お箏のほぼ全奏法をカバーする純国産・高音質音源「箏姫かぐや」誕生

制作している楽曲に箏(こと)の音を取り入れたいというケースはよくあると思います。そして各種マルチ音源には「KOTO」といったサウンドがあるので、それを使って間に合わせてるというケースは少なくないと思います。でも、本気で箏を使いたいとなったとき、この手の音源だとサウンド的な物足りなさを感じると同時に、さまざまな壁にぶつかると思います。そもそも、どんな奏法があって、どのように表現するのが正しい箏の使い方なのかという知識がないと、うまく使うことができないからです。

そして、単に1つのサンプリング音で済むようなものではなく、奏法によってサウンドも大きく変わってくるし、フレーズも独特なものがあるからこそ、箏の味が出てくるのです。そうした箏の流儀をしっかりと表現できる、純国産の音源が登場しました。PREMIER SOUND FACTORYが出した「箏姫かぐや」というのがそれ。Native InstrumentsKONTAKT 5および無料のKONTAKT 5 PLAYERに対応したこの音源は24bit/96kHzでのサンプリングされた高音質。箏のほぼすべての奏法をカバーした非常に優れた音源となっているのです。実際、どんなものなのか紹介してみたいと思います。

24bit/96kHzサンプリングのお箏の音源、「箏姫かぐや」が誕生



PREMIER SOUND FACTORYをご存知ない方もいらっしゃるかもしれませんが、ここは以前「ビートルズやツェッペリン、モータウンサウンドなどを忠実に再現!?名盤のドラムサウンドをリアルに出せるDrum Treeとは?」という記事でも紹介した、Drum Treeを出しているメーカー。レコーディングエンジニアとして多方面に活躍しているichiroさんが指揮する純国産の音源メーカーなのです。

いろいろ説明をする前にまずは以下のビデオをご覧ください。

いかがですか?かなりすごいリアリティだと思いませんか?もちろんここで鳴っているのは「箏姫かぐや」によるものであり、お箏の演奏をしているビデオはそれに合わせて弾いているイメージですよ。


「箏姫かぐや」はKOMPLETE 5/KOMPLETE 5 PLAYER上で動く音源となっている

ここからも分かるとおり「箏姫かぐや」はよくあるマルチ音源の箏の音色とは根本的に異なるサンプリング音源です。日本のプロの箏奏者による華麗な演奏を独自技術を使って高品位にサンプリングしているからこそ実現できているのです。具体的には箏奏者の小野美穂子さんによる演奏で、尺八奏者の三塚幸彦さんが監修を担当、そしてichiroさんによるレコーディング=サンプリングが行われているのです。当然、ここではさまざまな奏法が、取り込まれているわけですね。
具体的には「通常」の奏法のほかに、「すくい爪」(アップストローク)、「後押し」(ピッチ・ベンドUp)、「押し離し」(ピッチ・ベンドDown)、「突き色」(ピッチ・ベンドUp&Down)、「引き色」(わずかに弦を引きベンドダウン)などの独特な奏法があったり、一般の楽器でいうところのミュート奏法、ピチカート、スタッカート、ハーモニクス、トレモロ……と、計16のアーティキュレーションが用意されているのです。これらアーティキュレーションの切り替えは画面操作でも行えますが、切り替えが低音の鍵盤に割り振られているから、これを利用してリアルタイム演奏も可能です。


16種アーティキュレーションに対応しており、キーボードでの切り替えも可能

もうひとつ、「リアル」というものがありますが、実はこれが箏姫かぐやの真髄ともいえる部分です。実は箏は、爪をひっかけ、それを離すことで発音する仕組みになっています。そこで、鍵盤を押す(NOTE ON)で爪音が鳴り、鍵盤を離す(NOTE OFF)で発音するようにしたのが「リアル」なのです。ただ、これでは鍵盤で演奏しにくいのため、普通に弾ける「通常」が用意されているわけですね。
この爪音がないと、箏らしくならないとも言われていますが、爪と弦が同時に発音してしまうと爪音はレベルが低いので、ほとんど聞こえません。そこで、爪が鳴ってから弦が弾かれる、爪と弦の自然な関係を表現するために、弦の方をmsec 単位で遅らせることをできるようにしているのが右にあるPickというツマミなのです。なかなか凝った設計になっていますよね。


通常の13弦の箏のほか、17弦の箏の音源も用意されている

しかもユニークなのは、ここには2種類の箏がサンプリングされているという点です。一般的に箏には13本の弦の楽器となっているのですが、十七絃と呼ばれる17本の弦を持つ特殊な箏が存在しています。この十七絃は作曲家・箏曲家の宮城道雄によって1920年代に考案されたものと言われるかなり特殊なものですが、チェロやベースの役割をカバーする低音が出せることから、さまざまな用途に活用できるというもの。その2種類を別の音色として収録しているんですね。

ちなみに13弦のほうはB1~A4までが実用範囲ですが、通常の箏のシミュレーションのNormalモードの他に、特殊な現代の高音箏としてA#4~G5を補完したExpandモードも収録されています。一方、17弦のほうは、もっと低いC1~E3がカバー範囲となっているのです。


本物さならがらに、あらゆる調弦に対応できる自由度が高い箏姫かぐや

ところで箏の演奏となると、普通のドレミファ……と鳴らすクロマティック音階で大丈夫なの!?と疑問に思う方もいると思います。この点、まずは分かりやすくクロマティック音階はサポートされています。が、それだけでなく古典的な音階を白鍵に割り当てることが可能となっているのです。


