Pro ToolsのAvid Technologyがサブスクリプション制を導入し、SONARのCakewalkはメンバーシップ制を導入。形式は異なるものの、アメリカ系DAWメーカーがそろってサポートの有料化を導入してきました。それぞれの内容をどう捉えるかはユーザーによっても違うと思いますが、その有料化に対して異を唱えるメーカーもあります。
それが国産DAWメーカーであるインターネット社です。ご存じのとおり、インターネット社はSinger Song Writerシリーズ、そして昨年にはフラグシップの位置づけであるAbilityを開発・発売するDTMの世界における老舗メーカー。先日、同社の村上昇社長から「ぜひ、日本のメーカーとして取り組んでいることについて説明したい」と電話をいただいたのです。ちょっと伺ったところ、なかなか考えさせられる内容だったので、改めてSkypeインタビューという形でお話を聞いてみました(以下、敬称略)。
インターネット社の村上昇社長にSkypeインタビューしてみた
--DTMの世界に限らず、ソフトウェア業界においては、アメリカのメーカーを中心に、サポートの有料化という動きがあります。これについてはどのように思われますか?
村上:サポートコストというのは非常に大きいので有料化したいというメーカー側の気持ちは非常によくわかります。それが日本のユーザーに受け入れられるのであれば、ウチとしてもぜひ導入できればと思いますが、現実的には難しいのではないでしょうか?
--実際、インターネット社でのサポートの状況というのは、どんな感じなのでしょうか?
村上:「ここに1小節追加したいけれど、どうしたらいいの?」、「ギターの音色で鳴らしたいけれど、どうすればできる?」「ベースの音量を小さくするにはどうすればいい?」なんて質問は多いですし、中には曲の作り込みの方法論に関する質問まで、来てしまうんですよ……。
インターネット社が開発するDAW、Ability Pro 1.5
--ええ?それは、本来のサポートではないように思いますが、そんな質問にも答えているんですか?
村上:はい、やはり初心者ユーザーの方も多く、うちを頼ってきてくれているので、無下にはできません。ただ、確かにソフトウェアのサポートというよりも、音楽教室に近いノリになっているものも多く、「そこはぜひ、音楽教室に……」と近所の音楽教室などを調べてお伝えしたりもするのですが、「ソフトを売ってるんだから、そこまで教えろ!」というユーザーの方も少なくありません。そこでお金を取るとなると、反発はかなりあると思うんですよ。
--さすがに、そうした質問に関しては断ってもいいように思うのですが……。
村上:基本的には断らないし、「そういうサポートはやっておりません」と言ったことはありませんね。とはいえ、音楽理論を聞いてくるといったケースもあり、お答えるできる範囲というものもあるのですが、ある程度の線引きは必要だとは思っています。実際、サポートの電話1件につき、1時間近くかかるケースも多いですから……。
インターネット社のWeb上のオンラインサポートセンター。ユーザー登録するとマイページへアクセスできる
--それは人件費を考えると、とんでもないコストですね。それこそ、有料化が必要ではないかと思ってしまいます。
村上:そうですね。とはいえ、なかなか難しいのが実情なので、現在はなるべくオンライン・サポートに乗り換えてもらうようにしています。各登録ユーザーごとに「マイページ」というものを用意しており、その方の質問の履歴が確認できるようになっているのです。ただ、完全にそちらへの切り替えができているわけではないため、電話もくるし、メールも普通にやってきます。メールの方については、できる限り、マイページをご案内しておりますが……。
--確かにオンラインサポートにすると、やり取りが簡潔になるし、履歴が見れると、効率も上がりそうですね。
村上:そうなんですよ。でも、電話で質問というニーズは高く、完全にオンラインサポートへの切り替えというのは、まだ難しいのが実情です。中には「リモートデスクトップを使って使い方を教えろ」なんて要望まで来ることがありますよ。さすがに、それは対応していませんけどね……。だからサポートのコストというのは、人件費で見てすごくかかってしまうため、サブスクリプション制度を導入する気持ちはよくわかります。ウチもやれるならやってみたいですが、一般コンシューマー相手に、それはできないでしょう。
マイページを使って質問をすると、その履歴が残るようになっている
--サブスクリプション制か、メンバーシップ制かといった話は別にして、サポートの有償化というのは、海外だと珍しくはないように思えますが……。
村上:おそらく、海外だと、あまり電話で質問してくるようなことはないのではないでしょうか?実際、当社でもVOCALOIDを海外向けに売っていますが、そうした海外ユーザーからアクティベーションに関する問い合わせはありますが、使い方に関する質問が来たことはありませんからね。それに対し、国内ではVOCALOIDでも使い方の質問がいっぱいやってきます。しかも電話だったり、メールだったり……。そうしたユーザーの特性を考えた際、確かに海外であれば、有償化は現実的なのだと思いますが、国内ではなかなか難しいと思っています。商習慣の違いなんですかね……。
--サポートの実情のお話を伺うと、ちょっと理不尽なものが多いようにも思えますが、どうなんでしょうか?
