1997年にYAMAHAが出した、ハードウェアのプラグインとは

ときどき、昔のDTMについて振り返る「DTM温故知新」シリーズ。今回、振り返ってみるのは20年前、1997年にYAMAHAが出したプラグインボードについてです。いまプラグインといえば、VSTやAudio Units、AAXなど、DAWをソフトウェアで拡張するものを意味しますが、まだPCのスペックが低かった20年前は、ハードウェアのプラグインで音源を拡張するというコンセプトの製品が存在していたんですよね。

当初、XG音源を拡張するXGプラグインシステムとして3製品がリリースされたプラグインボードは、その後DTM音源のみならず、YAMAHAのシンセサイザ、MOTIFシリーズなどの拡張できるModular Synthesis Plug-in Systemへと進化し、計12製品が発売されてきました。これらプラグインボードとは何だったのか、私の手元にある当時のカタログなどを見ながら、振り返っていきましょう。


YAMAHAが出したハードウェアのプラグイン、PLG100シリーズ


YAMAHAがプラグインボードのシステムを発表したのは1997年5月のこと。「RolandのGS音源 vs YAMAHAのXG音源」というDTM大戦争の真っただ中のことでした。当時、YAMAHAはHello!Music!というDTMパッケージを前面に打ち立てながら、XG規格の音源、MU80MU90を使って、Rolandのミュージ郎に対抗していたわけですが、ここでさらに強力な音源としてMU100およびMU100Rを投入したのです。


 1997年に発売されたYAMAHAのXG音源、MU100(上)とMU100R(下)

これらはMU80/MU90の上位互換の音源で、計1295音色を搭載したものでしたが、最大の特徴としてオプションのプラグインボードを使うことで、音源機能を拡張できるようにしたのです。ちなみにMU100がハーフラックサイズ、MU100Rがラックマウントサイズのもので、音源的には同じ内容でしたがMU100はプラグインボードが1つ挿せるのに対し、MU100Rは2つ挿せるというものとなっていたのです。


XGプラグインボードのシステムとは

そしてこのMU100およびMU100Rと同時に発表されたのが、オプションとなるプラグインボード、3製品でした。具体的には

※価格は当時のメーカー希望小売価格(税抜き)


XGプラグインボードとして最初に発売されたPLG100-SG

のそれぞれ。簡単にいうとPLG-100SGは音程と歌詞を入力すると歌う音源、PLG100-VLは管楽器や弦楽器を物理モデリングする音源、PLG100-VHはコーラスっぽいハーモニーサウンドを付加する音源、のそれぞれです。


カタログでのPLG-100-VLの説明

そしてこれらを鳴らしたり、エディットするためのソフトとしてXGworksプラグインソフトウェアというものが付属していました。XGworksというのは、当時YAMAHAが出していたMIDIシーケンサ。そのXGworksを拡張するためのソフトウェアとして各プラグインボードごとに異なるプラグインソフトウェアがリリースされており、これらを使うことで、プラグインハードウェアの機能・性能を存分に発揮させられるような設計になっていたのです。


MIDIシーケンサであるXGworksを介してハードウェアのプラグインとソフトウェアのプラグインが融合する 

ちなみに、DAWのプラグインシステムでもっとも歴史のあるSteinbergVSTは1996年にMac版がリリースされ、1997年にWindows版がリリースされているため、YAMAHAのプラグインボードが出た当時には、すでにソフトウェア版が存在していたわけです。ただし、当時のVSTプラグインは、まだエフェクトだけであり、インストゥルメント=音源は出ていませんでした。そういう意味では、YAMAHAのプラグインボードが先だった、といえるわけですね。


XGworks用のプラグイン、SG Lyric Editor 

ところでPLG100-SGに付属していたのは音符と歌詞を入力していくためのプラグインソフトSG Lyric Editorと、歌声=音色をエディットするSG Easy Editor。これらを使うことで、DTMで歌わせることができたんですよね。

PLG100-SGって、要するにVOCALOIDの前身なの?」と思う方もいると思います。確かにYAMAHAの歴史的にはそうとも言えるわけですが、VOCALOIDの開発者の剣持秀紀さんによれば、部署的もまったく別のもので、技術的にも別のものだ、とのこと。その辺の詳しい話は剣持さんと私の共著である「ボーカロイド技術論」に詳しく書いているので、そちらを参照してみてください。

