いま海外で大ヒットしている日本人開発のシンセアプリ、KQ MiniSynthをご存じでしょうか?これ、実は今年1月にリリースされていたのですが、国内ではほとんど話題になっておらず、私もまったく知らなかったのですが、トンでもなく凄いアプリだったんです。
先日、開発者である雲英亮太(きらりょうた)さんから連絡をいただいて、初めてその存在を知り、実際に試してみて、その強力さ、斬新さ、楽しさに驚かされました。一言でいえば、新しいアイディアがテンコ盛りのモジュラーシンセ。しかも、世界で3番目となるiOSのAudio Unit Extension対応のシンセだったんですね。こんな面白いシンセを見逃していたとは大失敗。まだ助走期間中とのことで年内は480円という破格値だけど、1月には正規価格の2,000円前後になるとのこと。KQ MiniSynthとは、どんなアプリなのか、紹介してみたいと思います。
海外で大ヒット。雲英さん開発のKQ MiniSynth
Mac/Windows用のソフトウェアシンセというと、やはり海外ものばかり…という印象が強いですが、iPhone/iPadで使えるiOSアプリのシンセとなると、結構日本人が開発したものが世界的にも人気があるんですよね。以前にも「海外で大ヒット、強烈なiOSシンセは日本人開発のアプリだった!」、「世界が注目。種田聡さん開発のiPadシンセの新作、金属系サウンド音源が気持ちいい!」という記事で、MersenneやLORENTZ Polyphonic Synthesizerなどを紹介しましたし、今週はまた新たにREDSHRIKEというポリフォニックシンセがリリースされ、話題になっています。
昔からあるシンセアプリとしては、DTMステーションでもたびたび取り上げているMizuhiki TakashiさんのDXi、私の大学のサークルの後輩でもあったbismarkさんのbs16iなどなど、いろいろあるのですが、もう一つ、すごいシンセが登場していました。それが、雲英さんが開発し、いま、ドイツやアメリカなどで話題になっているシンセアプリ、KQ MiniSynthです。
先日、その雲英さんと少しお話したのですが、「2年前に脱サラし、フリーのエンジニアとして仕事をしていますが、せっかく会社を辞めたのだから、自分の好きなプログラムも作りたいと、温めていたアイディアを元にじっくり時間をかけてKQ MiniSynthを開発しました」とのこと。
雲英さん制作の紹介ビデオがあるので、まずはそちらをご覧ください。
ビデオを見てもわかる通り、KQ MiniSynthが何に近いかといえば、Softubeが先日発売したMac/Windowsで動作するプラグインのシンセ、Modularでしょう。いわゆるモジュラーシンセであり、オシレーターやフィルター、エンベロープジェネレーター、LFO……といったモジュールを組み合わせてパッチングしていくことで、音を作り出していくタイプのシンセです。見た目的にもユーロラック風となっているのですが、Modularとはいろいろな意味で違い、KQ MiniSynth独自の世界観が広がっているんです。
プリセット音も豊富に用意され、操作方法を紹介する簡単なチュートリアルもある
モジュラーシンセなんて言われると、なんか難しそうなシンセなのかな……と思う人もいるとは思います。確かに使いこなすにはそれなりの知識が必要にはなるけれど、かなり多くのプリセット音色があるので、シンセについてまったく分からない人でも、音色を選ぶだけでかなり使うことができるし、後で紹介するようにGarageBandやCubasis、Auria Proのプラグインのようにして使えるので、それだけでも持っておく価値は大きいと思いますよ。
で、そのモジュラーシンセとしての機能ですが、まずどんなモジュールがあるのかの一覧を見ると、なんとなく雰囲気はつかめると思います。具体的には以下の25種類です。
オシレータ | オシレータ Type A (FM) |