17弦のほうは、低域をカバー

具体的には陰音階の平調子(マイナー)、陽音階の楽調子(メジャー)に分類されますが、これに古今調子(複合)をはじめ、一般的な箏楽曲を網羅する36のプリセットを用意されています。さらにオリジナルのスケールも20個まで保存可能となっており、白鍵に割り当てるため、先ほどのビデオにもあったような実際の箏と同様のグリッサンドを自由に演奏できるようになっているのです。

計36種類のスケールも用意されている
アーティキュレーションが豊富にあるとはいえ、MIDIの打ち込みで、いかにも「お箏の演奏」という感じに仕立てるのは大変なのも事実。そのため、あらかじめ214のフレーズが用意されており、多数のグリッサンドや、サーラリンと呼ばれるお箏独特のグリッサンド奏法を鳴らすことも可能になっているのです。

さらに「箏姫かぐや」の特徴としてあげられるのは、画面右側にある各種パラメータで音を調整できることです。まず上に2つあるのがSTEREOとCENTERというパラメータ。これはサンプリングの際にマイクをステレオセットと、センターの2種類で収録されており、それらのバランスを調整できるようになっているのです。ichiroさんによると両方ともつまみを動かさない(Unity=0dB)状態で鳴らすことを想定しているとのことですが、STEREOのほうを大きくすることで、広がりのあるサウンドにしたり、反対にCENTERを大きくすることで、クッキリとしたサウンドに仕立てることが可能です。

各種パラメータで音の調整も可能になっている
その下にはPickとLo-cutというパラメータがあります。Pickについては前述のとおりですが、Lo-cutは低域をカットすることで遠めに楽器の音像を配置したい場合に有効となります。ただしLo-cutを左に回し切ることでプラグインごとハードバイパスするので、デジタルエフェクト介入による意図しない音質劣化を避けることが可能です。

コンボリューションリバーブのIRとして能楽堂が3種類、月をイメージした特殊空間が2種類ある
そして一番下には、5種類のコンボリューションリバーブが装備されているのも大きなポイントです。箏の演奏だけに3種類の能楽堂の空間が用意されているほかLuna Kaguyaという月をイメージした神秘的なロングリバーブの空間が2種類用意されており、まさに箏にピッタリなサウンドを作り出してくれるのです。

なお、PREMIER SOUND FACTORYでは「尺八プレミア」という尺八音源も間もなく登場させるとのこと。その尺八プレミアと箏姫かぐやを共演させたのが以下のビデオです。

改めてこの音源の面白さを感じるところです。なお、この「箏姫かぐや」は店頭でのパッケージ販売がされているほか、PREMIER SOUND FACTORYからの直接購入が用意されています。ただし、パッケージ版もインストーラ自体はダウンロードする形になっており、ダウンロードサイズは約3.5GB、インストール容量は約5GBとなっています。
【関連情報】
箏姫かぐや製品情報
PREMIER SOUND FACTORYサイト

【価格チェック&購入】
◎PREMIER SOUND FACTORY ⇒ 箏姫かぐや
◎beatcloud.jp ⇒ 箏姫かぐや

Commentsこの記事についたコメント

5件のコメント
  • ・・・

    素晴らしいです。多くの方が思うのでは、ということは
    エレキギター音源あたりも、こういう4×4の正方形の、
    極めて分かりやすい、奏法セレクトがあると、
    非常に魅力的ではないかと。
    低音キー鍵盤に割り当てられるけど、どれを選ぶべきか、
    迷い、惑う。ということに対して、とても頭がクリアーに、
    整理されて納得がいく判断が、出来そうな感じがします。
    とても魅力的なものに見えます!

    2018年2月19日 12:35 AM
  • ろうら丼

    知人の箏奏者が『六段の調べ』を現代風にアレンジするという試みを始め、私にも編曲協力を頂いたため、モックアップ制作用の音源を探していました。
    藤本さんの記事を見て『これしか!』と飛びつき昨日購入。
    とてもクリアで空気感も良い音源です♪リバーブも気持ち良い。
    キーオンで爪掛け、オフで撥弦という奏法は箏を弾いている気分になれます。
    奏法のキースイッチもとてもスムーズで便利ですが、16種類が全て白鍵盤に割り振られているので2オクターブ以上になり、パパッと左手を動かすのが難しい音色チェンジもあるのが少し残念。鍵盤数が少ないとリアルタイム演奏は難しいかも。ただ、パッドにノートナンバーアサインなどできるMIDIキーボードなら問題なしですね。
    上の方も言われていますが、奏法も箏奏者用語と同時に『Bend Up』など、英語でポップス奏者用語(?)が併記されているから助かります。UIも直感的で文句なし。
    ニッチな分野の音源ですが値段も高くない方だし、ちょっと和テイストを取り入れたい方にもうってつけのオススメ音源だと思います!

    2018年2月19日 6:03 PM
  • 藤本健

    ろうら丼さん
    さっそくのレポートありがとうございます!
    やっぱり、これなかなかいい音源ですよね!

    2018年2月20日 10:25 AM
  • 検討中

    箏音源探していたところにちょうど今回の記事でした。
    箏のだとKOTO13という大御所がありますが、箏姫かぐやとのちがいって
    主にどこらへんなんでしょうか?

    2018年2月20日 3:01 PM
  • 森の子リスのミーコの大冒険

    既にコメントで質問されていますが、私も「KOTO 13」や「Koto Nation」との差別化が気になりました。Koto NationのImpact Soundworksはセールや学割があったりするので、それ込みだとかぐやはお値段的には中間って感じですよね。
    まあ何にせよ、選択の余地があるほどに箏などの邦楽器音源が増えてきたというのは日本人として嬉しいところですね。

    2018年3月6日 3:11 AM

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です