DTMの世界を激変させるシステム、ArrowをUniversal Audioが発売開始

DTMの世界を激変させるといっても過言ではない製品が、米Universal Audioから発表されました。日本での実売価格が税抜き58,000円前後のArrow(アロー)という製品で本日から発売開始です。一言でいえばプロの世界で使われている音を実現させるハードウェア。誤解を恐れずに表現すれば、プロ用のビンテージ機材を目の前で再現し、ズバリその音でレコーディングできてしまう機材なのです。

ご存知な方のために別の表現をすれば、Arrowとは世界中で使われているapolloのエッセンスをエントリーユーザーにも実現してもらえるモデルであり、2入力/4出力で、UAD-2のDSPコアが1つ、Unison対応のオーディオ入力を2系統持つというシステムが激安価格で登場したというもの。接続がThunderbolt 3(USB-Cポート)でバスパワーでの電源供給となっているのです。そのため、かなり新しいPCでないと動作しないのがネックではありますが、WindowsでもMacでも今後の普及が確実視されているThunderbolt 3なので、2018年からの新DTM環境に多大な変化をもたらせる可能性があるわけなのです。まずは、速報版という形で、このUniversal AudioのArrowについて紹介してみましょう。

Universal Audioから新製品、Arrowが誕生


このArrow、パッと見はコンパクトなガンメタ色のオーディオインターフェイスです。事実、2in/4out(ヘッドフォンアウトを含む)で24bit/192kHz対応のオーディオインターフェイスとして機能し、CubasePro ToolsAbleton LiveLogic……といった各種DAWで使うことができます。


一見コンパクトなオーディオインターフェイスだが、他製品にはないさまざまなシステムが搭載されている

でも、これ、単なるオーディオインターフェイスではないのです。この中には、UAD-2およびUnisonというシステムが内蔵されていると同時に、これらを司るミキシングコンソールが搭載されており、これがDTM環境を激変させるのです。

最低動作環境
・Thunderbolt 3(USB-Cポート)端子を搭載したMacintoshまたはWindowsコンピューター
・macOS 10.12 Sierra、または10.13 High Sierra (Macintoshコンピューターの場合)
・64ビット版のWindows 10 Anniversary Update (Windowsコンピューターの場合)
・6GB以上の空きハードディスク容量
・インターネット接続環境(ソフトウェアインストール、製品登録、追加プラグイン購入のため)
※Thunderbolt 3ケーブルは別売りです。
※Quad Core i7以上のプロセッサーを推奨。

それぞれを順にごく簡単に紹介してみましょう。まずUAD-2というのは、以前「ビンテージエフェクトを忠実に再現する、プロ御用達のUAD-2ってどんなもの!?」という記事でも紹介したことがありますが、簡単にいえば、内蔵のDSPパワーを使ったエフェクトプラグインのシステムです。WindowsでもMacでも使うことができ、VSTAUAAX64RTAS環境で動作するから、基本的にどんなDAWとも連携することが可能なのです。


Arrowのリアパネル

「え、でもエフェクトプラグインなら手元にもいっぱいあるよ」という方もいるでしょう。でも、このUAD-2のプラグインは普通のプラグインとはちょっと違うんです。まず内蔵DSPで動くからCPUパワーを消費せず、Arrowの能力だけで動かせるのが大きなポイントです。

さまざまなビンテージ機材をArrow内で実現することができる

そして最大のポイントは、ビンテージアナログ機材を忠実に再現しており、それを各ビンテージメーカー自らがUniversal Audioと協力の元開発しているホンモノである、という点です。


小さな機材ではあるが、この中にDSPが内蔵されており、ビンテージ機材を再現できる

「なんで、今の時代に古いアナログ機材を使う意味があるの?」と疑問に思う方もいると思います。それを知るには、ぜひ一度使ってみていただきたいのですが、理由は単純。「簡単にいい音になる」からなんです。世の中では過去に何千、何万という機材が開発され、発売されてきた中、現在もプロの世界に残っているのはごく一部の種類の製品。


各ビンテージ機器メーカーとの共同でUAD-2のエフェクトを開発している

なぜ残っているかといえば、それを使うと簡単にいい音にすることができるのをプロのエンジニアの人たちがよく知っているから。そうした機材に狙いを絞り、オリジナルのメーカーと共同開発し、完璧に同じものに仕上げているのがUAD-2というわけなのです。


UADコントロールパネルを見るとArrowが認識されていて、DSPの使用率などもチェックできる

UADプラグインはすでに100種類を超えるものが開発されてきましたが、Arrowに付属するのは以下のものです。

UA 610-B Tube Preamp and EQ
Marshall® Plexi Classic Guitar Amp
Precision Delay Modulation
Precision Delay Modulation L
Precision Reflection Engine
Precision Channel Strip
Pultec® EQP-1A EQ Legacy
Pultec® Pro EQ Legacy
Raw Distortion Guitar Pedal
Realverb Pro
Softube Bass Amp Room 8×10
Teletronix® LA-2A Compressor Legacy
UA 1176LN® Compressor Legacy
UA 1176SE Compressor Legacy