オシレータ Type B (PWM) | |
Super Saw オシレータ | |
低周波オシレータ (LFO) | |
ホワイトノイズジェネレータ | |
ミキサ/アンプ | 4ch ミキサ |
電圧制御式アンプ (VCA) | |
サンプルアンドホールド | |
ブースター | |
エンベロープ/論理回路 | エンベロープジェネレータ Type A |
エンベロープジェネレータ Type B | |
反転回路 | |
AND回路 (直列スイッチ) | |
OR回路 (並列スイッチ) | |
最大値/最小値出力器 | |
モジュレータ | V/Oct ビブラータ |
キーボードレベルスケール | |
リングモジュレータ | |
フィルタ/エフェクタ | 電圧制御式フィルタ (LPF/HPF/BPF/BEF) |
ディレイエフェクタ | |
リバーブフィルタ | |
コンプレッサ | |
その他 | I/Oパネル |
カスタムコントローラ | |
ダミーパネル |
オシレータからして面白いのですが、TypeAはサイン波、三角波、矩形波、ノコギリ波が使えるオシレータであると同時に、FM音源として使えるように、FMモジュレーション入力というものを持っているんです。つまり、このTypeAを6つ並べていくことで、DX7のように6オペレータでのアルゴリズムを組んで使うことができるだけでなく、そこにサイン波だけでなく、矩形波やノコギリ波も使えちゃうし、DX7にはないアルゴリズムまで作れちゃうんですよね。
FM変調が可能なオシレーターを接続していくことで、DX7を超えるFM音源を作ることが可能
フィードバック機能はオシレータ自身にないため、いったん出力レベル調整可能なVCAなどを経由した上で戻すのがいいけれど、そうするとだんだんモジュールの数が増えていきます。でも、めちゃめちゃ軽いアプリなので、いっぱいモジュールを使っても問題はないし、最大100個まで組み込んで接続していうことが可能です。
iPhoneで表示させるとかなり小さいけれど……
一方、TypeBのオシレータはPWMでのモジュレーションが利用できる端子を持っているので、TypeAとはだいぶ違った音作りが可能になります。またSuper SAWなんてオシレータもあるので、簡単に分厚い音が作れちゃうのも楽しいところです。
でも、実際にプリセットを使ってみて最初に驚くのは、いかにもなモジュラーシンセのくせに、これ、ポリフォニックで鳴ってくれるんですよ。まあ、ポリ数自体は設定で1~20の範囲で決められるのですが、基本はポリフォニックで和音が弾けるのですから、演奏用の使い勝手としては、申し分ないですよね。
1つ1つモジュールの話をしてるとキリがないのですが、もうちょっとだけ挙げておくと、ほかのシンセで見たことがないモジュール群として、論理回路というのがあるんです。
「私はコンピュータのエンジニアなんで、やっぱり論理回路をモジュールとして組み込んだら面白そうだと思ったんです。まあ、どんな音になるかはよく分からないまま作ってみましたが、アイディア次第で、いろんな使い方ができますよ」と雲英さん。
その論理回路とは入力の+と-をひっくり返す反転回路(NOT回路)、Gate1とGate2の入力信号を見て結果が決まるAND回路とOR回路、さらにIn1とIn2の大きいほうか小さいほうを出す最大値/最小値出力機のそれぞれ。シンセにどう使えばいいのか、すぐにピンとは来ないのですが、なんかスゴいことができそうな気もしますよね。
さて、このKQ MiniSynthはスタンドアロンのシンセとして使うことができ、iPadやiPhoneに表示される鍵盤を弾くことができます。iPhoneだと、かなり画面が小さくて苦しいところではありますが、鍵盤のみの表示にすると、それなりに弾きやすくはなります。
KORGのBLE-MIDIキーボード、microKEY Airとの組み合わせでも快適!
