日本を代表するプラグインメーカー、DOTEC-AUDIO(ドーテック・オーディオ)から、初のシンセサイザ音源、DeeACIDがリリースされました。TB-303をモデルに作られたDeeACIDは、開発者であるフランク重虎さんが、世の中にあるTB-303ソフトウェア音源を片っ端から試した結果、DAWでの音楽制作に最適化させてゼロからというのがこのプラグインです。TB-303的なルックスでありつつも、シーケンサー部分はバッサリと撤去、TB-303に合わせて使われるオーバードライブと、改造モデルとして人気の高いDevil Fishを匂わせる機能を搭載。ボタン一発でMIDIコントローラーで操作できるようにするラーニングボタンをすべてのツマミに搭載するなど、現代の音楽制作で使いやすい機能を搭載しています。
また見た目のインパクトで強烈なのが画面下の映像。ここはこれまでDOTEC-AUDIOプラグインのUI実装を担当してきた飯島進仁さんが担当し、通常では考えられないほど、軽いものになっているのだとか。メガデモというコンピュータサブカルチャー愛好者の飯島さんが、演出映像部分の全データでもフロッピーディスクで収まり、20年前のCPUでも余裕で動く仕様で実装しているので、派手な演出ですがPCへの負担は皆無というのも特徴です。お二人の得意分野全開で作った、渾身の初シンセ音源となっているのです。こだわりまくった音源なのに、ものとしてはかなりシンプル。やはりそこはDOTEC-AUDIOだけあって、初めてシンセで音作りを体験するには、これ以上のものはない仕上がりになっています。また11月4日まで新製品発売セール中でもあるので、DeeACIDを含め5,000円の製品は3,000円に、2,500円の製品は1,000円になるなど、超お得なタイミングとなっています。そんなDeeACIDについて、フランク重虎さん、飯島進仁さんにお話しを伺ったので紹介していきましょう。
楽器が弾けなくてもデタラメにいじってもOKなシンセ音源DeeACID
--これまで数多くの画期的なエフェクトプラグインをリリースしてきたDOTEC-AUDIOですが、今回はなぜ音源の開発に踏み切ったのでしょうか?
重虎:インストゥルメントの開発自体は、ずっと以前から考えていましたし、ユーザーのみなさんからも多くの要望をいただいておりました。そうした中、ようやくDOTEC-AUDIOで形にしたかったエフェクト類が一通り揃ったこともあり、今回DOTEC-AUDIO初のインストゥルメントを開発してみたのです。開発するにあたっては、DOTEC-AUDIOらしさを大切にし、実用面だけでなく、遊び心も詰め込んでいます。また、これはインストゥルメントあるあるだと思いますが、「プリセットを1から聴いて、それだけで満足する」、「グルーブボックスだと、デモのパターンがカッコよすぎて満足する」というような自分では音作りをしないで、プリセットで満足して終わらせてしまうという製品にはしたくなかったのです。そこでプリセットに縛られない、初めて音作りをする人も楽しめる音源として、今回DeeACIDを開発しました。
--DeeACIDの見た目から分かる人は分かると思いますが、元ネタはTB-303ですよね!?
重虎:その通りです。プリセットに縛られないという点で、TB-303が合っていると思いましたし、楽器が弾けなくてもデタラメにいじってもなにか面白い形になるところが、誰でも楽しめるシンセのコンセプトに唯一マッチしたので、ベースはTB-303にしました。音をエディットするのがシンセの醍醐味だと思うので、フィルタのみが基本の音作りであり、ツマミをひねれば楽しい音が出る、ファーストシンセとしても最適なTB-303の力をお借りしています。また、この音源を企画する前に、飯島さんととあるクラブイベントに行き、打ち込み系の曲が流れている中で、必ずアシッドベースが入っていたんですよね。これきっかけで、音源の大筋は決まりました。
TB-303をDAWで使うことに特化させた
--なるほどTB-303は名機ですものね。元が存在する音源は、サンプリングやアナログシュミレーションがありますが、これはどうやって作っていったのでしょうか?
