iPhone、iPadのユーザーなら、多くの方がFinger Pianoというソフトをご存知だと思います。ピアノがまったく弾けない人でも、これを使えばゲーム感覚でそれっぽく弾けてしまうというもの。現在でも、App Storeのミュージックカテゴリで常時、上位をキープしている大人気アプリです。
現在、iPad版やフリー版などシリーズアプリが複数存在し、国内外ともに売れているようですが、開発したのは日本人の和田純平さん。私自身、まったく面識がなかったのですが、Twitterで「和田さんに取材してみたい!」と書いてみたら、何人かの方が紹介してくれました。そして先日、ヤマハがiPad/iPhone版のVOCALOIDを発表したDIGTAL CONTENTS EXPO 2010の会場でお会いし、いろいろとお話を聞くことができました。yudoの南雲玲生さん、bs-16iを開発したbismarkさんに続くアプリ開発者インタビュー記事です。
--Finger Piano、すごい人気ソフトですが、これは元々どんなキッカケで作ったのですか?
和田さん(以下敬称略):僕自身、まったく楽器も弾けないし、楽譜も読めないのですが、2005年に結婚する際、結婚式で何かサプライズが作れたらいいなと思っていました。そこで思いついたのがFinger Pianoです。まったく楽器がダメな僕が弾けたら、カッコイイに違いないってね。このとき作ったのはWindows版のソフトで、現在もフリーウェアとして公開しています。仕組みはiPhoneやiPadのものとまったく同様で、上から弾くべき位置が流れてくる仕掛けになっています。また、画面と鍵盤をピッタリとあわせられるように画面上の鍵盤の幅を調整する機能を持たせました。MIDIファイルを読み込ませると、画面に流れてくるようになっています。
Windows版のFinger Piano
--Windows版はまったく知りませんでした。それがあったので、iPhone版を作ることになったわけですね?
和田:僕がiPhoneに興味を持ったのは、岐阜県立国際情報科学芸術アカデミーの教授の赤松正行さんにお会いしたのがキッカケです。iPhoneが発売されたばかりの2008年8月にお会いしたのですが、すでに赤松さんは音楽アプリを作っていて、触らせてもらったらタッチパネルのレスポンスもいいし、音もいい。振ったら音がでるといった加速度センサーも楽しく、ぜひ楽器アプリを作ってみたいと思ったのです。その後すぐにiPhoneを入手したのですが、実はそのときはFinger Pianoのことはスッカリ忘れていました。
--では、どんなアプリを作ろうと?
和田:最初に作ったのはMINI PIANOです。これを8月中旬にリリースしました。ただ、自分で指でタッチすると確かに鳴るのですが、そもそも楽譜が読めないので、実際に弾くのは難しい。そこで自分で楽しむためにもFingerPianoを作ろうと思ったわけです。
無料で公開されているMINI PIANO
--なるほど、あの無料アプリのMINI PIANOですね。そうか、よく認識していませんでしたが、あれも和田さんの作品だったんですね。でもちょっと待ってください。8月にiPhoneを入手して、8月中旬にピアノアプリが完成してしまうって、すごいスピードですよね。
和田:サンプリング音源を鳴らすためのAPIがiPhoneに用意されているので、それほど難しいことではないんですよ。
--サンプリングデータもOSに入っているんですか?
和田:サンプリングデータはないので、自分で作りました。家にあった電子ピアノをサンプリングしてみたのです。
--何ポイントくらいサンプリングしているのですか?
和田:61鍵盤だったかな、全鍵サンプリングしていますよ。また時間的には約8秒録っているとともに、それぞれ編集を施しています。具体的にはオープンソースの波形編集ソフト、Audacityを用いて減衰を滑らかにしたり、長さを整えたり、またiPhoneスピーカーで音が割れない程度に大きくするなど、それなりに苦労しました。でも、その甲斐あって、多くの人から「MINI PIANOっていい音だよね」って褒めていただけています。その後、8月下旬にFinger Pianoをリリースしました。
--とにかくすごい開発スピードですね。実際、売れ行きはどうだったのですか?
和田:まだアプリが少なかったこともあり、リリースされた直後からすごく売れ出した。何も宣伝しなかったのに、ドカンと(笑)。日本のApp Storeで2週間連続を記録しました。
iPad版のFinger Piano
--それはミュージックカテゴリということではなく、iPhoneアプリ全体で?
和田:はい。Finger Pianoは350円の有償アプリでしたが、同時に無料アプリのトップとしてMINI PIANOが入ったのです。有償・無償の両方がトップを同時に取った人はほとんどいないと思うので、そこはちょっと自慢ですね(笑)。その後、アメリカでも売れ、結果的にはアメリカでのほうが多く売れています。さらにフランス、ドイツなどのヨーロッパ、最近では韓国、中国などで売れています。
--それだけ売れたら、もう億万長者?
和田:そうだといいのですが、何も働かなくてもいいというレベルではないですよ。常識的な想像のつく範囲です。
--本業は、システムソフトウェア会社での勤務と伺いましたが……。
和田:はい、これまで10年、地元である岐阜の会社で勤務してきました。業務アプリケーションの開発を中心に行い、結構自由にやらせてもらったので、楽しく働いてきたのですが、今年の7月末に退社しました。
--これから何を?
和田:9月1日に北村穣さんというデザイナーと二人で株式会社ソネルという会社を立ち上げ、ここでiPhoneやiPadのアプリの開発を行っていきます。今までの会社に不満があったわけではありませんし、独立をずっと考えていたわけではありませんが、もっと自由に働いてみたいと思って始めたのです。
--今後、この会社で音楽アプリをどんどん出していくんですか?
和田:いいえ、音楽アプリは今後も個人でやっていき、ソネルでは別ジャンルのものを作っていく予定です。何をするかはまだ秘密ですが、楽しみにしていてください。
--ありがとうございました。
【関連情報】
和田純平さんサイト