この3つの製品でスタートしたXGプラグインボードは、その後、新音源であるMU128のリリースとともに、新プラグインボードの

がシリーズ製品として追加されました。そう名前を見ても分かる通り、これはYAMAHAのシンセサイザー、DX7をプラグイン化した音源ボードです。


PLG100-DXを利用してDX7を再現するDX Simulator 

OPN(YM2203)とかOPM(YM2151)などではなく、6オペレータ・32アルゴリズムのDX7を再現したものとなっていたんですよね。また、ここにもXGworks用のプラグインソフトであるDX SimulatorとDX Easy Editorという2種類が用意されたのです。DX Simulatorは、ユーザーインターフェイス的にDX7を再現させるもので、DX7と同じ操作感でシンセサイザとして使えるようにしたもの、DX Easy EditorはFM音源のエディットをグラフィカルに行えるようにしたソフトでした。DX7が何であるかはここでは割愛しますが、すでにビンテージ機材となっていたDX7の音色をそのまま使えるということで、大きな注目を集めたのです。

Modular Synthesis Plug-in Systemのカタログ 

このように4つのプラグインボードが揃い、勢いに乗ってきたYAMAHAは、このプラグインボードをDTMの世界だけでなく、YAMAHAのシンセサイザ関連にも広げようと、その位置づけを一段階引き上げ、「Modular Synthesis Plug-in System」として名称を変更するとともに、PLG150シリーズを投入したのです。具体的には
PLG150-AN(Analog Physical Modering Plug-in Board) 34,800円
PLG150-PF(Piano Plug-in Board) 39,800円
PLG150-DX(Advanced DX/TX Plug-in Board) 34,800円
PLG150-VL(Virtual Acoustic Plug-in Board) 19,800円

のそれぞれでした。


XGプラグインボードは、 Modular Synthesis Plug-in Systemへと進化

これらは、従来のXG音源であるMU100、MU100R、MU128、そして新たに登場したXG音源であるMU1000MU2000MU100Bsに加え、YAMAHAの電子ピアノ音源であるS80などのSシリーズ、プロ向けのダンスサウンドに特化したシンセサイザーのCS6xおよびCS6R、そしてMOTIFシリーズでも利用できるようにしたのです。

ドラム音源ボードのPLG150-DR

さらにDTM系機材以外でもXG音源を利用可能にしたPLG100-XG、MOTIF同等のドラム専用音源ボードであるPLG150-DR、パーカッション専用音源ボードPLG150-PC、、国内では正式発売されていないピアノ専用音源ボードのPLG150-APなどがリリースされていき、現行のMOTIFシリーズでも利用することが可能となっています。


パーカッション音源ボード、PLG150-PCのエディターソフト

ただし、みなさんもよくご存じのとおり、世の中はソフトウェアプラグイン全盛の時代となり、ハードウェアがなくても、普通に音源を実現できるようになりました。またハードウェア音源の終焉とともに、GS vs XGの戦争も終わり、MUシリーズはMU1000およびMU2000を最後に姿を消していき、結果としてこららプラグインボードも生産を完了したのです。プラグインの母体であるXGworksさらにはその後継のSOLが、早々に姿を消したというのも大きかったかもしれませんね。

この先、20年後、いまのプラグインがどのように変化し、進化しているのか楽しみなところでもあります。なお、こうした昔の話をインプレスの電子書籍、「DTMの原点」でまとめていますので、よかったらご覧になってみてください。
【関連書籍】
◎Amazon⇒ボーカロイド技術論
◎Amazon(Kindle) ⇒ DTMの原点 Vol.1
◎iBook Store(iOS) ⇒ DTMの原点 Vol.1
◎その他デバイス ⇒ DTMの原点 Vol.1
◎Amazon(Kindle) ⇒ DTMの原点 Vol.2
◎iBook Store(iOS) ⇒ DTMの原点 Vol.2
◎その他デバイス ⇒ DTMの原点 Vol.2
◎Amazon(Kindle) ⇒ DTMの原点 Vol.3
◎iBook Store(iOS) ⇒ DTMの原点 Vol.3
◎その他デバイス ⇒ DTMの原点 Vol.3

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