村上:ただ、DAWというものは、初心者にとってなかなか難しいものであることは確かです。そこをしっかりフォローしてあげないと、DTM市場全体が伸びないと思うんですよ。もちろん、我々としても、しっかりサポートすることによって、次のバージョンへアップグレードしていただくことを期待しているわけですがね。もちろん、サポートすることによるメリットというのもあるんですよ。
Abilityに備わっているボーカルエディタ。こうした各種機能の向上には、ユーザーからの声が反映されている
--サポートによるメリットって、どういうことですか?
村上:ユーザーのみなさんから、数多くの要望がサポートに寄せられてきます。その中には、「それはもっともだ」というようなものもあるし、結構な長文で、搭載してほしい機能やその理由などが送られてくるケースもあります。こうした要望の中で、多くの人にメリットがあるものについては、順次取り入れているんですよ。別に次のメジャーバージョンアップを待つというのではなく、随時追加しているので、たとえばAbilityのバージョンアップ履歴を見ていただければ、分かると思います。
--確かにすごいですね。1、2週間置きにアップデータが上がっているし、時には毎日のようなときまでありますね。
村上:これらが、ユーザーからの要望を元にアップデートしたものです。もちろん、中にはバグフィックスなどもありますが、ユーザーサポートから寄せられる要望を元に、Abilityは日々進化しているんですよ。
Abilityのアップデート情報を見ると、頻繁に機能向上していることがわかる
--ちなみに、そうしたアップデートに反映させるかどうかという判断はどうしているんですか?
村上:ユーザーからの問い合わせ、要望は、私も全部目を通しています。1日にサポートだけで100件程度はありますね。中には、「その主張は分からないでもないけれど、そんな使い方をするのはあなただけでしょう……」なんていうものもあるので、社内で検討の上、できるかぎり多くの機能を搭載していっています。
--そういえば、Abilityの場合、昨年1.5へと無償でアップグレードされましたよね?
村上:もともとSinger Song WriterからAbilityへと名前を変えたときに、搭載したいと思っていた機能が数多くありましたが、1.0で載せきれなかったものをまとめて1.5として出したんですよ。そのため、1.5の内容はユーザーサポートからのフィードバックというよりも、我々として準備してきたものが中心となっていました。
無償バージョンアップのAbility Pro 1.5で追加されたプラグイン・エフェクト、Linplug社のrelectro
--1.5ではユーザーインターフェイスまで結構手を入れていたし、プラグインの追加などもあり、メジャーバージョンアップに近い印象を受けました。ユーザーとしてうれしい限りですが、そこまでサービスしていていいんですか?
村上:よい製品をユーザーのみなさんに使っていただきたいので、できる限りのことはしていきたいと思っています。といっても、次期バージョンをどうするかという構想も温めており、その開発も着実に進めていきます。何でもかんでも、即アップデートではなく、ある程度の区切りはつけて開発は行っていますよ。一方で、最近は動画もいっぱい作っているんです。
--動画って、どういうものですか?
村上:Abilityの使い方マニュアル的なものです。これも、もともとはサポートから「解説ビデオはないのか?」といった要望が多く寄せられていたのがきっかけです。1本10分程度の動画がいっぱいアップされており、そのほとんどは僕がしゃべりながら解説しています。そんなに人がいる会社ではないですから、自らビデオ制作までやっているんですよ。
村上社長自らがナレーションを行うビデオ。ほかにも数多くのAbility解説動画がある
--そういうビデオって、外注に出したりするのではないんですか?
村上:当初はそうしようかと思ったり、社内のメンバーに作らせようともしたんですが、なかなか言いたいことが伝わらないので、自ら作っているんです。このビデオを見れば、マニュアルを見なくても済むようにしているので、かなり細かく作っていますよ。現時点で16本程度になりましたが、今後50本程度にまで膨らんでいきそうです。だいたい土日で作ってますよ(笑)。
--いや、それは社長がする仕事ではないのでは!?
村上:そうですね。さすがに50本すべては作っていられないので、最近のいくつかは社員が作っています。もっとも台本は僕が書いているんですけどね。こうしたビデオを見て、Abilityを活用していただければ、理解も早く、深まり、質問の電話なども減るのでは……と期待しているところです。
--なるほど、日本のソフトメーカーとしての心意気がとってもよくわかりました。最後に、せっかくなので、宣伝などあれば、どうぞ!
村上:ちょうど4月30日にVOCALOID4版の「がくっぽいど」をリリースしたところです。この「がくっぽいど」、すべてのライブラリでグロウルが使えるようになっていますが、データベースは全部作り直しているんですよ。
4月30日に発売されたVOCALOID4版の「がくっぽいど」
--ということは、レコーディングし直したということですか?
村上:いいえ、録音し直したわけではなく、以前に収録したものを利用し、ここからトライフォンを抜き出して追加したりしています。同じライブラリを再生させても、音素と音素のつなぎの部分がVOCALOID3で聴くのと、VOCALOID4で聴くのでは微妙にニュアンスが違うのです。そのため単なるコンバートではうまくいかず、すべてもう一度作り直しているわけです。ぜひ、この「がくっぽいど」も使っていただければと思います。
--ありがとうございました。
【製品情報】
ABILITY Pro / ABILITY製品情報
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