DTMステーションでも何度か触れてきたPro Toolsの無料版、Pro Tools|Firstですが、一昨日ようやく私の手元にも「ダウンロードが可能になった!」というメールが届きました。そう、Pro Tools|Firstは欲しいと思って即入手できるものではなく、Avid Technologyのサイトで申し込みを行うと、しばらくしてからメールで連絡がくるというものなんですよね。
私がいつ申し込んだのか、メールの履歴がないので定かではないのですが、だいぶ出遅れて6月あたりだったような気がしますので、もう手元に連絡が届いたという人も少なくないのではないでしょうか?さっそく試してみたので、これがどんなものなのか、簡単に紹介してみたいと思います。
Pro Tools 12をベースとしたPro Toolsの無料版、Pro Tools|First
Avid Technologyから届いたメール、以下のようなものだったのですが、これをインストールするまで多少、戸惑いました。
Avid Technologyから届いたPro Tools|Firstがダウンロード可能になったことを知らせるメール
というのも、せっかく権利を無料で入手した新しいPro Toolsなので、普段使っているAvidのアカウントとは別に取得しておこうと思ったからなのですが、ダウンロード操作時に別メールアドレスを入れたら、そこで終わってしまったんですよね。しかも、再度メールアドレスを入力しようとしても、ダメ。そりゃぁ、順番待ちになっているくらいですから、当初申し込みをした時と違うメールアドレスを入れたら無効ということなのでしょう。
Avidのアカウントを新たに取得しようと、申請時と異なるメールアドレスを入力したらダウンロードできなかった
試しに別のブラウザを使って操作をし、当初のメールアドレスを入力したら無事先に進むことができました。キャッシュだかクッキーが残ってしまうので、うまくいかなかったということなのでしょう。
iLokを使わずに本当にPro Tools|Firstが起動するのか試してみたかったので新たなiLokアカウントを取得
その後、iLokのアカウントを聞かれるのですが、ここではUSBドングルであるiLokなしで動くのかを試してみたかったので、今度こそ新たなアカウントを作成して、無事にダウンロードすることができました。
やうやくたどり着いたダウンロード画面。インストーラサイズはWindowsの場合818.25MB、Macなら679.02MB
ダウンロードサイズはWindows版が818.25MB、Mac版が679.02MBなので、ダウンロード自体は5分程度で終了しました。せっかくなのでWindows 10にSteinbergのUR22を接続したという、現時点ややリスキーな環境にインストールしてみました。
インストーラの画面は、製品版のPro Toolsのものとほぼ同じ日本語によるもの
インストール画面は見慣れた従来通りのPro Toolsの日本語のもの。とくにトラブルもなくWindows 10環境にあっさりインストールできました。デスクトップ上にはiLok License Mangerのアイコンもありますが、もちろんiLokは接続してない環境ですよ。
Windows 10にインストールすることができ、とくに問題なく使うことができた
さっそく起動してみるとAvidアカウントへのサインインの画面が表示されるので、ここでダウンロードのときに使ったメールアドレスとパスワードを入力。
iLok不要で起動できたが、初回メールアドレスとパスワードが要求される
これによって無事Pro Tools|Firstが起動。新規作成の画面が表示されるので、ここでまずはテンプレートの中から適当に選択してみたところ、いきなりエラー表示。
いきなりエラーが表示されたが、課金されると怖いので、ここでは「いいえ」を選択
AAXプラグインの音源であるXpand!2が入っていない、と言っているようです。しかも、さりげなく「セッションで使用するために、これらのプラグインをレンタルまたは購入しますか?」と聞いてきているので、どうも不安に感じます。いきなりお金を取られたらバカバカしいので、ここでは「いいえ」を選択し、先へ進みます。
テンプレートを選択すると空のプロジェクトが起動したが、当然音は出ない
これによってプロジェクトが立ち上がったわけですが、当然のことながらXpand!2が入っていないので、ドラムはならないし、ベースもオルガンも鳴らず、ハッキリ言って使い物になりません。どうなっているんだろう…と、Xpand!2のところをクリックすると、Avidマーケットプレイスなるものが表示され、どうしてもこれを買わせようとするのです。
