iPhone、iPad用のソフトシンセやレコーディングソフト、O-GAWAのような一風変わったリズムマシンのメーカーとして、世界的に有名な注目企業となっている日本のベンチャー企業、ユードー(Yudo)。
海外メーカーが圧倒的に強いDTMの世界だからこそ、ぜひ日本のソフトハウスを応援したいところ。そのユードーを引っ張る社長の南雲玲生さんは、超優秀なソフトウェア開発者であると同時にメジャーな作曲家であり、ゲームクリエーターでもあることは、先日紹介したとおり。でも、どうしてこうしたソフトを開発するに至ったのか、また今後どんなことをしていくのかなどについても伺ってみました。
そもそもユードーが設立されたのは2003年。当然、iPhoneもiPadも、そしてiPod touchですらなかった時代ですから、いきなり今のようなアプリを開発し出したというわけではなかったようです。
「最初は今でいう“位置ゲー”のようなものを作り、特許も取ったのですが、ビジネス的には大失敗。時代が早すぎたのかもしれません。会社を回すためにソフト開発の受注仕事などをしていました」と語る南雲さん。大学に通いながらの起業だったわけですが、卒業後、仕事に本腰を入れようとしたときに登場してきたのが、iPod touchであり、iPhoneでした。
これにいち早く飛びつき、ギターゲームやピアノの練習アプリの開発に取り組むとともに、アメリカのApple本社に出向いて売り込みに行ったのだとか……。「beatmania」をヒットさせるなど社会人として経験を積んだ後に大学で学んだだけに海外展開を意識した製品作りをしたという南雲さんが、音楽にテーマを絞った理由は大きく2つ。まずは、南雲さんをはじめ社員みんなが音楽好きで、「ユードーとしての強みが音楽であること」、そして「音楽なら言語や文化の壁がない世界共通なものだから」。その狙いがうまく行きだしたのです。
ボコーダーである「SV-5」の開発を行ったのは2009年の初頭。「ボコーダーは子供のころから好きだったので、純粋に自分で仕様を書くことができるし、それが一番早く作れるということで取り組みました。実際、ボコーダーに声を入力して、音を出すところまでは1週間で出来たのです。ところが、ボコーダーそのものでないところで、つまずいてしまいました」と南雲さん。
サウンドエンジン周りはアセンブラで組んだというボコーダー
そう、リアルタイム処理するには、レイテンシーが大きすぎて、使い物にならなかったのです。ここでかなりトラブったそうですが、結局ARMプロセッサのサウンド周りを徹底的に調査、テストするとともに、アセンブラでプログラミングし直すことで高速化を図ったのだとか。
有名なレコーディングソフト、RecToolsシリーズにおいても、iPhoneにはダイレクトモニタリング機能がないため、ボコーダーと同様にARMプロセッサでのサウンド処理を高速化して、レイテンシーの低いモニタリングを可能にしているそうです。
RecToolsシリーズもモニタリングのために技術投入されている
もちろん、こうしたプロジェクトがいろいろ動き出したら、一人ですべてをこなすことはできません。そんな中、スウェーデンから観光で来ていた人や、ハンバーガーショップで働いていたい人などをユードーに誘い入れたのです。何も実績があったわけではないけれど、「こいつは天才かもしれない」、「こいつの根性は半端じゃないぞ」といった南雲さんの直感と選択眼によって連れてきた彼らは見る見るうちに力を発揮するようになったのだとか。その結果、数多くのアプリが生まれているわけです。
今後もiPhone、iPadに特化して開発をしていくのかを伺ったところ、「もちろん、iPhoneなどは進めていきますが、すでに2名がAndroid専任で開発を行っているほか、mixi用のソーシャルアプリの開発も進めています。いずれにしても音楽系ですよ」というお返事。
ソーシャルアプリはともかく、私個人的にはAndroidは非常に興味があったので、今あるボコーダーやレコーダーを移植する予定なのかを聞いてみました。が、これに対してはあっさり、「No」というお答えでした。
やはりAndroidの場合、Javaでの開発となり、iPhoneのようなリアルタイム性を求めることができないそうです。その結果、iPhoneでも難しく苦労したボコーダーやシンセ、レコーダーなどを移植することは技術的に無理とのことでした。確かに、調べた限りではAndroid用のそうしたアプリは見かけませんよね。
Android用にはピアノ練習ソフトPianoManなどが移植される見込み
私個人的には「当面、無理ということであれば、Androidを購入するのは見送りだな……」と思ってしまいましたが…。ちなみに、ユードーで出していくのは「PianoMan」などエンターテインメント系のアプリを作っていくとのことでした。
このインタビューの帰り際に聞いて驚いたのが、実験レベルでの開発内容。なんと、iPhone上で、VSTやAudioUnitsのプラグインを動作させることができたとのこと!! GUIの問題があるので、そっくりそのままとまではいかないけれど、それなりに動くというのです。これはDTM界にとって、世界的に見ても大ニュースではないでしょうか?
残念ながら、そのときは実物を見せてもらったわけではないのですが、ぜひ、また改めて伺って詳細を教えてもらいたいと思っています。