もちろんiRig KeysなどのMIDIキーボードを接続して使うこともできるし、MicroKEY AirのようなBLE-MIDI(Bleutooth LE over MIDI)対応のキーボードでも快適に演奏することができましたよ。
しかし、面白いのはここからです。このKQ MiniSynthはスタンドアロンとして使えるだけでなく、ほかのDAWアプリやレコーディングアプリ、エフェクトなどと組み合わせて使うことができるところです。
Audio Unitに対応したCubasis 2に組み込んで使えるKQ MiniSynth
以前にもDTMステーションの記事でいろいろと紹介してきたAudiobusやInter-App Audioに対応しているだけでなく、Audio Unit Extension=「AU v3」(以下Audio Unit)にも対応しているのです。このAudio Unitについては以前、AV Watchの記事「第664回:GarageBandが他アプリと連携強化。新機能Audio Units Extensionで何が変わる?」で書いたことがありましたが、当時はAuturiaのiSEMくらいしかなかったのが、最近ちょこちょこ増えてきていたんですよね。
Auria ProでもAudio Unitのシンセとして組み込んで使うことができた
ユーザーにとってはInter-App AudioでもAudio Unitでもあまり変わらないように思うのですが、ここには1つ決定的に違う点があったんです。それはInter-App Audioでは1つのアプリを1トラックでしか使えないのに対し、Audio Unitなら、複数トラックに組み込んで使うことができるという点です。つまりベースもキックも、ストリングスもオルガンも全部KQ MiniSynthで鳴らすということができるんですね。
Cubasis上でKQ MiniSynthを8トラック作って同時に使ってみたがサクサク動いてくれた
「もちろんトラック数が増えてきたら、それだけCPU負荷がかかるので、どれだけ使えるかはiPadやiPhoneのCPUパワー次第ですが、できる限り軽く動作するように…ということに細心の注意を払いながら丁寧にC++で開発していきました」と雲英さん。確かに軽いんですよね。
Audio Unit対応アプリが増えたといっても、まだごく一部。とくにiPhone用のシンセという点でいうと、現状はKQ MiniSynthが唯一のAudio Unit対応の音源。そういう意味でも現時点で貴重なシンセアプリといえますよね。
iPhoneで動作するAudio Unit対応ソフトシンセとしては現時点、KQ MiniSynthが唯一の存在
ちなみに、KQ MiniSynthは頻繁に新機能を追加してはアップデートを繰り返しているのですが、ちょうど12月3日の本日リリースされた1.7という新バージョンでは、iCloudでのバックアップとパッチの共有ができるようになっています。この辺もなかなか便利な機能ですよね。
ついでに興味本位で雲英さんに聞いてみたのは、iOSのAudio UnitとMacのAudio Unitの関係について。つまり、同じAudio Unitが2つのOSに対応したということは、従来のMac版のAudio UnitのプラグインをiOSに移植したり、反対にKQ MiniSynthのようにiOS用に開発したものをMacに簡単に移植できるのか、という点についてです。
「iOS版のAudio Unitが登場するタイミングで、Audio Unit v3というバージョンになったのですが、従来のv2と中身が大きく異なるのです。そして現状のMac用のプラグインの大半はv2対応であるため、v3へ移管するのはかなり大変だと思います。一方、KQ MiniSynthは最初からv3で開発したため、コマンドラインレベルであれば、もうMacでそのまま鳴らすことが可能です。ただし、UIはまったく別に作り直す必要があるので、とくにパッチングしていくKQ MiniSynthの場合ちょっと大変そうです。要望があれば、Mac版も開発したいなと思っているのですが、独立して以来、それほど余裕がなく、Macが古いマシンのままでして……、そこのネックになっています」とのこと。
ぜひ、KQ MiniSynthがもっといっぱい売れて、その資金を元にMac版、さらにはWindows版が登場してくれるといいな…と願っています。
【ダウンロード】
◎App Store ⇒ KQ MiniSynth
【その他アプリダウンロード】
◎App Store ⇒ Cubasis 2
◎App Store ⇒ Auria Pro
◎App Store ⇒ Mersenne
◎App Store ⇒ LORENTZ Polyphonic Synthesizer
◎App Store ⇒ REDSHRIKE
◎App Store ⇒ Autria iSEM
◎App Store ⇒ DXi
◎App Store ⇒ bs16i
【関連機器価格チェック】
◎Amazon ⇒ KORG microKEY Air 37
◎サウンドハウス ⇒ KORG microKEY Air 37
◎Amazon ⇒ Softube Modular
◎サウンドハウス ⇒ Softube Modular