買うように促されるXpand!2、よくチェックすると0円だったので、これを入手
納得いかないまま、とりあえず値段を確認してみようとチェックしてみると、なんだ0円じゃないですか。Pro Tools|Firstインストール時には入っていなかっただけで、プラグインは後からダウンロードするというだけだったんですね。とくにクレジットカード番号を聞かれるということもなかったので、迷うことなくインストール。今度はダウンロードに15分程度かかりましたが、これでなんとか使えるようになりました。
マーケットプレイスからはいくつかのプラグインを購入したり、1週間、1か月単位でレンタルはできるけれど…
ただし、調べてみると無料で入手できるプラグインはXpand!2のみ。ほかは数千円から数万円と、結構いいお値段。たとえば、コンボリューションリバーブのSpaceの場合、1週間レンタルで3,000円、1か月なら11,000円、購入するとなると55,000円ですからね……。どうするべきかは考えどころです。
新規プロジェクトを作成し、Xpand!2のドラムを使って打ち込み
というわけで、Xpand!2のインストール終了後、気を取り直してPro Tools|Firstを起動しなおし、今度はテンプレートを使わない、まっさらなプロジェクトを新規に作成。ここでクリック用のトラック、そしてドラムトラックを作成し、Xpand!2をドラム音色に設定した上で、手元にあるMIDIキーボードからリアルタイム入力&クォンタイズ。バッチリ問題なく動きますね。
ベーストラック、パッドトラックもMIDIで打ち込んでみたが、とっても快適に入力できる
続いてベーストラック、パッドトラックを作成し、それぞれXpand!2でレコーディングしていきました。ピアノロールエディタも使えるし、イベントリストでの編集もできるので、MIDIの編集は一通りできそうですね。
続いてオーディオのレコーディングに行ってみましょう。使い方はいたって簡単。まずマイクを接続してボーカルを録ってみましたが、使い勝手はPro Toolsそのものですから、何ら引っかかるところはありません。続いてギターもオーディオインターフェイスに直挿しで録音してみました。
今度はオーディオのレコーディングにチャレンジ。こちらもあっさりレコーディングはできたけれど…
が、ここで引っかかることが……。インサートのプラグインにアンプシミュレータでも入れて録ろうと思ったのですが、それが見当たらないのです。そう、製品版のPro ToolsだとEleven FreeとかSansAmpなどが付属しているので、これを使おうと思ったのに……。せめてディストーションとかコーラス、フランジャーなどがあれば……と思ったのですが、ないんですよね。
AAXプラグインが入っているが、そもそもその数がわずかしかない
このPro Tools|Firstにプリインストールされているエフェクトは以下の10種類。
EQ | EQ3 1-Band |
EQ3 7-Band | |
Dynamics | Dyn3 Compressor/Limiter |
Dyn3 De-Esser | |
Dyn3 Expander/Gate | |
Reverb | D-Verb |
Delay | Mod Delay III |
Time Adjuster | |
Dither | Dither |
POW-r Dither |
このうちDitherの2つやTime Adjusterはいわゆるエフェクトとは違うので実質7種類ですから、なかなか厳しいところですよね。ためしにPro Tools 11のAAXプラグインエフェクトインストールしてみましたが、Pro Tools|Firstでは使うことができません。ただPro Tools|Firstの起動時のプラグインチェックの表示を見ると、明らかに認識しているようなので、わざと使えないようにプロテクトをかけているようですね。
起動画面を見ると「AIRReverb」などとスキャンしているのが確認できるけれど、Firstでは使えない
じゃあ、使えるエフェクトを追加するとなると、か……となるとマーケットプレイスからの購入となり、結構な金額になってしまいますから、なかなか難しいところです。先日紹介した、Studio One 3 Primeも外部のプラグインを追加することはできませんでしたが、予め結構いろいろなエフェクトが入っていたので、その差は大きいように思いました。