重虎:結論からいうと、耳コピとアナログシュミレーションのハイブリッドで作っています。最初は、TB-303の音を頼りにオシレーターやラダーフィルタなどを自分で組み、耳で調整していきました。ただ耳コピだけでは、挙動を試しているうちに、うまくいかないところが出てきてたので、回路を見ることにしたんです。TB-303のサービスマニュアルに回路図が載っているので、これを分析すると、たとえばアクセントトリガーが入ったときは、回路がショートカットするなど、いくつかの特殊な動きをしている点を発見したので、これをプログラムに落とし込みました。またDeeACIDは、アシッドテクノというジャンルに特化させて作っているのですが、アシッドベースとして出すには、このほうがいいだろうという細工を組み込んだ設計となっています。
--それこそ、世の中にはたくさんTB-303のエミュレータ音源がありますが、それらとの違いはなんなのでしょうか?
重虎:TB-303系の音源は、ほぼすべてといっていいほど持っていて、実際自分の楽曲でも使ってきました。ただ、使用する中で、どの製品にも共通する、個人的な不満点がありました。それはDAWで制作するにあたっては、TB-303の特徴であるパターンシーケンサーが不要であり、これが搭載されているがために使いづらくなっている、ということ。エミュレータ音源としてはこれが正しいのですが、DAW上で使っているので、ノートを打って音源は使用しますよね。なので毎回パターンシーケンサーをオフにするひと手間があったので、DeeACIDではこのシーケンサーをバッサリとなくしています。またパターンシーケンサーは、元のTB-303のものと同じ仕組みの入力方法の音源が多く、その使い方が特殊なので、慣れ親しんだ人でないと難しいという理由もありますね。見た目として大きいので、まずはそこが大きな違いです。
--それこそ先ほどのお話のようにDeeACIDには、プリセットが用意されていないのも違いですね。
重虎:TB-303の音源に限らず、どうしてもプリセットは搭載されていますよね。メリットもありますが、プリセットを選ぶという行動に縛られるという感覚があったので、DeeACIDでは本物のTB-303のようにあえて、自分の好みのフィルタをいろいろ調整して仕上げていく、それをある意味強制するという仕様にしました。いろいろいじっても、それが許容される器を持ったジャンルがアシッドテクノだった、だからこれに特化しているというのもあります。またプラグインの仕様の話になりますが、MIDIのノート情報がDAWからプラグインに送られてくるときに、いくつかまとめて飛んでくるんですね。いわゆるバッファを介して送られてくるからです。いくつかの音源を見ると、このバッファ単位で処理している結果、微妙なゆらぎが生じてしまいます。せっかくタメを作る形で絶妙なタイミングでを打ち込んでも、クオンタイズされてしまったり、意図したタイミングでの鳴り方をしなかったんです。なのでDeeACIDでは完全に再現できるよう、サンプル単位で合わせるようにしています。
オーバードライブやLEARNボタンなど、便利な機能を多数搭載
--いくつかのパラメータも追加されていますよね。
重虎:アシッドテクノでTB-303を使うときなど、オーバードライブを掛けたりするのですが、そうなるとレベルの管理が非常に難しくなる楽器なんですね。またアクセントを掛けると6dB以上跳ね上がったりするので、後ろにコンプを掛けてあげなくてはいけなかったり、割と生楽器ばりに音量管理が難しいシンセでもあるんです。なので、その手間を掛けなくてもいいように、オーバードライブのツマミを用意して、ちょうどいい音量になるようにしていたり、アクセントで跳ね上げても雰囲気はそのまま、レベルはいい感じに抑えてくれるなどの工夫も入れています。またボタン1つでMIDIコントローラーのツマミにDeeACIDのパラメータがアサインされるようにもしているのも特徴です。1ステップ、2ステップ掛かるものが多かったので、最速でアサインできる仕組みを実装しています。また、ほかのメーカーでも搭載しているものですが、サブオシレーターやデチューンも搭載しています。あとはノコギリ波と矩形波をミックス可能というところですかね。
--まさにDAWで使うことに特化していますね。
重虎:そのほかにも、パラメータとしてリリースを搭載しています。オリジナルは、アタックとリリースが固定なのですが、ベースシンセとして使うときは、リリースがあったほうが表現的にも豊かになると思ったので、普通のシンセサイザのようにリリースを付けました。それからですね、TB-303の魔改造として有名なデビルフィッシュというモデルがあるんですね。これを思わせる音に変わるDIABLOボタンを用意しました。これをオンにするとフィルター設定が非常に過度な状態になります。ただし扱いは難しいので、普通は押さずに好き勝手にパラメータを動かして遊んでいただければと思います。
軽量だけど派手な演出画面
--本来シーケンサーがあるところに、DeeACIDではかなりカッコいい映像が流れていますが、これはどうなっているのでしょうか?
