してみてください。
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