ここでもう一つ、あれ?と思ったのはサンプリングレートの設定についてです。普通、製品版のPro Toolsの場合、セッション作成時にサンプリングレートの設定ができるようになっていますが、Pro Tools|Firstの場合、そうした設定が何もないのです。正しくはPro Tools|Firstではセッションではなくプロジェクトというものなのですが、とにかく設定がありません。
そこでオーディオインターフェイス側のサンプリングレートを確認すると44.1kHzとなっています。これを強制的に96kHzなどに変更してみたのですが、そうするとPro Tools|Firstの再起動を促され、それにしたがうと、また44.1kHzの設定に戻ってしまうんです。やはり44.1kHz固定ということのようですね。
ちなみに、先ほどレコーディングしたオーディオクリップの中身を確認したところ、ビット深度は16bitとなっていました。つまりレコーディング結果はすべて44.1kHz/16bitというもののようです。まあ、Pro Tools|Firstの場合、プロジェクトはローカルのハードディスクなどに保存することはできず、すべてクラウドへの保存となっているため、そのファイルサイズはなるべく小さくしたいところですからね。
プロジェクトを閉じた状態で、設定メニューの「プレイバックエンジン」を開くとサンプルレートの変更が可能です。ここで設定をした上で新しいプロジェクトを作成すると、ここで設定したサンプルレートに対応したプロジェクトになります。
ただ、ビット深度は16bitのままでした。Pro Tools|Firstのスペックでは最高で32bit/96kHzに対応とあるので、何等かの方法がありそうですが、見つけられませんでした。何か方法が分かった方は教えていただけると幸いです。
※当初、16bit/44.1kHzでしか動作しないと書いてしまいましたが、実際には96kHzで動作させることができました。ここに訂正してお詫びいたします。
ここで気になるのはクラウドへのセーブしたり、クラウドからロードするのにかかる時間です。先ほどの5トラックのプロジェクトの場合、40秒程度の曲でオーディオが2トラックしかなかったためもあり、ほんの数秒でした。また、試しに手元にあった6分20秒のWAVファイルをトラックにインポートしたものを保存してみましたが、これも数秒です。実際には、インポートした瞬間からクラウドへ保存を始めているのかもしれませんが、使う上でほとんどストレスは感じませんでした。
4つ目のプロジェクトを作成しようとするとアラートが表示される
一方、このクラウドに保存できるプロジェクトは3つまで。というか、そもそも新規プロジェクトとして作成できるのが3つまでであり、4つ目を作成しようとするとアラートが表示されるので、現在あるプロジェクトを削除する必要があるのです。この辺もちょっと面倒なところではあります。
不要なプロジェクトを削除してから、新しいプロジェクトを作成する必要がある
とはいえ曲が完成すれば、オーディオミックスとしてエクスポートすることができるし、MIDIデータはMIDIファイルとして、各オーディオクリップはそれぞれオーディオデータとして保存することはできるので、多少手間はかかるものの、なんとかローカルに保存する手段は確保されている、といった感じですね。
オーディオミックスとしてエクスポートしたり、MIDIファイルとし、オーディオファイルとしてバウンスすることは可能
といったところが、Pro Tools|Firstを使ってみてのファーストインプレッションです。Cubase AI/LE、SONAR LEといったオーディオインターフェイスにバンドルされるDAWが存在し、先日は完全に無料で入手できるStudio One 3 Primeが登場した現在、それらと比較してPro Tools|Firstが使えるDAWか、と聞かれると、なかなか厳しいな……というのが正直な印象です。
とはいえ、プロのレコーディングの世界において業界標準のDAWであり、その使い勝手はまったく同じPro Toolsですから、Pro Toolsの使い方を覚えたい、Pro Toolsの操作に慣れるための学習ツールとしては便利な存在だと思います。
【関連サイト】
Pro Tools|First申し込みページ
【関連記事】
無料版のPro Tools|Firstの配布が開始。お披露目イベントも7/10に開催
無料のDAW、Studio One 3 Primeは、どこまで使えるのか試してみた