重虎:フロッピーディスク1枚で、どれだけ凝ったものを見せられるか、というメガデモという文化が昔からありまして、それを今回のデザインコンセプトとして採用しています。曲に合わせて盛り上がるような、パチンコ台じゃないですが、下半分は、そういった映像演出の部分になっています。ただ単に動画ではなく、本当にメガデモで行っているように、全部ビットマップの演算で作っています。ここは飯島さんに頑張って実装してもらいました。
飯島:重虎さんとほぼ同い年ということもあって、同じような文化を通っているんですよね。それこそアシッドテクノだったり、メガデモだったり。そういう意味でいうと、今回はそれが一番分かりやすく形になった結果ですよね。意識したのは、あくまで演出部分なので、動画だったり重い処理で、CPUとかメモリを食ってもしょうがないので、徹底的に軽くすることですね。それこそ、私が昔から好きなプログラミングのジャンルでもあるので、腕の見せどころですよ。メガデモみたいな昔からのグラフィック技術を持ち込んで、20年以上前のCPUでも動くようには実装しています。見た目は派手ですけど、異様に軽い、下手したらただ普通に大きいレバーが付いているよりも軽いっていう、現代では意味の分からない実装にはなっていますね。
--ということは、今回のデザインは2人でということですか?
飯島:全体のデザインやレイアウト、コンセプトに関してはこちらですが、グラフィック素材はDeeSubBassなどでも担当していただいた福田興業さんに作っていただきました。福田興業さんも、当時のゲーム機のドット絵とかをずっと作られている方なので、まさに本物ですよね。画面全体で使っているカラーのビット深度も12bitと、コモドールより発売されたパーソナルコンピューターのAmigaに揃えています。そこまでこだわって完璧にしています(笑)。
DeeACIDの通常価格は、5,000円(税抜)
--最後にDeeACIDのお値段について教えてください。
飯島:価格は、税抜き5,000円です。そして、恒例の新製品発売セールとして、11月4日まで税抜き3,000円で販売します。また今回もM3に参加しますので、オンラインの方では税込み3,300円。M3現地では税込み3,000円となっています。会場(第二展示場2F企03)では、実際に触れて遊べるデモなどもご用意しておりますので、ぜひ遊びに来てくださいね。DeeACID以外も、各種セール中なので、こちらのチェックもぜひよろしくお願いいたします。DeeACIDと既存製品を組み合わせた遊び方も、展開していくので楽しみにしていてくださいね。
重虎:ソフトシンセを買って、プリセット音色を聴いて、自分で音色を作ることに踏み込めてなかった方やTB-303を好きな方。デモ動画を見て、こういう感じの音を鳴らしたかった方など。ぜひ、シンセのツマミをこねくり回しての音作りを楽しんでみてください。
--ありがとうございました。
DeeACID 活用TIPS
TB-303本体ではシーケンサが入って入り、そこでのスライド奏法、アクセントが大きな意味を持ってきます。それに対し、DeeACIDではシーケンサがないため、DAW側でMIDIの打ち込みとなるわけですが、スライド奏法、アクセントは以下のように設定して利用します。
スライド奏法
スライド奏法は異なる音程のノートが重なると発生します。
アクセント
ベロシティ110以上のだとアクセントが発音します。
秘密の音階
デタラメに弾いても結構カッコよく演奏できるのが以下の図に示す音階です。Aマイナーブルースのスケールとなりますが、ぜひ試してみてください。
【関連情報】
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