これがすぐに使えてしまうわけですね。ほかのUADプラグインもオプションとして追加購入することは可能ですよ。
一方、UnisonもDSPを用いて音をビンテージ機材、アナログ機材を再現するシステムなのですが、UAD-2とはちょっぴり位置づけが異なります。こちらはマイクプリアンプ、ギターアンプをシミュレーションするための専用システムとなっており、VSTやAUなどのプラグインとして使うものではなく、Arrow内で完結するプラグインなのです。いわば掛け録りのための回路といってもいいかもしれません。


ギターアンプや、ストンプエフェクトなどUnisonテクノロジーで再現している

あえて、エフェクトではなく回路と表現したのには理由があります。実際、これはアナログ回路を再現するシステムであり、Arrowに用意された2つの入力端子のインピーダンスまでが変わるので、まさにアナログ回路そのものなんです。このUnisonもNeveAPIManleyMarshallFenderなど各機材メーカーと共同開発しているから、ホンモノを実現しており、プラグインを差し替えることで、何十万円もするようなマイクプリアンプを自由に交換して使うことができるわけです。


Arrowのシステム全体を司るConsole 2.0

またArrowにはArrowのシステム全体を取り仕切るミキサーコンソール、Console 2.0というものがあります。ここでUADプラグインを起動させると、これはArrow内部で動作していることになるため、DAWやオーディオインターフェイスのバッファ設定などと関係なく、ほぼゼロレイテンシーで使うことができるのも重要なポイントですね。

以上のような多彩なことを実現してくるのが、Universal AudioのArrowというわけです。見かけはコンパクトなオーディオインターフェイスという感じですが、まったく次元が異なるものであることが分かりますよね。


左がArrow、右がapollo twin MKII

とはいえ、こうしたことができるシステム、Arrowが初というわけではありません。冒頭で、「Arrowはapollo twinのエントリーモデル」と表現した通りで、Arrowには兄貴分ともいえるapollo twinという製品が存在します。そしてapollo twinには初代モデルのapollo twinと現行モデルのapollo twin MKII、それにやはり現行モデルでUSB接続のapollo twin USBの大きく3ラインナップがありますが、Arrowはこれらに対して、圧倒的に価格が安くなっているのが大きな違いです。


持ってみると、Arrowのほうがかなり軽く感じる

そこで、apollo twinと並べてみて、どんな違いがあるのかを簡単に比較してみました。横幅はArrowのほうが長いけれど、厚みという点でapollo twinのほうがあって、重いため、実際に持ってみるとArrowのほうが、小さいという印象です。


リアパネル比較。左がapollo twin MKII、右がArrow

一方、リアを見てみると、端子の数が違いますね。Arrowが2in/4outなのに対し、apollo twinはアナログの2in/6outに加えてデジタル8inを持っているのでトータルで10in/6outという構成になっています。


Unisonが効いていると、レベルメーターの周りのLEDがオレンジに光る

また、内蔵DSPはSoloコア、つまり1つなんですね。apollo twin MKIIの場合、Solo=1つ、Dual=2つ、Quad=4つと3ラインナップがありますが、Arrowの場合はSoloのみです。そのため、UAD-2プラグインをミックス時に使うというよりも、レコーディング時の掛け録りといった用途が中心となりそうですね。


ミュートするとLEDは赤くなる

そして、もう一つの大きな違いがPCとの接続です。apollo twinがThunderbolt 2なの対してArrowは新世代のThundrbolt 3。電源供給の面で大容量になったThunderbolt 3だからバスパワー駆動が可能になったわけですね。


接続はThunderbolt 3のケーブルを使って行う

気を付けなくてはならないのがケーブルです。Arrowでもapollo twinでも、ケーブルは付属していないため、別途購入が必要となりますが、必ずThunderbolt 3のケーブルを使用すること。端子形状はUSB Type-Cなのですが、USBケーブルでは接続することはできず、Thunderbolt 3ケーブルが必須となるので、購入する場合は間違えないようにしてくださいね。
いままでThunderboltというと、Macの規格というような印象があったのは事実です。しかし、Intelが新世代のCore-iのCPUにThunderbolt 3のインターフェイス機能を標準装備することになったため、Windowsの低価格機も含め、今後一気に広がっていく方向が確実視されています。

昨年「apollo twin MKIIを使うためにThunderbolt3(USB Type-C)搭載のCore-i7超ミニPCを10万円で組み立ててみた」という記事で書いた通り、私の手元にも1台ありますが、なかなか快適でいいですよ。

Arrowのパッケージ。ACアダプタが不要なこともあり、箱はとってもコンパクト

Arrowについては、まだ私も現物をちょっと見ただけで、細かいところまではわかっていないのも事実です。その詳細を伺うために、今月末に、アメリカのNAMM SHOWを見に行ったあとで、Universal Audioに初めて訪問しようと計画しているところです。また、新しい情報などあれば、順次紹介していきたいと思っていますので、お楽しみに。

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